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破産した不動産の抵当権抹消登記で行う手続きと状況に応じた対処法

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

この記事でわかること

  • 不動産登記簿に抵当権が残っているケースがわかる
  • 抵当権の抹消登記がされていない場合の対処法がわかる
  • 抵当権者(登記名義人)が破産手続きを行っている場合の対処法がわかる

不動産の登記簿に、住宅ローンの借入などによって抵当権設定登記をする際は、借入先のローン会社や金融機関が基本的に手続きを進めてくれます。

しかし、ローン完済後の「抵当権抹消登記」については、金融機関等が手続きを進めてくれません。

金融機関等は、抵当権抹消登記に必要な書類は交付してくれますが、自分で手続きしなければなりません。

抵当権抹消登記の手続きは、所有する不動産の所在地を管轄する法務局で行いますが、一般的には登記の専門家である司法書士へ依頼します。

通常、自分が住宅ローンを組んで購入した不動産であれば、抵当権抹消登記をする際にも状況を把握できていると思います。

しかし、長期間登記簿を確認していなかったり、親などから相続したまま登記を放置している場合、抵当権の登記が残っていることがあります。

この記事では、不動産登記簿に抵当権登記が残っているときに考えられる状況を確認し、自己破産による抵当権抹消や破産登記抹消など、状況に応じた対処法について解説していきます。

特に抵当権抹消登記を行っていない状況で抵当権者(登記名義人)を調べた時、抵当権者が破産手続きを行っている特殊なケースにおいて、どのような対処を行うべきかについても説明します。

不動産に抵当権が残っているときに考えられる状況

住宅ローン等の借入金が完済されている場合でも、不動産の登記簿には抵当権が設定登記されたままになっていることがあります。

また、借入金等の完済がされておらず、抵当権がまだ消滅していないのに、抵当権者である会社が解散してしまったというケースも想定できます。

ここでは、登記簿に抵当権登記が残ったままにも関わらず
抵当権者である会社が解散・廃業していて破産手続きを行っている場合、
どのような対処法があるか、考えられる状況を整理してみましょう。

考えられる4つのケース

まず、抵当権者(登記名義人)である会社が解散・廃業しているような場合は、大きく以下2つのようなケースに分かれます。

(1) 抵当権抹消登記を行っていないケース

抵当権者である会社が解散して清算手続中の場合と、清算結了となっている場合。

(2) 抵当権が消滅していないケース

登記簿の抹消登記を行なっていない、抵当権という財産が抵当権者にまだ残っているということです。

抵当権が消滅していないケースも、抵当権者である会社が解散して清算手続中の場合と、清算結了となっている場合があります。

そして、抵当権者(登記名義人)である会社が、破産手続きを行っている場合は、手続の進行具合によって、以下2つのケースに分けられます。

(3) 抵当権者が破産手続きを行っているケース

抵当権者が裁判所に破産手続きの申立てを行い、破産管財人が管財業務を行っている期間です。

(4) 抵当権者が破産手続き完了済みであるケース

抵当権者である会社の破産手続きが完了し、会社が消滅している場合です。

その他に、抵当権者が他社に吸収合併され消滅している場合は、吸収合併した存続会社との共同申請により抵当権抹消手続きを行います。

抵当権者の登記簿が消滅していることも

抵当権者である会社の登記簿が残っていない場合は、休眠担保権の抹消登記手続きを行う必要があります。

株式会社の登記は、以下のような流れで最終的に登記簿が消滅します。

登記簿消滅の流れ

  • ・最後の登記から12年経過した場合、解散したものとみなされます。
    株式会社は、通常は2年、中小企業において定款で別途定めた場合でも10年に1度は役員変更登記を行う必要がありますから、これを怠って12年経過してしまうと解散したものとみなされます。
  • ・解散登記、もしくは12年の未登記により解散したものとみなされてから、10年経過した場合、登記官は、該当する登記記録を閉鎖することができます。
  • ・登記記録を閉鎖してから20年経過すると、登記記録は廃棄されます。(商業登記規則34IV2)

