東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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借金を抱えていると、返済のプレッシャーや経済的な苦境に悩まされることがあるでしょう。
そこで知っておくべき制度として「消滅時効」があります。
消滅時効は一定期間が経過すると、借金が返済不要になるという制度です。
しかし、何年経過すれば消滅時効を迎えるのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
最近、民法が改正されたこともあり、旧民法との相違点の理解も求められます。
また、借金は消滅時効を迎えただけで自動的に帳消しになる訳ではなく、一定の手続きが必要となります。
ここでは、民法改正の内容に触れながら、消滅時効の定義や援用方法について解説します。
抱えている借金がいつ消滅時効を迎えるのか理解するためにも、ぜひ最後までご覧ください。
Contents
消滅時効とは、権利者がその権利を一定期間行使しないことにより、権利が消滅することを認める制度です。
たとえば、お金を貸した人(債権者)が借りた人(債務者)に対し、借金の返済を求めずに一定期間が経過すると、債権者の権利が消滅します。
これによって、債務者は借金を返済しなくてもよくなり、債権者はもはや返済を求めることができなくなります。
消滅時効の対象となる権利は①債権、②債権または所有権以外の財産権です。
借金は①の債権に含まれますので、もちろん消滅時効の対象になります。
他方で、所有権や占有権は消滅時効の対象とならないことに注意しましょう。
消滅時効が完成する期間については、令和2年4月1日を境に取り扱いが異なります。
令和2年3月31日以前に発生した権利であれば、改正前の民法が適用され、消滅時効は10年となります。
ただし、貸金業者からお金を借りた場合など、商行為により生じた債権については5年の時効期間が適用されます。
令和2年4月1日以降に発生した権利については改正民法が適用されます。
改正民法では消滅時効が完成する期間は、権利の種類・原因によって異なります。
よく問題になるのは以下の2つの権利でしょう。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
一般的な債権について、消滅時効が完成する期間は以下のように定められています。
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
このうち、消滅時効の完成が早い方を適用します。
消滅時効が進行を始める時点を起算点と呼びます。
①は権利者が「自分は債務者に対して権利を行使できる」と気づいた時が起算点(主観的起算点)となります。
一方、②は「あの権利者は権利を行使できる」と客観的に判断できる時が起算点(客観的起算点)となります。
借金を金融業者から借りている場合には、契約を交わしており、返済期日が決まっていて、金融業者もその返済期日を把握していることがほとんどです。
そうすると、この返済期日が主観的起算点及び客観的起算点に該当しますので、基本的には返済期日から5年間が経過すれば消滅時効が完成することになります。
では、家族や親戚など個人間でお金の貸し借りがあった場合はどうでしょうか。
返済期日が明確であれば、金融業者の時と同じく、消滅時効が成立するのは返済期日から5年です。
ただし、「就職をして最初の給料をもらったら返済する」など、明確な期日を決めていないこともあります。
この場合は「就職をして最初の給料をもらったことを債権者が知った時」が主観的起算点、「就職をして最初の給料をもらった時」が客観的起算点となります。
債務者が最初の給料をもらってから2年後に債権者がその事実を知った場合、その時点から5年が経過すると消滅時効が完成します。
債権者が知らないまま10年が経過した場合も、消滅時効が完成します。
返済期日を定めない契約をした時は、このように主観的起算点と客観的起算点が異なってくる可能性があるため、注意が必要です。
不法行為とは故意または過失によって他人に損害を与えることを指します。例えば、交通事故や犯罪行為がこれに該当します。
損害を受けた被害者は加害者に対し、損害賠償を請求することができます。
不法行為による損害賠償請求権にも消滅時効が存在します。
①被害者が損害及び加害者を知った時から3年(主観的起算点)
②不法行為の時から20年(客観的起算点)
