最終更新日:2026/2/25
介護事業で起業・開業する条件とは?必要な資格や手続きについて税理士が解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

- 介護保険の指定事業と保険外(自費)サービスのしくみの違い
- 指定事業所の開設の必須条件
- 自分に合った事業モデルの選び方と具体的な資金調達方法
- 指定事業所の開業までに必要な7つのステップ
- 介護事業でよくある失敗とその対策
- 経営者が備えておくべき法的・運営的リスク
介護現場での経験を活かし、自らの理想を掲げて起業することは、非常に大きなやりがいに満ちた挑戦です。
また日本の少子高齢化は年々進行しており、今後も介護事業の需要は継続的に高まり続けると想定されています。
しかし、介護事業のなかでも「公費(税金・保険料)」によって運営される指定事業者となるためには、一般の起業と比較して非常に厳しいルールや手続きが存在します。
指定事業者ではない、フリーランスとして起業する場合であっても、人の生活や命に関わる介護事業には、大きな責任と適切な事業運営が求められます。
「資格は必要なのか?」「個人では始められないのか?」といった疑問から、起業に必要な資金や万が一の場合の保険まで、経営者として知っておくべきことは多岐にわたります。
この記事では、介護事業の起業を検討している人のため、指定事業とそれ以外の介護事業の違いや注意点、起業の流れや資金調達方法などについて、税理士が詳しく解説します。
介護業界での起業を考えている方は、ぜひご覧ください。


目次
介護の起業は2種類ある:介護保険の指定事業と保険外サービスの違いとは

介護事業での起業を検討するとき、まず最初に理解しておくべきことがあります。
それは介護保険法に基づく指定を受けて運営する指定事業と、介護保険法の制約を受けずに自由な契約で行う保険外サービスの2種類が存在することです。
指定事業は、国が定める介護保険制度の枠組みの中で運営される事業です。
売上の大部分を国や自治体が負担する(税金が利用される)ため、売掛金の未回収リスクが極めて低いというメリットがあります。
一方で、事業を行うには都道府県などの自治体から指定を受ける必要があります。
またサービスの内容は、日常生活に直接必要な範囲に限定されています。

逆に言えば、それ以上のサービスを提供するのは税金の浪費に繋がってしまうという背景があります。
さらに地域や事業者で運用がばらつくと、公平性が保てないという懸念もあり、介護保険法に基づく指定事業では、ケア内容や時間、回数が厳密に定められているのです。
保険外サービスは、介護保険の適用外として、事業者が独自に価格と内容を決定できるサービスです。
利用者が料金のすべてを自己負担するため、保険内サービスではカバーしきれない「利用者のその日の様子に合わせたサービス」や「生活全体を支え、整えるようなケア」が可能になります。
また、指定事業で求められる法人格や資格がなくても、開業することができます(行うサービスによっては資格などが求められることもあります)。
介護保険の指定事業に不可欠な「4つの必須条件」
介護保険法に基づき、国から介護報酬を受け取る指定事業者として起業するためには、自治体が定める厳格な基準をすべて満たす必要があります。
具体的な基準は自治体によって異なりますが、多くの場合で以下の4つの基準が求められます。
- 法人格の取得(会社などの設立)
- 人員基準
- 設備基準
- 運営基準
それぞれの内容について詳しく解説します。
その1:法人格の取得(会社などの設立)|個人事業主では原則として開業できない
多くの自治体で、指定事業者になるためには申請者が法人であることが義務付けられています。
個人事業主では、どれほど優れた介護技術や経験があっても、介護保険事業所としての登録は原則として認められません。
介護保険制度に指定された事業には多額の税金が投入される関係上、事業者には極めて高い透明性と、サービスを安定して継続させる責任が求められることがその理由です。
株式会社や合同会社などの法人の設立については、以下の記事で詳しく解説しています。
その2:人員基準|サービスごとの「有資格者」の配置ルール
人員基準とは、サービスの質と安全を担保するために、事業所ごとに配置しなければならない職員の役割や資格、人数を定めたルールです。
必要とされる役職や資格はサービス種別ごとに細かく定義されており、欠員が出た状態で運営を続けると、介護報酬の減算や指定取消の対象となります。
