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中小企業倒産防止共済のメリット・デメリット!加入すべきケースを解説

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

この記事でわかること

  • 中小企業倒産防止共済とは何か
  • 中小企業倒産防止共済に加入するメリット・デメリット
  • 自社は中小企業倒産防止共済に加入したほうがよいか
  • 中小企業倒産防止共済に加入する上で注意する点

取引先の倒産などで売掛金等が回収不能になった場合、大きな損失を抱えてしまう可能性があります。
取引先の貸し倒れリスクに備えたい個人事業主や中小企業経営者は、「中小企業倒産防止共済」の加入がおすすめです。
中小企業倒産防止共済は「経営セーフティ」共済という愛称で知られており、独立行政法人中小基盤機構が運営している共済制度です。
この共済に加入することで、万が一取引先が倒産して売掛金等が回収不能になったときに、貸し付けを受けられます。

本記事では、中小企業倒産防止共済のメリット・デメリット、加入すべきケースについて解説します。

中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは

中小企業倒産防止共済とは、取引先が倒産して売掛金等の回収が困難になったときに貸し付けを受けられる制度のことです。

経営セーフティ共済という愛称で知られている制度で、国が全額出資している独立行政法人中小基盤機構が運営しています。

中小企業者倒産防止共済は、個人事業主や会社のうち、所定の要件を満たした中小企業者が加入できます。
中小企業倒産防止共済の貸し付けは、「共済金の貸し付け」と「一時貸付金の貸し付け」2種類です。

共済金の貸し付けは、取引先からの売掛金等が回収困難になったときに無担保・無保証で利用できる、中小企業倒産防止共済のメインとなる貸し付けです。

一方、一時貸付金の貸し付けは、取引先が倒産していなくても、共済契約者が必要なときに手続きをすることで利用できる貸し付けを指します。
一時貸付金も、担保や保証人は必要ありません。
なお貸し付け受けられる金額は、解約手当金の95%が上限です。

では、中小企業倒産防止共済の加入方法や、加入手続きについても確認しておきましょう。

中小企業倒産防止共済の加入方法

中小企業倒産防止共済は、中小機構と業務委託契約を締結している、以下の委託団体や金融機関で加入できます。

代表的な委託団体:・商工会
・商工会議所
・中小企業団体中央会 など
取り扱い金融機関:・融資取引のある銀行
・信託銀行
・信用組合
・信用金庫
・商工中金の本支店 など

加入時には。主に以下の書類が必要です。

【法人・個人事業主共通の必要書類】

  • 契約申込書
  • 掛金預金口座振替申出書
  • 重要事項確認書兼反社会的勢力の排除に関する同意書

【法人が加入する際の必要書類】

  • 法務局発行の日から3カ月以内の登記事項証明書
  • 所轄税務署の受付印がある法人税の確定申告書
  • 法人税の納税証明書

【個人事業主が加入する際の必要書類】

  • 所轄税務署の受付印がある所得税の確定申告書
  • 所得税の納税証明書
  • 確定申告書を作成する際に使用した帳簿等(白色申告者の場合)

中小企業倒産防止共済の掛金

掛金月額は5,000円から20万円で、5,000円単位で変更が可能です。
また預金口座振替で納付でき、毎月27日、休日の場合は翌営業日に掛金が引き落とされます。

掛金は前納も可能です。
前納した場合、「{掛金月額原×(0.9÷1,000)×前納月数}」で計算した金額が前納減額金として支払われます。
そのため前納すれば、実質割引が受けられることになります。

逆に納付期限までに納付がなかった場合、未納となった翌々日に再請求されます。
納付期限後に掛金を納付することを後納と言い、最大年14.6%の後納割増金を負担しなければなりません。

