東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
目次
信号待ちで停車していた際に後方から車に衝突された場合など、むちうちの症状になることがあります。
むちうちは交通事故の負傷の中でも一般的なものの1つですが、実際にはいくつかの症状に分かれています。
また、むちうち症を治療しても完治しなかった場合には、交通事故の加害者に対して慰謝料の請求を検討することもできます。
今回は、むちうちの症状、種類、治療期間、後遺症になった場合の対応などをご紹介します。
むちうちは外見上の変化が見られないことが多い、当初は痛みや吐き気などの症状を感じないことがある、などの特徴があります。
そのため、交通事故にあった直後は自分がむちうちであると自覚しないケースも少なくありません。
自分がむちうちであると自覚せず、目立った外傷がないからと示談書にサインしてしまうと、後に損害賠償を請求することが難しくなります。
そのため、交通事故にあったら外傷などがなくても必ず医師の診察を受けることが重要です。
むちうちの診療科目としては整形外科が一般的です。
骨の異常を調べるためにレントゲン、レントゲンに写らない脊髄などのダメージを調べるMRIなどの検査が重要になります。
むちうちは正式な病名ではなく、首がむちのようにしなることで生じた症状の総称です。
むちうちは症状によって以下の種類に分類できます。
・頸椎捻挫型
むちうちの症状としては最もオーソドックスなもので、むちうち全体の約7〜8割程度が該当するとされます。
首の骨の部分にある頚椎の周囲の筋肉や靭帯の損傷、首の筋繊維などの軟部組織の断裂、などによって生じます。
主な症状としては、肩や首の痛みや痺れ、動かせる範囲が狭くなるなどの首の運動制限、首や背中の凝り、頭痛、めまいなどです。
・頚椎神経根型
事故の衝撃によって首が腫れる、頚椎の並びに歪みが出る、などによって神経が圧迫される症状です。
主に圧迫される神経としては、運動神経や知覚神経などが集まっている神経根という部分があります。
頭を支える骨である椎骨の間にある、穴のようになった椎間孔から腕の方向に伸びている神経が頚椎に挟まれると、痛みや痺れなどの症状の原因になります。
主な症状としては、首、腕、指先などの痛みや筋力の低下、後頭部や顔面の痛み、咳やくしゃみをした際の強い痛み、腕の知覚異常、脱力症状などです。
・脊髄症状型
頚椎を支える管として脊柱管があり、その中には刺激伝達や反射機能などを司る中枢神経系である脊髄が通っています。
脊髄が損傷を受けることで生じるのが脊髄症状型です。
脊髄症状型の主な症状には、脚の痺れ、歩行障害、排尿障害、直腸機能障害、頭痛、めまい、吐き気、集中力の低下、視力障害などがあります。
・バレリュー症候群型
頸椎の損傷などによって交感神経や副交感神経等が影響を受け、自律神経が過度に緊張する機能障害が生じている状態のことです。
バレリュー症候群型の主な症状としては、頭痛、後頭部やうなじ付近の痛み、めまい、耳鳴り、腕の痺れ、注意力の低下、視力低下や眼の疲れ、飲み込みづらいなど飲食時の違和感、息苦しさや脈の乱れなどがあります。
むちうちになった場合の代表的な治療法としては、以下のものがあります。
(以下の記載はあくまで一般的な例示であり、具体的な治療法は症状によって異なりますのでご注意ください)
・処方薬
むちうちになった際に処方されることが多い薬としては、いわゆる痛み止めである消炎鎮痛剤や、頭痛に対処するための薬などがあります。
・ブロック注射
ブロック注射とは、痛みが強い部位に対して局所麻酔剤を実施することで、筋肉の緊張や痛みを緩和する方法です。
そのほか、強く痛む部分に局所麻酔剤を繰り返し注射して痛みを除去する、トリガーポイント注射などもあります。
・理学療法
理学療法とは、身体の障害に対して治療体操等の運動、電気療法、マッサージ、温熱などの物理的手段を加えることで、基本的動作能力などの回復を図る処置のことです。
理学療法には物理療法と運動療法があります。
物理療法とは、熱、電気、震動などの物理的な刺激を患部に与えることで症状の改善を促す方法です。
運動療法とは、患者の体を効果的に動かすことで日常生活に復帰できることを目指す方法です。
長期間体を動かさずにいると関節の動きが悪くなるなどの不具合が生じるおそれがあるため、運動療法によって防止します。
むちうちの一般的な治療期間は3ヵ月程度ですが、症状や年齢などによって個人差があります。
1週間程度で治療が終わる場合もあれば、治療に1年ほどかかる場合もあります。
交通事故に遭い、むちうち症となってしまった場合には、身体の痛みや違和感を治療するために医療機関へかかることになります。
ここでいう医療機関は、整形外科等の病院や、理学療法等で施術をする整骨院や治療院等のことです。
