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社長が任意整理をすると退任は必須?会社への影響や注意点と任意整理のリスク軽減のポイント

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
破産をお考えの方にとって、弁護士は、適切な手続きをするための強い味方になります。
特に、周りに相談できず悩まれていたり、負債がかさんでしまいそうで破産を考えていたりする方は、ぜひ検討してみてください。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 社長が任意整理をした場合は退任が必要かどうかがわかる
  • 社長が任意整理をした場合に会社にどのような影響があるかがわかる
  • 社長が任意整理をする場合の注意点及びリスク軽減のポイントがわかる

任意整理とは、裁判所を介さずに弁護士等が代理人となって債権者である金融機関と交渉し、将来利息のカットや月々の返済額を減らす和解をすることで債務者の負担を軽減して、借金の完済を目指す手続きです。

返済期間は通常3~5年に設定します。

借金を取引開始時に遡って利息制限法の上限金利で計算し、過払い金があれば元本が減額されます。

自己破産や個人再生と比べて手続きが簡単で柔軟性も高いので利用しやすいのが特徴です。

社長は住宅や車のローン等の個人的な借入の他に、会社の運転資金の補充のための借入や付き合いで連帯保証人になる場合もあり、借金する機会が多いため借入金額が大きくなってしまいがちです。

社長が個人的に任意整理をすると退任しなければならないのか、会社にどのような影響が出るのか等、心配されている方も多いでしょう。

この記事では、社長が任意整理をした場合に会社に起こり得る影響や注意するべきポイントについて詳しく解説していきます。

社長が任意整理すると退任は必要?

社長個人の借金の支払いが苦しくなって任意整理をした場合、社長が退任する必要があるのでしょうか。

結論から言うと、任意整理をした場合でも特に法律上の制限は何もないので社長を退任する必要はありません

債務整理のうち社長が退任する必要があるのは自己破産手続きだけです。

破産した場合は破産手続き開始によって委任契約が終了し強制的に解任されることになりますが、破産は取締役の結核事由ではないのでその後に再任されることは可能です。

社長の任意整理後に起こる会社への影響

上記のとおり、法的には任意整理後も社長を続けることに問題はありません。

しかし特に小規模会社の場合、社長の任意整理が会社の経営へ与える影響は少なくありません。

会社が金融機関から融資を受けることが困難になる

任意整理をすると、依頼した弁護士等から債権者へ受任通知が届いた時点から信用情報機関に事故情報が登録されます(いわゆるブラックリスト)。

その後は、任意整理で和解した後にその借金を完済してから5年程度は与信審査が通りにくくなるので、新規でローンを組むことやカードを作成すること等が制限されます。

社長個人の事故情報が直接会社の事故情報になる訳ではありませんが、小規模会社が融資を受ける場合は社長の信用情報が調査されるのが一般的なので、金融機関から会社の事業資金の融資を受けることが難しくなります

また、保証付き融資であれば社長個人の信用情報は調査しないけれど、保証協会が入らない融資(プロパー融資)の場合は社長個人の信用情報を参考にするという金融機関もあり、この場合も事故情報があれば融資の審査に悪影響を及ぼすでしょう。

尚、2か月以上金融機関への支払いを遅滞した場合も信用情報機関へ事故情報として登録されます。

任意整理をしなかったとしてもその時点以降に会社の融資を受けることはやはり難しくなるので、返済が困難な状態を放置しておくことは得策とは言えません。

社長が個人保証している借入について会社へ一括請求される可能性がある

会社の借入について社長が個人保証をしている場合、個人保証をしている金融機関やその関連会社からの借入について、社長が任意整理をすると会社の借入が期限の利益を喪失して一括請求される恐れがあります。

これは保証人が返済する資力を有しなくなると債権者は主たる債務者に対して弁済をする資力を有する代わりの保証人を立てるように請求することができ(民法450条)、債務者が資力ある保証人を用意できなければ、保証人を立てる義務の不履行となり、主たる債務の期限の喪失事由に当たるからです。(民法137条)

会社の口座が凍結される可能性がある

社長が個人保証をしている銀行やその関連会社からの借入について任意整理した場合には、法人名義の預金口座が凍結されてしまう可能性があります。

口座が凍結されると口座を使った入金以外の取引ができなくなってしまいます。

この場合、任意整理の対象となった金融機関については、対象口座以外の別支店の口座も凍結されます。

任意整理の対象としていない金融機関の銀行口座は凍結されませんが、任意整理を行ったという情報は信用情報機関を通じて全ての金融機関で共有されます。

社長の任意整理でリスクを最小限に留める方法

社長個人の任意整理であっても会社へ影響を及ぼす可能性があるので、そのリスクを最小限に留めるよう慎重に配慮しながら手続きを行う必要があります。

会社経営に影響の出る債権者を外して任意整理する

私的交渉である任意整理は、他の債務整理と異なり対象となる債権者を選択することができます。

社長が個人保証をしている金融機関や、その関連会社及び会社の口座のある銀行からの借入については、任意整理の対象から外すことで会社が一括請求をされることや口座を凍結されることを防止できます。

