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交通事故などで骨折をした場合に、普通に考えられる痛みより強い痛みが続いたり、むくみがでたりする方がまれにいます。
そういう方は、疼痛性感覚異常という病気の可能性があります。
ここでは、疼痛性感覚異常について説明していきます。
痛みは本人にしか理解できないものであり、特に疼痛性感覚異常は他の人から見ると普通に見えることも多く理解されづらいものです。
また、長い期間痛みが続くことも多く、本人にとっては非常に困ってしまう病気の一つです。
もし、自分がこの病気ではないかと考える場合は、早めにペインクリニックを受診するようにしてください。
骨折や捻挫、打撲などをきっかけとして、慢性的な強い痛みやむくみ・皮膚温度の異常などの症状をきたすものを疼痛性感覚異常といいます。
医学的にはCRPS(複合性局所疼痛症候群)というのが診断名です。
特に神経損傷のないケガがきっかけのものをCRPSⅠ型、神経損傷を伴ったケガがきっかけのものをCRPSⅡ型またはカウザルギーと呼びます。
痛み方が特徴的で、灼熱感やズキズキうずく痛み、ナイフなどで切り裂かれた痛みなどといわれる強い痛みがでます。
それは刺激に対して不釣り合いなぐらい強い症状(アロディニア・異痛症)で、また持続的でかつ運動や熱などの刺激によって強くなります。
また複合性という名前の通り、その部位がむくんだり腫れたり、皮膚の色が暗黒色になったり、汗をかきやすくなったり、逆に汗をかきづらくなったり、動かせなくなったりなどのさまざまな症状がでます。
長期的になると、皮膚や爪が萎縮してきたり、筋肉が落ちてきたり、関節が硬くなったり、うつになったりなどの症状がでることもあります。
原因はいまだはっきりしていない点もありますが、交感神経が異常に亢進した状態が続いているといわれています。
人はケガをした場合、交感神経が亢進して全身が緊張した状態になります。
その後ケガが治ったり痛みがとれたりすると、通常は交感神経の亢進が落ち着くのですが、疼痛性感覚異常では緊張がとれることなくケガした部分だけずっと緊張が続く状態になります。
そのため、ケガをした部分の血管は収縮した状態が続き、最終的には血液が十分送られず栄養が届かないため、皮膚や筋肉、骨などが萎縮していってしまいます。
特に起こりやすいといわれているのは、骨折によってギプスで長期間固定したり、ギプス除去後も安静にしたりする場合です。
その他にも、骨がくっつかずぐらぐらした状態が続いたり、ケガした部分の血流が悪かったり、神経の圧迫が残ったりする場合も起こりやすいといわれています。
まずは骨折などの原因となったケガを治療することが一番です。
特に安静を解除されたあとは、痛みに我慢できる範囲内で動かすようにしていきましょう。
その後の治療としては以下のようなものがあります。
低出力レーザー照射をしたり、温かいお湯と冷たい水に交互につけたりして、患部に刺激を与えて痛みを和らげたり、筋肉を緩ませたりします。
痛みが非常に強いため、痛みができるだけ少ない方法で行うようにします。
自分だけでは全く動かせない場合があったり、少し触るだけでも異常に痛がって患部から離れた場所しかできない場合などもあります。
目標を「全く正常な状態になる」ことではなく、「今より少しでもよい状態になる」こととし、あせらないように行いましょう。
また段階的に運動をイメージするような訓練も、痛みの軽減と機能改善に有効と報告されています。
通常の痛み止め(ロキソプロフェンナトリウム・セレコキシブなど)の効果は少ないこともあります。
ステロイドという炎症を強く抑えるホルモン剤の投与を行うこともありますが、体の免疫が落ちたり、太ったりといった副作用もあるため、長期間にわたって使用することは少ないです。
またその他には、けいれんを抑える薬(ガバペンチン)や、麻酔薬(ケタミン塩酸塩)が効果があったという報告もありますが、まだはっきりしていません。
局所麻酔薬を交感神経の付近にいれることにより、交感神経を一時的に麻痺させることで症状を改善する方法です。
原因からすると効果がありそうで、以前からずっと行われてきているのですが、全員に効果があるというわけではなく人によりさまざまです。
手や腕に症状がある人は、首にある星状神経節もしくは背中にある胸部交感神経節ブロックを行います。
足に症状がある人は、腰にある腰部交感神経ブロックを行います。
痛みが減ったり、動きがよくなったり、力が入るようになれば効果ありと判断します。
効果があれば、数日から1週間おきに行うことが多いです。
上記は交感神経をブロックする方法ですが、それ以外に硬膜外ブロックや末梢神経ブロックなどの方法もあります。
また、ブロック注射単独ではなく、リハビリテーションとの併用が重要となります。
いずれにせよ通常の整形外科では難しいため、ペインクリニックの受診をおすすめします。
よく行われるのは脳性麻痺や脳梗塞の後遺症に対してですが、特に筋肉が緊張しすぎて手足が動かせなくなったり、勝手に動いてしまうような症状が出る場合に行います。
ボツリヌス菌の毒素が、神経と筋肉の接合部に作用して神経の筋肉に対する命令を一時的にできなくさせます。
脊髄には痛みをコントロールする部分があります。
脊髄刺激療法は、脊髄に弱い電気を流し、痛みをコントロールする部分を刺激することにより、痛みを脳に伝わりにくくする治療方法です。
痛みの感覚自体をやわらげますが、電気刺激によるしびれのような感じがでるようになります。
人によって効果に差はありますが、効果がある方では5割以上の痛みを和らげることができるといわれています。
人によって合う合わないがあるため、まず試験的に電極を硬膜の外側に留置します。
そして1週間ぐらい効果をみてどうするかを決定します。
もし効果があるようであれば、刺激装置を皮膚の下に埋め込む手術をします。
大きさは卵ぐらいの大きさで、全身麻酔をした状態でお腹に埋め込むことになります。
日常生活には影響ありませんが、運動に関しては3ヵ月程度は控えてください。
また、長期的に症状が改善してきたり、あるいは効果がなくなってしまった場合は、それを抜く手術を再度行います。
できる施設は限られているため、希望がある場合は医師に相談して紹介してもらうのがいいでしょう。
症状の部位や程度、他覚的所見などを総合的に判断して等級を決めます。
特に、痛みの訴えは自分にしか理解できないため、関節が硬くなって曲がらなくなったり、汗をかきづらくなったり、皮膚の色の変化があるといった他の人からみてわかるような変化がちゃんとあるかどうかで等級が左右されます。
また、うつ病などの精神的な病気を合併してしまった場合は、等級があがりやすくなります。
疼痛性感覚異常はまれな病気ではありますが、なってしまった本人にとっては非常につらい病気であるといえます。
一般の整形外科でなかなか改善しない場合は、神経ブロックや脊髄刺激療法などに関しても検討する必要がありますので、ペインクリニックなどでの相談をおすすめいたします。
イニシャル:O.M
診療科目:整形外科
医師経験年数 10年
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。