東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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会社の倒産は、経営者・株主や取引先に大きな影響を及ぼします。
中でも従業員の受ける影響は大きいものとなります。
経営者にとっても、破産により従業員がどうなるのか非常に関心が高いことでしょう。
会社の倒産(破産)は、会社自体を消滅させることとなるため、従業員は解雇せざるを得ないことになります。
従業員に、倒産することや解雇をいつどのように伝えるかは、破産手続きをする上で非常に重要なポイントとなります。
従業員の不安を解消し、破産手続きを円滑に行う必要がありますので、給料等の取り扱いや解雇時の諸手続きについても解説します。
Contents
従業員に告知すべき理由の前提として、倒産することで従業員がどうなるのか知る必要があります。
会社は倒産、つまり破産により日常事業を停止し、裁判所が選任した破産管財人に引き継がれます。
会社は破産処理に必要な範囲で存続し、破産手続き終了により消滅します。
会社が消滅する以上、従業員の雇用を続けられません。破産により自動的に解雇にならず、然るべき時期に従業員を解雇する必要があります。
解雇の時期は、会社財産、活動状況、従業員数など総合判断して決めます。
破産申立て前に経営者が全従業員を解雇する場合が一般的ですが、解雇せずに破産申立てをした場合は、破産手続開始後に破産管財人が解雇を行います。
従業員に告知すべき理由として、従業員の不安の軽減があります。
従業員は失職し収入を絶たれるため、大きな負担をかけることになります。
そのため、会社が破産せざるを得ない状況や経緯を説明し、従業員の理解を得なければなりません。
従業員の再スタートを援助する意味でも、経営者には適切な時期と内容で告知することが必要です。
破産申立て作業は、経営者がすべて行うことは困難なため、一部の従業員に協力を依頼することになります。
会社の状況を把握し、信頼のおける従業員には、協力者として作業に従事してもらうとよいでしょう。
この場合、経営者と一部従業員、代理人弁護士のみで破産申立て準備を行いますが、社内外で混乱が生じないよう厳格な情報管理が必要となりますので、協力してもらう従業員には十分な理解を得ておくことが大切です。
なお、破産申立て後の破産管財業務の協力依頼をする場合もあります。
破産選択後、できる限り早期に破産申立てを行う必要がありますが、円滑な破産手続き遂行のため、事前の適切な告知が必要となります。
事前告知が不適切・不十分な場合、従業員の不信感が高まり、労務トラブルや、不適切な時期に外部へ情報漏洩のリスクが高まります。
多くの人がSNSで情報発信するため、事実無根なことも拡散するリスクがあります。
拡散により、取引先や債権者に不適切なタイミングで知られ、取付け騒ぎになる恐れもあります。
トラブル発生から破産申立てに遅延が生じ、次の問題が生じるリスクがあります。
また、破産申立て後一定期間経過により、従業員への未払い給料債権の支払い優先度が下がることや、国の未払賃金立替払制度を使えないというデメリットもあります。
告知実施の前段階として、従業員をいつ解雇するかを考える必要があり、次のことを検討して決定します。
解雇とは、会社が雇用契約を一方的に終了させることをいいます。
従業員を解雇する場合は、労働基準法に基づき解雇日の30日以上前に解雇の予告をしなければなりません。
30日以上前に予告をしないで解雇をする場合は、解雇予告手当(不足する日数分相当の平均賃金)を従業員に支払う必要があります。
事業の停止日に即日解雇することで、30日以上前の解雇予告をせず解雇を行うため、原則として解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇時に、解雇日と解雇理由を破産申立てとする内容の解雇通知書を従業員に交付します。
会社の規模・関係先の多寡にもよりますが、即時解雇により全従業員を解雇するのが一般的です。
破産申立て後も業務が必要な場合や、事業停止日以降も残務整理など業務を継続する場合は、限定的に解雇予告を行い、解雇の効力発生日に解雇します。
解雇日までの日数が30日未満の場合は、日数分の解雇予告手当の支給をし解雇することもできます。
予告解雇時は、先日付解雇日と解雇理由を破産申立てとする内容の解雇予告通知書を従業員に交付します。
従業員の給料・社会保険・労働保険などは解雇日まで継続します。
倒産を従業員に伝える時期が早すぎると、外部に情報が伝わることになります。
