東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
高速道路でのあおり運転による死亡事故など、危険なあおり運転行為が社会問題化したことを受け、2020年6月に施行された改正道路交通法で「妨害運転罪」が創設されました(同法第117条)。
妨害運転罪が適用されると、違反1回で免許取消処分になるほか、最長5年の懲役刑や100万円以下の罰金などの厳しい罰則が科されます。
また、あおり運転が原因で死傷事故が起きた場合は、自動車運転死傷行為処罰法の危険運転致死傷罪も成立します(同法第2条4号)。
このように、あおり運転の厳罰化が進んでいる一方で、今もあおり運転の被害に遭うドライバーは少なくありません。
本記事では、あおり運転への対策や、あおり運転に遭ってしまったときの対処法について、自分があおり運転しないようにする方法と合わせて解説します。
あおり運転は、先行車との車間距離を詰める行為や、ハイビームやパッシング、不必要なクラクションなどによって前方または周囲の車を威嚇・挑発する行為をいいます。
あおり運転は犯罪であり、誰にもメリットがない行為です。
一方、あおり運転の被害に遭いやすい運転行為があることも否定できません。
あおり運転の被害に遭わないために、日頃から適切な対策や心がけを行っておきましょう。
ここでは、あおり運転に遭わないための対策を5つご紹介します。
あおり運転対策の基本は、「車間距離を十分にとること」といえます。
あおり運転行為の被害の中でも多いのが、後続車に車間距離を詰められることと、先行車に急ブレーキをかけられることです。
このような行為があった場合、車間距離が短いと衝突事故が起こりやすくなります。
たとえば、急ブレーキをかけた地点から停止するまでに要する距離は、30km/hの場合で14m、60km/hなら44m、100km/hであれば112mとされています。
このため、一般道路であれば先行車との距離を45m以上、高速道路なら100m以上とることを心がけましょう。
前後の車両の運転者に不安や恐怖感を与えるような運転行為は、行わないようにしましょう。
強引な割込みや車線変更、急停車・急発進などは、周囲の車両運転者に恐怖感を与えるだけでなく、自身も衝突などの事故を起こす危険があります。
急停止については、事故の危険を避けるためにやむを得ない場合を除き、道路交通法第24条で禁止されています。
不必要な急停止を行った場合、違反点数2点、反則金5,000円~9,000円及び刑事罰として3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。
車線が複数ある道路の場合、一番右側の車線は、他車を追い越すために一時的に走行する「追越車線」です。
通常は、左側の車線、または(3車線以上ある道路の場合の左端または中央の)走行車線を走るようにしましょう。
追越車線に留まっていると、追越しをしたい後続車を妨害することになるため、後続車の運転者にあおられる恐れがあります。
また、追越しをした後も追越車線を走行し続けることは、道路交通法第20条1項の車両通行帯通行義務(車両通行帯のある道路では左端の車線を通行する義務)に違反します。
車間距離を詰められたら、速やかに進路を譲りましょう。
追いつかれた場合に道を譲ることは、あおり運転対策になるだけでなく、道路交通法第27条で定められた運転者の義務でもあります。
同条は、走行中に後続車に追いつかれたときは、「追いついた車両が追越しを終わるまで速度を上げないこと」(1項)、及び追越しができるだけの道路幅がない場合は「できる限り道路の左側端に寄って進路を譲らなければならない」(2項)と定めています。
前項までは運転をする上での心がけにあたりますが、ドライブレコーダー(以下ドラレコ)やステッカーによる対策も必要といえるでしょう。
最近では、前方に限らず、後方や360度録画できるタイプのドラレコもあります。
ドラレコで録画しながら運転することは、あおり運転の抑止効果があるとともに、運転者の安心材料にもなるはずです。
さらに、「ドラレコ録画中」と表示したステッカーを後部ガラスなどに貼っておくと、抑止効果が期待できます。
「ドラレコ録画中」ステッカーのほかにも、乳幼児の子育て中の方であれば「Baby in car」のステッカーを貼るのもよいでしょう。
注意深く運転していても、車間距離を詰められることや、頻繁にクラクションを鳴らされるなどのあおり行為をされることがあります。
ここでは、あおり運転に遭ってしまったときの対処法をご紹介します。
