東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
法人・会社の経営がうまくいかず、資金不足や債務超過に陥った場合は、何らかの倒産手続を取る必要があります。
法人・会社の倒産手続にはさまざまな種類があり、事業を継続するための再建型の手続もあれば、事業を終了させる精算型の手続もあります。
状況に応じて最適な手続を選択することが大切ですが、その中でも破産手続は全ての債務を消滅させ、経営者も新たな気持ちで再スタートを切ることができる精算型の手続です。
そんな破産手続の中にもいくつか種類があります。
この記事では、法人・会社の破産にはどんな種類があるのかという点や、注意すべき点などについて解説していきます。
破産手続には、大きく分けて「管財事件」と「同時廃止事件」という2つの種類があります。
そのうち「管財事件」の中にも細かく分けると「通常管財事件」と「少額管財事件」の2種類があり、全部で3つの種類の手続があります。
項目 | 対象 | 費用 |
---|---|---|
同時廃止 | 個人 | 約5万円 |
少額管財事件 | 個人・法人 | 約20万円〜 |
通常管財事件 | 個人・法人 | 約50万円〜 |
法人・会社の破産でも個人の自己破産でも、この3つの種類の中からどれかの手続がとられることになります。
同時廃止事件は短期間で手続が終了し、費用も安くて済みますが、法人・会社の破産の場合は同時廃止事件ではなく、管財事件となる場合がほとんどです。
それはどうしてなのでしょうか。
管財事件と同時廃止事件では、管財事件の方が破産手続の原則的な流れに沿った手続になります。
管財事件では、破産を申し立てて破産手続開始の決定(以前は「破産宣告」と呼ばれていたものです)が出ると、裁判所によって破産管財人が選任されます。
その後、破産管財人が破産者の財産や債権債務についてさまざまな調査を行い、換価できる財産があれば換価し、回収できる債権があれば回収したうえで、各債権者に債権額に応じて配当します。
配当が終われば破産手続は終了し、法人・会社は消滅します。
調査しても配当できる財産がないことが判明すれば、その時点で破産手続が終了します。
この場合は裁判所が以後の破産手続を廃止するために「破産手続廃止の決定」を出します。
このときの決定は「異時廃止」と呼ばれます。
もう一方の同時廃止事件では、破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定も出され、破産手続が終了します。
破産管財人が選任されることはありません。
破産手続が開始されると同時に廃止されるため「同時廃止」と呼ばれています。
個人の自己破産であれば換価して配当できるような財産がないことが多いので、同時廃止事件が多くなります。
もっとも、個人でもある程度の財産がある場合や免責不許可事由があるような場合は破産管財人による調査が必要なので管財事件となる場合もあります。
他方、法人・会社の場合は個人の場合よりもたくさんの財産があり、法律関係も複雑になっています。
結果的に換価できるようなめぼしい財産がなかったとしても、破産管財人による適切な調査が行われなければ債権者の理解を得ることもできません。
そのため、法人・会社の破産では管財事件にする必要性が高いのが通常です。
実際にも、全国のほとんどの裁判所で法人・会社の破産については原則として全件を管財事件とする運用をしています。
中には例外がないわけでもありませんが、法人・会社の破産では基本的に同時廃止事件となることはないと考えておくべきです。
法人・会社の破産は管財事件になることがほとんどですが、管財事件の中にも通常管財事件と少額管財事件とがあります。
通常管財事件が破産手続の原則的な形態ですが、破産手続には費用がかかりますし、破産管財人に支払う報酬も必要になります。
破産管財人が行うべき管財業務の量が多かったり複雑であったりすればするほど破産管財人の報酬も高くつきます。
これらの破産手続費用や破産管財人の報酬は破産者の財産から支払う必要があり、基本的には破産管財人の報酬の最低予定額を破産申立ての際に裁判所に予納しなければなりません。
その金額はケースバイケースですが、多くの裁判所で基本的に少なくとも50万円以上の予納金が必要になります。
しかし、これでは破産の申立てをしたくてもできない法人・会社も数多く発生していました。
そこで、小規模な事業者や保有財産が少なく、法律関係にトラブルがないような法人・会社や個人のために、予納金が概ね20万円程度の低額ですむ少額管財事件という手続が行われるようになったのです。
通常管財事件と少額管財事件にはいずれも明快な定義はなく、振り分けについて一律の基準があるわけではありません。
