東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
あなたが不運にも交通事故にあってしまった場合、心と体に大きな傷を負ってしまったことはとても辛いことですが、もしもあなたの心身の損害に対する慰謝料が適正に相手側から支払われた場合、それは不幸中の幸いというしかないでしょう。
信じられないことではありますが、相手が任意保険に加入していなかったり、示談の交渉が進まなかったりと、あなたの損害に対する適正な慰謝料の支払いが滞ることは実は珍しくはないことなのです。
もしもその損害が大きい場合、あなた一人でどうにか出来る問題ではないでしょう。交通事故によって受けた心身の傷を癒すことが、あなたにとって一番大切なことです。そのためには、弁護士などといった第三者の力を借りることが一番だと言えます。
けれども、交通事故で負ったあなたの心身への損害が割と軽いものであったり、単純な物損などといった軽微なものであった場合、全てを弁護士にお願いしていては費用倒れになってしまう可能性があるため、泣き寝入りをするという方が多くいるのもまた事実です。
しかしそんなとき、自分で訴訟手続きをすることで費用を最低限に抑えることの出来る『少額訴訟』という方法があります。
ここでは、その費用や手順についてご説明していきたいと思います。
さて、『少額訴訟』という方法ですが、流石に耳慣れない方も多いと思います。
訴訟と言うからには、手続きがなんだか複雑で、時間もとられて、自分でするにはなんだかちょっと難しいと感じてしまうかもしれません。
けれども、少額訴訟は通常の民事裁判と大きな違いが2つあります。
そのため、「本人訴訟」という弁護士や司法書士のような代理人を立てずとも、あなたが一人で訴訟手続きを行うのに一番適している方法なのです。
それでは、具体的にその二つの点についてご説明しましょう。
少額訴訟においては、交通事故によって相手方に求める損害賠償金が60万円以下に限定されます。
そのため、軽い物損事故や、人身事故の場合でも心身の損害がほんの軽症であって、治療が短期間で終了した場合が「少額訴訟」を選択する範囲内にあると言えるでしょう。
自動車が大破してしまった場合や、あなたの心身に負った損害が大きく長期の入院や治療を必要とする場合、また後遺障害が残るような交通事故では、損害賠償額が60万円の限度額を容易に超えてしまうことが予想されますので、少額訴訟をとるという選択肢はほぼなくなるでしょう。
裁判というと、どのような光景が頭に思い浮かぶでしょうか。
よくドラマであるような、中央の一段高い位置に裁判官が座り、原告と被告が相対しているような、そんな光景を想像してしまうかも知れません。
けれど、多くの場合少額訴訟の裁判はラウンドテーブル法廷の形がとられることが多いのです。楕円形のテーブルを囲んで、裁判官と当事者が同席し、ある程度和やかな形で進められるのが少額訴訟の裁判です。そのため、少額訴訟の裁判はあなたが思っているよりもずっとあなたにとって易しいものになります。
そして、「少額訴訟」最大のポイントは、審理が原則的に一回のみとなり、すぐに判決が言い渡されることです。
もちろん、過失割合でもめている場合や、複雑な問題を含んだ交通事故の場合などは裁判官の判断や相手の申し出によって通常の裁判手続きに移行されることもあります。
けれども、基本的には、少額訴訟はたった一回の審理で全てが決まる短期決戦になります。
それは、通常の裁判のように時間がかからないという反面、証拠書類や証人がその審理の日にすぐに調べられるものに限られてしまうという側面もあります。
それが、少額訴訟の簡単でもあり難しくもある最大の特徴ということになります。
それでは、具体的に少額訴訟の手続きの流れを見ていきましょう。
原告であるあなたはまず、被告の住所地を管轄する簡易裁判所へ必要書類を提出することになります。
その必要書類は以下の3点になります。
訴状が裁判所に受理されれば、そのあとで原告と被告双方に審理・判決の日付の連絡が届きます。
少額訴訟の事前準備として、裁判所の書記官の要求に応じて事実関係の確認、追加の証拠書類の提出や、証人の準備をします。
被告から、事案に関しての言い分や反論が書かれた答弁書が届けられます。
少額訴訟は、先程ご説明したとおり裁判官と当事者がテーブルを囲んで行うラウンドテーブル法廷で行われることが一般的です。審理はおよそ30分~2時間程度かけて提出した書類や証人尋問等の証拠調べを行います。
もちろん、この場で和解が成立することもあります。
審理の終了後に、裁判官による判決が行われます。控訴することが出来ませんが、判決に対して異議申し立てを行うことは可能です。そうなった場合、同じ簡易裁判所で通常手続きによる審理・裁判が開始されることになります。
裁判所から訴状の内容、つまりあなたの言い分が認められたとしても、事故の相手方から必ず慰謝料が支払われるかどうかはわかりません。もし、支払いが成されない場合には、裁判所にて相手方の財産を差し押さえるための強制執行の申し立てを行うことが出来ます。
