東京弁護士会所属。新潟県出身。
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「不渡り」は普段の生活ではなかなか耳にすることのない言葉ですが、会社の経営者にとってはきちんと理解しておくべき言葉です。
不渡りを出すことは会社の信用に関わります。
信用度が低下すると事業が経営困難になるリスクがあることから、不渡りは事前に回避することが必要です。
しかし、事業者の中にはそもそも不渡りがどのような意味なのか、詳しく知らない方も多いでしょう。
そこで今回は不渡りの意味と種類、会社が不渡りを出した場合の影響を詳しく解説します。
不渡りとは、小切手や手形などで支払いをする場合に、何らかの理由で支払いができない状態のことを指します。
会社が支払いを行う際には、商品の代金を後払いにすることが多くあります。
後払いの支払い方法として一般的なのが、銀行振込やクレジットカード、そして小切手と手形です。
不渡りは小切手と手形の取り扱いで生まれるため、不渡りを学ぶ上では小切手と手形の理解が不可欠です。
小切手と手形はどちらも有価証券という括りに属し、お金に代わるものとして使われます。
1枚の紙に金額、日付などの必要事項を記入し、相手に渡すことで取引が成立するのです。
相手に渡すことを「振り出し」、渡す人を「振出人」、受け取る相手を「受取人」と呼びます。
小切手と手形は混同しやすいですが、特に大きな違いは換金できる期日です。
小切手の受取人は受け取ったときからすぐに換金できます。
一方、手形は期日が指定されており、支払い期日以降にならないと換金できません。
受取人は受け取った小切手と手形を金融機関に持ち込むことで、お金に換えることができます。
金融機関からの支払いは当座預金口座から行われます。
ただし、ここで問題が生じ、支払いができない状態が「不渡り」です。
振出人は小切手と手形の支払いのため、銀行に当座預金口座を作っておく必要があります。
個人が支払いや預金などで利用する普通預金口座とは違い、当座預金口座は通常、法人が業務のために利用します。
当座預金口座は臨時金利調整法によって利息がつかないことが定められていますが、金融機関が破綻しても全額保護される決まりがあります。
また、ATMでの入金・出金ができない一方で、1日に引き出せる限度額がありません。
大きなお金を動かす必要のある取引の際に便利だと言えます。
当座預金口座を開設できること自体が、銀行から信用されている証です。
小切手や手形で取引ができる会社は支払い能力が高く、取引の相手方から見ても信用できる会社となります。
しかし、不渡りを出してしまうと、一気に信用を失ってしまいます。
受取人が金融機関に小切手や手形を持っていっても、支払いができないことを不渡りと呼びます。
不渡りの原因は、当座預金口座の残高不足が一般的ですが、その他にもいくつかの原因が考えられるでしょう。
不渡りはその原因によって、0号から2号までの3つに種類が分かれています。
不渡りのうち、会社の信用とは関係のない原因で不渡りになることを「0号不渡り」といいます。
0号不渡りはいわゆる不渡りの扱いにはならず、処分を受けることはありません。
具体的には、小切手や手形の形式に不備があった場合です。
振出人の署名がない、支払金額などの必要事項が欠けている場合には、金融機関で受理ができません。
また、受取人のミスも考えられます。
手形の支払期日の前に換金しようとする、小切手や手形の有効期間を過ぎてしまったなど、受取人側の原因で不渡りが起こった場合にも0号不渡りに当たります。
0号不渡りは会社の信用状況に影響を与えません。
とはいえ、起こしてもよいわけではないので、形式の不備や受取人の勘違いには留意するようにしましょう。
1号不渡りとは振出人が原因で、受取人が小切手や手形を換金できないことを指します。
一般的に「不渡りを出した」と言われるのはこの場合です。
具体的には、以下の2つの原因が考えられます。
1号不渡りを出すと、金融機関で「不渡届」が作成されます。
会社の信用に関わるため、ペナルティも大きいです。
