東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
交通事故で首に大きな外力が加わると、頸髄(けいずい)という神経を損傷するケースがあります。
頸髄は脳からの指示を手足に伝える役目を持っているため、損傷した場合は神経伝達に障害が発生し、首から下の筋肉が麻痺する場合もあります。
頸髄損傷は重い後遺症を引き起こす確率が高いので、症状に応じた後遺障害の等級認定も必要になるでしょう。
また、加害者側の保険会社に対し、十分な慰謝料や逸失利益を請求しなければなりません。
今回は、頸髄損傷の症状や後遺症、後遺症障害慰謝料や逸失利益をわかりやすく解説しますので、後遺症に苦しんでいる方はぜひ参考にしてください。
目次
頸髄損傷とは、大きな外力が加わったことにより、頸髄(けいずい)という神経組織が傷ついてしまう外傷です。
主な原因には自動車の追突事故や落下の衝撃があり、ラグビーなどの身体が激しくぶつかるコンタクトスポーツでも頸髄を損傷する場合があります。
頸髄を損傷すると、軽度な場合は手足にしびれを感じますが、重度になると麻痺が生じるため、手足を動かせなくなる可能性があるでしょう。
また、一度損傷した頸髄は回復しないので、重症の場合、しびれや麻痺などの症状は一生続くことになる可能性が高くなります。
頸髄は頸椎(けいつい)の中を通っているため、追突事故などで首の部分に外傷を受けると、頸髄を損傷するケースがあります。
頸椎は7本の骨で構成される首の部分の骨になるので、頸椎を骨折すると頸髄も損傷している確率が高いでしょう。
ただし、高齢者が首の部分に強い衝撃を受けると、頸椎の骨折がなくても頸髄を損傷する場合があるので注意が必要です。
なお、背中や腰の脊椎(せきつい)を損傷すると、下肢(股関節から下の脚部分)に対麻痺と呼ばれる運動麻痺が残ってしまう場合もあります。
頸髄は脳からの指令を手足に伝え、手足からの信号も脳に伝える役割があるため、損傷すると手足を動かせなくなり、感覚機能も消失するケースがあります。
頸髄損傷は軽度であっても手足の筋肉萎縮や筋力低下を引き起こし、痛みやしびれも伴います。
重度の頸髄損傷は末梢部分が麻痺するため、手足がまったく動かなくなり、自分で排せつできなくなる膀胱直腸障害も引き起こす可能性があるでしょう。
頸髄損傷は脳に近くなるほど重い障害が残りやすく、上部を損傷すると死亡に至るケースや、介護や介助なしでは生活できない状態になるケースもあります。
下部を損傷すると四肢麻痺(手足の麻痺)が残りやすいので、生活には装具や車いすが必要になるでしょう。
首から腰にかけては頸椎・胸椎・腰椎がチューブ状につながり、その中を脊髄が通っていますが、頸髄はC1からC7と呼ばれる頸椎(首の骨)を通る神経組織です。
頸椎がダメージを受けると頸髄損傷になる確率が高く、損傷個所となるC1からC7のレベル(部位)によって以下のような症状が発生します。
なお、頸椎は脳の下から胸椎にかけてC1~C7の順になっており、上部の頸椎がダメージを受けると、重度の症状が残ります。
C3以上の頸髄損傷は横隔膜の機能が損なわれてしまい、自分で呼吸できなくなるため、人工呼吸器が必要になります。
四肢麻痺の症状も残るので、介護や介助がなければ生活できない状態になるでしょう。
C4~C5の頸髄損傷にも四肢麻痺の症状はありますが、横隔膜の呼吸運動は残るため、自発呼吸は可能です。
三角筋や上腕二頭筋の運動機能も残るので、手首は動かせませんが、肩や肘は曲げられます。
また、自分で移動するときは顎で操作する電動車いすが必要になり、食事や歯磨きには手のひらに装着するカフベルトを使用することになるでしょう。
目や頭の動きに反応する電動器具は使えますが、ほぼ全介助に近い状態です。
C6の頸髄損傷では大胸筋と橈側手骨伸筋(肘から下の筋肉)の運動機能が残るので、手首をそらす動作は可能です。
寝た状態から起きる動作や寝返り、車いすに乗る動作や着替えもできるでしょう。
C7の場合は上腕三頭筋と橈側手根屈筋の運動機能が残っており、肘を伸ばす動作が可能です。
一般的な車いすの乗り降りや移動、入浴も自分1人できるので、一部の介助は必要ですが、ほぼ自立した生活が可能です。
頸髄を損傷した場合、四肢麻痺や呼吸障害、排せつ障害などの後遺症が残る可能性があります。
いずれも後遺障害等級に認定される可能性があるので、具体的な症状は以下を参考にしてください。
頸髄損傷の後遺症として神経障害が残ると、状態によって以下の後遺障害等級に認定される場合があります。
等級が3級以上の場合、自立した生活は難しいでしょう。
C3レベル以上の頸髄損傷では呼吸障害が残り、人工呼吸器が必要になるため、1級1号の後遺障害等級に認定される可能性があります。
自力での排せつが困難になる排尿・排便障害が残った場合、状態に応じて後遺障害1級や3級、または4級に認定されるケースがあります。