それではここまで少額訴訟とはどういうものかを理解し、その手続きもご説明致しましたが、あなたが少額訴訟を検討する際、実際にメリットデメリットとして考えられることは何でしょうか。
少額訴訟はあなたにとって便利な制度ですが、もちろんデメリットも存在します。
それを両天秤に掛けてみて、あなたが自分の権利を守るために最良の方法を選択できるようにしましょう。
まず何よりもあなたにとってメリットとなり得るのが、少額訴訟を本人訴訟によって――つまり、手続きの全てを自分で行うことによって費用を最低限度に抑えられる、ということでしょう。
通常の裁判手続きでは代理人として弁護士等を立てなくてはいけないため、その弁護士費用等も含めて高額になりがちです。けれども、本人訴訟によって代理人を立てる必要の無い少額訴訟ならば、費用を最低限度に抑えることが出来ます。
一般的にどの程度の費用で済むのかというと、だいたいが裁判自体は5000円~10000円程度です。
具体的には印紙代が1000円~6000円程度、郵券(郵便切手代)が簡易裁判所によって異なりますが、おおよそ4000円程度と、かなり費用を節約できるのはおわかりいただけることと思います。
これならば、弁護士にお願いしてしまっては赤字になってしまうような事案においても、費用倒れになることなくあなたの権利を守るために行動することができるのです。
このように少ない費用で簡単に行うことの出来る少額訴訟ですが、れっきとした裁判手続きであり、そこで下される判決は強制力を有します。
例えば審理の日に相手方が払うと約束しても、実際に払われることがなければあなたにとって意味がありません。そして残念ながら、そういう状況も当然想定しておかなければならないのです。
けれども、そうなったとしても慌てることはありません。
少額訴訟といえども正式な裁判であることに変わりは無いので、あなたが勝訴すれば強制執行をすることが可能なのです。
強制執行自体にも費用はかかりますが、その金額も先程の少額訴訟と同じように最低限で済ませることも出来ます。
具体的には、印紙代が1債務者に対して4000円、郵券(郵便切手代)も先程と同じように簡易裁判所によって異なりますが、おおよそ4000円程度です。
これだけで、相手がいくら支払いから逃げたとしても、相手の財産を直接差し押さえることが可能になります。
このように、メリットしかないような少額訴訟にも、実はデメリットと言えることが存在します。
それが、少額訴訟では控訴が認められないということなのです。
控訴が認められないことで、審理は最短の1回で済みます。けれどもそれは裏を返せば、そのたった1回の審理で全てが決着してしまうことを意味します。あなたが慣れない証拠集めに手間取っている間に、相手が弁護士を立ててきた場合、自体は急に厳しくなってきます。相手は裁判のプロであるため、口頭弁論においてレベルの高い反論をしてくることが予想されます。そうなってしまえば、あなたの言い分が認められない可能性が高くなってきてしまうのです。
そして少額訴訟の最大のメリットが、手続きの全てを本人訴訟として自分で行うことで費用を最低限に抑えられることですが、その本人訴訟が最大のデメリットとなりうることもあり得ます。
少額訴訟の審理において、当事者間の争点が全く噛み合わないと裁判官が判断した場合には、裁判官の判断で通常の裁判手続きに移行させられてしまうことがあるからです。また、少額訴訟の判決について相手方が異議申し立てを行った場合にも、通常の裁判手続きが開始されてしまいます。
そうなれば当然、あなたが一人で全てを行う本人訴訟では厳しくなってくるといわざるを得ないでしょう。相手方は当然弁護士を立ててくるでしょうし、通常の裁判手続きには時間もお金もかかります。
そうなってしまう可能性も含んでいるのが、少額訴訟のデメリットとも言えます。
詳しく知りたい方は、「交通事故裁判 弁護士が教える!その流れと押さえておきたいポイント」を参照してください。
さてこのように、少額訴訟の手順からメリットデメリットまでご説明してきましたが、少額訴訟はなにもどちらかの意見を是とする「判決」を下すだけの場ではありません。
特に、交通事故の損害賠償を争う民事訴訟の場合、裁判官は調停と同じように和解を進めることが多いようです。
この和解とは、判決を下す前に裁判官が出した和解案で原告と被告がお互いに納得することで、和解調書というものが作成されることです。
そして実はこの和解調書に書かれた内容にも、裁判の判決文と同じように法的拘束力があります。
つまり、この和解調書の通りに相手側からの支払いが成されない場合には、すぐに強制執行を行うことが出来ます。
このように、少額訴訟にもいろいろな進むべき道があります。
また、裁判の代理人としてではなく、少額訴訟の手続きや方針の相談だけを弁護士に相談することもできます。そうすることで費用をなるべく抑えながらグッとあなたの権利を守ることに近づくことができますので、一度話を聞いてみるのも良い手段であると言えるでしょう。