東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
目次
交通事故の過失割合とは、事故原因について「被害者と加害者の過失の度合い」を数字で表すものです。
加害者が交通事故の損害賠償金を支払う根拠について、民法では「故意過失により他人の生命、身体、財産に損害を与えた者は、相手方に対してその損害を賠償する義務を負う」と定められています(民法709条)。
そのため、不注意な運転等で事故を起こし、被害者にけがをさせてしまった場合、加害者は被害者に対して損害賠償金を支払う必要があります。
過失割合10対0のように、加害者のみに原因がある事故であれば、被害分をすべて弁償するため計算は簡単です。しかし、事故状況によっては、被害者にも事故の原因があるケースもあります。
そのような場合は、過失割合によって、支払うべき損害賠償金の金額が変わります。
被害者にも過失が認められる場合に加害者から被害者に支払うべき金額は、慰謝料全体の金額に、加害者の過失割合係数を乗じた金額となります。
事例慰謝料の事例
ある事故で被害者が負った被害額(治療費や車修理代など)が100万円で、事故の過失割合が、加害者8:被害者2と認定されたとしましょう。
この場合、加害者が被害者に支払うべき損害賠償金額は、全体の100万円に10分の8をかけた80万円のみということになります。
被害者は、残りの20万円の被害については自己責任となるため、自費でけがの治療費や車の修理代を負担する必要があります。
過失割合は、警察ではなく交通事故の当事者同士が話し合いで決定します。加害者が任意保険に加入している場合、保険会社との示談交渉の過程で過失割合を決めることになります。
しかし、保険会社はあくまでも加害者の味方であり、多くの場合、加害者に有利な過失割合を提示してくるでしょう。これは、過失割合を加害者に有利に認定することにより、被害者に支払う示談金額を少しでも下げるためです。
保険会社の圧力に負けてしまい、一度示談書にサインをしてしまうと、たとえあとから過失割合について争おうと思っても、交渉をやり直すことができません。過失割合が正しいものかどうか判断できない場合には、交通事故対応に精通している弁護士に、1度相談することをおすすめします。
過失割合は、人身事故であれば治療が終了したあと、もしくは後遺障害等級認定の決定通知以降に始まる示談交渉の過程で決定します。物損事故であれば、事故からしばらくすると、保険会社から示談金の提示とともに、過失割合の提示がされるでしょう。
一方で、人身事故で後遺症が残ってしまいそうなケースや、事故状況が複雑で、過失割合に争いがあるような場合には、過失割合が提示されるまでに時間がかかるケースも珍しくありません。
もし、話し合いで過失割合がまとまらない場合には、ADRを利用したり、訴訟を起こすことも視野に入れる必要があるでしょう。
過失割合は、保険会社との話し合いで決めることになりますが、何の基準もなくただやみくもにお互いに主張し合うわけではありません。過去の裁判例などを基準にした上で、そこに具体的な事故状況を加味することで過失割合を決定していきます。
具体的には、次のような流れで決定します。
まず、当事者双方で事故状況の認識のすり合わせを行います。ドライブレコーダーや事故直後に撮影した事故現場や事故車両の写真、現場周辺にある防犯カメラの映像などから正確な事故状況を把握します。
事故当時の状況が明確になったら、次に過去の裁判例から類似している事故類型を探して、「基本過失割合」を確認します。
基本過失割合が確認できたら、それぞれの具体的な事故状況を過失割合に反映するために、「修正要素」を加えて最終的な過失割合を決定します。たとえば、被害者にスピード違反やスマホを見ながら運転するなどの過失がある場合、過失割合も責任の度合いに応じて修正されます。
なお、それぞれの詳しい内容については、次の記事で詳しく解説しるため、ぜひご覧ください。
交通事故の過失割合は、当事者の属性や事故状況に応じてさまざまなパターンがありますが、事故ごとにある程度分類することが可能です。
事故パターン
片方に大きな過失がある場合、パターン別の過失割合が修正されます。たとえば、著しい過失があれば10%、重過失があれば20%の過失割合が加算されます。
著しい過失には、酒気帯び運転、時速15キロメートル以上の速度違反、前方不注意などがあります。また、重過失には、酒酔運転、無免許運転、居眠り運転や時速30キロメートル以上の速度違反などがあります。
また、加害者がトラックなどの大型車を運転している場合、普通車よりも危険性が高く運転者が尽くすべき注意義務の程度が高いと考えられ、過失割合が加算されることがあります。