しかし、予納金の金額の違いから推測されるように、破産管財人の管財業務の負担が大きい場合は通常管財事件、小さい場合は少額管財事件となるのが一般的です。
大手企業の場合は、ほぼ例外なく通常管財事件になります。
中小企業の場合は件数としては少額管財事件になる方が多いです。
ただし、中小企業でも債務額が大きい場合(概ね5,000万円以上)や債権者数が多い場合(概ね100名以上)、保有財産が多い場合、従業員数が多い場合、営業所が複数ある場合など、何らかの面で規模が大きい場合は通常管財事件になりやすいです。
その他にも、債権者や利害関係人との重大なトラブルがある場合など破産手続や管財業務に複雑・困難な事情がある場合にも通常管財事件となる場合があります。
少額管財事件は本来的な破産手続を簡略化した特殊な形態なのですが、件数でみると通常管財事件よりも少額管財事件の方が圧倒的に多くなっています。
裁判所の実務としても、申し立てられた管財事件が通常管財の手続が必要であるかどうかをまず判断し、必要でなければ少額管財事件にするというように、実質的には少額管財事件が原則的形態のような運用がなされています。
ただし、裁判所によっては少額管財事件という運用を採用していないところもあるのでご注意ください。
中小規模の法人・会社であれば、それなりに保有財産があって債権者数や債務額が多くても、特段の法的問題がなく、財産の換価・配当に困難な問題がなければ多くのケースで少額管財事件となっています。
逆に、めぼしい財産がなくて配当が見込めない場合であっても、法人・会社として事業を営んでいたのであれば同時廃止事件になることは滅多にありません。
なぜなら、財産隠しが行われている可能性がないとは言えませんし、粉飾決算を行っている法人・会社も多いため、そういった点について破産管財人による調査を行う必要性があるからです。
粉飾決算というと大げさに聞こえるかもしれませんが、節税目的や融資を受ける必要性から帳簿を操作するのはよく行われていることです。
破産管財人はそういった点も調査して、債権債務に不当な影響を及ぼしていないかを確認するのです。
中小企業の場合は特に、法人が受けた融資などの債務について代表者や役員、その親族などが保証人になっていることがよくあります。
このような場合、法人が破産すれば保証人である代表者等が多額の債務の返済を請求することになります。
そのため、法人が破産するとともに代表者等が債務整理を余儀なくされるのが通常で、多くの場合は自己破産の申立てを選択することになります。
もっとも、代表者等は私財をなげうって法人を経営してきた場合が多いため個人の保有資産はあまりなく、個人の破産手続は同時廃止事件となる場合も多くあります。
同時廃止事件であれば費用も予納金と実費を合わせてせいぜい数万円で済みますし、期間も申立てから廃止決定まで概ね3~4ヵ月で終了します。
自己破産の申立てをした代表者等は、会社が消滅するとともに個人の保有財産もほぼ全てを失い、しかも新たな借入れはできない状態になっていますから、再就職先を探すなどして生活の糧を確保しておかなければなりません。
破産手続き中は一定の職業に就けないという制限もあるので、再スタートの切り方については、できれば倒産前から計画的に検討しておきたいところです。
「破産=借金がなくなる」というイメージを持っているかもしれませんが、厳密には違います。
破産とは、破産者の財産を債権者に配当する行為です。
法人破産の場合は、破産手続きが完了すると、法人格も消滅します。
法人格が消滅すれば、その法人にかかっていた借金も同時になくなります。
破産をするから借金がなくなるわけではなく、法人格が消滅することで、法人に対してかかっていた借金がなくなるという仕組みです。
ちなみに個人の場合は破産手続きをしても、個人の人格が消滅しません。
個人破産の場合は「免責手続き」を行って、借金を帳消しにします。
破産手続きは種類に限らず、まず裁判所への申立てが必要です。
申立てを受理した裁判所が、破産開始手続きの要件をクリアしているのかどうか判断して、クリアしている場合は手続きが始まります。
同時廃止事件の場合は、破産手続きの開始と同時に完了します。
同時廃止事件ではなく、破産管財人を選任した場合は、管財人による財産の換金・債権者への配当をしなければいけません。
破産者の財産がどれぐらいあるのか?を把握して、債権者集会を開いて配当の予定を共有したりします。
破産にかかる期間は半年から1年程度といわれています。
法人・会社の破産を申し立てる際には、その他にも注意すべきことがいろいろあります。
特に、早く処理してしまいたいと思っても、弁護士に依頼して慌てて受任通知を発送することは控えた方が良い場合が多いです。