このうち、いずれか早い方が適用されます。
ただし、不法行為の中でも、特に人の生命または身体を侵害した場合の損害賠償請求権については、消滅時効の期間が変わってきます。
①被害者が損害及び加害者を知った時から5年(主観的起算点)
②不法行為の時から20年(客観的起算点)
このうち、いずれか早い方が適用されます。
通常の不法行為による損害賠償請求権よりも、主観的起算点の消滅時効が延びています。
これは、不法行為の中でも生命や身体に関わる侵害については、重要性が高いのでより権利行使の機会を確保するべきだとされているからです。
民法の改正により、消滅時効の制度に変更がありました。
ここでは、どの部分が変わったのかを詳しく説明します。
令和2年4月1日から改正民法が施行されました。
消滅時効の変更点として最も重要なのは、先述したように、消滅時効が完成する期間です。
旧民法では消滅時効は原則として10年、商行為により生じた権利の場合は5年と定められていました。
つまり、個人間のお金の貸し借りでは返済期日から10年が経過しないと消滅時効は完成しませんでした。
これに対し、消費者金融のように商行為としてお金を貸している企業から借金をした場合には、返済期日から5年で消滅時効が成立していました。
改正民法ではこの民事・商事の区別がなくなり、いずれにおいても主観的起算点から5年または客観的起算点から10年が適用されるようになりました。
先述したように、消費者金融などからお金を借りる場合は返済期日が定められるため、一般的には返済期日から5年で消滅時効を迎えることになり、旧民法と結論は変わりません。
一方、個人間のお金の貸し借りでは返済期日が定められないこともあり、主観的起算点から5年という比較的短い消滅時効が適用される可能性も出てきました。
旧民法では、「短期消滅時効」として、債権の性質や種類別にも細かく消滅時効が定められていました。
しかし、改正民法では短期消滅時効が廃止されました。
そのため、債権の性質や種類等にかかわらず、原則として主観的起算点から5年または客観的起算点から10年という消滅時効が適用されます。
改正民法では言葉の表現も変わりました。
消滅時効は一定の事由によって、進行を一時停止、あるいは時効期間をリセットさせることができます。
旧民法では、消滅時効の進行を一時停止させることを「停止」、リセットさせることを「中断」と呼んでいました。
しかし、この表現は一般的なイメージと乖離しており、法律に詳しくない人々を混乱させてしまう可能性がありました。
そこで、改正民法では一時停止させることを「完成猶予」、リセットさせることを「更新」というように、表現が修正されました。
なお、完成猶予と更新についてはこの記事の後半でも詳しく説明します。
改正民法では「協議を行う旨の合意」に基づいて、消滅時効の進行が完成猶予される制度が新設されました。
これにより、当事者同士で返済に関する協議を行う旨の合意を書面でした場合に、一定期間、完成が猶予されることになります。
これまでは、当事者同士が友好的に話し合いをしていても、消滅時効が近づいてくれば時効完成を阻止するために裁判上の手段を取らざるを得ないことがありました。
債権者としては必要な行為ではありますが、債務者にとってはせっかく前向きに検討しているのにも関わらず、「被告」として扱われると嫌な気持ちになるものです。
こうした不便を解消し、当事者同士の円満な解決を図るためにも、当事者間の協議を尊重するという目的で新設されました。
より詳しい内容についてはこの記事の後半でも説明します。
時効の期間が経過して消滅時効を迎えたら自動的に借金が帳消しになるわけではありません。
自分が抱えている借金を消滅させるには、消滅時効の援用が必要です。
時効の援用とは、時効によって利益を受ける者(債務者)が、時効の利益を受ける意思を表示することです。
援用するか否かは当事者に委ねられています。
消滅時効の援用は、誰でもできるわけではありません。
旧民法では援用権者は定められていませんでしたが、改正民法により明記されました。
援用権者は、以下の6つの立場に当てはまる人です。
消滅時効の援用は口頭でも書面でも可能です。
裁判上の手続きを取る必要はなく、消滅時効を援用する旨を債権者に伝えることで援用できます。
ただし、口頭で伝えた場合、後から「言った」「言ってない」と揉める可能性もあります。
確実に消滅時効を援用するためには、「時効援用通知書」を作成し、内容証明郵便で送付しましょう。
時効援用通知書には債権者・債務者・債務の情報を記載します。