営業中の会社であれば、従業員・取引先を巻き込んだ混乱が発生し、破産手続に支障が生じてしまいます。
破産では解雇時期が早いほど給料等の労働債権が減り、その分一般債権者への配当が増加します。
ただ、解雇時期を早期にすることで、破産手続に支障が生ずることは避けなければなりません。
したがって従業員への告知の適切なタイミングとしては、原則として破産申立ての直前となります。
また、一部従業員に破産手続きの協力を依頼する場合には、先行して告知する必要があります。
協力の理解を得ることはもとより、他の従業員や取引先などに情報漏洩しないように理解してもらうことが必須です。
なお、協力してもらう従業員については、一旦解雇し、アルバイトとして必要な期間を破産に関する業務に従事してもらう方法もあります。
全従業員が集合可能な従業員説明会を開催し、一斉に告知を行います。
支店など物理的に集合できない従業員がいる場合は、リモートによるWEB形式での説明を併用することも検討します。
代理人弁護士の同席の有無は、経営者と従業員との関係性や規模などを考慮し、無用な混乱を招く恐れがあるかで決めます。
従業員説明会では、経営者または代理人弁護士から破産申立てに至る経緯や今後の流れを十分に説明します。
従業員にとっては突然の解雇となりますので、伝えにくい内容でも真実を誠実に丁寧に説明することが重要です。
具体的に、次のことを従業員に説明します。
加えて、従業員の失業保険受給、再就職のために必要な書類の交付など諸手続きも速やかに行います。
告知の際に必要な諸手続きを項目ごとに解説します。
従業員を解雇する際は、解雇通知書を確実に交付します。
従業員にとって、解雇による失業を証明するのに役立つからです。
解雇通知書は2部用意し、1部は従業員に交付、1部は従業員から受領のサインをもらい事業主(代理人弁護士)が保管します。
事業主は、退職日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者離職証明書と雇用保険被保険者資格喪失届を作成し、ハローワークにそれらを提出して雇用保険の資格喪失手続きを行います。
その後、ハローワークから事業主に失業手当受給に必要な離職票が交付されますので、従業員に離職票を交付します。
解雇理由を「会社都合」とすることで、早期に失業手当を受給することができます。
従業員のために迅速に行いましょう。
事業主は、雇用保険適用事業所廃止届をハローワークに提出する必要もあります。
解雇により社会保険・厚生年金の被保険者資格を失いますので、国民健康保険・国民年金に切り替える必要があります。
事業主は従業員の被扶養者である家族分も含め、健康保険証を提出してもらう必要があります。
希望する従業員には、社会保険の任意継続の説明をしましょう。
年金は、再就職先が決定している従業員は再就職先の厚生年金に加入しますが、倒産時の即時解雇においては決定していないのが通常でしょう。
事業主は、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届、健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届を年金事務所に提出します。
事業主は従業員に、再就職先での年末調整や、確定申告のために必要な所得税の源泉徴収票の交付を行います。
解雇と同時交付が原則で、同時交付ができない場合でも速やかに行う必要があります。
住民税を特別徴収している場合は、各市区町村に普通徴収への異動届を提出する必要があります。
今後は従業員が直接住民税を納付する必要があることを説明しましょう。
給料未払い月から普通徴収に変更するため、特別徴収していた時期も従業員に文書で通知します。
退職金を出す場合は、退職所得控除のため従業員から退職所得申告書を受領する必要があります。
従業員を解雇するので、感情がこみあげてしまうこともあるでしょう。
しかし、経営者の不用意な発言から従業員の誤解を招いてトラブルとならないよう、経営者は冷静さを保つようにしなくてはなりません。
従業員の感情に配慮した言葉遣いで話すよう心がけ、従業員からの質問には誠実に回答するようにしましょう。
従業員に説明する前に、就業規則や雇用契約書を再確認した上で従業員の処遇を事前に検討・決定しておく必要があります。
説明すべきこと、想定される従業員の反応や質問に関するシミュレーションを事前に十分行い、説明と対応の予行演習を行うようにしましょう。
従業員に交付する書類関係も漏れなく準備します。
代理人弁護士と入念に打ち合わせを行い、説明の場で混乱が生じないようにすることが大切です。
