東京弁護士会所属。新潟県出身。
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ある人が死亡すると相続が発生し、相続人が亡くなった人の資産や債務を受け継ぐことになります。
会社の社長が亡くなった場合、どういったものを相続するのでしょうか。
仮に会社に多額の借金があったような場合は、それを受け継がなければならないのでしょうか。
この記事では、社長の死亡時、会社に借金があった場合の取り扱いについて解説します。
Contents
社長が死亡しても、会社の借金は相続人に受け継がれません。
会社と亡くなった社長はあくまで別人格であり、借金はあくまで会社が抱えているものです。
そのため、社長死亡時の相続の対象とはなりません。
仮に会社の社長である父親が亡くなり、会社の借金が発覚したという場合であっても、妻や子どもにその借金は受け継がれません。
先述したとおり、会社と社長は別人格で同一ではないのが大前提です。
仮に社長が亡くなったとしても、会社は存続します。
それでは社長が亡くなった場合、会社に関する相続はどのように取り扱われるのでしょうか。
社長死亡時の相続を理解するにあたって、会社のしくみを考えるとより分かりやすいでしょう。
そもそも株式会社とは、株式を発行して、資金調達をしながら運営する形態の法人です。
株式は会社を所有するための権利であり、この株式を保有しているのが株主です。
株主によって構成される株主総会で、代表取締役の選任または解任、会社の経営や組織に関わる重要な事項などが決定されます。
小規模な会社や一人会社などの場合は、社長が株式の持ち分のほとんどもしくはすべてを保有した状態が多く、意思決定権をすべて一人で有しているケースがあります。
先述したとおり、会社の所有者は株主であり、株式は会社を所有するための権利です。
社長が亡くなった場合、相続人は会社の資産や社長という役職をそのまま受け継ぐのではなく、亡くなった社長が保有していた株式を相続財産として受け継ぐことになります。
つまり、「会社を相続する」というのは、「株式を相続する」ことで経営権を引き継ぐということになります。
ちなみに法律上は、法人格を相続できないため、会社そのものを相続はできません。
仮に、亡くなった父親が一人会社の社長であった場合、相続人は個人資産として株式を相続することになるでしょう。
また、社長が株式の100%を保有していた場合、その過半数の株式を引き継いだ相続人は、次の代表取締役を指名する権限や、重要な意思決定をする権限をもちます。
会社が保有するお金や不動産、設備などの動産や取引先への債務などは、相続の対象にはなりません。
これらは、あくまで会社の所有物であって社長の財産ではないためです。
プラスの財産であれマイナスの財産であれ、社長が亡くなって相続人に引き継がれません。
ただし、マイナスの財産に関して言うと、亡くなった社長が誰かの保証人になっていた場合は、その保証債務は相続人に引き継がれます。
詳しくは後述しますが、仮に社長個人が会社の連帯保証人になっていた場合などは、この連帯保証人としての地位が相続の対象になります。
この点はよく認識し、注意しましょう。
会社の資産や負債は相続されないと説明してきましたが、社長の死亡時に引き継がれる相続財産として、主に以下の3つが挙げられます。
ここからは、それぞれの引き継がれる相続財産について詳しく解説します。
社長が会社とは関係なく、個人として所有していた資産に関しては、相続対象となります。
たとえば、個人の預貯金や居住用の建物、自家用車などが該当します。
先ほど述べた会社を所有する権利である株式も、社長個人の財産とみなされるため相続されることになります。
小規模な会社の場合、社長個人が自己資産から会社に対して貸付を行っているケースがあります。
会社の運転資金の確保などの目的で一時的に会社へ貸し付け、会社に余裕ができたら返済するというもので、資金調達方法の1つとして行われることがあります。
つまり、会社からすると社長への借金であり、社長からすると会社への債権となるものです。
この貸付金は社長個人の債権であり、相続の対象として相続人に引き継がれます。
先述したとおり、会社に借金があっても、その借金は相続人に受け継がれないのが原則です。
しかし小規模な会社だと、会社が借金をする場合や大きな取引を行う場合、社長個人が連帯保証人になるケースが多く見られます。
あくまで借金を返済するのは会社であり、借金を返せなくなったときに初めて連帯保証人である社長に返済義務が生じるわけです。