例として、起業件数が多い「訪問介護」における人員基準は以下のとおりです。
| 役職 | 必要人数 | 資格要件 |
|---|---|---|
| 管理者 | 1人 | 特になし(管理業務を遂行できる者) |
| サービス提供責任者 | 利用者40人ごとに1人以上 | 介護福祉士、または実務者研修修了者 |
| 訪問介護員(ヘルパー) | 常勤換算で2.5人以上 | 介護職員初任者研修修了者以上 |
採用活動においては、資格証の写しだけでなく、有効期限や他事業所での二重雇用になっていないかの確認を徹底してください。
その3:設備基準|物件契約前に確認すべき「広さと設備」の条件
設備基準とは、サービス提供に必要な空間や設備を定めたルールです。
行うサービスにもよりますが、事業運営に必要な広さの専用区画と、介護の提供に必要な設備・備品を備えていることが求められます。
詳しい基準は自治体によって異なりますが、一般的には他事業と明確に区分できる事務室、申込受付や相談、打合せなどに使える相談室、手指洗浄設備や鍵付きのロッカーやキャビネットなどが求められます。
指定基準を満たさない物件を契約してしまうと、改修工事が必要になったり、最悪の場合は指定が下りず開業不能に陥るリスクがあります。
あらかじめ自治体の手引きを確認し、項目をチェックしておきましょう。
その4:運営基準|サービスの質を担保するためのルールの整備
運営基準とは、事業者が遵守すべきサービスの提供プロセスや、事務手続きを定めたものです。
これは単なる努力目標ではなく、遵守されない場合は行政指導や報酬返還などにつながる可能性もある法的義務です。
具体的な項目や内容は、サービスの種類によって異なります。
一例として訪問介護の場合は、訪問介護計画の作成や交付、利用者からの同意、居宅介護支援事業者(ケアマネ)などとの連携、サービス提供の記録、運営規定や勤務体制、研修の内容など、多岐にわたる運営基準が求められます。
自由度が高い保険外(指定外)の介護で起業するなら
介護保険制度の枠外で展開する「保険外サービス」は、少子高齢化と多様化するニーズを背景に、極めて高い成長可能性を秘めた領域です。
国が定める一律のサービス内容では満足できない層、あるいは制度上「できないこと」を解決してほしい層に対し、独自の付加価値を提供することで、既存の介護事業にはない収益モデルを構築できます。
保険外サービスでの介護事業の特長の1つが、サービス内容と価格の設定が事業者に委ねられている点です。
保険内サービスが「自立支援のための必要最低限」を追求するのに対し、保険外サービスは「生活の質(QOL)の向上や利用者に合わせたサービス」を追求できるため、高単価かつ満足度の高いビジネス展開が可能になります。
保険外サービスでの起業のメリットとデメリット
保険外サービスでの起業を検討する際は、保険内サービス(指定事業)との構造的な違いを、経営面と実務面の両面から比較検討する必要があります。
保険外サービスのメリットとデメリットを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 保険外サービスのメリット | 保険外サービスのデメリット |
|---|---|---|
| 収益性 | 価格を自社で決められるので、高単価設計も可能。メニュー設計で粗利を作りやすい | 原則として利用者が全額負担のため、価格に見合う価値を明確に示さないと利用されにくい |
| 資格・要件 | 介護福祉士などを要する指定基準に縛られないため始めやすい。ただし、サービスによっては運送・食品・医療行為など別制度の要件が関わる | 公的な指定基準がない分、品質・専門性の見せ方を自社で整える必要がある |
| 事業開始 | 提供内容が許認可を要しない範囲なら、個人事業主でも開始可能。介護保険の指定申請や法人設立をせずに始められる | 介護保険の指定事業所としての公的な掲載・ケアプラン導線が使えないため、集客が難しい |
| サービス範囲 | 買い物や掃除、長時間の見守りなど、保険内サービスでは対応が難しい領域にも対応できる | 介護保険の運営基準のような制度の枠がないため、契約内容や事故発生時の賠償責任などのルール整備が必須 |
保険外サービスを行うのに必要な資格や条件
保険外サービスそのものに、開業免許のような公的な資格は存在しません。
しかし、提供するサービスの内容によっては、他法令との兼ね合いで資格が必須となる、あるいは信頼獲得のために事実上不可欠となるケースがあります。