会社破産時の従業員の未払い給料などの取り扱いと、国による未払賃金の立替払いの制度を解説します。
解雇する際、給料・退職金・解雇予告手当の支払いや予定について周知ができれば従業員も納得しやすくなるでしょう。
しかし、会社に資金的余裕がなく、支給できないときはどのようにすればよいでしょうか。
未払いの給料・退職金・解雇予告手当を労働債権といいます。
労働債権は債権届出書を提出する必要がありますので、必ず期限内に提出するように従業員に説明をしてください。
労働の対価としての給料は、給料・賃金・役職手当・住宅手当・扶養手当・残業手当・休日出勤手当など各種手当も含みます。
未払い分すべてが給料債権となり、正社員・パート・アルバイト、嘱託社員も含みます。
給料債権は、財団債権または優先的破産債権として扱われます。
財団債権とは、破産配当に先立ち破産財団(破産者が破産手続開始時に有する一切の財産で破産管財人に管理処分権限があるもの)から他の債権より優先的に弁済を受けられる債権をいい、破産手続開始前3ヶ月間の給料債権をさします。
注意すべきは、3ヶ月経過した給料債権は財団債権でなくなることです。先述したように、従業員の解雇日や未払い給料発生日から破産手続開始時期が遅くなると優先度が下がり、従業員に不利益が生じます。
優先的破産債権とは、一般の破産債権に優先して破産配当を受けられる債権のことをいい、給料債権のうち、財団債権にならない破産手続開始前3ヶ月以前の給料債権のことをさします。
賞与も給料に含み、財団債権と優先的破産債権となりますが、支給日により次の区分がされます。
退職金は、退職金制度があることが前提で、社内支給基準により、会社都合退職として計算します。
なお、中小企業退職金共済(中退共)で退職金支給に備えている場合は、中退共から直接従業員に支給があり、支給分は未払い退職金から除外します。
退職金も、退職前3ヶ月間の給料の総額と破産手続開始前3ヶ月間の給料の総額のいずれか多い額に相当する額が財団債権、財団債権以外の全額が優先的破産債権となります。
未払い解雇予告手当は、裁判所の許可により財団債権とする場合、全額を優先的破産債権とする場合と、裁判所により扱いが異なります。
未払い立替金(従業員が立替えた駐車場代や出張費など)は優先的破産債権となると考えられます。
給料天引きの財形貯蓄は、従業員個人の貯蓄となり、従業員が直接取扱金融機関に請求して支払いを受けるか、再就職先に制度を引き継ぐことになります。
社内預金は従業員の会社に対する債権ですが、一般破産債権となり、優先的に配当を受けることはできません。
会社の倒産により退職した従業員に賃金や退職金を支払えない場合、独立行政法人労働者健康安全機構が事業主に代わり未払い分の80%を立替払いする制度です。
ただし、従業員の退職日の年齢ごとに、上限額があります。
利用要件は以下のとおりです。
退職日の6ヶ月前から立替払い請求日の前日までに支払日が到来した未払いの定期賃金と退職手当が対象となります(総額2万円未満は非対象)。
賞与と解雇予告手当は、立替払いの対象になりませんので注意が必要です。
まずは会社から解雇予告手当を従業員に支給し、未払い給料・退職金は立替払制度を利用することが、従業員にとって安心につながる方法となります。
立替払いがされるまでには、立替払請求書の作成・破産管財人の証明・労働者健康安全機構の審査など、一定の期間を要します。
賃金台帳や給与明細など事前準備して、従業員に説明をしましょう。
その他考慮すべきことを解説をします。
会社から貸与した鍵や携帯、各種カードなど会社の備品の回収と私物の引き揚げを確実にしましょう。
従業員は、今後の生活を最も心配します。
自力で再就職できる従業員、そうでない従業員がそれぞれいるでしょう。
経営者として再就職の斡旋先を積極的に紹介すれば、従業員の不安の軽減となります。
会社倒産時の従業員への告知の方法や、未払い給料などについて解説しました。
経営者には、入念な準備と計画のもとで従業員の不安をできる限り取り除く責務と、やるべきことが数多くあります。
法人破産は非常に複雑で、破産法や労働法規などをもとに、会社の様々な状況を考慮して進める必要がある手続きです。
経営者の方も1人で抱えるには負担が大きく、精神的負担を軽減する意味でも、破産手続を検討する際に、早めに専門家の助力を受けることをお勧め致します。
法人破産に強い弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所では、無料相談をお受けしております。
従業員への告知をどうしたらよいかわからない、法人の破産手続の進め方がわからず困っているなどの経営者の方は、お気軽にご相談下さい。