ただし、月々の返済能力との関係で当該金融機関も含めて任意整理を行わないと返済できない場合もあるので、常にこの方法を選べるとは限りません。

また、この場合でも他の金融機関と任意整理をすることで信用情報機関へ事故情報として登録されるので、その後に融資を受ける際への影響は避けられません。

任意整理をする前に会社を代表する取締役を選任する

前述のとおり、個人の任意整理をしても社長を続けることに法的には問題はありません。

しかし、特に小規模会社は融資の際には社長の信用情報が参照されることが多く、社長がブラックリストに載っていると審査が通りにくくなる可能性が高くなってしまいます。

そこで任意整理をする前にあらかじめ信用情報機関に事故情報が登録されていない別の人を社長に選任しておくという方法があります。

通常、会社を代表しない役員の信用情報までは審査されることはないので、他に代表取締役がいる場合に一役員が個人的に任意整理をしても会社への融資には影響はないでしょう。

なお、信用情報機関の情報は正式に加盟した金融業者が与信判断を行う目的でのみ閲覧できるものなので、金融機関以外の取引先との関係には影響ありません。

任意整理の場合は自己破産や個人再生と異なり、官報に掲載されることもないので自分から言わない限り金融機関以外の取引先に知られることはありません。

「経営者保証に関するガイドライン」に従い個人保証なしで融資を受ける、個人保証を外す

「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業の経営者が金融機関と締結している個人保証について保証契約を検討する際等に中小企業・経営者・金融機関の自主的なルールを定めたものです。

当ガイドラインに従い条件を満たせば、社長が個人保証をしないで融資を受けることや社長の個人保証を外すことができる場合があります。

ただ、ガイドラインはあくまで指針であり強制力はないので最終的には金融機関との交渉になります。

社長の借金が個人的なもので会社の経営が比較的順調であれば、個人保証なしの融資を受けられる可能性があります。

また、個人保証を外すことができれば後継者候補へ事業承継をしやすくなります。

適用の対象となる個人保証

  • ・保証契約の主たる債務者が中小企業であること
  • ・保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者及びそれに準ずる者であること
  • ・主たる債務者である中小企業及び保証人である経営者の双方が弁済について誠実であり、債権者である金融機関の請求に応じてそれぞれの財産状況や負債の状況を適切に開示していること
  • ・主たる債務者および保証人が反社会勢力でなく、そのおそれもないこと

個人保証なしで融資を受けられる条件

  • ・法人と経営者との関係が明確に区分・分離されている
  • ・財務基盤が強化されている
  • ・財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示によって経営の透明性が確保されている

会社の整備・運用の状況及び財務状況については、公認会計士や税理士等の外部専門家により検証し、その結果を対象債権者に開示することが望ましいとされています。

任意整理以外の方法について

上記では任意整理の方法について紹介しましたが、個人の債務整理ではその他に3種類の方法があります。

項目内容手続きメリットデメリット
任意整理借金の利息をゼロにする個人で可能(弁護士に依頼するケースが多い)裁判所に届け出る必要がないあくまで利息がなくなるだけ
特定調停借金の利息を減額簡易裁判所・個人で手続き可能費用が安い(債権者1社あたり500~1000円程度)自力で交渉しなければいけない
安定した収入が必要
個人再生借金を大幅に減額裁判所(弁護士に依頼するケースが多い)借金の大幅な減額が期待できる
財産は所有できる
手続きが複雑
任意整理借金を完全にゼロにする裁判所(弁護士に依頼するケースが多い)完全に借金をゼロにできるブラックリストに載る
所有している財産を失う

それぞれ詳しく説明していきましょう。

特定調停

特定調停とは、債権者と簡易裁判所で話し合う手続きになります。

裁判所が介入しますが、あくまで当人同士の話し合いになります。

話し合いがうまく進めば、借金を減額させたり、返済スケジュールを決めたりします。

他の手続きに比べて費用が安く、1社あたり500~1,000円しかかかりません。

さらに個人でも手続きができるため、弁護士など専門家に依頼する必要もないです。

ただし自力で債権者と交渉するのが難しいケースもあるため、自力交渉ができないなら弁護士への依頼がおすすめでしょう。

個人再生

個人再生は、裁判所から認可を受けて、借金を最大5分の1まで減額する手続きになります。

返済の期間は3年で設定されることが多いです。

例えば500万円の借金がある場合に、個人再生の手続きができれば借金を100万円まで減額できます。

400万円分も借金がなくなるため、メリットは大きいでしょう。

さらに個人再生の場合は、個人資産を処分しなくても問題ありません。

持ち家・マイカーを手放したくない場合は、個人再生を選ぶのがいいでしょう。

自己破産

自己破産は、自分の資産をすべて売却して借金の返済をしたうえで、残った借金を免除する手続きです。

他の手続きでは借金を完全になくすことはできませんが、自己破産だけはどんな額の借金があっても、免除できます。

ただし自分の資産はすべて売却する必要があるため、絶対に手放したくない資産がある場合は、おすすめできません。

他の手続きを検討したうえでの、最終手段として考えておきましょう。

任意整理で悩んだら弁護士に相談しよう

「任意整理したいけど、会社への影響は抑えたい・・・」と思ったら、まずは弁護士に相談してみましょう。

個人の債務整理はいろんな方法があり、専門家からアドバイスをもらうことが重要です。

弁護士であれば債権者との交渉も任せられるため、自力交渉が難しい場合でも安心です。

まとめ

社長の債務整理は、特に社長と会社が一体とみられるような小規模会社の場合、会社への影響を考慮して慎重に対応する必要があり、一般的なサラリーマンが任意整理を行う場合より注意すべき点が多数ある手続きとなります。

また、借金の問題は事態が深刻化しやすく先延ばしするほど状況が悪化し対応が困難になります。

今のままでは借金の完済が困難であると感じている方は弁護士に相談することをお勧めします。

専門家に依頼することで会社への影響を最小限に抑えて任意整理を進めることが可能になります。

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