この記事でわかること
- デジタル遺産の概要
- 相続でデジタル遺産の存在を放置した場合の問題点
- 被相続人の相続財産にデジタル遺産がある場合にやること
亡くなった人が保有していたデジタルデータのうち、金銭的価値のある財産のことを「デジタル遺産」と呼びます。
デジタル遺産はその存在が掴みにくく、相続発生時に財産目録から漏れてしまいがちです。価値の高いデジタル遺産の存在を見落とした場合、追徴課税が課される可能性もあります。
この記事ではデジタル遺産について、その概要や放置した場合の注意点、対処法などを解説します。
目次
デジタル遺産とは?
デジタル遺産とは、被相続人(亡くなった人)が保有していた、デジタルデータとして存在する金銭的価値のある財産のことです。
一般的に、インターネット上のサービスアカウントやパソコン・スマートフォン本体に保存されたデータや、インターネット上のアカウントなどが含まれ、ログインIDやパスワードによって管理されています。
そのため、紙の通帳や権利書などが存在せず、実体がないのが特徴です。
代表的なデジタル遺産には以下のようなものがあります。
- ネット銀行口座やネット証券口座の残高
- 仮想通貨(暗号資産)やFXの証拠金
- 電子マネーの残高
- クレジットカードのポイントや航空会社のマイル
- 有料で販売・配信できるデジタルの著作物
- 有料会員サービス(サブスクリプションサービス等)の契約アカウント など
また、デジタル遺産と似た言葉に「デジタル遺品」がありますが、これらは区別して使われることがあります。デジタル遺産が金銭的価値を持つ財産を指すのに対し、デジタル遺品は金銭的価値を持たないデジタルデータを指します。
- スマートフォンやパソコンに保存された写真や動画
- SNSアカウント
- メールアドレス、電話帳、SNSのトーク履歴
相続でデジタル遺産への対応が難しい理由
相続でデジタル遺産への対応が難しい大きな理由が、相続人がその存在を把握しにくい点です。
被相続人が預金口座を持っている場合は、金融機関から郵送物が届くことがありますが、デジタル遺産の場合はそのような物理的な手がかりがないケースも少なくありません。
デジタル遺産は預金通帳のように目に見える形で管理されているわけではないため、遺品整理中に存在を見逃してしまう可能性があります。
- デジタル端末やアカウントのパスワードがないと開けない
- 相続時の手続きが難しくなりがち
- 被相続人や関係者のプライバシーに配慮する必要がある
デジタル端末やアカウントのパスワードがないと開けない
被相続人がデジタル遺産を持っているかどうかを調べるには、被相続人が利用していたデジタル端末のアプリやメールの受信箱を確認する必要があります。
デジタル遺産はスマートフォンやパソコンなどの端末自体のロック、または各サービスのログインIDやパスワードによって厳重に保護されています。
端末のロックやアカウントのパスワードには、顔認証や指紋認証、二段階認証といった複雑な設定がされているケースも多く、被相続人の親族であっても簡単に中身を見ることができません。
IDやパスワードが不明な場合、アカウント内のデジタル財産の内容を確認できない状態に陥ることもあり、手続きが滞ってしまう可能性があります。
相続時の手続きが煩雑になりがち
「デジタル遺産」と一言でいっても、その種類は多岐にわたります。
サービスや運営サイトごとに手続きの仕組みも異なるため、被相続人が複数のデジタル遺産を持っている場合は特に相続手続きが煩雑になります。
また、デジタルサービスの中には、相続時の手続き方法がサイト上等で明確に記載されていない場合もあるため、問い合わせなどの手間がかかる可能性もあります。
被相続人や関係者のプライバシーに配慮する必要がある
被相続人が残したデジタル遺産はプライバシーに深く関わる情報を含むため、その取り扱いには慎重な配慮が必要です。
端末内やクラウド上などにあるデジタルデータには、ECサイトでの購入履歴、個人的なメールやチャットのやり取り、プライベートな写真や動画などが含まれる可能性があります。
被相続人にとって知られたくない情報が掘り起こされる恐れもあるため、デジタル遺産を取り扱う際は注意すべきです。
相続でデジタル遺産の存在を放置した場合はどうなる?
