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手首の関節の骨は大きくわけると、腕の親指側の骨である橈骨と、腕の小指側の骨である尺骨、そして手のひら側である手根骨の3つに分かれます。
橈骨と手根骨は骨と骨がしっかり合わさっている構造になっていますが、尺骨と手根骨は骨と骨の間に隙間が空いており関節としては不安定な構造になっています。
その尺骨の不安定さを抑えているのが、三角線維軟骨複合体、つまりTFCCとよばれています。
複合体というのは掌側と背側の橈尺靭帯、関節円板、尺側側副靭帯をまとめた名称であり、ハンモックのような構造をしています。
このTFCCにより手関節にかかる力を尺骨に伝える際に安定化させています。
TFCC損傷はTFCCが傷ついてしまった状態で、手のひらにまっすぐに力がかかり、内側にひねるような力がかかった時に起こります。
通常は橈骨と尺骨は同じ長さですが、中に尺骨が少し長い人がいます。
もともとそのような人の場合は、軽い力でもTFCCに力がかかりやすく損傷されることが起こりやすいとされています。
また交通事故により手首の骨折をした方で、少し変形して尺骨が長い状態でくっついてしまった場合は、交通事故の直後にはあまり症状がなくても半年や1年などしてそのような症状がでてくることもあるため注意が必要です。
症状としては、手首の小指側に慢性的な痛みがあり、手首を内側にひねるとその痛みが増悪します。
具体的には、雑巾をしぼる動作だったり、ドアノブをひねるような動作だったり、片手でフライパンを持つなどの動作で痛みがでることが多いです。
また悪化してくると手の力が落ちてくることもあります。
交通事故直後にはほかの部位の痛みであまり気がつかず、1~2か月後になかなか痛みがひかないということで受診する方や、中には腱鞘炎と考えて病院を受診される方もいます。
通常、交通事故直後に救急を受診した場合、手首のレントゲンをとって骨折がなければ捻挫ですねと診断されて帰されることがほとんどです。
レントゲンでは靭帯の損傷はわからないため仕方ないのですが、交通事故直後に診断される方はごく少数でしょう。
そのため症状が続く方は再度病院を受診して、MRI検査をお願いしましょう。
レントゲンやCT検査は基本的には骨の検査であるため、靭帯や軟骨の損傷の診断には向いていません。
また手首の関節の中に造影剤を入れて、それが関節の外に漏れているかどうかで損傷があるかどうかを確かめる関節造影検査もありますが、最近は行う施設は少なくなってきています。
逆に最近増えている検査としては、超音波の検査があります。
MRIよりも手軽に観察ができて安い反面ある程度の慣れが必要な検査でもあるため、整形外科の中でも手の外科といわれる専門の先生以外にはできないといわれる可能性もあります。
通常まずは、安静と痛み止めの投与、テーピングやサポーターを使うなどで経過をみることがほとんどです。
ただ通常病院には手首用のサポーターは置いていないことがほとんどのため、整形外科医からは説明されないこともあります。
スポーツ用品店やインターネットなどで購入することができますので、痛みがある方は試してみることをお勧めします。
TFCC損傷用と書かれている場合が多いですが、特に手首の横の動きを抑えるものであればかまいません。
だいたい7割以上の方がこれでよくなると思われます。
また病院によっては、関節内にヒアルロン酸やステロイドの注射を行うところもあります。
ただ関節の空間が膝や肩と比較して狭いため、お願いしてもできないと言う先生もいるかもしれません。
上記の方法で3~6か月以上経過しても痛みが取れてこない場合に、手術を検討することになります.
以前は直接切って行う直視下手術が一般的でしたが、最近は関節鏡を使用した手術を行う病院が増えています。
ただ一般の整形外科では関節鏡を使った手術に慣れていないこともあるため、手術を希望される場合は手の外科のある病院へお願いするのがいいでしょう。
以下は手外科の認定研修施設になっている病院です。
これらすべての病院で関節鏡をしているかは不明ですし、またこれ以外にも関節鏡をしている病院はあると思いますが、先生に聞いてもどこがいいかわからないという場合は以下の名簿を参考にしてみてください。
引用元:日本手外科学会 「手外科認定研修施設名簿」
大きく分けると、TFCCを部分的に切除する手術と縫合する手術に分かれます。
中央部分の損傷に関しては切除する手術を行います。
なぜなら中央部分には血液が流れておらず、縫合したとしても再生しないため損傷している部分だけを切除するしかありません。
局所麻酔でやることもありますが、現状では全身麻酔で行う病院の方が多いと思われます。
周辺部分の損傷であれば再生能力があるため、縫合を行います。
縫合した場合の方がリハビリには時間がかかり、3~6か月程度かかります。
尺骨突き上げ症候群といい、橈骨の骨折などの後遺症により橈骨が短くなり、尺骨の方が長くなっている場合があります。
そのような場合は、TFCCに負担がかかりやすい状態が残るため、TFCCの切除や修復だけではまた症状がでてくる可能性が高く、尺骨を切って短くする尺骨短縮骨切り術を同時に行うことがあります。
以下のケガは、交通事故の際にTFCC損傷と間違われやすいものです。
もしMRIや超音波の検査をしてTFCC損傷はないといわれたが、その後も痛みが残る場合に参考にしてみてください。
尺骨茎状突起はTFCCが付着する部分であり、骨折となった際は同様の症状がでることがあります。
診断はレントゲンで簡単にできます。
橈骨の骨折に合併することが多く、折れた骨が小さい場合は、橈骨の手術を行ったとしても尺骨側はそのままにしておくことが一般的です。
基本的にはそのままにしていても、それほど症状がでることはありません。
しかし、そのままにしておいて自然にくっつくことはありません。
治療としてもし関節の不安定性がでて痛みが残るような場合は、折れた骨をくっつけるような手術を行う場合と、骨片をとってTFCCを縫合する場合があります。
手のひら側の骨である月状骨と三角骨の間の靭帯を損傷することにより、手関節の不安定性がでて手首の尺側に痛みが生じるケガです。
診断はMRIでも難しいことも多く、関節造影が用いられます。
治療としてはワイヤーで固定をして安定させた上で、尺骨側が長い場合などは尺骨短縮骨切り術を行うこともあります。
手関節の中で橈骨と尺骨がつくっている関節を特に遠位橈尺関節といいますが、その関節がはずれた状態をさします。
それだけで起こることはめずらしく、橈骨の骨折に合併することが多いです。
外から見たときに手首の中で尺骨が上に飛び出したようにみえることが多く、その位置に痛みがでます。
またひどければ、手首をひねることができなくなります。
治療としては、もとの位置に徒手的に戻した状態でギプス固定などをすることが多いですが、うまく戻らない場合は手術が必要になることもあります。
イニシャル O.M
診療科目 整形外科
医師経験年数 10年
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。