交通事故では、顔面部を打撲するとお口にも症状が現れます。
今回は、交通事故で起こりうるお口の症状と、その治療法について解説します。
交通事故にあった場合に起こるお口の症状を紹介します。
お口の症状を紹介しているのですが、これにはお口周辺の顔面部の症状も含まれます。
裂創とは、切り傷のことです。
交通事故によるお口の裂創には、唇や歯茎、舌などのお口の中の切り傷だけでなく、顔面部の切り傷も含まれます。
特に下顎先端部分の裂創などに多いのですが、お口の裂創では顔面部からお口の中につながる貫通創というタイプ裂創がしばしばみられます。
その他、ガラスや木片、プラスチック片が入り込んだ裂創、折れた歯が入り込んだ裂創など、多彩な症状を示します。
ですが、その一方で動脈を傷つけて大量に出血するような裂創はほとんどみられません。
挫創とは、擦り傷のことです。
路上で挫創を負った場合、挫創した部位には砂利などの細かなゴミが入り込むことがあります。
歯の破折とは、歯に強い力がかかって、その一部が欠けた状態を意味します。
歯の縁が少し欠けたものから、歯根が二つに割れてしまったものまで、破折の症状はさまざまです。
歯の脱臼とは、歯が抜けてしまった、もしくは歯の位置がずれてしまった状態を指します。
完全に抜け落ちてしまう完全脱臼と、歯の位置がずれる不完全脱臼に分けられます。
完全脱臼の場合でも戻せる可能性があるので、歯が見つかれば捨てることなく、適切に保存しましょう。
歯槽骨とは、歯を支えている歯の周囲の骨のことです。
事故により歯をうったことで、以前は動いていなかった歯が動くようになった場合は、歯を支えている歯槽骨が骨折している可能性があります。
歯槽骨骨折は単独で起こることは稀で、歯の破折や脱臼、お口の裂創なども併発していることがほとんどです。
顎骨骨折とは、顎の骨の骨折のことです。
下顎骨骨折は、顎の先端部分、顎の角部分、関節部分によく起こりますが、そのほかの部分に起こらないというわけではありません。
下顎骨が骨折すると、上下の歯が噛めなくなったり、噛み合わせると痛みが生じたりします。
口も開けにくくなりますし、歯並びもずれたりします。
また、下顎骨骨折では、骨折部位に応じた特徴的な症状がみられる場合があります。
例えば、下顎の中央部分での骨折では、お口を開け閉めすると、前歯の間が広がったり狭まったりする骨片呼吸という症状がみられます。
下顎の角の部分の骨折の場合ですと、下唇や顎の先の骨折した側の感覚が鈍くなる知覚鈍麻という症状が、関節部分の骨折ですと、お口が開かなくなる開口障害という症状が現れます。
上顎骨骨折の骨折部位は、3種類しかありません。
上顎骨骨折を分類した研究者の名前をとって、ル・フォー(Le Fort)の分類と言われています。
最も症状が重いのが、ル・フォーの3型で、眼の下部で骨折が生じたケースです。
ル・フォーの3型ですと、眼の障害が生じることがあり、見え方が二重になる複視、眼の動きが悪くなる眼球の運動障害、頬の感覚異常などが生じる可能性があるほか、頭蓋底部の骨折を併発していることもあります。
頬骨骨折は、頬骨の骨折です。
頬骨骨折は、お口が開けにくくなる開口障害や、骨折部位の顔つきが変化したりすることもありますが、痛み以外には機能的にも見た目的にも異常を認めないこともあります。
交通事故でお口の中を怪我した場合、どのような治療が行われるのでしょうか。
裂創に対しては、縫合して傷口を縫い合わせます。
お口の中の裂創では、絹糸を用います。
ナイロン糸でも構わないのですが、ナイロン糸は固いので、他の部分にチクチクあたり違和感が生じます。
対して、お顔の部分の裂創には、ナイロン糸を用います。
特に傷が目立ちにくいように、6-0ナイロン糸や5-0ナイロン糸とよばれる非常に細い糸で縫います。
傷が深い場合は、深い部分を吸収糸という自然に溶ける糸で縫い合わせ、その上でナイロン糸で表面部分を縫合することもあります。
挫創では、表面についた砂利などの汚れを取り除いたのち、ハイドロコロイドなどのドレッシング材を貼る治療を行います。
ドレッシング材を適切に管理すれば、傷はほとんど目立たなくなります。
歯の欠け方によって治療法が変わります。
歯が欠けた部分が小さく、歯の神経にまで及ばない場合は、欠けた部分をコンポジットレジンという歯の色に似せたプラスチック製の詰め物で治します。