最後の登記から合計42年という長い期間を経て、完全に登記簿が消滅するということになります。
通常の場合は、会社がなくなっていても、登記簿により抵当権者の確認は可能でしょう。

登記簿に記載されている抵当権者が不明の場合は、以下のホームページで検索できることもあります。

参考:金融機関名検索 Database(公益社団法人 東京公共嘱託登記司法書士協会)

「登記簿上の金融機関名」や「よみがな」の一部を入力して検索することができます。

(1)抵当権抹消登記を行っていないケースの対処法

抵当権者(登記名義人)である会社が解散・廃業しているような場合で、借入金の弁済が完了しており抵当権は消滅しているものの、登記簿の抵当権抹消登記を行っていないケースを考えていきましょう。

対処法を説明する前に、抵当権抹消登記を行わないままにしておくと、どのようなデメリットがあるのか説明します。

抵当権抹消登記を行わないデメリット

抵当権の対象となっている住宅ローンなどの借入金を完済すれば、抵当権抹消登記を行わなくても、抵当権の効力は消滅します。

しかし、実体として抵当権が消滅していても抵当権抹消登記を行わない限り、登記簿にはいつまでも抵当権が残った状態となり

第三者が登記簿謄本を見た場合、「この不動産には抵当権が付いている」と判断されます。

不動産を売却したり、新たな借金の抵当権設定を行ったりしない限り、すぐに大きな不都合が生まれるということはなさそうですが、後になって抵当権抹消登記を行おうとした際、手続きすることが困難になるケースもあります。

そのため、住宅ローンを完済した時などは、すぐに抵当権抹消登記をしておくことをお勧めします。

抵当権は消滅しているが抹消登記はしていないときは

ここで、本題に入りましょう。

抵当権は借入金の完済によって既に消滅しているが、抵当権の抹消登記を行っておらず、抹消登記を行おうとしたら、抵当権者の会社が解散・廃業してしまっているというケースです。

このような場合、抵当権者である会社が解散して清算手続き中なのか、すでに清算結了となっているのかによって対処は異なります。

抵当権者である会社が清算手続き中の場合

清算手続き中は、抵当権者である会社の株主総会において選任された「清算人」がいます。
この清算人と共同申請にて抵当権抹消登記を行うことができます。

清算結了となっている場合

抵当権抹消登記のためだけに、清算結了した会社を復活させる必要はありません

会社の清算を行った清算人がいる場合は、その清算人と共同申請にて抵当権抹消登記を行うことができます。

もし清算人が死亡している場合は、他に清算人がいれば共同申請でも構いませんし、他に清算人がいない場合は新しく清算人の選任を行った上で、共同申請することもできます。

(2)抵当権が消滅していないケースの対処法

借入金を完済していない等の理由で、抵当権がまだ消滅していないが、残金の完済とともに抵当権の抹消登記も行いたいというケースです。

こちらの対処法も、抵当権者である会社が清算手続き中なのか、清算結了しているのかによって異なります。

抵当権者である会社が清算手続き中の場合

会社の清算手続きを行っている清算人と協議し、残金の完済等によって抵当権を消滅させた後、抵当権の抹消登記についても清算人と共同申請を行います。

清算結了となっている場合

抵当権者である会社が清算結了となっている場合、抵当権の清算を行い消滅させた上で、抵当権抹消登記を行う必要があります。

この場合、清算結了登記を錯誤により抹消しなければなりません。

解散した会社を復活させた上で、清算人と抵当権の清算を行い、抵当権抹消登記を共同申請します。

(3)抵当権者が破産手続きを行っているケースの対処法

抵当権抹消登記をする際に、抵当権者が破産手続開始決定を受けて手続きを行っている途中というケースです。

これに該当するケースが頻度高く発生するというわけでありませんが、このケースについては具体例を使って詳しく解説していきたいと思います。

ここでは、抵当権抹消登記を司法書士へ依頼した場合の流れを説明します。

登記簿謄本の状況は?