中小企業倒産防止共済のメリット・デメリット

中小企業倒産防止共済のメリット、デメリットについて見ていきましょう。

中小企業倒産防止共済に加入するメリット

中小企業倒産防止共済の大きなメリットは、節税をしながら取引先の倒産リスクに備えられることです。
ここでは、主なメリットを6つ紹介します。

無担保・保証人で貸し付けが受けられる

主に以下のような理由で取引先が倒産した場合に、無担保・無利子で貸し付けが受けられます。

  • 法的整理
    破産・再生・更生手続き開始、特別清算開始の申立てがされている
  • 取引停止処分
    手形交換所やでんさいネットに参加する金融機関によって、取引停止処分を受けた
  • 私的整理
    債務整理の委託を受けた弁護士等によって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知が行われた
  • 災害による不渡り
    甚大な災害によって、手形交換所において保有する取引先の手形等が「災害による不渡り」になった、またはでんさいが「災害による支払不能」になった
  • 特定非常災害による支払不能
    特定非常災害で代表者が死亡したときに、弁護士などによって、共済契約者に対し支払いを停止する旨の通知が行われた

貸し付け受けられる金額の上限は「回収困難となった売掛債権等の額」と「納付された掛金総額の10倍」のいずれか少ない方」の金額です。
ただし貸し付けを受けられる金額の上限は、8,000万円となっています。

解約すると解約手当金が受け取れる

共済契約が解約された時点において、12カ月以上の掛金納付月数があれば、解約手当金が受け取れます。
任意解約やみなし解約の場合、40カ月以上の掛金納付期間があれば掛金総額の100%が受け取れます。

任意契約とは、契約者が任意に行う解約のことです。
またみなし解約とは、契約者の死亡、会社の解散、会社分割、事業の全部譲渡により自動で行われる解約を指します。

解約事由解約の種類
共済契約者の任意解除任意解約
個人事業主の死亡みなし解約
会社等法人の解散
事業譲渡
会社等法人の分割
共済契約者に対する機構解除機構解約

共済サポート navi(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)

【解約手当金の支給率】

掛金納付月数任意解約機構解約みなし解約
1カ月~11カ月0%0%0%
12カ月~23カ月80%75%85%
24カ月~29カ月85%80%90%
30カ月~35カ月90%85%95%
36カ月~39カ月95%90%100%
40カ月以上100%95%

共済サポート navi(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)

相続・事業承継が可能

以下のような場合、一定の要件を満たしていれば、包括承継人あるいは事業の全部譲受人が共済契約を引き継げます

  • 個人事業主の死亡による相続
  • 会社・組合の合併
  • 会社分割
  • 事業の全部譲渡

共済契約を引き継ぐときは、相続のあった日から3カ月以内に登録取扱機関を通じて中小機構に申し出て、承諾を受ける必要があります。
登録取扱機関とは、加入申し込みを委託団体から行ったときは委託団体、金融機関から加入したときは掛金の口座振替をしている金融機関となります。

掛金を経費にできる

中小企業倒産防止共済の掛金は、法人の場合は損金、個人事業主は必要経費に算入できます。
税額を計算するもとになる課税所得を減らせるため、中小企業倒産防止共済への加入は節税対先になります。

ただし2024年10月1日以降に解約した共済契約は、解約日から2年間は損金、あるいは必要経費として認められません
これは解約手当金の支給率が100%になる加入後3,4年目に解約をして、すぐに再加入するという事例があったためです。

脱退・再加入は共済制度の積立額に変動を与えるため、連鎖倒産による防止するという本来の制度利用に基づく行為ではありません。
今回の改正は、過度な節税を目的とした加入を防止するために行われたと考えられます。

一時的な資金繰り改善に役立つ

一時的に資金繰りが苦くなったなどの理由で事業資金が必要になった場合、解約手当金のうち一定額まで一時貸付金の利用が可能です。
一時貸付金の活用により、万が一の貸し倒れリスクに備えながらも、一時的に自社の資金繰りが苦しくなったときの対策が立てられます。