被相続人が持っていたデジタル遺産の存在を把握せずに放置してしまうと、相続人にとって様々な不利益が発生する可能性があります。
- 遺産分割協議のやり直しが必要になる可能性がある
- 相続税の追加課税が課される可能性がある
- 資産価値の下落や余計な費用負担が発生することも
ここからは相続でデジタル遺産の存在を放置した場合に起こり得る不利益について、順に解説していきます。
遺産分割協議のやり直しが必要になる可能性がある
相続が発生すると、遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、被相続人の財産をどのように分割するかを決めます。
遺産分割協議がまとまった後に高額な仮想通貨などのデジタル遺産が発見された場合、既に合意した遺産分割協議の全部または一部がやり直しとなる可能性が生じます。
遺産分割協議は被相続人の全ての財産が明らかになっていることが前提のため、後から発見されたデジタル遺産の種類や金額次第では、最初から遺産分割協議がやり直しとなるケースもあります。
最初からやり直しとなれば、「相続人全員のスケジュールを再調整する」「遺産分割協議書を再作成して相続人全員分の署名・捺印をもらう」などの手間と労力がかかります。
相続税の追加課税が課される可能性がある
相続でデジタル遺産の存在を放置した場合、相続税の追加課税が課されるリスクもあります。
相続税の計算では、相続財産の価値を評価(相続税評価額の算出)することが必要です。
仮想通貨をはじめ、デジタル遺産の中には価値が変動するものもあることから、「被相続人が保有しているデジタル遺産に気づかない」もしくは「デジタル遺産の存在を把握していてもアクセスできない」場合、評価額を把握することができません。
相続税申告書の作成にも支障がでるため、相続税の申告期限に間に合わない可能性が生じます。
申告が遅れた場合は延滞税や無申告加算税、あるいは申告後に財産が見つかった場合は過少申告加算税といった追徴課税が課されることになります。
資産価値の下落や余計な費用負担が発生することも
仮想通貨やFX口座のような価値が変動しやすいデジタル遺産を被相続人が保有している場合、被相続人が亡くなったあとに資産価値が下落することがあります。
こうした価値が変動するデジタル遺産は、相続税の計算時に「相続開始時の時価」で価値を評価する一方で、実際に相続人が受け取る金額は「口座の解約時の価額」です。
仮想通貨やFXなどの金融商品は市場の価格変動が比較的激しいことから、相続開始時と相続人が口座を解約する時とで、資産価値が大きく下落する可能性があります。
相続開始時の評価額が高かったにもかかわらず、受取時に価値が下落していた場合、「相続税が多くかかったのに、手元に入る金額が少ない」ということも起こり得ます。
サブスクリプリョン型の有料サービスの自動引き落としに注意
サブスクリプション型の有料サービスは、契約が自動更新のケースが少なくありません。
契約者本人が亡くなったからといって自動的に解約されるわけではないため、料金の支払いに使用していたクレジットカードや口座が使用可能な限り、料金の引き落としが続くことになります。
また、支払い先の銀行口座やクレジットカードを解約したとしても、請求自体は発生し続けます。仮に契約者本人が亡くなってから1年後に解約手続きをした場合であれば、1年分の料金の支払いを求められることも起こり得ます。
被相続人の相続財産にデジタル遺産がある場合にやること
被相続人の財産にデジタル遺産があると疑われる場合、その存在を調査して明らかにしたうえで、相続手続きを行う必要があります。
ここからは被相続人の相続財産にデジタル遺産がある場合にすべきことを、以下の順で解説します。
- 被相続人のデジタル遺産の有無を調査する
- 被相続人のデジタル財産の相続税評価を行う
- 仮想通貨等でマイナスの財産が多い場合は相続放棄の検討も
被相続人のデジタル遺産の有無を調査する
相続が発生した場合、まず遺言書があるかどうかを確認し、その後、法定相続人や相続財産の調査を行います。
相続財産の調査の際、被相続人のデジタル遺産の有無も確かめるのも重要です。
デジタル遺産は実体が掴みづらく、手がかりがないと発見が困難ですが、放置すると相続トラブルや損失につながる可能性があります。
- Step1 デジタル機器のロックの解除
- Step2 アプリやブックマークされているサイト、メールの受信箱などを確認
- Step3 被相続人の通帳や郵送物、クレジットカードの利用明細なども確認する
