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交通事故によって、上肢に後遺障害が残ることがあります。
上肢の後遺障害としては欠損または機能障害、変形障害、醜状障害があります。
上肢の中には手指も含まれますが、手指の機能障害としては欠損または機能障害があります。
ここでは主に交通事故による上肢機能障害とその治療についてお伝えします。
上肢機能障害とは、上肢機能障害とは上肢の3大関節と手指での可動域制限のことです。
上肢の3大関節とは、肩関節・肘関節・手関節を言います。
肩関節から肘関節までを上腕、肘関節から手関節までを前腕といいます。
上腕には上腕骨、前腕には橈骨・尺骨があり、この2本の骨は前腕骨とも呼ばれています。
上肢の機能障害の認定は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に基づき測定された可動域により行います。
関節可動域の測定方法には、自動運動と他動運動の2種類があります。
自動運動とは他人の力を使わず自分の力で動かせる関節可動運動、他動運動とは他人の力を使って動かせる関節可動運動のことをいいます。
機能障害の認定では、原則として他動運動による測定値によりますが、他動運動による測定値が適切でないものは、自動運動による測定値を参考として障害の認定を行います。
各関節の機能障害の認定では、原則として左右両上肢のうち、障害のある側の関節可動域(患側)と、他方の関節可動域(健側)の両方を測定し、それらを比較して評価を行います。
この患側と健側の可動域の差が後遺症障害の認定に関わってきます。
ただし、健側に元々障害がある場合や両側事故によって障害を残した場合には参考にする値がないため、平均的な参考可動域角度と比較して認定することになります。
具体的には、上肢の機能障害は、「上肢の用を全廃したもの」、「関節の用を廃したもの!」、「関節の機能に著しい障害を残すもの」、「関節の機能に障害を残すもの」に分けられます。
第1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
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第5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの |
上肢の用を全廃したものとは、3大関節のすべてが強直したものをいいます。
「強直」とは、完全強直または完全強直に近い状態にあるものをいいます。
完全強直したものとは、関節の可動域が全くないものをいい、完全強直に近い状態になったものとは、原則として健側の関節可動域の10%程度以下に制限されているものをいいます。
第6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
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第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
関節の用を廃したものとは、関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもののことをいいます。
用を廃した関節の部位が1関節か2関節かによって、後遺障害の級が変わります。
また、完全弛緩性麻痺に近い状態にあるものとは、他動的には可動するもの、自動的には健側の関節可動域の10%程度以下になったものをいいます。
なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合は全て「これに近い状態」として取り扱います。
第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
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関節の機能に著しい障害を残すものとは、関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの、または人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2より動く関節のことをいいます。
第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
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関節の機能に障害を残すものとは、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているもののことをいいます。
一方、手指の機能障害には、「手指の用を廃したもの」と「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」があり、その部位、数によって更に細かく分けられます。
手指の各指は、親指・人差し指・中指・薬指・小指と言います。
親指のみ末節と基節、その他の4指は末節、中節、基節に分かれます。