そして、最も重要なのは「時効を援用する」旨を明確に示すことです。
内容証明郵便とはいつ、どのような内容の文書を誰から誰あてに送付したかを郵便局が証明してくれる郵送方法です。
一般的な郵便では、債権者から「受け取っていない」と反論される可能性がありますが、内容証明郵便ではそのような反論ができません。
借金の返済期日が到来してから5年または10年が経過したからといって、必ずしも消滅時効が援用できるとは限りません。
先に説明したとおり、消滅時効は、一定の事由によって完成猶予(停止)あるいは更新(中断)されることがあるからです。
完成猶予とは、一定の期間、時効の完成が先延ばしにされることです。
更新とは、これまでの消滅時効の進行がリセットされ、また0から数え直しになることをいいます。
完成猶予と更新に該当する事由が生じた場合、消滅時効の完成は延びることになります。
以下、消滅時効が完成猶予・更新されるケースを大まかにまとめました。
事由 | 完成猶予 | 更新 |
---|---|---|
協議を行う旨の合意 | ○ | ー |
催告 | ○ | ー |
仮差押えなど | ○ | ー |
承認 | ー | ○ |
裁判上の請求など | ○ | ○ |
強制執行など | ○ | ○ |
先に説明したように、当事者同士で協議を行う旨の合意をすれば、消滅時効の完成が猶予されます。
合意は書面でする必要があります。
完成が猶予される期間は以下の通りです。
時効の完成が猶予されている間に再度の合意があれば、さらに最大5年の完成猶予を受けることができます。
債権者から債務者に対して、借金の返済など債務の履行を求めることを催告と言います。
催告があれば、その時から6ヶ月を経過するまでの間、消滅時効の完成が猶予されます。
ただし、すでに催告や協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間に、再度の催告を行っても、時効の完成猶予の効果はありません。
仮差押えとは裁判を起こすに当たって、債務者の財産を差し押さえることです。
財産を処分させないようにすることで、債権者が勝訴した場合の債務の履行を確実なものにします。
仮差押えがあると、その終了から6ヶ月を経過するまで時効の完成が猶予されます。
債務者が債務の承認をすると、これまで進行していた消滅時効が更新されます。
完成猶予はありません。
以下の行動をとると、債務の承認と見なされることがあります。
特に、口頭であっても債務の承認となり、時効の更新となる可能性があることに注意しましょう。
また、時効期間が経過して消滅時効が完成した後であっても、債務の承認にあたる行動をとってしまうと、その後に消滅時効を援用することは認められないと判断した判例があります。
具体的な事情によっては、この場合でも時効の援用が認められることもありますが、不用意に債務の承認にあたるような行動はしない方が安全でしょう。
債権者が債務者に対し、債務の弁済を求める訴えを提起するなど、裁判上の請求があった場合には、時効の完成猶予と更新があります。
裁判上の請求から確定判決までは時効の完成が猶予されます。
訴えの取り下げなどで確定判決がなかった場合は、終了から6ヶ月を経過するまでは完成が猶予されます。
そして、確定判決があった場合には時効が更新され、時効期間は10年になります。
債権者から強制執行の申立てなどがあると、時効の完成猶予と更新が行われます。
強制執行などが終了するまでの間は時効が完成猶予され、強制執行後は時効が更新されます。
ただし、申立ての取り下げがあった場合には、その時から6ヶ月を経過するまでは時効の完成猶予がありますが、更新はなされません。
借金を抱えていたとしても、一定期間が経過することによって消滅時効を援用できることがあります。
消滅時効は借金を帳消しにできる制度であり、改正民法によって内容が大幅に変更されました。
改正民法によると、基本的には主観的起算点から5年、客観的起算点から10年が経過すれば、消滅時効が完成します。
ただし、期間が経過するだけでは借金は消滅せず、時効の援用が必要です。
確実に時効を援用するためには、時効援用通知書を作成し、内容証明郵便で送付しましょう。
消滅時効は一定の事由によって、完成猶予または更新されることがあります。
すでに時効を迎えている方や時効の完成猶予・更新事由に該当するかわからない方は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。