早く償還すると割引が受けられる

貸し付けを受けた共済金を、繰上償還で当初の約定償還期間より早く償還することも可能です。
早期に完済し、以下の要件をすべて満たしている場合、早期償還手当金が支払われます。
実質的に割引を受けられることになります。

  • 繰上償還で当初の約定完済日よりも12カ月以上早く完済した
  • 完済日において、共済契約を解約していないこと
  • 共済金貸付契約の償還を一度も延滞していないこと

繰上償還は中小機構に直接申し出て、必要書類を取り寄せます。
早期償還金の金額は「共済金の額(貸付額)×早期償還月数別の手当金率」で計算した金額となります。

中小企業倒産防止共済に加入するデメリット

中小企業倒産防止共済は、手数料が発生したり、共済金の貸し付けから一部控除されたりするデメリットがあります。
これらのデメリットについて詳しく紹介します。

40カ月未満で解約すると手数料が発生する

加入後40カ月未満で解約をすると解約手数料が発生し、元本割れします。
また一時貸付金などの貸付金を受けているときに解約すると、貸付残高分は解約手当金から控除されます。

なお解約手当金を受け取った場合、法人は益金、個人事業主は事業所得として課税対象になります。

貸付額の10分の1に相当する額が控除される

共済金の貸し付けは無利子で利用できますが、利用すると貸付額の10分の1に相当する金額が、積み立てた掛金総額から控除されます。
つまり、仮に共済金貸付額上限の8,000万円を利用した場合、800万円が掛金総額から控除されることになります。

なお一時貸付金制度は利息がかかります。
一時貸付金制度の利息は変動金利で金利情勢等によって変動しますが、2024年4月1日時点の金利は年0.9%です。

中小企業倒産防止共済の加入がおすすめなケース

ここまでのメリットとデメリットを踏まえ、中小企業倒産防止共済はどのようなケースでおすすめなのでしょうか。
主な事例を紹介します。

掛金を負担できる余力がある

中小企業倒産防止共済に加入するには、掛金を支払わなければなりません。
掛金を支払わなければ、後納により後納割増金の負担も発生します。

長期的に掛金を支払っていける余力がある個人事業主や法人に、おすすめの制度と言えるでしょう。

財務状況が安定している中小企業者

自社が健全に運営できていたとしても、取引先が倒産する可能性があります。

新型コロナウイルス禍のように多くの企業が倒産して売掛金の回収ができないと、健全な運営ができている事業者でも資金繰りが厳しくなるかもしれません。
財務状況が安定しているときに万が一のリスクに備えておけば、実際に取引先の倒産に直面したときに大きな助けになるでしょう。

掛金は経費あるいは損金になる上、40カ月以上加入していれば機構解約でない限り、元本割れすることがありません

そのため財務状況が安定している中小企業者は、中小企業倒産防止共済に加入しておくことをおすすめします。

特定の取引先への依存度が高い中小企業者

個人顧客を対象とした小売店や飲食店であれば、すぐに販売代金が回収できるため、取引先の倒産による未回収リスクは低いでしょう。

しかし特定の取引先への依存度が高い場合、取引先一社が倒産して売掛金が回収できなくなったときの影響が大きくなるため、中小企業倒産防止共済に加入して備えておく必要があります。

節税対策を検討している中小企業者

中小企業倒産防止共済の加入で掛金を支払うと、課税所得を減らせます。
節税対策を検討している方は、中小企業倒産防止共済の加入を検討してみましょう。

たとえば個人事業主の所得税額は「収入-必要経費」を引いた所得から、適用可能な控除額を差し引いた課税所得に税率を乗じて計算します。
仮に収入が1,000万円で必要経費が300万円だった個人事業主が、掛金を毎月3万円支払ったとすると、増加する経費は36万円です。
つまりこの方は「300万円+中小企業倒産防止共済の年間掛金36万円=336万円」から、各種控除を引いた金額に税率を乗じて計算することになります。