ペナルティについては後述します。
2号不渡りは0号不渡りと1号不渡りに当てはまらないものを指します。
2号不渡りは1号不渡りと同様に「不渡届」が出されますが、異議申立てを行うことでペナルティを回避できます。
ただし、異議申立てをしなければ、1号不渡りと同じように扱われ、ペナルティも課されます。
会社の信用に関わらない不渡りなので、必ず異議申立てを行いましょう。
では、不渡りを出すとどうなるのでしょうか。
ここでは、特に1号不渡りについて説明します。
1号不渡りは会社の信用状況に関わる不渡りであるため、銀行は「不渡届」を作成します。
不渡届は手形交換所に提出され、手形交換所規則に基づいて不渡り処分を受けます。
この処分では「不渡報告」に処分の事実が掲載され、全国銀行協会に不渡りの事実を伝えることになります。
全国銀行協会は加盟銀行に通知をするため、不渡りを出した事実は全国の金融機関に知れ渡ります。
この通知は会社の信用力について、金融機関に注意を促すことを目的としています。
不渡りを出した会社が他の金融機関から融資を受けても、貸し倒れになるリスクが高いからです。
よって、全国の金融機関からの信用を失い、融資を受けることが難しくなります。
複数回の不渡りとなると、さらに重いペナルティが待っています。
1回目の不渡りでは、不渡り処分を受けた事実が全国の金融機関に知れ渡るだけです。
融資を受けづらくなるリスクはあるものの、その他の処分はなく、これまで通り当座預金口座を利用することができます。
ところが、6ヶ月以内に2回目の不渡りを出してしまうと、「銀行取引停止処分」がなされます。
2年もの間、金融機関において当座預金口座の取引ができなくなる他、融資を受けることもできなくなります。
事業の継続が困難となるため、2回目の不渡りは事実上の倒産と見なされるのです。
上場企業の場合は上場廃止事項に抵触し、上場廃止に繋がります。
不渡りを出した場合、最も大きな影響は金融機関と債権者(取引先)の信頼を失うことです。
債務者(会社・振出人)への影響は、不渡りの事実が知れ渡ってしまうことにより、金融機関からの融資を受けることが難しくなることが挙げられます。
融資が難しいとなると、経営状態に悪影響を及ぼすことにも繋がります。
2回目の不渡りとなれば、金融機関からの融資が完全に停止となるため、倒産してしまう会社も少なくありません。
債権者(取引先・受取人)に対しては、直接的な損害を与えることになります。
約束したはずの金銭を受け取ることができないからです。
もちろん、債務者の債務不履行が原因なので、債務の履行を請求することはできます。
しかし、不渡りを出すほどの経営状態ですと、満足のいく金銭を受け取ることは難しいでしょう。
訴訟を起こしても、結果が出ることは少なく、時間や訴訟費用を無駄にすることになります。
債務者からの支払いを当てにして、別の会社と取引を行っていた場合、共倒れになることも考えられます。
不渡りを出すことイコール倒産ではありません。
特に1回目の不渡りでは、金融機関にその事実が知れ渡るに過ぎませんので、すぐに倒産をするとは考えにくいです。
ただし、金融機関からの信用を失い、今後融資が難しくなることを考えると、倒産の可能性が高まるとは言えるでしょう。
2回目の不渡りでは「銀行取引停止」の処分を受けるため、実質的に事業を継続することが難しくなります。
会社自体は存続できても、事実上の倒産だと言えます。
不渡りは、出したからと言って即座に倒産することはありません。
しかし、金融機関や取引先の信用を失い、事業を継続することが困難になるリスクを伴います。
一度の不渡りでも、これまで築き上げてきた関係が崩れてしまう可能性があります。
また、受取人に対しては直接的に金銭の損害を与えてしまい、共倒れに追い込んでしまうことも考えられるのです。
さらに、繰り返し不渡りを出してしまえば、大きなペナルティを負うことになります。
こういった事態を防ぐためにも、日頃から余裕を持った資金計画を立てることが重要です。
特に、小切手や手形による取引を行う際には、資金状態を事前に確認するようにしましょう。