東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
消滅時効とは、債権者からしばらく返済の請求がないまま一定の期間が経過すると、弁済の必要がなくなる制度です。
利用できる条件は法律で定められており、その効果を得るには、時効期間の経過後に、時効の効果を得る旨を債権者に伝える必要があります。
これを、時効の援用といいます。
本記事では、時効の援用の方法や、その注意点について詳しく解説していきます。
Contents
消滅時効は一定期間の経過により、借金や債務を消滅させる制度です。
しかし、消滅時効が完成したからと言って自動的に借金や債務が消滅するわけではありません。
消滅時効の利益を受けるには「援用」が必要です。
消滅時効の援用とは、消滅時効が完成した債務を抱えている個人や事業者が、消滅時効の利益を受ける旨を債権者に伝える行為を指します。
援用は形式を問わないため、口頭でも書面でも構いません。
ただし、口頭では証拠が残らないため、言った言わないの争いになり、裁判に発展する可能性も考えられます。
消滅時効を援用した事実を証拠に残すため、消滅時効の援用は時効援用通知書で伝えましょう。
消滅時効を援用するには、以下の条件を満たしている必要があります。
債権の時効期間は、民法で以下のように定められています。
引用
民法第166条
1.債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
(以下省略)
引用元:
民法(e-GOV法令検索)
債権とは、人が人に請求できる権利です。
借金は、法律用語では「金銭債権」と呼ばれます。
金融機関からの借金であれば、特殊な事情がない限り、5年間請求されなければ時効期間経過と考えられます。
通常、金融機関が権利を行使できると知らない可能性はないためです。
途中で時効の完成猶予または時効の更新の事由がある場合は、時効期間が経過しません。
消滅時効を援用する最大のメリットは、対象の債務が帳消しになる点です。
比較的簡易な消滅時効の援用の手続きで、債務から解放されます。
また、信用情報機関の事故情報が削除される場合もあります。
裁判所を介さない手続きのため、家族や職場にバレる可能性が低いでしょう。
債務者が消滅時効を援用すると、連帯保証人の返済義務も消滅します。
ただし、連帯保証人が消滅時効を援用した場合は、債権者に対して債務の消滅を主張できるのはその保証人のみです。
債務者は、保証人とは別に自己の債務について消滅時効を援用する必要があります。
時効の援用は必ず成功するとは限りません。
例えば、時効の起算点を誤認し時効完成前に時効援用通知書を送付してしまうと、時効の援用に失敗してしまいます。
時効を援用して借金をゼロにするつもりが、債権者による取り立ての再開を招いてしまうケースも珍しくありません。
借金の消滅時効を援用するやり方は、以下の通りです。
それぞれ詳しく解説します。
消滅時効を援用する前に、まず債務が時効を迎えているかを確認しましょう。
このとき、債権者に直接連絡して確認するのはNGです。
取り立てを招く場合や、債務を認めたと判断され時効期間が最初からになる危険があります。
一般的な債務については、以下の条件のうちいずれか早い方を満たしている場合、消滅時効が適用されます。
この条件は、2020年4月1日から施行された改正民法によって定められました。
施行日以降に契約した債務に対して、適用されます。
一方で、2020年3月31日までの債務の消滅時効は10年です。
ただし、商行為として金貸しを行っている業者などから借金をした場合は、5年の消滅時効が適用されます。
債務が時効を迎えているかを確認するには、以下の方法があります。
まず、契約書や督促状など債務に関する書類を集めましょう。
返済期日からどのくらいの期間が経っているかを確認し「消滅時効が適用できそうな債務」を洗い出してください。
次に、信用情報機関(CIC・JICC)に照会をかけましょう。
信用情報機関では、借金の詳細な情報を確認できます。
しかし、債務の中には、個人間のお金の貸し借りなど信用情報機関での情報がない可能性も考えられます。
情報がない場合には自分の記憶に頼るか、債権者からの督促を待って消滅時効の手続きをするしかありません。
弁護士などの専門家に依頼すれば、情報収集を代理で行ってくれます。
自分の借金や債務が消滅時効を迎えていると確認できたら、時効援用通知書を作成します。
時効援用通知書には、債権者・債務者・債務の情報を記載し、「時効を援用する」旨を明確に示しましょう。
具体的な記載内容は、こちらの章で解説します。
時効援用通知書を作成する前に、債務に関わる書類を揃えましょう。
債務に関する書類は、以下の通りです。
相手とのやり取りで書面やメールが残っていた場合は、印刷しておきましょう。
時効援用通知書には、債務の情報を正確に記さなければなりません。
時効援用通知書の送付には「内容証明郵便」を使用しましょう。