あおり運転に遭った場合は、まず進路を譲るのが得策です。
高速道路や2車線以上の道路であれば、追いつかれる前に右側車線から左側車線に移動しましょう。
移動して道を譲っても相手が走り去らずに挑発行為を繰り返す場合は、妨害運転罪に該当する可能性が高くなります。
避難して警察に通報することを念頭に、相手の車のナンバーや車体の特徴などを可能な限り記憶するようにしてください。
また、ドライブレコーダーがあれば有効な証拠を残せます。
道路が狭くて道を譲れなかった場合や、運転者に執拗に追われた場合などは、高速道路であればサービスエリアやパーキングエリア、一般道路であればコンビニの駐車場など、人目につきやすい安全な場所に避難しましょう。
安全な場所に移動したら、ドアをロックして窓も閉めた上で、速やかに110番通報します。
相手の車のナンバーや車体の色、車種、フロントガラス越しに見えた相手の容貌の特徴など、相手に関する情報を覚えている限りで伝えてください。
警察に通報したら、警察が到着するまでは車内で待機します。
相手が追ってきて脅しても、車外に出ないでください。
あおり運転に加えて、脅す行為は刑法の脅迫罪に該当するので、脅されるようであればスマホで録画しておきましょう。
あおり運転が犯罪であると理解していて、自分はあおり運転をしていないつもりでも、周囲の車から見るとあおり運転になっていることがあります。
ここでは、自分があおり運転をしないために、「どのような運転があおり運転に見えるか」及び「あおり運転をしていると思われないためにはどのような運転を心がければよいか」を解説します。
あおり運転をするつもりがなくても、先行車との距離が近すぎると、あおり運転に見えてしまう可能性が高いといえるでしょう。
交通量が多い都市部の一般道路では、車間距離が短くなりがちです。
流れの悪い道路で先行車との車間距離を開けようとすると後続車との距離が詰まってしまうので、適切な距離をとることが難しい場合もあるでしょう。
そのような場合は、極力、周囲の他の車同士の車間距離と同じくらいの距離をとるようにしましょう。
スピードが頻繁に変化すると、後続車が走りづらくなり、運転者にそのつもりがなくてもあおり運転に見えてしまう恐れがあります。
一定のスピードで走ることは、事故を防ぐとともに、周囲の車にストレスを与えないという意味でも重要です。
ここで、運転初心者が安全運転を心がけているつもりで、スピードを不安定にしてしまう走り方の具体例と、それを防ぐ方法をご紹介します。
運転に慣れていない人が、スピードを一定にする意図でやりがちなのが、アクセルの踏み込みを一定にする走り方です。
アクセルを一定にすると、上り坂では減速し、下り坂ではスピードが上がります。
このため、上り坂では後続車に、下り坂では先行車に「あおられている」と誤解される恐れがあります。
上り坂では平坦な道よりもアクセルの踏み込みを少し強くし、下り坂ではアクセルを緩めて、スピードが一定になるように調整しましょう。
見通しの悪い道やカーブの多い坂道などで、制限速度を大幅に下回るスピードで走る人がいます。
安全運転の心がけとして不適切ではありませんが、スピードを落とずに走る車からは、あおり運転に感じられるかもしれません。
後続車が近づいてきたときは、左によけられそうな場所でウインカーを左に出し、減速するか停車して進路を譲りましょう。
車が割り込んできた場合や、前後の車のスピードが不安定な場合などにクラクションを長く鳴らしたり、何回も鳴らしたりする人がいます。
このような場合、クラクションを鳴らす側としては、不適切な運転行為に対して注意しているつもりかもしれません。
しかし、数秒間流し続ける行為や、何回も鳴らす行為は周囲の車に不安と不快感を与えてしまいます。
よほど不当で危険な運転行為をされた場合でない限り、クラクションは短く1回鳴らすのにとどめるのがよいでしょう。
あおり運転は、刑事処分や免許取消処分などの重い罰則を科される行為です。
しかし、現在もあおり運転を行う運転者は存在します。
さらに、気をつけたい点として、あおり運転の被害に対して任意保険が補償対応していないケースが少なくないことがあります。
あおり運転の加害者と直接交渉することは、危険なこともあり得策ではありません。
また、加害者側の保険会社と交渉する場合も、被害者側の運転行為に対して不当な過失割合を主張される恐れや、賠償金を低額に抑えられる恐れがあります。
あおり運転の加害者側と賠償金や慰謝料の話し合いをする場合は、弁護士に交渉を依頼しましょう。