親指にある関節は、指節間関節(IP関節)と中手指節関節(MCP関節)、その他の4指の関節は、遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、中手指節関節(MCP関節)となります。
手の骨は、末節骨・中節骨・基節骨・中手骨、8つの骨からなる手根骨で構成されています。
第4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
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第7級7号 | 1手の5の手指または親指を含み4の手指の用を廃したもの |
第8級4号 | 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの |
第9級13号 | 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの |
第10級7号 | 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの |
第12級10号 | 1手の人差指、中指又は薬指の用を廃したもの |
第13級6号 | 1手の小指の用を廃したもの |
「手指の用を廃したもの」とは、まず、指の末節骨の長さにおいて1/2以上を失ったものをいいます。
ただし、末節骨の欠損がその長さの1/2に達しなければ、「手指の用を廃したもの」ではなく、「指骨の一部を失ったもの」として認定します。
また親指では中手指節関節または指節間関節、他の4指では、中手指節関節または近位指節間関節に著しい運動障害を残すものも、「手指の用を廃したもの」として取り扱います。
著しい運動障害を残すものとは、患側の関節可動域が健側の1/2以下になったものをいいます。
親指では、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の1/2以下になったものも「著しい運動障害を残すもの」として取り扱います。
手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失したものも「手指の用を廃したもの」として取り扱います。
感覚の完全脱失とは表在感覚のみならず深部感覚も消失したものをいいます。
第14級7号 | 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
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「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」とは、遠位指節間関節が強直したものをいいます。
また、屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないものまたはこれに近い状態にあるものもこれに該当します。
なお、「強直」とは、上肢の3大関節における「強直」の説明と同様です。
可動域は3大関節、手指のそれぞれで計測します。
可動域は、“主要運動”と“参考運動”を測定することになっています。
主要運動とは、各関節における日常の動作のなかで重要な運動のことをいい、参考運動とは、各関節における日常の動作のなかで主要運動ほど重要でない運動のことをいいます。
上肢では参考運動は肩関節の伸展、手関節の橈屈・尺屈があります。
機能障害評価に必要な上肢の関節可動域測定をそれぞれ関節ごとに詳しく見ていきましょう。
肩関節の主要運動には、屈曲(前方挙上)、外転(側方挙上)/内転があり、参考運動には、伸展(後方挙上)があります。
参考可動域角度は、主要運動では屈曲(前方挙上)が180度、外転(側方挙上)/内転の参考可動域角度は180/0度となります。
参考運動では伸展(後方挙上)が50度、外旋/内旋は60/80度となります。
肘関節以遠は主要運動しかなく、参考可動域角度は屈曲/伸展で145/0度となります。
手関節の主要運動には、屈曲(掌屈)/伸展(背屈)があり、参考運動には、橈屈/尺屈があります。
参考可動域角度は、主要運動では屈曲(掌屈)/伸展(背屈)が90/70度となります。
参考運動では橈屈/尺屈が25/55度となります。
上肢では下腿にはない回内/回外という運動が前腕の主要運動としてあります。
参考可動域は回内/回外が90/90度となっています。
手指の各指は、親指・人差し指・中指・薬指・小指と言います。
親指のみ末節骨と基節骨、その他の4指は末節骨、中節骨、基節骨に分かれます。
親指にある関節は、指節間関節(IP関節)と中手指節関節(MCP関節)、その他の4指の関節は、遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、中手指節関節(MCP関節)となります。
手の骨は、末節骨・中節骨・基節骨・中手骨、8つの骨からなる手根骨で構成されています。
手指の参考可動域角度は母指とその他の指で異なります。
母指の参考可動域角度は橈側外典/掌側外転が60/90度、屈曲(MCP)/伸展(MCP)が60/10度、屈曲(IP)/伸展(IP)が80/10度となります。
その他の手指の参考可動域は、屈曲(MCP)/伸展(MCP)が90/45度、屈曲(PIP)/伸展(PIP)が100/0度、屈曲(DIP)/伸展(DIP)が80/0度となります。