身体介護(入浴、排泄、食事の介助など)を行う場合は、保険外であっても「介護職員初任者研修」以上の資格保持者が行うことが実務上のスタンダードです。
無資格者が身体介助を行い、利用者にケガをさせた場合、損害賠償保険の適用外となり、重過失を問われる可能性が極めて高くなります。
一方、生活支援(家事援助、相談、外出支援など)のみであれば、基本的に資格は不要です。
しかし、利用者や家族の視点に立てば、介護サービスにおいて何の資格もない人に高額な報酬を支払うことには抵抗を感じやすいでしょう。
たとえば、家事代行であっても「整理収納アドバイザー」や「調理師」といった関連資格を提示するなど、利用者の納得感を得る努力が求められます。
サービスが「医療行為」に当てはまらないか注意しよう
保険外サービスを行うときには、法的な境界線である医療行為の制限にも注意してください。
糖尿病患者へのインスリン注射や床ずれの処置、血糖測定など「人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」は医療行為と見なされ、医師法により有資格者以外には禁じられています。
医師、歯科医師、看護師等の免許を有さない者による医業(歯科医業を含む。以下同じ。)は、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条その他の関係法規によって禁止されている。ここにいう「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
また、一般的に爪切りや耳掃除などは医療行為には当たらない、日常的なケアに当てはまります。
しかし利用者が極度の巻き爪だったり、病気や加齢によって爪が割れやすい状態だった場合などは、爪切りが人体に危害を及ぼしうるとして医療行為に認定される可能性もあります。
こうした医療行為か否かの線引は、最終的には医師の判断に委ねられるため、必要に応じて医療職とも連携を取り、適切なサービスを行いましょう。
保険外で個人事業主・フリーランスとして起業する方法
保険外サービスで個人事業主として起業する場合、事業を開始した日から1カ月以内に、所轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出しましょう。
個人事業主・フリーランスの場合、これだけで起業の手続きは完了します。
ただし実務上、節税メリットの大きい青色申告を行うために「所得税の青色申告承認申請書」を同時に提出することを推奨します。
また、事業とプライベートの資金を区別するための事業用口座の開設や、トラブルを未然に防ぐための契約書作成も必ず行っておきましょう。
より具体的な個人事業主の起業方法については、以下の記事をご確認ください。
なお、保険外サービスでの起業に関しては、経済産業省が提示する「ヘルスケアサービスガイドライン等のあり方」に基づき、介護関連サービス事業協会において生活支援サービスおよび配食サービスに関するガイドラインが策定されています。
サービスの提供や契約の締結で気をつけるべきことなどが詳しく定められているので、保険外サービスでの起業を考えている方はぜひ一度目を通してください。
参考:生活支援サービス提供事業者が遵守すべきガイドライン|介護関連サービス事業協会(PDF)
介護ビジネスの事業モデル一覧と選び方
介護ビジネスで起業する際、どの事業モデルを選択するかは、手持ちの資金額や採用できるスタッフの人数、自身が目指す収益規模などによって決まります。
また、自身の強みや地域ニーズに合致するモデルを見極めることも重要です。
各モデルの特性を客観的に把握し、持続可能な計画を立てましょう。
介護保険の指定事業の事業モデル3選

介護保険法に基づき運営する指定事業には、大きく分けて「訪問型(ホームヘルプ)」「通所型(デイサービス)」「支援型(ケアマネ)」の3つのモデルがあります。
それぞれのモデルによって、必要となる初期投資額や最低限確保すべき有資格者の数、収益の算出方法が異なります。
代表的な3つのモデルの特徴を、以下の表にまとめます。
| 事業モデル | 初期費用の目安 | 最低人員基準 | 難易度・リスク |
|---|---|---|---|
| 訪問介護(ホームヘルプ) | 約300万〜500万円 | 常勤換算2.5名以上 | 難易度:中 設備投資は低いが、ヘルパーの採用難が最大のリスク |