車同士の事故の場合、走行していた道路が優先道路かどうか、スピード違反がなかったかどうか、そのほか交通規則違反の有無などが過失割合の認定に影響します。
車同士の事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
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車とバイクとの衝突事故の場合、バイクの方がけがや死亡のリスクが増えるため、基本的には車の過失割合が重く認定されます。
このように、バイクの過失割合を小さく評価することを「単車修正」と呼びます。
車とバイクの事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
車と自転車との接触事故についても、基本的には車の過失割合が重く認定されます。
もっとも、自転車側が信号無視をしていたり飲酒運転をしていたりする場合には、自転車側の過失割合が修正されます。
自転車と車の事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
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車と歩行者の交通事故の場合、原則として、自動車側の過失割合が重く認定されます。
鉄の塊である自動車と生身の人間である歩行者では、けがや死亡のリスクは歩行者側が高いため、自動車側に高度の注意義務が課されているからです。
たとえば、直進車と横断歩道の歩行者の衝突事故では、原則歩行者の過失割合は0になります。
なお、被害者が集団歩行をしていた場合や、高齢者や幼児だった場合は、運転者により高度な注意義務があるとして、運転者側の過失割合が加算されることになります。
車の運転者が注意すべき点として、歩行者を追い越す場合、歩行者が車の存在を認知している場合は1メートル以上、認知できていない場合は1.5メートル以上の安全間隔をあけなければなりません。この安全間隔をあけていなかった場合は、道路交通法上の過失として認められます。
なお、横断歩道や交差点の近くではない場所を左右を確認せずに無理に横断した場合など、歩行者に交通違反があった場合は、歩行者対車であっても、歩行者に過失割合が認定されることがあります。
歩行者と車の事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
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高速道路での追突事故については、進路変更や割り込みをしようとして接触するケースが多く、こうした場合は、車線変更をした方の車について、基本的には大きな過失割合が認められます。
高速道路での追突事故の事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
自転車は、道路交通法により原則車道を通行することになっています。
そのため、歩道で自転車と歩行者が衝突した場合の過失割合は、歩行者が0、自転車が10となります。
歩道以外で起きた自転車と歩行者の事故パターンと過失割合については、こちらの記事をご覧ください。
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交通事故では、当事者双方が被害を受けることになりますが、便宜上過失割合が大きい方の当事者を「加害者」、過失割合が小さい方の当事者を「被害者」と呼ぶのが一般的です。
ここでは、過失割合ごとの計算方法について解説していきます。
被害者の損害額が1,000万円で被害者に過失が認められない場合、被害者は損害の全額である1,000万円を加害者に対して請求できます。
なお、状況証拠からみてあきらかに被害者に過失が認められない場合であっても、加害者側の保険会社が提示してくる賠償金額は低額であることが多いです。
加害者側の保険会社が提示してきた金額で安易に示談交渉をまとめてしまうと、結果的に賠償金額で大きく損をする可能性があります。提示された金額が正しい金額であるかどうかは、交通事故に精通している弁護士に確認してみることをおすすめします。
被害者の損害額が1,000万円で過失割合が9対1の場合、被害者が請求できる損害賠償額は「1,000万円×0.9=900万円」になります。
また、加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額10%を支払わなければなりません。
たとえば、被害者の損害額が50万円の場合、「50万円×0.1=5万円」を加害者に支払うことになります。