内容証明郵便とはいつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛に送付したかを郵便局が証明してくれる郵送方法です。
一般的な郵便を使用してしまうと、相手から「受け取っていない」「知らない」と主張される場合があります。
しかし、内容証明郵便であれば、どのような内容を相手に送ったかの証明になります。
もし反論を受けても証明できるように、内容証明郵便を活用すると安心です。
内容証明郵便は、以下のように書式が決まっています。
このとき、句読点やかっこ、記号も1文字としてカウントされます。
時効援用通知書は手書きか、ワードやグーグルドキュメントなどの文書作成ツールで作成します。
誤字・脱字を防ぐためには文書作成ツールを使い、目視だけでなく、校正ツールをかけて二重チェックしましょう。
時効援用通知書が2枚以上に渡る場合には、書類にまたがって契印を押す必要があります。
内容証明郵便はどんな紙を使用しても構いませんが、専用用紙も市販されています。
差出人の名前の横には、押印しましょう。
書式として決まっている訳ではありませんが、押印には意思表示を補強する意味があります。
送付するときは、同じ内容の書類を3部用意してください。
1部は相手方に送付し、1部は自分で保管、1部は郵便局が保管します。
手書きで作成する場合は、手書きした1部をコピーするようにしてください。
押印は3部それぞれに直接行います。
時効援用通知書には、以下の内容を記載します。
日付は、通知書を作成した日または送付する日です。
必ず、時効完成後の日付で作成しましょう。
債権債務を特定する情報は、以下のとおりです。
債務の性質とは例えば、貸金債権、売掛債権、請負代金債権、などです。
複数ある場合はそれぞれ漏れのないように記載し、消滅させる債務をしっかり特定できるようにしましょう。
消滅時効の援用にかかる費用は、自分で行う場合は1,500円程度の実費のみで、専門職に依頼する場合は実費に加えて2万円~10万円程度が相場です。
自己で行う場合、具体的には書類のコピー料金、郵便料金などが合計1,200円程度かかります。
消滅時効の援用は、自己で行うと安価に済ませられるでしょう。
複数の債権者に対して、消滅時効の援用をする場合には、その債権者の分だけ料金がかかります。
専門家に依頼する際には実費に加えて、弁護士の場合は4〜10万円、司法書士の場合は2〜8万円の報酬が必要です。
ただし、司法書士は簡裁代理の資格を有する司法書士に限られ、その際も140万円以下の借金に限られます。
借金の消滅時効を援用できないケースは、以下の通りです。
それぞれのケースについて詳しく解説します。
時効の更新とは、期間のカウントがリセットされ、初めからやり直しになる状況を指します。
詳しくは民法147条~154条、166条~169条に規定があり、おおまかにまとめると以下の場合に時効が更新されます。
権利(債務)の承認とは、債務者が貸主に対して借金があると認める行為です。
借金があるのを前提とした行為を行うと、権利(債務)の承認に当たる可能性があります。
直接的に認めるだけでなく、少しでも弁済をした場合や、支払いを待って欲しいとお願いした場合にも権利(債務)の承認にあたります。
権利の承認があると、その翌日から再度5年間の時効期間がスタートします。
また、裁判によって権利が確定したときは、その後の時効期間は10年になります。
ただし、弁済期の到来していない債権については、10年に変更される規定は適用されません。
時効の完成猶予とは、時効期間のカウントが一時停止する状況です。
完成猶予の期間中は、本来の時効期間が経過しても時効期間は完成しません。
完成猶予については民法147条~161条までに規定があり、借金については主に以下のような場合に時効の完成が猶予されます。
催告とは、請求を受ける行為です。
時効完成前に催告を受けると、その後6カ月の間は時効が完成せず、消滅時効の援用はできません。
また、調停や和解、強制執行など、裁判所を利用しての手続が進行中の間は、当事者の間で時効は完成しません。
その後は、債権者の権利が確定して時効が更新されるか、途中で終了した場合にはその後6カ月、時効の完成が猶予されます。
時効の援用に失敗すると、債務が消滅しません。
その際は弁済するか、すぐに弁済できない場合には、任意整理や自己破産といった債務整理を行う形になるでしょう。
それぞれ借金の減額幅や費用、ブラックリストに載る期間などが違います。
ただし、破産を始めとして、債務整理は一般に根付くイメージとは違って、それで人生が終わるのではありません。
借金は、時効期間が経過しただけでは、なくなりません。
債務者が自ら消滅時効を援用する手続きが必要であり、失敗する可能性もゼロではありません。
失敗すれば、債権者から請求が再開されるケースや、債務整理手続きが必要になるケースもあります。
相手方が債権会社や銀行である場合は、時効完成の前に訴えを提起し判決を得ておくと、時効の更新を行っておくスキームもあるでしょう。
消滅時効の援用については、自己判断せずに弁護士に相談しましょう。