| 通所介護(デイサービス) | 約1,500万〜3,000万円 | 生活相談員、看護師、介護職員(定員による) | 難易度:高 物件改修や車両購入で初期投資が大きい |
| 居宅介護支援(ケアマネ) | 約150万〜300万円 | ケアマネジャー1名以上 | 難易度:低 設備不要だが、ケアマネの確保と件数管理が重要 |
訪問介護モデル(ホームヘルプ)は、利用者の自宅を訪問し、入浴や排泄、食事などの介助(身体介護)や、掃除や洗濯、調理(生活援助)を提供するモデルです。
初期投資を抑えられる反面、常勤換算で「2.5名」のヘルパーを常に維持しなければなりません。
欠員で人員基準を満たせない状態が続くと、行政指導や指定取消などのリスクが高まります。
通所介護モデル(デイサービス)は、利用者が施設に通い、食事、入浴、レクリエーションなどを受けるモデルです。
賃料、水道光熱費、車両維持費などの固定費が高いため、ほかのモデルと比較して起業のハードルは高めです。
居宅介護支援モデル(ケアマネ)はケアマネジャーがケアプランを作成し、介護サービス全体の調整を行うモデルです。
大規模な設備は不要ですが、ケアマネジャー自身の高い専門性が求められます。
介護報酬における「単位」とはなにか
日本の介護保険制度では、各サービスの価格を直接「円」で決めるのではなく、まず「単位」という数値で設定しています。
これは、全国一律のサービス内容であっても、東京と地方では人件費や家賃などのコストが異なるため、地域ごとの物価差を柔軟に調整することを目的としています。
単位数およびその運用ルールは、厚生労働省が発行する厚生労働省告示によって厳格に定められています。
この基準は「介護報酬」と呼ばれ、原則として3年に1度、社会保障審議会(給付費分科会)での議論を経て改定されます。
たとえば2026年2月時点で、訪問介護における1単位は10円が基準となっていますが、東京都特別区などの地域では1単位11.40円で計算されます。
保険外の介護事業で人気のモデル例
保険外サービスは、利用者が全額を負担するため、サービス内容に制限がなく、アイデア次第で独自の高収益モデルを構築できます。
要介護者が自分で行えない家事や外出などの支援や、介護保険内サービスでは行えない範囲や期間の身体介護などが事業モデルとして人気です。
| 事業モデル | 具体的なサービス例 | 経営上の重要ポイント |
|---|---|---|
| 生活支援 | 庭の草むしり、ペットの散歩、大掃除、来客用の調理 | 参入障壁が低いため、リピート率を高める接遇が重要 |
| 外出・通院支援 | 冠婚葬祭への参列、お墓参りの同行、趣味や旅行の付き添い | 万全な移動手段(介護タクシーなど)や、事故に備えた保険加入が必須 |
| 身体介護 | 夜間の見守り、退院後の長期ケア、マンツーマンリハビリ | 有資格者の配置が信頼に直結。事故時の賠償リスクが高い |
| 周辺サービス | 疾患別制限食の配食、ICT見守りセンサー、バリアフリー住宅改修 | 継続課金により、経営の安定を図りやすい |
これらのモデルはあくまで一例です。
保険外サービスのビジネスモデルを考える際には、介護と直接関係の薄い美容や調理、コミュニケーションスキルなどの自分の強みを棚卸しして、介護と組み合わせられないかなどを模索してみましょう。
保険内の介護事業を開業するまでの7ステップ
介護保険法に基づく指定事業(保険内サービス)を開始するためには、法的な要件を満たすだけでなく、自治体のスケジュールに合わせた緻密な準備も必要です。
指定申請の受付は「月に1回のみ」や「開業の2カ月前まで」といった期限が厳格に定められており、1日の遅れが大幅な開業延期と売上喪失を招くこともあります。
確実に認可を取り、スムーズに事業を立ち上げるためには、計画的な準備が欠かせません。
開始する事業によって行う準備は異なりますが、多くの場合は以下の7ステップの準備が必要になります。
保険内の介護事業を開業する流れ
- STEP1市場調査と事業種別の決定
- STEP2定款作成と法人登記
- STEP3物件の選定・賃貸借契約
- STEP4管理者・スタッフの採用と雇用契約
- STEP5備品の購入と損害賠償保険への加入
- STEP6自治体への指定申請
- STEP7指定(認可)書の受領と開業
ステップごとの詳しい内容について解説します。
ステップ1:市場調査と事業種別の決定
介護保険サービスは利用者が通える範囲、あるいはスタッフが訪問できる範囲に市場が限定されがちです。
