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むち打ち損傷は交通事故の中でも非常にありふれたもので、経験がある方も非常に多いと思います。
ほとんどの方はすぐよくなりますが、まれにさまざまな症状に悩まされる方がいるのも事実です。
ここでは、むち打ち損傷のことに関して説明していきます。
頚椎とは、背骨の中で特に首の骨のことを指します。
背骨は大きくわけると頚椎(首の骨)、胸椎(いわゆる背骨)、腰椎(腰の骨)に分かれ、それぞれ7個、12個、5個の骨からできています。
特に、首の骨は周りに他の組織や筋肉が少ないため、外からの力を直接受けやすいという特徴があります。
むち打ち損傷とは、交通事故の際に首が前後・左右にしなることにより、首の周りの筋肉や靭帯、場合によっては神経などに損傷を受けることをいいます。
基本的には骨折や脱臼などがない頚部の外傷一般を指すもので、診断名ではないため診断書に記載される病名としては『頚椎捻挫』とされることが多いです。
『外傷性頚部症候群』などと呼ばれることもありますが、ほとんど同じ意味です。
交通事故が原因の首の痛みの中でもっとも一般的なものです。
ぶつかった際に、周囲の筋肉や靭帯に損傷が起こることからくる症状です。
首の痛みやだるさ、肩こりなどを症状とすることが多いですが、経過は良好であり1~2週間から長い人で2~3ヵ月で落ち着いてきます。
頚椎の周りに交感神経が走っています。
事故の衝撃に伴い交感神経の血流障害がでることにより、自律神経の症状がでるのがこのバレリュー症候群です。
はっきりした原因についてはまだわかっていません。
また、受傷した時にはなくても、2~3週間くらい経過した後に症状がでてくることもあります。
症状としては主に目のかすみや疲れなどの目の症状、めまいや耳鳴りなどの耳の症状、頭痛、吐き気などの症状がみられます。
ひとつ注意点としては、第1頚椎や第2頚椎が脱臼や骨折をした場合でも、強い耳鳴りやめまいがでることがあります。
首の痛みも非常に強いことが多いですが、通常のレントゲンだけではわかりにくく、見逃された方の報告もあります。
もし症状が強くて不安な場合は、頚椎のCT検査などもお願いした方がいいでしょう。
頚椎の障害に伴い、首から腕や手の方に出ている神経根という部分が障害された状態です。
通常は肩や肩甲骨のあたりから腕や手にかけてのある一定の部分の、びりびりした痛みやしびれがでることが多いです。
首から電気が流れるようと表現されることもあります。
症状が強い場合、一時的に腕があげづらかったり、感覚が鈍くなったりすることもあります。
神経ごとに感覚する部位が決まっているため、障害された神経が何番目かにより症状が出る部分は異なりますが、通常、足に症状がでることはありません。
脳と脊髄はつながっており、中枢神経と呼ばれています。
非常に重要な組織であるため、脳から脊髄の周りは頭蓋骨と頚椎・胸椎・腰椎といった骨で守られています。
そして、その中で硬膜という膜におおわれ、髄液という水に満たされていて、水の中をぷかぷか浮かんでいるという構造になっています。
そのため、脳と脊髄にかかる圧力は、常に一定に保たれた状態になっています。
脳脊髄液減少型というのは、交通事故が原因でこの硬膜に傷がついて髄液が流れ出すことにより、脳と脊髄にかかる圧が下がることにより起こります。
症状としては強い頭痛と吐き気がみられ、また頚部痛や疲れやすさ、耳鳴りなどもみられることもあります。
特に頭痛は寝ているときよりも起き上がると悪化し、頭をゆらすとさらに悪化することが多いです。
脊髄と神経根はいずれも神経ですが、神経の中でも特に木の幹にあたるものが脊髄で、木の枝にあたるものが神経根です。
神経根が障害された場合は、その枝の先の部分(首の場合は手や腕の一部)にしか症状がでないのですが、脊髄が障害された場合はその幹の先にあるすべての部分(手や腕全体や足全体)に症状がでる可能性があります。
