東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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農家の廃業や倒産などの手続きについて説明する前に、まずは農業がどのような状況に置かれているのか説明します。
農家が現在直面している最大の課題は「事業承継」や「農家を継ぐことの困難さ」などです。
若い世代に農家を継いで欲しくても、収入や家族の介護などの問題から事業承継が難しいケースがあります。
また、農業は知識や技術、慣れが必要な仕事ですから、事業承継をしようにも簡単にできるものではありません。
加えて、現役の農家は「事業承継はまだ先のことだ」「いきなり若い世代に任せても技術力が足りない」というジレンマを抱える傾向にあります。
若い世代も「事業承継には収入や今の家族に協力してもらうなどの点からためらいがある」「技術力不足を指摘され事業承継に前向きになれない」という声があるのです。
農家の事業承継は困難であるという事情があります。
「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-」より、全国都道府県農業会議18の団体へ調査を行ったところ、雇用事業研修生の離農率が35.4%だったそうです。
このデータから、農家は農業法人の数こそ増えていますが、離職率が高いことがわかります。
盛んに農業をしていた地方の個人農家の状況は、後継者不足などの問題もあって横ばいという動向になっているため、農家として事業承継を進めることには現役世代も若い世代も迷いがあるようです。
農家を継いでも将来に不安を感じるため、事業承継自体にも二の足を踏んでしまうのです。
農家を営んでいる以上、どこかの時点で「廃業(破産)」か「事業承継」のいずれかを決めなければいけません。
農家は最終的に「廃業(破産)」という選択肢を選ぶケースもありますが、その農家はなぜ廃業を選んだのでしょうか。
農家が廃業を決意する理由
次のような理由から農家を廃業するケースがあります。
農家自身が事業承継を望んでいるが継ぎ手がいないケースと、誰かに農家を継いでもらうことが難しいと判断して廃業を決めているケースなどがあります。
農家を営んでいた父親などが亡くなり水田を相続したが、農家の仕事はしないケースもあります。
水田は土地ですから相続の対象になります。
父親が亡くなるまで農家をしていたケースでは、水田や農業器具などをそのままの状態で子どもが相続することがあります。
しかし、子どもがこれまで農業をしていなかった場合、あくまで相続しただけで農家をする気持ちはなく廃業にいたることが多いです。
似たようなケースに、親からの相続ではなく、叔父などの農地を相続することになり廃業にいたるケースがあります。
事業承継などとは別に、現役農家が廃業するケースもあります。
現役農家が廃業する事情のひとつが「体力に限界を感じた」「体調を崩した」などです。
農家は田植えから稲刈りまで体力の必要な仕事なので、体力が衰えてしまうと継続が難しくなります。
自分から限界を感じて廃業を決めるケースもあれば、体調を崩して廃業するケースもあります。
農家をやめるときには「破産」と「廃業<」のふたつのパターンが考えられます。
廃業とは農家の事業をやめることを意味し、破産とは債務が多いため裁判所手続きにより免責を受けることを意味します。
農家をやめるときの債務状況などによって、どちらを選ぶかが変わってきます。
農家の廃業手続きですべきことは2つあります。
ひとつは「廃業届」の提出で、もうひとつは農地や農業機械の処分です。
廃業届とは、個人事業主が事業を廃業するときに提出する書類のことで、提出先は税務署です。
廃業届を提出することで「農家(個人事業主)をやめました」と税務署に知らせることになります。
廃業届を提出しない限りは税務署から農家を続けている状況だと見なされますから、自分では農家を廃業したつもりだったのに、税務署から「所得隠しをしているのではないか」と思われて税務調査されるリスクがあります。
税金の申告が青色申告の場合は、別途「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出も必要です。
もうひとつは、農業機械や農地の処分です。
農業機械の処分については、中古品として売却したり、知人の農家に譲ったりするなど色々なケースが考えられます。
農業機械の代金返済が終わっていない場合は、ローンなどの返済についても考えて対処することが重要です。
農地については、転用などの方法があります。
農家をやめるときに「負債が多い」あるいは「負債により農家をやめなければいけない」といったケースでは、通常の廃業ではなく、破産手続きをすることになります。
破産とは、裁判所で資産のプラスとマイナスを計算し、負債について免責を得る手続きのことです。
農家が廃業する場合、農業器具や農地の処分が問題になるのですが、破産の場合も同様です。