そのため、介護事業の成否は、物件を決める前の市場調査が非常に重要になります。
まずは厚生労働省が運営する介護サービス情報公表システムを活用し、予定地の競合事業所の数と稼働状況を確認しましょう。
参考:介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」|厚生労働省
この時点で競合が多かったとしても、それだけを理由に起業を諦める必要はありません。
むしろそれは、その地域の介護ニーズが厚いというサインの可能性もあります。
たとえば競合が日中の支援を中心に行っている場合、朝夕の短時間や土日の対応、急な依頼、医療機関との連携などに、満たされていないニーズがあるかもしれません。
また、介護は需要があったとしても、スタッフが採用できなければサービスを供給できない業態です。
訪問介護なら「ヘルパーが集まらないエリア」、通所なら「送迎範囲が厳しい地形」、居宅介護支援なら「ケアマネの担当上限に近い事業所が多い」など、地域ごとにさまざまな事情があります。
市場調査では利用者数だけでなく、こうした「人材が確保できる市場か」という視点もセットで行ってください。
ステップ2:定款作成と法人登記
介護保険法に基づく指定事業を行うためには、原則として法人を設立しなければいけません。
日本で法人を設立する場合は、主に株式会社か合同会社を選択します。
それぞれの違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
いずれにしても、会社の憲法とも言われる定款(ていかん)を作成し、法人登記を行う必要があります。
定款の事業目的には「介護保険法に基づく◯◯事業」「前各号に附帯関連する一切の事業」といったように記載しましょう。

しかし設立にあたっては、10名以上の社員や行政の審査を要します。
設立手続きにも最低で3カ月以上かかり、会計や税務処理も一般的な企業とは異なる対応が必要になります。
起業時にNPO法人を選択するのは、ハードルが高いと感じるケースも多いため注意してください。
ステップ3:物件の選定・賃貸借契約
物件選びは、介護事業において「設備基準」という法的なハードルをクリアするための重要な工程です。
事務スペースがあればいい一般企業とは異なり、介護事業所は「広さ・構造・プライバシー保護」の3点において、自治体が定める基準を満たす必要があります。
賃貸借契約を結ぶ前に、かならず自治体の窓口に赴くなどして、詳しい基準を確認しましょう。
また物件の「用途地域」によっては、そもそも介護事業所を開設できないケースも存在します。
事前に不動産会社に「介護事業の指定を受けること」を明記した特約を検討してください。
ステップ4:管理者・スタッフの採用と雇用契約
物件の目処が立ったら、次は人員基準を満たすための採用活動に入ります。
介護事業の指定申請には、開業時点で配置予定のスタッフ全員の「資格証の写し」と「雇用契約書(または労働条件通知書)」の提出が求められます。
ハローワークや自社SNSを活用した直接採用に加え、内定を出す前に「指定申請に必要であること」を説明し、速やかに資格証を確認できる体制を整えてください。
ステップ5:備品の購入と損害賠償保険への加入
介護事業所の指定を受ける際には、個人情報保護と衛生管理の観点から、以下の備品が求められるのが一般的です。
| 備品 | 注意点 |
|---|---|
| 鍵付き書庫(キャビネット) | 利用者の契約書や個人情報を保管するため 移動不可または固定できるものが望ましい |
| PC、プリンター、電話・FAX、ネット環境 | 介護報酬の請求や自治体への報告に用いる。FAXは依然として医療機関との連携で多用される |
| 消毒液、ペーパータオル、非接触型体温計 | 感染症対策マニュアルなどに沿った備え付けが必要 |
| 掲示板(ホワイトボードなど) | 運営規程、重要事項、苦情窓口などを常時掲示する運用が求められる |
また、万が一介護事故が発生した場合、事業所が負う損害賠償額は数千万から数億円に達することもあります。
そうした事態に備えるため、損害賠償保険にも必ず加入しておきましょう。
指定申請の要件としても「損害賠償保険への加入」が明記されており、加入を証明する書類の提出が求められるのが一般的です。
ステップ6:自治体への指定申請
法人格と物件、人員が揃った段階で、自治体への指定申請が可能になります。
申請は「開業したい日の前々月末まで」など、自治体ごとに厳格な締切日が設けられています。