多くは痛みやしびれですが、ひどくなると歩きづらさや感覚の鈍さ、尿漏れなどの症状がでてくることもあります。
ただ、そこまで症状が出る場合は単なるむち打ちというよりは、非骨傷性脊髄損傷(骨は折れていないが、脊髄に傷がついたもの)という診断になることが多く、脊髄損傷の中でも軽傷な状態であるといえます。
9割以上の方が特別な治療をしなくても自然経過で改善します。
しかし、まれに長期的に続く場合もあり、治療に難渋することも事実です。
最近の研究では、精神的な影響(事故を受けた被害者である点、うつ状態など)や社会的な影響(本人の仕事への満足度、収入など)も症状の継続に影響するという報告もあります。
鎮痛薬・軽めの筋弛緩剤などで治療を開始します。
鎮痛薬はNSAIDs(ロキソプロフェンナトリウム・セレコキシブなど)といわれる炎症を抑える薬が処方されることが多いです。
事故後1ヵ月ぐらいであれば問題ありませんが、3ヵ月以上症状が続き慢性化してきた場合は炎症の関与が少なくなっていることも多いため、トラマドールといった炎症を抑える以外の機序で痛みを抑える機序の薬の方が効果が出やすいこともあります。
慢性化した際は医師に変更を相談してみてもいいかもしれません。
また、神経根症状型や脊髄症状型の場合にあるような、ビリビリした電気が流れるような痛みに対しては、神経障害性疼痛に対する治療薬(プレガバリンなど)が効果を出しやすいです。
頚椎の安定を保つためにつけるように指導されることがあります。
確かに症状が強い間は有効ですが、逆に長い間つけすぎても頚椎の痛みや肩こりが長期化する原因となることが言われています。
骨折や脱臼がある場合は別ですが、それらがない場合はできれば数日以内とした方がいいでしょう。
②でも述べた通り、2~4週間の安静の後はむしろよく動かした方が痛みが長く続くことを予防することができます。
痛みの程度にもよりますが、ある程度落ち着いてきたらストレッチを中心とした体操を積極的にするようにしましょう。
バレリュー症候群型は、交感神経が亢進している状態です。
つまり、緊張している状態がずっと続き、リラックスすることができないと言い換えることができますが、これを改善する方法として神経ブロックというものがあります。
よく行うのは星状神経節ブロックというもので、頚の交感神経のある部分に麻酔薬をいれることで交感神経の働きを抑える方法です。
ずっと続くわけではないため、何度か続けることが多いです。
一般の整形外科で相談してみて難しいといわれたらペインクリニックを受診してみるのがいいでしょう。
長期間症状が続くほどブロック注射でよくなりづらくなるため、症状がつらい方は早めに受診してみることをお勧めします。
脳脊髄液減少型では、上記の治療と異なり最初の2週間はできるだけ横になって安静にすることと、十分な水分摂取が必要になります。
場合により入院して点滴を行うこともあります。
通常は安静にすることで損傷した硬膜が修復され髄液の流出が止まりますが、1ヵ月以上経過しても改善せず、検査で髄液の漏れが認められる場合はブラッドパッチという治療を行うことがあります。
これは自分の血液を背中側から針を刺し、髄液が漏れている硬膜の周りに注入して損傷部位を塞ぐ方法です。
1回の治療では20%程度しか効果が認められませんが、複数回行った場合は半数以上の方の症状の改善が認められます。
むち打ち損傷は外見上、大きなケガには見えませんが、さまざまな症状が長く続くこともまれにあります。
特に、バレリュー症候群型や脳脊髄液減少型は一般の整形外科では診断がつかず長く悩まれる方もいるのではないかと思います。
困った場合は、ペインクリニックや脳神経外科などで一度相談してみることをお勧めします。
イニシャル:O.M
診療科目:整形外科
医師経験年数 10年
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。