受任通知を発送すると一部の債権者が会社に押しかけて混乱することがよくありますし、そこで場当たり的な債権回収が行われると債権者の公平が侵害されるため、その後の破産手続で問題となってしまいます。
その他にも、受任通知を発送する前に検討したり確認したり、注意すべきことがたくさんあります。
・お得意さんなど特定の債権者にだけ偏った返済をしていないか
・会社の資産を廉価で換金したり、無償で譲渡したりしていないか
・従業員の理解を得て、雇用関係の整理を進めているか
・役員報酬を不当に受け取っていないか
・営業所の賃貸借契約や什器備品のリース契約などを適切に処理しているか
これらの点について不当な動きがあると、破産管財人の管財業務が増えますし、場合によっては破産管財人の権限行使によって法律関係が巻き戻されることもあります。
このようなことになると多方面に迷惑がかかりますし、破産手続も複雑化してしまいます。
破産は会社の財産・債務を整理して、債権者に配当した後、法人格を消滅させる手続きになります。
会社を潰す・倒産させる方法は、破産以外もあります。
そこで下記では、破産以外の「手続き」について紹介します。
特別清算は、会社法に基づいた手続きになります。
内容としては、会社の資産・財産を処分して、法人を消滅させることなので、破産手続きを同じです。
ただし破産手続きは「破産法」に基づいた手続きになるため、基本とする法律が異なります。
また特別清算はどんな個人・法人も利用できるわけではなく、株式会社しか認められていません。
破産と大きく異なるのは「手続き開始の条件」と「手続きを進める条件」の違いです。
破産の場合は借金を返せなくなったら手続き開始になりますが、特別清算の場合は「借金が返せない疑いがある」という状態で手続きを始められます。
破産よりも開始の条件が広くなっているのが特徴です。
さらに破産は裁判所が中心となって手続きを進めて判断を下しますが、特別清算の場合は債権者の同意を受けて、手続きを進めていきます。
民事再生は、破産や特別清算と異なり「最終的に事業を再生すること」を目的としています。
民事再生法という法律に基づく手続きです。
借金を減らしたり、返済のスケジュールを再度決めて、可能な範囲で事業を継続させます。
破産のようにすべての財産を処分することなく、一定の財産保有が認められています。
さらに手続きが終わった後も、事業を続けれるようになっています。
個人・法人問わず利用でき、株式会社以外の法人も対象です。
会社更生は、民事再生と同様の手続きで、会社更生法に基づいて進めます。
会社の存続を目指して、一定の財産保有を認めながら、借金を減らしていきます。
ただし対象は株式会社のみなので、注意してください。
民事再生なら経営メンバーを入れ替える必要はないですが、会社更生は経営メンバーを入れ替えることが必須条件になります。
会社更生は、民事再生の株式会社版のようなものです。
私的整理は、上記の方法とは異なり、裁判所が介入せずに進める手続きになります。
債務者と債権者が話し合い、返済についてのスケジュールを決めたり、借金を減らしたりします。
法律に基づいた手続きに比べて、費用が安く、柔軟な取り決めができます。
ただし債権者の合意を得られなければ、手続きは成功しません。
「破産を検討しているけど、自分で手続きしようか迷っている」という人は、なるべく弁護士への相談がおすすめです。
なぜなら破産に精通している弁護士から、適切なアドバイスをもらえるから。
会社の状況を見て、破産ではなく民事再生といった他の手段を提案してもらえるかもしれません。
知識がない状態で「もう破産するしかない・・・」と思っていても、プロから見ればいい方法が残っている可能性もあります。
また弁護士のアドバイスをもらうことで、破産手続きがスムーズになります。
なるべく早く手続きを終わらせたい方も、弁護士依頼がおすすめです。
弁護士に依頼したくても「お金がない」という人もいるでしょう。
そんな人には、無料相談がおすすめです。
多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で行ってくれます。
まずは弁護士に相談して、状況を説明してアドバイスをもらうだけでも、今後の行動が変わってくると思います。
実際に「この人に依頼したい」と思ったら、そこで正式に依頼すればいいだけです。
報酬の支払い方も合わせて相談すれば、弁護士費用がなくても問題ないでしょう。
法人・会社の破産は申立人が「少額管財事件にしてほしい」と思っても希望通りに進めてもらえるものではありません。
ケースバイケースで手続の種類が異なりますし、申立前に注意すべきこともたくさんあります。
倒産が視野に入ったら早めに弁護士に相談して手続の見通しを立ててもらい、申立までの準備も計画的に行うのが望ましいと言えるでしょう。