提出する書類も膨大な量になる事が多く、準備には時間がかかります。
近年では「介護事業所の指定申請等のウェブ入力・電子申請システム」による電子申請が推奨されています。
参考:介護事業所の指定申請等のウェブ⼊⼒・電⼦申請の導⼊、文書標準化|厚生労働省
ステップ7:指定(認可)書の受領と開業
自治体による審査と現地確認をパスすると「指定書(事業者番号が記載された認可証)」が交付されます。
これで法的に介護保険事業所として営業を開始できます。
しかし実務的には、指定書を受け取ったら直ちに、介護報酬を請求するための「介護給付費等の請求及び受領に関する届出」を、各都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)に提出しなければいけません。
また、地域のケアマネジャー(居宅介護支援事業所)に対し、開業の挨拶とともに事業所番号を通知しておきましょう。
介護事業での資金調達方法
介護事業をスタートさせるためには、有資格者の採用活動や物件の取得、備品の整備などに多額の初期費用が必要になります 。
また、起業したあとも多額の固定費がかかるうえ、介護報酬が実際に入金されるまでにはサービス提供月から数カ月の期間を要するため、現金の流出が先行する「キャッシュフローの空白期間」への備えも不可欠です。
自己資金のみでの起業が難しいときは、金融機関からの融資などを検討しましょう。
介護事業で利用できる融資
実績のない創業期において、受けられる融資は限られています。
しかし日本政策金融公庫が行う新規開業・スタートアップ支援資金は、無担保・無保証人で創業期の起業家に対し融資を行っています。
また、介護事業に特化した政府系金融機関である福祉医療機構が行う「福祉医療貸付制度」では、低利かつ長期の固定金利が特徴です。
参考:福祉医療貸付制度 融資のごあんない|独立行政法人 福祉医療機構
介護事業で利用できる補助金・助成金
融資とは異なり、返済義務のない助成金や補助金は、人件費やシステム投資の負担を軽減する有効な手段です。
有期雇用労働者を正社員に転換した場合や賃金規定などを改定した際に支給される「キャリアアップ助成金」や、介護報酬請求ソフトやタブレット端末の導入費用に対し補助が受けられる「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)」などが有力な候補となります。
参考:デジタル化・AI導入補助金2026|独立行政法人中小企業基盤整備機構
ただしこれらの制度は、受給までに通常半年以上の期間を要します。
支出が発生するタイミングでは、自分の資金から支払いを行わなければならないため、起業初期の運転資金に関しては補助金や助成金をあてにしないようにしましょう。
介護報酬ファクタリングによる早期資金化
融資以外の資金調達手段として、国保連(国民健康保険団体連合会)への介護報酬債権を専門の業者に譲渡し、通常よりも早く現金化するファクタリングという手法があります。
通常、介護報酬の入金はサービス提供月の数カ月後となりますが、ファクタリングを利用することで、請求から数日で現金を手にすることが可能です。
手数料として売上の0.5~1.0%程度が発生しますが、開業初期の極端な資金不足を解消し、借入れを増やさずにキャッシュフローを回すための戦略的な手段として、検討の価値があります。
ただし業者のなかには、ファクタリングを装って債権を担保とした高金利での貸付けを行うヤミ金融業者などもいるため、十分に注意してください。
介護事業でよくある失敗と対処法について
介護事業において、倒産や廃止に至る要因は、単なる資金不足だけではありません。
制度上のルール遵守や人材の確保、さらには突発的な事故への備えといった、介護業界特有の経営課題が複雑に絡み合っています。
介護事業を営むうえでよくある失敗は、以下の3つです。
- 採用難
- 実地指導
- 事故発生時の対応や賠償リスク
これらのリスクを事前に予見し、対策を講じることが、長期的な事業継続を考えるうえで重要となります。
その1:採用難
スタッフが確保できず人員基準を割り込むと、介護保険法の指定取り消しや、新規受け入れの制限が発生するリスクがあります。
特に介護業界では、何らかの資格や認定を受けたスタッフが必要不可欠になります。
これらを確保できない場合、事業に大きな影響が及ぶことは避けられません。
厚生労働省が公表している雇用動向調査では、医療・福祉産業での離職率は2024年時点で13.8%となっています。