主要運動が複数ある関節の場合、主要運動のいずれかは一方の可動域が健側の関節可動域の1/2以下または3/4以下に制限されていれば、著しい機能障害または単なる機能障害を認定することができます。
上肢の場合、肩関節の主要運動が屈曲と外転の複数あるため、いずれか一方の可動域が認定基準に該当すれば、機能障害を認定することが出来ます。
関節の機能障害は、3大関節である肩関節、肘関節、手関節の可動域が認定基準に該当する場合に、該当等級を認定することになりますが、そのほかに前腕の主要運動として定められている回内・回外が制限されている場合も、関節の機能障害に準ずるものとして評価することができます。
前腕の回内・回外の参考可動域角度は、回内が90度、回外が90度なので、回内・回外は180度となります。
回内・回外の機能障害の認定では、健側の1/4以下に制限されているものを著しい機能障害に準じて第10級相当、健側の1/2以下に制限されているものを単なる機能障害に準じて第12級相当を認定することが出来ます。
回内・回外の機能障害と同一上肢の関節の機能障害を残す場合には、併合の方法を用いて相当する等級を定めることになります。
ただし、手関節または肘関節の骨折等により、手関節または肘関節の機能障害と回内・回外の可動域制限を残す場合は、いずれか上位の等級で認定することになります。
そのほかの関節機能障害として、運動制限とは別に関節の機能障害として取り扱われるものの一つに、動揺関節があります。
動揺関節とは、関節の可動性が参考可動域角度以上、あるいは異常な方向に運動可能であるものをいい、明らかな器質的損傷が認められるものが認定の対象となります。
動揺関節は、他動的、自動的に関わらず、以下の基準で等級を認定します。
常に硬性補装具を必要とするものは、第10級10号の「著しい機能障害」として取り扱います。
時々硬性補装具を必要とするものには第12級6号の「単なる機能障害」として取り扱います。
習慣性脱臼は第12級6号の「単なる機能障害」として取り扱います。
一定期間の治療後、後遺障害が残った場合に医師に後遺障害診断書を書いてもらうことになります。
後遺障害診断書は医師しか記載出来ません。
この診断書により後遺障害が認められるとそれ以降の治療は保険会社からの支払い適応外となることがあるため、医師としっかり相談し、基本的には一定期間の治療後、それ以上の新規の治療を行う予定がなくなった症状固定の時期に記載することとなります。
この中で上肢・下肢の機能障害で重要になってくるのは以下の部分です。
ここに医師が計測した値を書き込み、保険会社へ、さらに損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所へとまわされます。
つまり、後遺障害を認定しているのは後遺障害診断書を書いた医師ではありません。
しかし、この診断書などをもとに判断されるため、可動域測定は正しく測定・記載してもらいましょう。
足趾と比較すると後遺症障害等級は手指のほうが等級が高くなる傾向があります。
たった5度の測定の差でも等級、保険金額が大きく変わってくることに注意しましょう。
上肢、とりわけ手指に関しての治療は整形外科の中でもさらに手外科という専門領域になります。
また、形成外科の先生も手外科専門医を取得することが出来ます。
怪我の種類、状態によって治療は異なります。
受傷起点、受傷部位、受傷形態など、人によって治療の方法は多岐に渡ります。
切断を認める場合には、再接着(血管、神経、骨、腱をつなぐ)できるまでのタイムリミットがあるので救急車を呼びましょう。
また、再接着など微小血管吻合(マイクロサージャリ)ができる病院・医師は手外科の中でもさらに限られています。
もし、指が切断されてしまった場合は、切断された先のものをラップやビニール袋で包み、それを氷の入った容器・袋に入れて病院へ運んでください。
当たり前ですが先端がなければ繋ぐことは出来ませんし、再接着の適応もどの部位で切れているか、切れ方などによって判断されます。
骨折は手術をせずに保存的に経過を見ることもありますが転位が大きい場合、関節にかかるような骨折の場合は手術となります。
機能障害は骨がくっついた後に見えてくるものが大半ですが、受傷早期から理学療法士・作業療法士によってリハビリテーションを行うことで機能障害を残さずに済むこともあるため、まずは整形外科を受診しましょう。
手指は足趾とは異なり、日常生活で非常に影響のある部位です。
一つの関節の機能障害があるだけでも、物をつかめないなどの影響が出てしまいます。
とりわけ、母指は物を掴む対立運動には欠かせない大事な指です。
怪我をしたときは早期に病院を受診しましょう。
上肢は日常動作の中で非常に重要な役割を果たしています。
出来るだけ機能障害を残さないように早期に病院を受診して指示をあおぎましょう。
どの怪我にも共通して言えることは、生活習慣病や喫煙により治癒は遷延し、動脈硬化など血管状態が悪くなり治療成績は圧倒的に悪くなります。
生活習慣病があれば普段からしっかりと治療を行い、禁煙を心がけましょう。
イニシャル:M.S
診療科目:整形外科
医師経験年数 5年
関東甲信越にて日々、三次救急病院にて外傷治療にあたっている。
外傷、スポーツ整形がメイン。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。