歯が欠けて、歯の神経が露出してしまった場合は、歯の神経を取り除く治療が必要です。
歯の神経の治療を行い、その後、差し歯を作ることになります。
歯根まで歯が割れてしまった場合は、抜歯になります。
歯の位置がずれた不完全脱臼では、ずれた歯の位置を元に戻して固定し安静を図ります。
歯が抜け落ちてしまった完全脱臼の場合も、抜けた歯の状態と保存状態が良ければ、再び歯を戻すこともできます。
抜けた歯を元の位置に戻したのちは、不完全脱臼と同じく数週間固定し安静を保ちます。
ですが、完全脱臼してから時間が経過しすぎた歯や、保存状態が良くない歯の場合は、元に戻すことはできません。
歯槽骨を骨折した場合は、骨折した骨を元の位置に戻します。
骨折によるズレが小さい場合は、歯茎の上から押してずれる前の位置に戻せますが、ずれの幅が大きい場合は、歯茎を切開してずれた骨を元の位置に戻すようになります。
顎の骨を骨折した場合の治療法は、2通りの方法あります。
なお、上顎骨骨折や頬骨骨折では、外見上の変化がほとんどなく、噛み合わせやお口の開け閉めなど機能的にも異常がほとんどない場合は、手術を行うことなく、経過観察となることも珍しくありません。
骨折した骨のズレが大きい場合は、顎骨骨折整復固定術という全身麻酔下での手術を行います。
この手術は基本的にお口の中で行う手術で、顔に切開を加えることはほとんどありません。
お口の中に切開を加え、骨折した部分を露出させた上で、ズレた部分を戻して骨折した骨の位置を整えます。
そのままでは、またズレてしまいますので、チタン製のプレートとよばれる薄い金属製の板とネジで固定し、ズレないようにします。
最近では、吸収性の溶けるタイプのプレートを利用することもあります。
切開したところを縫合して縫い合わせます。
また、噛み合わせがずれないように、顎間固定術も同時に行います。
顎間固定術とは、上下の歯にシーネとよばれる細い金属製の板を装着し、上下の歯につけたシーネをくくりつけることで口を開けなくする処置です。
上下の歯がきちんと噛める位置で固定することで噛み合わせのずれを防ぎ、お口を開けられなくすることで、骨折した部分の安静を図るのを目的として行われます。
骨折した骨のズレが小さい場合は、手術をせず顎間固定術のみ行います。
交通事故によるケガの治療の後、考慮しなければならないのが、後遺障害です。
後遺障害とは、事故で受けたケガの治療が終わったのちに、治りきらなかった痛みや麻痺などのことです。
後遺障害は、その症状から認定された等級に応じて金銭で賠償される仕組みになっています。
口に関係する後遺障害は、食べたり飲み込んだりする咀嚼機能、発音に関係する言語機能、そして歯の3種類があります。
事故によって食べたり飲み込んだりする機能に障害が残った場合は、後遺障害に認定されます。
食べにくさによって、等級が異なり、流動食しか食べられなくなった状態が、最も等級が高くなります。
言語障害とは、声を出しにくくなる障害を指します。
言語障害は、口唇音(パ行・ワ行など)・歯舌音(サ行・ラ行など)・口蓋音(ガ行など)・喉頭音(ハ行など)の4種類の言葉の発音で判断します。
発音出来なくなった声の種類の数で、後遺障害の等級が決まり、3種類以上発音出来なくなれば最も等級が高くなります。
歯の後遺障害は、事故によって歯を失った場合の障害です。
失った歯の本数によって後遺障害の等級が異なりますが、少なくとも3本以上となっていますので、2本までの喪失なら後遺障害には認定されません。
今回は、交通事故で起こりうるお口の症状と治療法について解説しました。
軽いものなら挫創程度ですみますが、骨折したり、歯が抜けてしまったりすることもあります。
治療法は、症状に応じてさまざまですが、必ず治療が必要というわけではなく、症状によっては経過観察のみとなることもあります。
もし、交通事故にあってお口のあたりにケガをしてしまった場合は、まずは専門家を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしてください。
イニシャル H.K
診療科 口腔外科
医師経験年数 20年
口腔外科を専門に診療しています。
親知らずやお口の中の出来物、交通事故や転倒などによるお口の怪我などを中心にしています。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。