これには病院などで勤務する人の離職率も含まれるため、介護業界のみの離職率とは言えませんが、大きな分類としての離職率は比較的高い割合であると言えます。
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引用:令和6年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省(PDF)を加工して作成
人材エージェントや既存スタッフ、関係する企業や施設などからの紹介に加え、求人サイトでの採用も積極的に検討してみてください。
その2:実地指導
実地指導(運営指導)とは、自治体が数年に一度、実際に事業所に立ち入り、人員・設備・運営基準が守られているかを確認する行政調査です。
ここで不備が発見された際には改善指導や、場合によっては介護報酬の返還、指定の取り消し処分などを受けることもあります。
運営指導の頻度は自治体により異なりますが、国の考え方としては指定などの有効期間(6年)以内、施設サービス・居住系は3年に1回以上が望ましいとされています。
指導の実施にあたっては、通常、実施日の約1カ月前までに自治体から書面で通知が届きます。
実地指導において検査官が重点的に確認するのは「計画(ケアプラン・計画書)」「実施(介護記録)」「請求(レセプト)」の3点に矛盾がないかという点です。
また、これらを着実に行っていたとしても、その実施内容を証明する記録が欠けている場合、介護保険法上は「サービスを提供していない」とみなされ、報酬を受け取る正当性が失われます。
毎月1回は、人員の常勤換算数や記録の漏れをセルフチェックする体制を整え、常日頃から実地指導に備えておきましょう。
その3:事故発生時の対応や賠償リスク
介護現場において、転倒、骨折、誤嚥(ごえん)といった事故を完全にゼロにすることは不可能です。
どれほど注意を払っていても、身体機能の低下した利用者を預かる以上、突発的な事態は発生します。
ここで事業者が直面するのは、金銭的な賠償責任だけでなく、行政処分や地域の信頼失墜という極めて重い経営リスクです。
重大な事故が発生し、事業所側に安全配慮義務違反が認められた場合、損害賠償額は数千万から数億円に達することがあります。
これに対し、個人や法人の資産だけで対応することは通常不可能です。
こうした事態への備えとして、賠償責任保険への加入は経営における最低限の防波堤となります。
訪問介護では、日本訪問看護財団が提供する「あんしん総合保険制度」、介護事業所の運営では介護労働安定センターの「介護事業者賠償責任補償」などを検討してみましょう。
参考:介護事業者賠償責任補償パンフレット|介護労働安定センター(PDF)
ただし、保険によっては「介護保険法などに基づく介護関係業務を行う事業者」を加入対象としていることも多いので、あらかじめ要件を確認してください。
この記事のまとめ
介護事業での起業を成功させるためには、制度上の厳格なルールを遵守しながら、経営者としての視点で資金とリスクを管理し続ける姿勢が求められます。
介護保険の指定を受ける事業所として開業する場合、個人事業主ではなく法人格の取得が必須であり、自治体が定める人員・設備・運営といった基準を1つでも欠かすことはできません。
また開業までのプロセスにおいては、市場調査から指定申請、備品の完備、保険加入に至るまでのステップを的確に進める緻密さが欠かせません。
一方で、保険外サービスであれば個人でのスモールスタートも可能ですが、資格や実績による独自の信頼構築が成約率を左右する鍵となります。
事業開始後は、採用難や稼働率の低下といった経営課題に加え、数年に一度行われる行政による運営指導(実地指導)や、突発的な事故への対応など、現場と事務の両面でリスクマネジメントを徹底しなければなりません。
介護事業での起業に不安があれば税理士や行政書士に相談しよう
介護事業は、国から報酬を受け取る「公的な側面」が強いため、他業種に比べて提出書類や守るべきルールが膨大です。
これらをすべて独力でこなそうとすると、開業準備だけで疲弊してしまうことも少なくありません。
また起業したあとも、スタッフの管理やキャッシュフローの把握、日々の帳簿付けといった経理作業などは欠かせません。
最も集中するべき介護業務や経営戦略に集中するためにも、こうした業務を士業などに委託することも検討してみてください。
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