抵当権設定登記は、かなり昔に借入を行った際のもので、債務の返済は終わっているはずなのに、登記簿謄本を確認したところ、抵当設定登記が残ったままになっていました。

そこで、この抵当権の抹消登記を行うべく、登記の専門家である司法書士へ依頼しました。

抵当権者へ連絡する

抵当権抹消登記を司法書士へ依頼した場合の流れ

  • 司法書士は、まず登記簿で抵当権者として登記されている会社へ連絡してみました。
  • ところが、この会社は破産手続開始決定を受けていることが判明します。

抵当権者が破産手続開始決定を受けている場合、登記申請を行うことができるのは、抵当権者ではなく破産管財人です。

そこで、管財業務を行っている破産管財人に連絡をとって確認したところ、「該当する借入金の返済は確かに完了している」「抵当権抹消登記に協力する」という回答を得ることができました。

裁判所の許可書を申請する

破産者が抵当権者である場合、抵当権抹消登記の登記原因によって、
裁判所の許可書
が必要かどうか変わってきます。

登記原因が「弁済」や「主たる債務の消滅」である場合は、裁判所の許可書は不要です。

しかし、登記原因が「解除」の場合は、裁判所の許可書が必要になります。

なぜ、許可書が必要か

「解除」の場合、破産管財人が破産財団に属する権利を放棄することになり、「権利の放棄」(破産法72条2項12号)に該当するため。

今回のケースでは、借入金の返済が完了していることを示す書類が不明ですが、抵当権者側の破産管財人が返済完了を認めてくれています。
返済完了日が不明で書類がない状態で「弁済」を登記原因とするのではなく、「解除」を原因とするべく、裁判所の許可を得ることになりました。

破産管財人から許可書をもらう

破算管財人が、裁判所に対して抵当権抹消の登記手続きのために該当する抵当権を放棄したことを証明する許可証明申立書を提出します。

裁判所の確認の後、裁判所書記官の署名押印のある許可書が、破産管財人より交付されます。

合わせて、裁判所書記官作成の「破産管財人選任及び印鑑証明申請書」の交付を受けます。

抵当権抹消登記の申請を行う

司法書士が作成した登記原因証明情報と委任状に押印し、法務局への登記申請を依頼します。

なお、登記原因証明情報には、裁判所の許可があった旨を記載する必要がありますが、司法書士に依頼する場合は任せて大丈夫です。

最後に、登記簿で抵当権が抹消されていることを確認して終了となります。

(4)抵当権者が破産手続き完了済みであるケースの対処法

抵当権者が破産手続きを行っている間は、破産管財人が登記義務者となりますが、破産手続きが終了している場合は、破産管財人に依頼することができません。

抵当権者である会社が破産手続きを完了し、商業登記簿も閉鎖されている場合は、裁判所へ清算人の選任を請求しなければなりません。

裁判所に認められた場合、閉鎖登記簿の登記記録が復活し、清算人の登記が行われます。

この清算人と共同で抵当権抹消を行うことになります。

そして、清算人の事務が終了すれば清算人の選任決定が取り消され、再び会社の登記簿は閉鎖されます。

状況にもよりますが、清算人の選任には高額な予納金が発生することがあります。

そのような場合は、特別代理人を選任して、清算株式会社に対して抵当権の抹消登記手続きを行うという方法を検討できる場合があります。

まとめ

不動産の抵当権は、借入金の完済などで実体は消滅していても、手続きをしなければ登記簿には抵当権がずっと残ることになります。

抵当権抹消登記を行うためには、抵当権者(登記名義人)の協力が必要となりますが、この抵当権者である会社が解散していたり、破産手続きを行っていたりする場合があります。

例えば、抵当権者である会社が破産手続き中の場合は破産管財人と、破産手続きが完了している場合は裁判所に選任してもらった清算人と共同申請で、抵当権の抹消登記を行わなければなりません。

このようなイレギュラーな対応が必要な場合は特に、登記の専門家である司法書士へ登記を依頼することをお勧めします。

破産のお悩みは深刻で不安なものです。
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