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車は何十キロもの速度で走行していますので、追突事故による人体への衝撃はかなりのものがあります。
そのため、健康な人でも交通事故にあって腰椎圧迫骨折をすることは珍しくありません。
高齢者や骨粗しょう症の方など骨が脆い方は骨折しやすいので、なおのこと腰椎圧迫骨折のリスクは高く、軽い衝突などでも怪我を負ってしまう可能性は十分あります。
腰椎圧迫骨折をすると、まず骨折した箇所が強く痛みます。
腰は全ての動作に使いますので、日常の動作である起き上がったり立ち上がったりする時にも激痛が走るということもあります。
痛みには個人差がありますので、さほど痛くないという人もいますが、その場合でも骨折の程度が軽いとは限りません。
腰椎圧迫骨折は、骨折ですので、レントゲンやMRIなどの画像診断で確認することができます。
事故直後から強い痛みを感じる場合は、事故後に受診した病院ですぐに診断されることもあります。
また、事故直後にはあまり痛みがなくても、後から骨折が判明することもありますので、交通事故にあったら、自覚症状の有無にかかわらず必ず病院を受診しましょう。
骨折直後だと、まだ外見上は、腰椎の形が保たれてレントゲンにうつることがありますが、自覚症状がある場合は時間をおいて再検査して発覚することがあります。
腰椎圧迫骨折の治療法や治療期間、後遺障害と認定されるための条件について解説します。
腰椎圧迫骨折の治療は、コルセットを巻いて腰を固定し、骨癒合が生じるのを待つ方法が一般的です。
癒合にかかる期間には個人差はありますが、だいたい6週間、機能が回復するまでには12週間が目安です。
しかし、骨折した部分が腰椎の中の神経を刺激して痛みが生じている場合は、手術が必要です。
また、骨折の程度がひどい場合は、椎体に骨セメントをいれて骨を補強するバルーン椎体形成術という手術が行われます。
治療期間は、内部の神経損傷による痛みや運動障害がなければ、だいたい3ヶ月程度になります。
このタイミングで主治医から症状固定が伝えられ、以降後遺障害等級認定申請をしていくことになります。
後遺障害として認定されるためは、事故後半年が経過し、かつその間に4週間以上の通院を中断していないことが条件となります。
そのため、症状固定し、主治医から特に通院する必要がないといわれていても、後遺障害等級認定申請を受けるためには、必ず4週間に1度は通院し、経過観察として受診しておきましょう。
腰椎にはたくさんの神経が通っていることもあり、神経障害が後遺症として残ることがあります。
また、一度折れた骨は完全に元どおりにはならず、変形したり奇形になったりする後遺症も考えられます。
ここでは、後遺障害等級認定申請と、認定される等級の違いについて見てみましょう。
交通事故の慰謝料は、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料の2つに分かれます。
症状固定後に残った後遺症については、自賠責事務所に後遺障害等級認定申請をすることによって、後遺障害慰謝料をもらうことができます。
上述のような腰椎圧迫骨折の後遺症については、治療によっても完治しないことが考えられますので、後遺障害等級認定申請をしていくことになります。
後遺障害等級認定は1級から14級まであり、番号が若いほど症状が重傷であることを意味するため、もらえる後遺障害慰謝料も高くなります。
腰椎圧迫骨折の後遺症には様々な種類があるため、複数の等級が候補となりますが、基本的な考え方としては、変形、運動傷害、奇形の順で、後遺障害等級が重くなります。
まず、骨折した胸椎は脊椎の一部となり、せき柱に著しい変形または運動障害を残すものとして、後遺障害等級第6級5号が認定される可能性があります。
それより軽いものとして、せき柱に運動障害を残すものは第8級2号、せき柱に奇形を残すものは第11級7号に認定されます。
圧迫骨折は、これらの中では一番軽度の奇形という取り扱いになります。
圧迫骨折は、多くの場合骨が折れていることがレントゲンなどの画像で確認できるので、「せき柱に奇形を残すもの」として後遺障害等級第11級7号に該当します。
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第6級5号 | せき柱に著しい変形または運動障害を残すもの |
第8級2号 | せき柱に運動障害を残すもの |
第11級7号 | せき柱に奇形を残すもの |
むちうちなどの自覚症状がメインになるものとちがい、画像診断に現れる腰椎圧迫骨折は、比較的後遺障害等級認定申請が認められやすいものではあります。
自賠責保険の等級認定審査は、書面主義といって被害者の聞き取り面談などは行われず、提出された書面のみを審査するので、資料がわかりやすい後遺症は有利と言えます。
腰椎圧迫骨折は後遺障害等級認定申請が認められやすい障害とはいえ、万一自賠責事務所に等級認定が認められなかった場合はどうすればいいのでしょうか?
その場合は、まずは審査を行った自賠責事務所に対して異議申し立てを行い、新しい医学的な証拠を添えて再審査を求めます。
後遺障害等級が認定されなかった場合の対策
それでも結論が変わらない場合は、最終的には訴訟を提起して司法判断を仰ぐこととなります。
後遺障害等級認定について詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
腰椎圧迫骨折で注意したいところは、自賠責事務所により後遺障害等級11級7号の認定がされたとしても、示談交渉で揉める可能性があるところです。
通常、後遺障害等級認定がされた場合は、後遺障害逸失利益についても損害賠償されることとなります。
交通事故の損害には、治療費などの積極損害と消極損害の2種類があり、消極損害とは、事故や後遺症がなければ本来稼げるはずだった収入の喪失である、逸失利益などのことをいいます。
保険会社は、なるべく支払う慰謝料を下げたいため、逸失利益はないと主張してくることがあります。
事例
後遺障害等級認定11級7号の骨の奇形では、骨が少し変形しても、特に事務職の場合などは、労働能力は失われないので逸失利益はないと、加害者の任意保険会社が主張する可能性があります。
しかし、腰椎圧迫骨折は、場合によっては腰椎の中の神経に損傷があり痛みが残ることもよくあります。
慢性的な痛みを抱えている場合、定期的な緩和処置が必要になり、また集中力にも影響するので、被害者の労働能力がさがっていることは十分考えられます。
保険会社の主張に安易に惑わされず、主張すべき点はきちんと主張していきましょう。
後遺症による逸失利益について詳しく知りたい方は、下記を参照してください。
腰椎圧迫骨折は、人体に重要な部分である腰椎を骨折するもので、骨折の態様によっては、神経を痛めて重大な後遺症が残ることがあります。
レントゲンなどで証明しやすい後遺症ですので、早めに認定申請を出しつつ、示談交渉では逸失利益も含めてもらえるように交渉しましょう。
後遺障害等級認定申請や示談交渉にあたっては、一度交通事故案件の取り扱いが多い弁護士に相談してみましょう。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。