農業機械については、破産手続きの際に換金し、リースの場合は基本的にリース債権者に引き上げられます。
農地の処分については、農地が誰のものなのかなどによって変わってきます。
農地が他人のもの、つまり農家が農地を借りて農業をしていた場合は土地を返却しなければいけません。
農地が仮に農家自身のものでも、自分の家屋敷のように自由に処分はできません。
農家が農地を売却などのかたちで処分するためには、農業委員会などの許可が必要になります。
農家が農業を廃業するときは、農業機械の処分より「農地をどうするか」で困ることが少なくありません。
農家を廃業すると「農地を売却しよう」と考えるかもしれませんが、農家を廃業したときは農地を売却する以外の選択肢もあります。
農家が農業を廃業するときは、以下のような農地活用方法があります。
農地の活用方法
農家を廃業する前に使っていた農地に太陽光発電を設置し、太陽光発電に使うという方法があります。
農地の規模にあわせた太陽光パネルを設置し、発電によって安定収入を得るのです。
農地は周囲を農地に囲まれている場合や山の側にある場合など、集客のネックになる立地が多いといわれています。
太陽光発電の場合は、お客を集めて収入を得る方法ではありませんから、農地の立地のネックである集客が関係なく、さらに農地は日当たりのよい場所にあることが多いため、発電によって安定収入を見込める活用方法です。
農地の近くに工場や大学などがある場合、アパートやマンション用の土地として農地を活用する方法があります。
辺鄙なところに土地があると住む人を募ることは難しくなりますが、周辺の環境次第では入居希望者が集まる可能性があります。
ある程度の資金がある場合は、高齢者向けの施設などを建てて活用するプランも考えられます。
入居者が集まれば安定した家賃収入を見込める農地活用方法です。
繁華街などに近ければ、駐車場として活用する方法もあります。
農地を資材置き場などに転用する活用方法も考えられます。
ただし、資材置き場にして農家自身が使うのではなく、倉庫や資材置き場を必要とする会社などに貸し出して賃料を受け取ります。
農地の近くに会社が多い場合は、「貸して欲しい」という会社が見つかりやすいため、安定収入につながる可能性があります。
農地は日本の食料自給率などにも関わるため、農地転用の際は勝手に転用してはいけないことになっています。
勝手な転用が進んでしまうと国内の食料が潤沢に確保できなくなるため、農地を転用するときは手続きをしなければならないと定められています。
農地転用の基本的な流れは以下のようになります。
農地転用は農地を農地以外に転用するものですから、そもそも農地でなければ転用できないことになります。
廃業した農家が使っていた土地は農地なのかをしっかり確認することが第一です。
農地かどうか確認したいときは、法務局の登記情報を確認したり、固定資産税の通知書を確認したりする方法があります。
注意したいのは、土地の見た目と登記情報の表記がずれているケースです。
普通の土地のように見えても、登記情報などで確認すると農地になっているケースもあります。
農地として登記されていれば、転用の手続きが必要です。
農地転用手続きが必要なのに手続きをせずに転用してしまうと、転用工事の中止命令などを出されることがあるため注意しておきましょう。
農地転用をするためには、許可を受けなければいけません。
自治体の農業振興地域担当課などの窓口に農地転用したい旨を申し出る必要があります。
農地転用の申し出を受けると、自治体は農業団体などから意見を聞き、協議調整をおこないます。
そのうえで変更案を作成し、公告や30日間の縦覧などを進めます。
変更案の縦覧後15日間は、異議の受付や知事への変更案の協議などもおこなう流れになります。
県知事は、現地調査や各意見などを参考に農地転用を許可するかどうかを決めます。
農地転用を許可する場合は、農業振興地域整備計画を変更する旨の広告と農地転用許可申請手続きを進めるよう通知します。
農地転用の手続きに必要になる書類は次の通りです。
農地転用の手続きに必要な書類
上記は基本的な必要書類ですので、この他の必要書類についても、自分の農地転用ケースにあわせて確認を取る必要があります。
農家を廃業しても農地は残ります。
農地が残るということは、固定資産税などの税金が発生するというデメリットがあるということです。
農地を転用して収入を得ようと考えても、農地転用手続きは複雑になっています。
説明した流れはあくまで基本の流れであり、個人で手続きをおこなうと困惑することが少なくありません。
また、必要書類もケースによって変わってくるため、個人でケースにあわせて準備することは難しいのが現実です。
農地転用をスムーズに進めるためにも、司法書士などの専門家に頼ってみてはいかがでしょう。
農家個人では難しい手続きや書類の準備も、専門家であればスムーズに進めてくれます。
農家廃業や農地転用について、まずは相談してみるのがおすすめです。