この連帯保証債務は、会社ではなく社長個人の債務とみなされるため、相続の対象となります。
相続を考えるにあたっては、会社の借入額と連帯保証について切り分けて考えるとよいでしょう。
会社に多額の借金があるのが発覚し、さらに社長個人が連帯保証人になっていたような場合、相続したくないというケースもあるでしょう。
相続が発生すると、相続人は財産も債務もすべて引き受けることが原則となり、これを単純承認といいます。
仮に亡くなった社長の債務より財産の方が多い場合、相続した財産を換金して債務を返済すればよいので、単純承認でも問題ないでしょう。
一方で、債務が相続財産を超えているような場合、相続人が自分の財産から債務を負担しなければなりません。
このような場合の対処法として、相続放棄または限定承認という方法があります。
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
まず1つ目の方法として、相続放棄することで、保証債務だけでなく、会社の株式や社長個人の財産などをすべて引き継がないという選択ができます。
社長が亡くなって、従業員もおらず会社を継続する必要がない場合は、相続放棄を検討するとよいでしょう。
ただし相続放棄は、一切の債務を引き継がなくてよくなりますが、同時に現金や不動産などのプラスの財産はもちろん、株式などもすべて放棄することになります。
このとき、プラスの財産だけを引き受けるというのはできません。
プラスの財産に比べてマイナスの財産の方が大きい場合や、相続財産の多くが負債であるような場合に、相続放棄は有効な選択肢と言えるでしょう。
連帯保証債務の金額だけでなく、他の財産に関しても十分に調査した上で決定するのをおすすめします。
2つ目は、相続人が限定承認をし、プラスの相続財産を限度としてマイナスの相続財産を引き継ぐ方法があります。
債務も引き継ぎますが、あくまで財産の額が限度となるので、相続人が自らの財産を使って債務を弁済する必要はなくなります。
相続したい財産がある場合などは、限定承認を検討するとよいでしょう。
なお、この2つの方法を選択し、申し立てる際は期限に注意しましょう。
法律上、相続が発生した日から3カ月以内に裁判所に申立てを行う必要があります。
これを超えると自動的に単純承認となり、相続放棄や限定承認をできなくなってしまいます。
また、一度相続放棄や限定承認をすると、その後は撤回できないので、よく検討してから申立てを行うようにしましょう。
社長が亡くなった時、相続人が検討しなくてはならないのは以下の2点です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
まず、相続人は亡くなった社長の会社の事業を継続させるのか、継続させず廃業にするのかを検討する必要があります。
相続人全員が相続放棄すれば、誰も連帯保証債務を引き継がなくて済みますが、同時に誰も株式を引き継がないため、株主不在の状態の会社となってしまい、会社運営が困難となってしまう可能性があります。
つまり、会社を継続させるためには、原則として相続人のうち誰かが連帯保証債務を相続する必要が生じます。
単純承認や限定承認で相続するか、相続放棄するかを決めるにあたって、事業を継続するかどうかが重要な検討事項となるでしょう。
※相続人がいない場合(全員が相続放棄した場合を含みます)には、別途の手続きにより会社を運営できる方法はありますが、煩雑な手続きとなります。
事業を継続することに決まったら、誰が会社を引き継ぐか検討する必要があります。
特定の相続人が連帯保証債務や株式を相続して代表取締役になるのか、相続人以外の人を代表取締役にするのかを決定します。
なお、相続人以外の人を代表取締役にする場合であっても、相続人の誰かが株式を相続しなければなりません。
先述したように、多くの場合に社長が株式の大半を保有しているため、誰かが株式を相続しないと代表取締役を選任できないためです。
また、仮に相続人以外の人を代表取締役にする場合は、代表取締役となる人に株式を譲り渡すのか、自分が株式を保有したまま実務は他人に任せるのか等を検討する必要があります。
その際に、連帯保証人としての地位をどうするかも話し合う必要があるでしょう。
社長が亡くなっても、会社の借金がそのまま相続されることはありません。
ただし、社長個人が会社の連帯保証人になっている場合、その連帯保証債務は相続の対象となります。
社長が亡くなった場合、事業をどうするのか、継続するとしたら誰が引き継ぐのかなど、事前によく話し合い、相続人間の混乱やトラブルを回避するようにしましょう。