Step1 デジタル機器のロックの解除
まずはスマートフォンやパソコンなどのデジタル端末のロックを解除します。
このとき、パスワードを複数回間違えるとデバイスが初期化されたり、完全にロックされたりすることもあるため、やみくもに入力することは控えましょう。
端末のパスワードが不明でロック解除ができない場合は、専門業者へ依頼する手もありますが、費用が高額になる傾向にあります。
Step2 アプリやブックマークされているサイト、メールの受信箱などを確認
デジタル端末にアクセスできたら、インストールされているアプリやブックマークされているサイト、メールの受信箱などを確認します。
メール履歴やブックマークは、利用頻度の高いサービスや取引状況を示すヒントとなるでしょう。
ネット銀行や仮想通貨などの金融取引はアプリを介して行われることが多いため、アプリの確認はデジタル遺産を見つける大きな手がかりになります。
Step3 被相続人の通帳や郵送物、クレジットカードの利用明細なども確認する
次に、物理的な手がかりとして、被相続人の通帳や郵送物、クレジットカードの利用明細などを確認することも有効です。
これらの明細に有料サービスの引き落とし履歴などが記載されている場合、請求元の会社に「契約者が亡くなった」という事実を連絡することで、デジタル遺産の有無を問い合わせることが可能です。
被相続人のデジタル財産の相続税評価を行う
被相続人のデジタル遺産が相続財産に含まれている場合、その財産の相続税評価額を算出する必要があります。
デジタル遺産のうち仮想通貨(暗号資産)に関しては、以下のように評価方法が決まっています。
- 「活発な市場が存在する」場合
- 暗号資産交換業者において十分な数量・頻度で取引が行われているなど、客観的な交換価値がある場合、以下のいずれかの方法で評価します。
① 相続人等が取引している暗号資産交換業者が公表している、相続開始日の売却価格
② 相続人等が取引している暗号資産交換業者が発行する、相続開始日の残高が記載された残高証明書の取引価格
③ 相続人等が複数の暗号資産交換業者で取引を行っていた場合は、その相続人が選択した暗号資産交換業者が公表する取引価格 - 「活発な市場が存在しない」場合
- 活発な市場が存在しない暗号資産の場合には、客観的な交換価値を示す一定の相場が成立していないことから、その暗号資産の内容や性質、取引実態等を勘案し個別に評価します。
また、仮想通貨以外のデジタル遺産の評価方法は個々に決められているわけではありません。財産評価の原則である相続開始時の時価を評価額とします。
仮想通貨等でマイナスの財産が多い場合は相続放棄の検討も
被相続人が保有していたデジタル遺産の中には、マイナスの財産が含まれている可能性も考慮する必要があります。
FXのような取引では、相場や為替が大きく変動することで、委託保証金が一定水準を下回ると「追加証拠金」の支払いが求められる可能性があります。
大規模な金融危機の発生などで相場が急激に変動すると、損失が投資金額を上回り、追加証拠金として証券会社に支払わなければならないお金が負債として残ることがあるのです。
そのため、財産調査をした結果、プラスの財産よりもマイナスの財産が明らかに多い場合は、相続放棄を検討することも一つの選択肢です。
ただし、相続放棄の手続き期限は、自己のために相続開始があったことを知った日から3カ月以内のため、相続放棄をする場合は早めの検討が必要です。
遺産分割協議でデジタル遺産を含めた分割先を決める
被相続人のデジタル遺産を含めた相続財産が確定したら、遺言書がない場合は法定相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰がどの財産を相続するか」を話し合います。協議成立後は、分配内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。
遺産の分割方法が固まったら、財産を取得した人ごとに納める相続税の金額を計算します。このとき、算出した課税遺産総額が基礎控除額を超えた場合は、相続税の申告・納付義務が生じます。
もし相続税の申告義務が生じた場合は、相続開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に税務署に申告書を提出し、納付しなければなりません。
各種サービスの解約・名義変更
デジタル遺産を含めた財産調査や相続税評価、遺産分割協議が完了したら、各種サービスの解約や名義変更の手続きを行います。