具体的には以下のような違いになりますが、重度の排せつ障害になると、ストマと呼ばれる人工肛門や人工膀胱が必要になるでしょう。
細かなレベル(号)については、ストマによる排せつが著しく困難かどうか、高度の排せつ機能障害があるかどうかなど、様々な条件によって変わります。
交通事故の被害で頸髄損傷の後遺症が残った場合、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を加害者側に請求できます。
後遺障害慰謝料については、自賠責保険基準や任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の算定方法があり、もっとも高額になるのは弁護士基準です。
後遺症が残ったときの賠償金は高額になるケースが多く、受け取れるかどうかで被害者補償は大きく変わるので、具体的な相場は以下を参考にしてください。
後遺障害慰謝料とは、後遺症に伴う精神的な苦痛に対し、加害者側から償いの意味で支払われる賠償金です。
金額は保険会社の基準と弁護士基準で異なっており、一般的な相場は以下のようになります。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
第1級 | 1,150万円 | 1,300万円 | 2,800万円 |
第2級 | 998万円 | 1,120万円 | 2,370万円 |
第3級 | 861万円 | 950万円 | 1,990万円 |
第4級 | 737万円 | 800万円 | 1,670万円 |
第5級 | 618万円 | 700万円 | 1,400万円 |
第6級 | 512万円 | 600万円 | 1,180万円 |
第7級 | 419万円 | 500万円 | 1,000万円 |
第8級 | 331万円 | 400万円 | 830万円 |
第9級 | 249万円 | 300万円 | 690万円 |
第10級 | 190万円 | 200万円 | 550万円 |
第11級 | 136万円 | 150万円 | 420万円 |
第12級 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
弁護士基準は過去の判例などを参考にしており、裁判所と同じ基準で算定されるため、裁判所の判定とほぼ同等の慰謝料になります。
保険会社の提示額が低かったときは、弁護士に後遺障害慰謝料を算定してもらうとよいでしょう。
後遺障害逸失利益とは、後遺症がなければ得られたはずの将来的な収入のことを指し、以下のように金額を計算します。
計算要素となる基礎収入は、事故前1年間の収入です。
労働能力喪失率は後遺症によって低下した労働能力の割合になり、後遺障害等級に応じて5~100%に設定されています。
労働能力喪失期間は労働能力が制限される期間を指すので、これ以上治療を続けても改善を見込めない症状固定の日からカウントします。
なお、後遺障害逸失利益を一括で受け取る場合、一括で支払う側が、本来分割で支払う事により未払の金銭を一定期間運用できたであろうことを考慮し、ライプニッツ係数を乗じて計算した中間利息を控除します。
労働能力喪失率などの計算要素については、以下を参考にしてください。
労働能力喪失率は後遺障害等級と連動しており、以下のように設定されています。
高位の後遺障害等級は労働能力喪失率も高くなるので、頸髄損傷の後遺障害逸失利益も高額になります。
後遺障害等級に認定されたときは、必ず加害者側の保険会社に請求してください。
労働能力喪失期間は症状固定日を起算日とし、被害者の年齢などに応じて以下のように年数をカウントします。
ただし、等級が低い場合にはその期間が短くなります。
基本的には就労可能な67歳を労働能力喪失期間の終期としますが、被害者の職業や社会的地位などの個別事情も考慮される場合があります。
後遺障害逸失利益は一括で受け取るため、本来の収入が発生するまでの間に中間利息が加算されます。
中間利息は必要以上の利益になることから、被害者の就労可能年数などを考慮して、利息分を差し引いておかなければなりません。
ただし、中間利息は計算方法が難しいため、ライプニッツ係数を使って計算を簡略化することになります。
ライプニッツ係数は国土交通省ホームページに掲載されていますが、見方がわからないときは弁護士に聞いてみましょう。
就労可能年数とライプニッツ係数表(国土交通省)
交通事故によって頸髄損傷になると、軽度であっても仕事や生活に支障をきたすため、十分な被害者補償を受け取る必要があります。
また、頸髄損傷は重度の後遺症が残りやすいので、後遺障害の要件を満たすときは、必ず後遺障害等級の認定を受けてください。
ただし、後遺障害診断書や受傷部の画像検査などが不十分だった場合、後遺障害が非該当になることや、下位の等級になる可能性があるので要注意です。
後遺障害慰謝料や逸失利益の獲得を目指すときは、交通事故専門の弁護士にも相談しておくとよいでしょう。