東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
交通事故の被害に遭った場合、橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)を受傷するケースがあります。
医学用語なので聞き慣れないかもしれませんが、手首の骨折を指しており、交通事故では受傷しやすい骨折の一種です。
橈骨遠位端骨折は後遺症が残りやすいので、手首の機能障害や神経障害があるときは、加害者側に後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。
ただし、後遺障害の等級に認定されない限り、後遺障害慰謝料や逸失利益は請求できないので注意が必要です。
今回は、橈骨遠位端骨折の痛みが残ったときに後遺障害が認定されるかどうか、慰謝料をいくらもらえるかなど、後遺症や賠償金ついて詳しく解説します。
目次
橈骨遠位端骨折とは、肘から手首までの前腕にある橈骨(とうこつ)の骨折です。
具体的には、親指側から肘までの橈骨のうち、心臓から遠い部分(遠位端)となる手首付近の骨折を指しています。
自転車やバイクの事故、または歩行者が交通事故に遭遇した際、地面に手のひらを強くついて転倒すると、橈骨遠位端骨折の原因となります。
橈骨遠位端骨折を受傷すると、機能障害や神経障害などが生じやすいので、治療が終わっても痛みが残ったときは、後遺障害に認定されるケースもあるでしょう。
橈骨遠位端骨折になると、骨が元どおりになる「癒合」を待つことになるため、治療にはある程度の期間が必要です。
また、筋肉や神経の障害を合併する場合もあるので、具体的な症状や治療期間は以下を参考にしてください。
橈骨遠位端骨折を受傷した場合、手首に強い痛みや腫れ、皮下出血などが生じます。
骨折によって骨のずれが生じたときや、筋肉にダメージを受けたときは、以下の症状を併発するケースもあるでしょう。
橈骨遠位端骨折は手がブラブラした状態になるため、鋼線やロッキングプレートによる内部的な固定、または手首の外側からフレーム固定する治療方法があります。
橈骨遠位端骨折は骨のくっつき(癒合)を待つため、治療期間は概ね3カ月程度になります。
ただし、治療が終わった時点では骨の強度が不十分なので、半年から1年程度は手首に負担がかかる作業や、スポーツなどを控えるべきでしょう。
なお、手首への負担が軽い車のハンドル操作や、ジョギングや散歩などは問題ありませんが、骨折状況や治癒状況には個人差があるので要注意です。
骨折した部分に重い負荷がかかる作業や、スポーツなどをするときは、必ず医師の判断を仰いでください。
橈骨遠位端骨折を治療しても、骨が変形したままくっつく、または骨同士のくっつきが不十分だったときは、後遺症として手首の変形や痛みが残ってしまいます。
以下のような機能障害や神経障害が残った場合、症状に応じた後遺障害等級に認定される可能性があるでしょう。
橈骨は「腕の長管骨」とも呼ばれており、骨折箇所が変形した状態でくっついた場合、以下の後遺障害に認定される場合があります。
また、骨が完全にくっついていない「偽関節」の状態も、後遺障害に認定されるケースがあります。
7級9号の後遺障害に認定される場合、常に金属製やプラスチック製の補装具を必要とする状態に限られます。
常に補装具を必要としないときは、8級8号の等級認定になるケースがあるでしょう。
また、12級8号の場合、CTなどの画像検査で骨の癒合不全などを証明する必要があります。
骨同士のくっつきが悪く、手関節を動かしにくい機能障害が残った場合、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
8級6号の要件となる「用を廃したもの」とは、手関節がまったく動かない、または正常な関節の1割程度しか動かせない状態です。
正常な手関節の5割程度に可動域が制限された場合は、10級10号の認定になるケースがあります。
また、手首の可動域が正常な手関節の3/4以下であれば、12級6号になる可能性があるでしょう。
橈骨遠位端骨折の神経障害として痛みだけが残った場合、以下の後遺障害等級に認定される場合があります。
レントゲンなどの画像検査で痛みがあることを証明できれば、12級13号に認定される可能性があるでしょう。