基本的に、交通事故被害者が自分で選択した医療機関に通院することになります。
通う医療機関を決めたら、加害者側保険会社へ医療機関名(病院、整骨院、治療院等)と連絡先を伝えます。
通う予定の医療機関が、保険会社との対応が可能であれば、保険会社と医療機関で連絡を取り合い、治療内容や治療費について話し合われます。
そして、被害者が通院を開始すると、治療費が毎月医療機関より加害者側保険会社へ請求されることになります。
この場合、保険会社が治療費を負担しますので、被害者自身の負担はありません。
ただし、保険会社からの直接支払に対応していない医療機関もあり、その場合には、一時的に被害者自身が治療費を負担することになります。
また、保険会社に連絡する前に医療機関へかかった場合には、連絡する前までの治療費を被害者が全額負担することになりますので、できるだけ医療機関へかかる前に保険会社にかかる予定の医療機関を連絡するようにしましょう。
交通事故が原因でむちうちになった場合は、事故の加害者に対して損害賠償を請求することができます。
損害賠償として請求できるお金の項目としては、以下のものがあります。
・治療費
むちうち等の交通事故による怪我を治療するためにかかった費用のことです。
加害者が加入している保険会社が病院等に直接支払う場合もあります。
・通院費
怪我の治療のために医院や病院に通院するために支出した費用です。
電車代やバス代などが一般的ですが、他の交通手段が使えないなどの事情があればタクシー代も認められる場合もあります。
自家用車で通院した場合はガソリンや高速道路の費用などが認められることがあります。
・入院雑費
入院雑費とは、入院中に出費することになる細かい費用のことです。
日用雑貨の購入費、電話などの通信費、新聞や雑誌などの購入費、テレビ等を視聴するための費用などです。
入院雑費については実費ではなく1日あたり1,100円〜1,500程度の定額で計算するのが一般的です。
・休業損害
休業損害とは、むちうち等の交通事故の怪我を治療するために仕事を休んだことで減少した収入を損害として表したものです。
主婦等の家事従事者は現に収入は得ていませんが、他者に代行を依頼すれば通常賃金等が発生することから、家事従事者についても休業損害が認められています。
参照:「休業損害」の職業別計算方法と抑えるべきポイントを一挙解説!
・慰謝料
慰謝料とは、交通事故によって精神的な苦痛等を被ったことを補償するための金銭です。
慰謝料は入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。
入通院慰謝料はむちうちなどの交通事故によって負った怪我を治療するために入通院をしなければならなくなったことに対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料は、交通事故を原因とする怪我を治療しても完治せずに後遺障害が残ってしまった場合に発生する慰謝料です。
死亡慰謝料は交通事故によって被害者が亡くなってしまった場合に発生する慰謝料です。
そして、これらの慰謝料の相場の算定基準には3つあります。
それは、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準です。
自賠責基準は、自動車を運転する人が強制的に加入することになる自賠責保険から支払われる保険金を相場としたものです。
他の2つの慰謝料算定基準と比較して、最も低い金額となる基準です。
任意保険基準は、自賠責保険で補償できる範囲を超えた損害が出た場合、その超えた部分の損害を補償するための「任意保険」による慰謝料算定基準です。
任意保険は、名前の通り、自動車を運転する人が任意で加入する保険です。
任意保険基準の算定基準は、保険会社によって異なり、その算定基準は原則どの保険会社も公開していません。
しかし、一般的には自賠責保険よりも多少高額の相場となっています。
弁護士基準は、過去の裁判例を元に作成されたものですので、裁判基準ともいわれます。
3つの算定基準の中で最も高額な金額を算定することができます。
この基準は名前のとおり、弁護士に交通事故の示談交渉を委任した場合に、弁護士が用いる基準となります。
例えば、むちうちによる通院期間が1ヶ月で、実際の通院日数が12日の場合、自賠責基準での入通院慰謝料は、「通院期間30日」と「通院実日数(12日)×2=24日」のうち、少ない方である24日を慰謝料算定期間として、24日に4,200円をかけて計算します。
すると10万800円となります。
一方、同様の通院期間、通院実日数の場合に弁護士基準で慰謝料を算定すると、約19万円となります。
同様の通院期間でも、弁護士基準と自賠責基準では約9万円もの差が出ています。
むちうちの治療が長引いた場合などは、加害者の保険会社等による治療費の支払いが打ち切られる場合があります。