支払いの清算方法は、次の2通りです。
クロス払い | 加害者、被害者がお互いに負担分を支払う。 ・加害者が被害者に900万円支払う |
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相殺払い | お互いに支払う金額を相殺した上で、残りの金額を加害者が被害者に支払う。 加害者は、「900万円−5万円=895万円」を被害者に支払います。 |
被害者の損害額が1,000万円で過失割合が8対2の場合、被害者が請求できる損害賠償額は「1,000万円×0.8=800万円」になります。
また、加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額20%を支払わなければなりません。
たとえば、被害者の損害額が50万円の場合、「50万円×0.2=10万円」を加害者に支払います。
支払いの清算方法は、次の2通りです。
クロス払い | 加害者、被害者がお互いに負担分を支払う。 ・加害者が被害者に800万円支払う |
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相殺払い | お互いに支払う金額を相殺した上で、残りの金額を加害者が被害者に支払う。 加害者は「800万円−10万円=790万円」を被害者に支払います。 |
被害者の損害額が1,000万円で過失割合が7対3の場合、被害者が請求できる損害賠償額は「1,000万円×0.7=700万円」になります。
また、加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額30%を支払わなければなりません。
たとえば、被害者の損害額が50万円の場合、「50万円×0.3=15万円」を加害者に支払います。
支払いの清算方法は、次の2通りです。
クロス払い | 加害者、被害者がお互いに負担分を支払う。 ・加害者が被害者に700万円支払う |
---|---|
相殺払い | お互いに支払う金額を相殺した上で、残りの金額を加害者が被害者に支払う。 加害者は「700万円−15万円=685万円」を被害者に支払います。 |
過失割合は、「9対1」「8対2」あるいは「10対0」のように、足して10になるのが基本です。
一方で、被害者にも過失が認められる場合、被害者も加害者に対して賠償金を支払うことになります。もし、任意保険を使って支払いをした場合、保険等級が上がってしまい、翌年の保険料が上がってしまうことになります。それを避けるために、過失割合の認定上、被害者の過失を0とみなして、被害者の加害者に対する賠償金の支払いをしない処理をすることがあります。
このように、事故の当事者双方に過失があるものの、被害者の過失を0として、加害者のみが損害賠償の支払いをすることを「片側賠償」と呼びます。
たとえば、被害者の損害額が1,000万円で過失割合が8対0の場合、被害者が請求できる損害賠償額は「1,000万円×0.8=800万円」になります。
このケースで、加害者にも50万円の損害があった場合、本来であれば被害者にも20%の過失が認められるため、加害者に「50万円✕0.2=10万」を支払う必要があります。
しかし、過失割合8対0で交渉がまとまった場合、加害者が損害賠償請求を放棄しているため、被害者は加害者に10万円支払うことなく、800万円を加害者から支払ってもらえるのです。
片側賠償になるケースは8対0だけでなく、「9対0」や「7対0」、「95対0」で交渉がまとまる場合もあります。
過失割合は、加害者の任意保険会社が過失割合を認定して被害者に提示してきますが、この過失割合が必ずしも妥当とは限りません。任意保険会社の担当者は事故現場に居合わせているわけではなく、事故当時の状況はあくまで書類などから推測した情報に過ぎないからです。
また、営利法人である任意保険会社は、なるべく被害者に対する慰謝料を支払いたくない立場のため、過失割合を加害者に有利に認定する可能性もあるでしょう。
もし、保険会社が提示してきた過失割合に納得できないときは、次の対処法を検討しましょう。
過失割合に納得できない場合の対応方法
なお、それぞれの詳しい内容については、以下の記事で詳しく説明しているため、ぜひご覧ください。
交通事故の過失割合は、最終的にもらえる示談金の額に大きな影響を及ぼします。
今まで交通事故の経験がない方にとって、いきなり過失割合を提示されても、その割合が正しいのかどうかよくわからないことがほとんどだと思います。
任意保険会社から提案された過失割合に納得がいかない場合は、安易に示談に合意せずに、弁護士に相談するなどして、納得のいく過失割合が認定されるように交渉しましょう。