また、画像検査では痛みを証明できなくても、骨折の状況や治療経過から判断し、痛みがあることを医学的に説明できる場合、14級9号になるケースがあります。
橈骨遠位端骨折で痛みの後遺症が残った場合、以下の慰謝料を加害者側に請求できます。
示談金は慰謝料や逸失利益などの総額になるので、一般的な相場は以下を参考にしてください。
なお、慰謝料の算定基準には自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があり、もっとも高額になるのは弁護士基準です。
後遺障害慰謝料とは、交通事故の後遺症に伴う精神的苦痛に対し、償いの意味で支払われる賠償金です。
橈骨遠位端骨折の後遺症が残った場合、等級に応じて以下の後遺障害慰謝料が支払われます。
【等級:自賠責基準/任意保険基準/弁護士基準】
自賠責基準と任意保険基準に大きな差はありませんが、弁護士基準は裁判所と同等の算定基準になるため、保険会社の慰謝料よりも高額になるケースが一般的です。
保険会社の提示額に納得できないときは、弁護士に慰謝料を算定してもらいましょう。
後遺症が残らなければ得られたはずの収入があるときは、後遺障害逸失利益の請求も可能です。
計算方法は以下のようになりますが、基礎収入がない家事従事者や学生については、厚生労働省が公表する賃金センサスを参考にします。
基礎収入は事故前の年間収入を指しており、後遺障害等級に応じて5~100%の労働能力喪失率を乗じます。
また、後遺障害逸失利益を一括で受け取ると、運用によって利息が生じるため、ライプニッツ係数を乗じて中間利息を控除します。
後遺障害逸失利益は計算方法が複雑なので、弁護士に計算してもらうとよいでしょう。
橈骨遠位端骨折の後遺症が残った場合、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できますが、それには後遺障害等級に認定されていることが前提になります。
後遺障害等級は診断書や画像検査の結果から判断されるので、手首の痛みなどが残ったときは、以下の検査を受けてください。
橈骨遠位端骨折の後遺症はレントゲン検査(単純X線)を基本としますが、手関節の障害を医学的に証明する必要があるため、3方向からのCT検査も有効です。
レントゲンでは骨折の全体像を検査できますが、3方向CTの画像をみると、転位や関節内骨片などの状態がより詳しくわかります。
なお、MRIも有効な検査方法ですが、痛みの原因究明には至らないケースがあります。
肘から小指にかけての長管骨を尺骨といい、手首側の少し飛び出た部分が尺骨の茎状突起です。
尺骨茎状突起の骨折は橈骨骨折と合併していることが多いので、手首の動きが制限される場合や、腫れや痛みが続くときは、必ず画像検査を受けてください。
尺骨茎状突起骨折はレントゲン検査でわかる場合もありますが、MRIやCT検査も受けると、小さな骨片などの見逃しを防げます。
後遺障害に認定された場合、最低でも14級9号になるため、弁護士基準では110万円の後遺障害慰謝料を請求できるでしょう。
TFCC(三角線維軟骨複合体)は手首の小指側にあり、手関節の安定性を高める支持組織です。
橈骨遠位端骨折を受傷すると、TFCC損傷(手関節捻挫)を合併するケースがあるので、MRIや関節造影などの理学検査が必要になるでしょう。
TFCCが損傷すると、手首を小指側に傾ける動作に痛みを伴うため、車のハンドル操作やドアノブをひねる動作に支障をきたします。
MRIでTFCC損傷を検査する場合、1.5テスラ(磁力単位)では鮮明な画像を得られないケースがあるので、3テスラMRIが推奨されています。
手首の関節は複雑な構成になっているため、交通事故で橈骨遠位端骨折を受傷したときは、尺骨茎状突起骨折などを合併しているケースがあります。
レントゲン検査では異常がみられなくても、腫れや痛みなどの症状が残っている場合、橈骨遠位端骨折の後遺症が疑われるでしょう。
橈骨遠位端骨折の後遺症は慰謝料に大きく影響しますが、画像検査が不足すると、後遺障害等級に認定されない可能性があるので注意が必要です。
後遺障害等級の申請や慰謝料請求は医療の範囲を超えているため、十分な賠償金の獲得を目指すときは、必ず交通事故専門の弁護士に相談してください。