治療費が打ち切られる場合は大きく分けて2種類あり、医師からの場合と保険会社からの場合があります。
医師からの場合とは、むちうちの治療を担当する主治医などの医師から治療を終了することを打診されることです。
主に医学的な見地からなされるものですが、まだ痛みが強い、治療の効果を実感している、などの事情がある場合には、その旨を伝えて医師に相談してみることが重要です。
保険会社からの場合とは、加害者の保険会社が「治療の開始から3ヵ月経過したので治療費の支払いを打ち切らなければならない」などと切り出してくるケースです。
保険会社としては治療費の支払いを長期間続けると経済的な負担になることから打ち出してくるものですが、治療の継続が必要かどうかは本来は担当する医師が医学的な見地から判断すべきことです。
そのため、保険会社から治療費の打ち切りを言い出されたとしてもすぐに承諾するのではなく、治療を担当する医師と十分に相談してから判断することが大切です。
保険会社から治療費の打ち切りを打診されることが多い場合として、以下のものがあります。
・通院の頻度が少ない場合
むちうちの治療のために通院する頻度が少ない場合は、症状が軽いと判断されて早々に打ち切りを打診されることがあります。
通院の頻度が少ない理由はさまざまで、痛みなどの症状がないから通院しないこともあれば、痛みが強すぎて移動等が負担になるので通院しないこともあります。
打ち切りを打診されないようにするためには、定期的に通院しておくことも一つの方法になります。
それでは、定期的な通院とは実際にどのくらいの頻度を目安にするとよいのでしょうか。
むちうちの痛みは人によって異なります。
そして、通院ペースも人によって差が出ます。
むちうちの場合、通院ペースは2日に1回の方が多い傾向にあります。
しかし、むちうちの程度がひどい場合には、毎日通院するという方がいるのも事実です。
一方で、軽度のむちうちであれば、通院のペースは2日に1回よりも少ない場合もあります。
また、むちうちは、骨折のように他覚的所見が認められない場合が多く、気候や気温等が異なれば日によって痛みも異なることがあります。
そのため、「最近は調子がいいから完治した」と思い、自己判断で通院をやめてしまうことは避けるべきです。
したがって、通院頻度をできるだけ下げずに治療を継続し、医師と相談しながら体の調子をみることが大切です。
通院頻度が高いほど、治療効果も高くなります。
そして、通院頻度として最も重要なポイントは、むちうちで通院する本人が通院を継続して治療をする意思があるかどうかです。
交通事故でケガを負った場合、本当に体の痛みがあるから通院して治療をする人もいれば、慰謝料をより多くもらいたいという思惑から、意図的に通院頻度を多くする人もいます。
交通事故の相手方加入保険会社は、通院回数が多いということは、この被害者は症状が重いのだと認識します。
そこで、>保険会社へ自分の症状の重さを伝えるために、症状が重いという事実の証拠を作る必要があります。
つまり、体が痛ければ、通院を続けて治療を受けることが大切なのです。
一方で、通院回数が少ない場合には、ケガがそこまで重症ではなく、その程度の痛みなのだと保険会社に判断されてしまい、治療費の支払いを打ち切りにされてしまうことがあるため注意が必要です。
・通院を続けていても、保険会社が通院日数を認めてくれない場合
交通事故でケガをして通院をしていても、ケガの種類や症状と通院日数が不相応であれば、保険会社としてもその通院日数を認めないと判断する場合があります。
しかし被害者はケガの種類や症状に相応な通院を継続しており、妥当な通院日数であるにも関わらず、加害者側保険会社が被害者の主張する通院日数を認めてくれない場合もあります。
これは、加害者側保険会社が、被害者に支払う慰謝料の金額を抑えたいという考えがあるためです。
また、通院日数が被害者のケガの状況に相応であるかどうかについては、見解がいくつかに分かれる場合もあります。
特に、被害者本人が加害者側保険会社と直接示談交渉をする場合には、保険会社から不当な提示をされるケースも多くなっています。
交通事故に慣れている人はそうそういませんし、保険会社は交通事故のプロなので、加害者側の保険会社がどのように交渉を進めてくるかわからないということが多いと思います。
そこで、交通事故の被害者となってしまった場合には、できるだけ弁護士に相談して相手方との示談交渉を依頼するとよいでしょう。
弁護士に交通事故の示談交渉を依頼することで、相手方との交渉のすべてはもちろん、治療を続けても後遺症が残ってしまった場合の後遺障害等級認定に必要な手続等もすべて弁護士が行ってくれますので、被害者の負担をより減らすことが可能です。
