東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
目次
「後遺障害」とは、交通事故によって傷害を負ってしまい、完治せずに残る症状をいいます。
後遺障害は等級に応じて慰謝料の相場が決まっているため、被害者にとって等級認定の手続きは非常に重要です。
後遺障害と認められるには、症状が良くも悪くもならない状態(症状固定)になるまで治療を続ける必要があります。
症状固定になった段階で主治医に「後遺障害診断書」を書いてもらい、どれぐらい労働能力が低下しているかを特定の審査機関が審査し、後遺障害等級を認定します。
被害者が後遺障害の賠償金の支払いを受けるためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
後遺障害の等級は、障害の部位や程度によって、1級~14級までの等級に分けられています。
基本的には数字が小さいほど重い障害になる傾向があります。
後遺障害は、140種類35系列もの後遺障害の種類によって等級が決められています。
まず、障害のある部位で分類し、その障害が物理的な欠損などかあるいは機能的なものなのかで分けます。
最後に、その障害によってどれだけ労働能力が低下するのかで等級を判断することになります。
事例
たとえば、肩の可動域が3分の2以下になってしまったという後遺障害の場合、肩という部位がまずどのような障害なのかを判断します。
「可動域の制限」は、欠損や変形ではなく機能障害です。
機能障害では、肩から腕にかけての3つの関節がどの程度動くのかにより等級が分かれています。
肩のみの機能障害では、全廃か、著しい障害か、もしくは4分の3以下の機能障害かで、8級、10級、12級に決定されます。
この事例では、3分の2以下の可動域制限なので、12級となります。
等級の認定には、等級表で定められている基本的な認定基準以外に、次の3つの適用規則があります。
等級認定3つの適用規定
さらに、実際の慰謝料請求額には、次の3つの基準があります。
後遺障害14級の認定基準は以下のとおりです。
第十四級 一 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
二 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
三 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
四 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
五 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
六 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
七 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの
八 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
九 局部に神経症状を残すもの
また、自賠責補償と弁護士基準の慰謝料額については、以下の金額になります。
後遺障害14級の逸失利益は、労働能力喪失率5%で計算されるのが通常ですが、それぞれの状況によって計算方法が違ってきます。
自動車保険は通常、自賠責保険と任意保険の二階建てになっています。
後遺障害の認定を受ける方法は次の2つです。
後遺障害の認定を受ける方法
加害者の任意保険に任せる方法を一般的に「事前認定」といいます。
むちうちなど後遺障害の中では比較的軽いといえる14級では、事例も多く、慰謝料請求は事務的になりがちです。
慰謝料の請求額の相場は、自賠責基準では一律32万円、弁護士基準でも110万円程度となります。
任意保険基準は、この中間の金額になることが多いといえます。
加害者側の任意保険会社が、被害者に「後遺障害診断書」などの必要書類を送り、事前認定手続きを迫るケースも多いようです。
事前認定による場合、被害者は、主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらい、それを加害者側の任意保険会社に送る、という手続きを行えばよいことになります。
後遺障害等級の認定を受けるには、「後遺障害診断書」以外にも認定要件を満たすために必要な書類があります。
しかし、これらの書類はすべて加害者側の任意保険会社が代行で作成してくれます。
加害者側の任意保険会社は、まず等級認定の審査を行う損害保険料率算定機構・自賠責損害調査事務所に必要書類を提出し、14級の認定を受けます。
そのあとで、自賠責保険で請求できる金額に自社保険で賄う分を上乗せして被害者に支給します。
手続きの経過に被害者は一切関わることなく、認定結果が出た時点で通知がきて、その結果に同意すれば慰謝料が支払われます。
これに対して、被害者請求では、被害者が自ら損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所に対して必要書類を提出し、等級認定を申請します。
等級認定手続きの途中で、書類不備などがあれば、被害者自身が当局とやり取りして補足書類をそろえるなどの対応が必要です。
無事に14級の認定を受けることができたら、加害者側の任意保険会社との示談を待たずに、自賠責保険からの慰謝料支払いを受けることができます。
前述の通り、後遺障害の等級認定を受けるには事前認定と被害者請求という2つの方法がありますが、事前認定を申請するメリットとデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
被害者請求の方法による場合と比較しながら解説します。
事前認定のメリットは次の2つです。
事前認定のメリット
事前認定によって申請した結果に納得がいかず、やはり被害者請求に切り替えたいという場合は、異議申立てを行うことになります。
異議申立ての際には、基本的には新たな書類を用意して提出することになるでしょう。
その場合、交通事故に精通した専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。
事前認定は、被害者請求と比較すると、かなりデメリットの多い方法です。
事前認定手続きのデメリットには、次のようなものが挙げられます。
事前認定のデメリット
まず、手続きの経過が不透明であるという点です。
等級の認定審査を行う、損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所とのやり取りは、任意保険会社に任せてしまうことになります。
そのため、追加資料が必要になったときに対応しているかどうかが不明なのはもちろんのこと、万一、認定が下りなかった場合でも、原因がわからない可能性があります。
さらに、任意保険会社は加害者側なので、加害者側に有利な書類を認定続きに使用されるおそれもあります。
また、被害者請求では、自賠責保険の慰謝料分についてすぐに支払いを受けることができますが、事前認定手続きでは、任意保険会社の自社保険金の支払い手続きと一括で行います。
そのため、支払いまで時間がかかる可能性があります。
事前認定までの流れは次の通りです。
事前認定までの流れ
注意したいのは、14級の認定に多い症例であるむちうち症などのケースでは、症状が「検査資料」でははっきりわからないこともあり、追加資料が必要になる可能性もあります。
損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所とのやり取りは、任意保険会社任せになっているため、追加資料を請求されてもどのような対応をしているかまったくわかりません。
また、事前認定手続きに入る前の段階で、症状固定の状態であることが条件になりますが、加害者側は早期解決を図りたいため、保険会社から症状固定を促されることがあるので注意が必要です。
安易に提案に応じるのではなく、主治医と相談して実際の症状に応じた納得のいく治療を優先すべきです。
症状固定になると後遺障害の等級認定に移行しますが、これは、傷害部分の期間が終了することを意味します。
症状固定後は、治療費や入通院の慰謝料、休業損害などを請求できなくなります。
このように、症状固定という判断を下すということは、交通事故の損害賠償請求に大きな影響を及ぼすので、慎重に行うべきです。
一般的な後遺障害認定に必要な書類は次の通りです。
後遺障害認定に必要な書類
事前認定手続きの場合、被害者は、これらの書類のうち「後遺障害診断書」のみを用意すれば済みます。
しかし、被害者請求では、すべての書類を被害者が揃える必要があります。
自賠責保険の等級認定は、認定基準がすべて明確に決まっているわけではありません。
後遺障害の症例や治療経過は、人それぞれ異なります。
自分の現在の症状では、どの等級認定を受けられる可能性があるのか、その認定を受けるにはどのような検査資料を用意すればよいのか、素人では判断に迷うケースもあります。
被害者請求を行う際は、交通事故後遺障害の案件経験の豊富な弁護士に依頼するのがベストでしょう。
後遺障害14級の事前認定を任意保険会社任せで行うのは、加害者側主導で手続きが進められてしまい、デメリットが多いといえます。
手続きは面倒ですが、被害者請求によって、自分の実際の症状に合った等級認定を受けるべきでしょう。
いったん事前認定を受けてしまい、認定を受けられなかった場合や、認定結果に納得できなかった場合は、異議申立ての手続きができます。
被害者請求や異議申立ての手続きをする際は、交通事故に精通した弁護士に依頼するのがおすすめです。