ここからはデジタル遺産の解約手続きのうち、ネット銀行(ネット証券)や仮想通貨に関する手続きの主な流れを解説します。
- ネット銀行の預貯金口座やネット証券口座
- 仮想通貨
ネット銀行の預貯金口座やネット証券口座
遺言書で決まっている場合または遺産分割協議でデジタル資産を受け取る人が決まった後、まずはネット銀行のカスタマーサポートに連絡します。
ネット銀行は通帳を発行せず、実店舗がない場合が多いためです。 連絡先はホームページに記載されていることが多いので、「〇〇銀行 相続手続き」と検索して調べるのが良いでしょう。
手順 | |
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1.カスタマーサポートへの連絡 | カスタマーサポートには、被相続人の名前、口座番号、亡くなった日などを伝えます。内容が確認できると、担当者が口座の取引をストップします。 |
2.ネット銀行から手続きに必要な書類の発送 | 手続きに必要な書類や案内などが、ネット銀行より送付されます。 |
3.手続きに必要な書類の準備と返送 | 被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍抄本・謄本、死亡届など、ネット銀行が指定する書類を集めて郵送します。 資産の相続方法が明記された遺言書や、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書など、財産分与に関する資料も提出します。その他に要望された書類があれば全て提出しましょう。 |
4.払い戻し等の手続き | 銀行が書類を確認したあと、口座解約や払い戻しの処理などを行います。 |
また、ネット証券(株式、投資信託)の場合も通帳や証券などの書類や実店舗がないので、ホームページからカスタマーサポートに問い合わせをします。
問い合わせ後は必要書類の郵送のほか、株式や投資信託を相続する場合は、相続人がその金融機関に口座を作り、被相続人の投資信託や株式の残高の名義を変更して移管させるのが一般的です。
仮想通貨
仮想通貨の相続手続きを行う場合も、まずは交換業者のカスタマーサポートに連絡します。
所有者が亡くなったことを伝えると、交換業者から相続する時点での残高証明書が送付され、仮想通貨の種類や数量などが確認できます。
手順 | |
---|---|
1.カスタマーサポートへの連絡 | カスタマーサポートには、被相続人に関する氏名や亡くなった日等の情報をはじめ、相続人の個人情報や遺産分割協議書・遺言書の有無などを伝えます。 交換業者も金融機関と同様に、被相続人が亡くなったことを伝えると口座が凍結され、以降の取引はできなくなります。 |
2.交換業者から手続きに必要な書類の発送 | 手続きに必要な書類や案内などが、交換業者より送付されます。 |
3.手続きに必要な書類の準備と返送 | 交換業者に指定された書類を準備し、返送します。必要書類は交換業者によって異なるため、必ず確認し、全て揃えて送付しましょう。 なお、この段階で移管用の代表相続人アカウントの作成や本人確認等を求められる場合もあります。 |
4.交換業者による相続移管手続きなど | 無事に必要書類が受理されると、被相続人の口座は解約されます。 仮想通貨は移管先の代表相続人の口座に振り込まれ、相続手続きは終了となります。
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デジタル遺産に関する疑問は相続専門税理士に相談しよう
デジタル遺産は一般的な財産と同様に相続の対象となりますが、相続人がその存在を把握したり、アクセスしたりすることが難しいという注意点があります。
しかしながら、デジタル遺産を放置すると、遺産分割協議のやり直しなどの不利益が発生する可能性があります。
そのため、デジタル遺産に関する疑問や相続対策でお困りの場合は、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
財産調査の方法や相続税評価額の計算方法など、個別の状況に応じた具体的なアドバイスを提供してもらえますので、相続時の負担を軽減してくれるでしょう。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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