各種控除額合計が200万円だった場合、中小企業倒産防止共済に加入することで次のように所得税額が変化します。

中小企業倒産防止共済の加入額収入必要経費各種控除額合計所得税額
0円(加入しない)1,000万円300万円200万円57万2,500円
月3万円(年間36万円)336万円50万500円

課税所得が高い個人事業主

法人税の税率は原則23.2%ですが、個人事業主の所得税は超過累進税率というしくみが適用されます。
超過累進税率とは、所得が多くなるにしたがって段階的に税率が高くなるしくみのことです。

個人事業主は課税所得金額が大きいと、所得税率が45%になることもあります。
税率が高いほど課税所得を減らしたときの効果が大きくなるため、課税所得が高い個人事業主も、中小企業倒産防止共済の加入がおすすめです。

【所得税の税率】

課税所得税率控除額
1,000円~194.9万円5%0円
195万円~329.9万円まで10%9万7,500円
330万円~694.9万円まで20%42万7,500円
695万円~899.9万円まで23%63万6,000円
900万円~1,799.9万円まで33%153万6,000円
1800万円~3,999.9万円まで40%279万6,000円
4,000万円以上45%479万6,000円

国税庁 №2260 所得税の税率

中小企業倒産防止共済に加入する際の注意点


中小企業倒産防止共済に加入する前に、注意点についても確認しておきましょう。
主な注意点は4つです。

夜逃げは対象外

事業の支払いを放棄して、夜逃げをする事業主もゼロではありません。
しかし取引先の夜逃げで倒産に至り、売掛債権等が回収困難になった場合は、共済金による貸し付けは受けられないため、注意が必要です。

12カ月未満の解約は掛け捨てになる

中小企業倒産防止共済の解約手当金を受け取るためには、少なくとも12カ月以上掛金を納付しなければなりません。
12カ月未満の解約は掛け捨てとなってしまいます。

償還(返済)が必要

中小企業倒産防止共済は、あくまでも貸し付です。
貸し付けを受けたら、当然返済が必要になることも心得ておきましょう。

償還期間および方法は、貸付額に応じて変わります。

貸付額償還期間(6カ月の据置期間を含む)償還方法
5,000万円未満5年54回均等分割償還
5,000万円以上6,500万円未満6年66回均等分割償還
6,500万円以上8,000万円未満7年78回均等分割償還

中小機構

貸し付けを受けられないケースを確認しておく

中小企業倒産防止共済は貸し付けを受けられないケースもあるため、事前に確認しておきましょう。

以下のような場合は、中小企業倒産防止共済は貸し付けを受けられません。

  • 取引先の倒産時点で、加入月数が6カ月に満たなかった
  • 加入から取引先の倒産日までに、6カ月分以上の掛金を納付していない
  • 取引先の倒産日から6カ月以内に貸付請求をしなかった
  • 貸付請求のときに中小企業ではなかった
  • 貸付金が原則50万円または、契約者の月間の総取引額の20%に相当する額のいずれか少ない金額に達していないとき
  • 契約者がすでに貸付を受けていた共済金の償還を怠っていた
  • 取引先が倒産しているにもかかわらず、売掛債権等を有することになった、または回収困難になったことについて、契約者に悪意や重大な過失があった
  • 取引先との取引額や支払方法などが確認できないとき

まとめ

中小企業倒産防止共済に加入することで、節税対策をしながら取引先の倒産による未回収リスクを軽減できます。
また一時的に資金繰りが苦しくなったときなどは、一時貸付金で資金調達をすることも可能です。
ただし早期解約をすると元本割れする、また共済金を利用する場合、貸付額の10分の1相当額が控除されるため、注意が必要です。

個人事業主や中小企業にとって便利な制度ですが、加入前にメリットやデメリット、注意点を十分確認しておきましょう。

破産のお悩みは深刻で不安なものです。
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