また、治療費の支払いを打ち切られそうになった場合でも、弁護士が加害者側保険会社と話をしてくれますので、治療費の支払いが継続される可能性があるというメリットもあります。
・治療が簡易すぎる場合
簡単なマッサージのみを受けている、湿布薬をもらうだけなど、むちうちを治療するための手段が簡易すぎる場合は、治療を継続する必要性が低いとして治療費の打ち切りを打診されることがあります。
むち打ち症を治療しても完治しない場合には、後遺障害等級の申請をして認定を受けることが重要です。
怪我を治療しても完治せずに症状固定となった状態のことを、後遺症といいます。
後遺障害とは、後遺症のうち交通事故を原因とするもので、かつ労働能力の一部または全部を喪失したもののことです。
後遺障害の例としては、交通事故によって利き腕を負傷して動かせなくなったまま症状固定し、腕が動かなくなったことで以前のようには働けなくなった場合などです。
むちうちが後遺障害に認定されるためには、治療を担当した医師に後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害等級の認定申請をする必要があります。
後遺障害に認定された場合、事故の加害者に対して後遺障害慰謝料を請求することが可能になります。
交通事故の被害に対しては数種類の慰謝料がありますが、後遺障害慰謝料はその1つで、後遺障害を抱えて生活することになる負担や精神的な苦痛に対して発生するものです。
後遺障害慰謝料を請求するためには、まずは後遺障害等級の認定を受けることが重要です。
後遺障害は症状の重さによって第1級から第14級までの14種類の等級に分かれています。
症状が最も重いのは第1級で、症状が最も軽いのが第14級です。
それぞれの等級には該当する症状が例示されており、最も重い第1級の例は両眼の失明などです。
後遺障害等級に該当すると後遺障害慰謝料を加害者に請求できますが、慰謝料の金額は後遺障害の等級によって変化します。
症状が最も重い第1級については、賠償金の金額も1番高くなります。
症状が最も軽い第14級については、賠償金の額も1番低くなります。
等級が1つ違うと賠償金の金額が100万円以上変わることもあるので、後遺障害になった場合にどの等級で認定されるかは非常に重要になります。
むちうちが後遺障害に認定された場合、どの等級に該当するかは具体的な症状の内容や程度によって異なりますが、第12級~第14級に認定されるのが一般的です。
後遺症慰謝料の金額は原則として後遺障害の等級によって決まりますが、注意点は後遺障害慰謝料の金額を決める基準は複数存在することです。
後遺障害慰謝料の金額を決める基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。
3つの基準のどれを採用するかによって、同じ等級の後遺障害でも支払われる慰謝料の金額が異なります。
自賠責基準とは、自動車の所有者が加入しなければならないことが法律で規定されている、いわゆる強制保険である自賠責保険に基づく慰謝料の算定基準です。
自賠責保険は交通事故の被害者の最低限の救済を目的とする制度です。
そのため、自賠責保険に基づく自賠責基準は、3つの基準の中では慰謝料の金額が最も低いという特徴があります。
任意保険基準とは、自動車の任意保険を取り扱う保険会社が主に用いる慰謝料の基準です。
交通事故の示談交渉などで加害者の保険会社が被害者に提示する金額は、多くの場合が任意保険基準に基づくものになっています。
任意保険基準の具体的な金額は各保険会社によって異なりますが、あまり大きな違いはありません。
任意保険基準の慰謝料の金額は自賠責基準よりも高く、弁護士基準よりは低いのが特徴です。
弁護士基準とは、弁護士が交通事故の示談交渉に介入した場合や、裁判官が交通事故の裁判において慰謝料の金額を算定する場合などに主に用いる基準です。
裁判基準と呼ばれることもあります。
弁護士基準は交通事故についての過去の裁判例に基づく基準であり、慰謝料の3種類の基準の中では金額が最も高いのが特徴です。
むちうちの症状で後遺障害に認定された場合、多くのケースでは第14級に認定されますが、症状が重い場合は第12級や第13級等に該当することもあります。
自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の後遺障害第12〜第14級の後遺障害慰謝料の金額は以下の通りです。
交通事故でむちうちになった場合は、事故の直後は外傷や痛みなどがない場合が多く、自分がむちうちであると自覚していないケースも少なくありません。
目立った外傷などがなくても医師の診察を受けることが大切です。
むちうちの治療期間は一般的に3ヵ月程度の場合が多くなっていますが、治療しても完治せずに後遺症が残った場合は、後遺障害の認定を受けて後遺障害慰謝料を請求することが重要です。