この記事でわかること
- 遺産分割の際に問題になることのある「寄与分」について理解できる
- 寄与分の請求要件がわかる
- 寄与分の計算方法や請求の流れを知ることができる
「介護施設に預けることなく、親の介護をしてきた」
「長年、無償で家業を手伝ってきた」
亡くなった人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人は、「寄与分」が認められるかもしれません。
しかし、寄与分の要件は極めて厳しく、主張には証拠書類が必要です。
この記事では、寄与分の仕組みや認定されるための要件、計算方法や注意点をわかりやすく解説します。
目次
寄与分とは
寄与分とは、亡くなった人(被相続人)の財産の維持や増加に貢献した相続人がいる場合、その貢献の度合いに応じて相続分を増加させる制度です。
被相続人の存命中に何かしらの貢献をした相続人(寄与者)がいた場合、法定相続分どおりに遺産を分けると、不公平感が生まれる可能性があります。
そのような場合、寄与者の相続分をほかの相続人よりも多くすることで、相続人間での公平な遺産分割が図ることができます。
寄与分の請求要件
寄与分を請求するには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 相続人である
- 被相続人の財産の維持や増加に貢献した
- 特別の寄与を行った
- 無償、または無償に近い状態で貢献した
- 一定期間、継続して貢献した
- 相続開始前の貢献である
相続人である
寄与分を請求できるのは、原則として相続人に限られます。
子どもがいる場合の親や兄弟姉妹など、法定相続順位により実際に相続人とならなかった人は、寄与分を請求することはできません。
また、相続欠格・廃除、相続放棄によって相続人でなくなった人も寄与分の主張はできません。
特別寄与料制度について
相続人ではない親族が、被相続人の療養看護や介護などで特別な貢献をした場合は、「特別寄与料」を請求できる制度があります。
例えば、被相続人に息子がいて、その妻が長年にわたり義理の親の介護を無償で行っていたようなケースが挙げられます。
息子の妻には相続権はありませんが、被相続人の財産の維持や増加に貢献したことが認められれば、「特別寄与者」として相続人に対し金銭を請求することが可能です。
なお、ここで親族に該当するのは「3親等内の姻族」および「6親等内の血族」です。
注意相続税額の2割加算について
特別寄与料を受け取った人は、遺贈により財産を受けたとみなされ、相続税の課税対象となります。
特別寄与者の場合は、相続税の2割加算の対象となり、法定相続人よりも税額が高くなります。
内縁の妻や夫は、寄与分を請求できるか。
内縁関係(事実婚)の配偶者は、法定相続人として認められないため、寄与分の対象外です。
また親族に該当しないため、特別寄与料の請求も認められません。
内縁の配偶者が被相続人から財産を受け取るには、遺贈や生前贈与など、被相続人が生前のうちに対応をしておく必要があります。
被相続人に法定相続人がいない場合は、特別縁故者として財産を受け取れる可能性もありますが、認定までには相当の時間や手続きを要します。
被相続人の財産の維持や増加に貢献した
寄与分が認められるのは、生前の被相続人の、財産の維持や増加に貢献した人だけです。
例えば、「被相続人の事業資金を提供した」場合や「被相続人をつきっきりで療養看護をした分、費用がかからなかった」場合が挙げられます。
単に被相続人の身の回りの世話をしたというだけでは、寄与分は認められる可能性は低いでしょう。
特別の寄与を行った
「特別の寄与」とは、相続人の貢献度が通常の扶養義務を超えた高い寄与のことを指します。
被相続人に対する働きが、単なる民法上の扶養義務を超え、期待される以上の貢献度であったことが求められます。
親子間や夫婦間で通常行われる以上に貢献度が高い行為でないと、特別の寄与は認められません。
なお、特別の寄与に該当するかどうかは、原則相続人同士の話し合いにより決められます。
無償、または無償に近い状態で貢献した
被相続人から報酬を受け取っていないことも、寄与分認定の条件の1つです。
例えば、長年にわたり親の介護や家事などを無償で行っていたケースは、寄与分として評価されやすくなります。
また、報酬が出ていた場合でも、その報酬の額が通常の労働の対価と比べて著しく低い場合は、「実質的には無償に近い貢献」として寄与分が認められることがあります。
一定期間、継続して貢献した
寄与分が認められるには、被相続人に対し、一定期間、継続的に貢献していたことも必要です。
被相続人の介護や家業を数日間だけ手伝っても、寄与分とは認められません。
継続性があるかどうかは、具体的な期間が規定で定められているわけではなく、個別の判断によります。
一般的には、3年程度被相続人に対する貢献があれば、寄与分が認められる可能性があると言われています。
相続開始前の貢献である
寄与分は「生前の被相続人に対する貢献度合い」で判断します。
相続開始後に相続財産を維持・増加させたとしても、その貢献は寄与分として評価されません。
寄与分の種類・寄与行為の5つの型
寄与行為には、以下の5つの型があります。
- 家事従事型
- 金銭出資型
- 療養介護型
- 扶養型
- 財産管理型
家事従事型(家業従事型、事業従事型)
家事は、家業や事業のことを指します。
家事従事型の寄与分とは、被相続人の事業(商店、飲食店、農業など)に無償または極めて低い報酬で従事し、売上や財産の維持・増加に貢献した場合に認められるものです。
一般の従業員と同程度の給料を受け取っていた場合、寄与分は認められません。
金銭出資型(金銭等出資型)
金銭出資型の寄与分とは、「被相続人が住む家の購入資金を提供した」「被相続人の事業資金を援助した」「入院治療費などを負担した」といったように、被相続人の財産の維持・増加に貢献する形で金銭を支出した場合に認められるものです。
通常、支出が少額であったり対価を受け取ったりしていた場合は、寄与分とは認められません。
ただし、対価については、著しく低額で実質的には無償に近い貢献と評価されるようなケースでは、寄与分が認められる可能性もあります。
療養介護型(療養看護型)
被相続人を自宅で介護・看護した結果、介護施設やヘルパーなどへの費用が発生しなかった分、相続財産の維持につながることがあります。
療養介護型の寄与分は、相続人が長期間・無償で療養看護をしたことで、介護費用の支払いがかからなかった分の財産が維持された場合に認められます。
ただし、寄与分が認められるには「特別の寄与」に該当することが必要です。
また、被相続人が「要介護2」以上の状態であるなど、療養看護にかなりの負担を要する点も判断基準となります。
短期間だけの介護や軽度な支援では、通常の扶養の範囲内と判断され、寄与分とは認められないことが多い点には注意が必要です。
扶養型
被相続人と生計を一にし、生活費の負担などを通じて被相続人の財産の維持・増加に貢献した場合には、扶養型の寄与分が認められることがあります。
例えば「被相続人の生活費を負担していた」「定期的に仕送りをしていた」など、支出がなければ被相続人が財産を取り崩していたと考えられるような状況です。
ただし、寄与分として認められるためには、通常の扶養義務の範囲を超えた特別の貢献であることが必要です。
実際の判例では、相続人が約15年間にわたり、自身の給与の全額を被相続人の生活費に充て、家計の管理も担っていたケースにおいて、扶養型の寄与分が認められました(東京高裁平成22年9月13日決定)。
財産管理型
財産管理型の寄与分とは、被相続人の財産を管理し、財産の維持・増加に貢献した場合に認められます。
「長年、被相続人が所有する賃貸不動産の管理をしてきた」「不動産の売却先を探したり、立ち退き交渉をした」など、不動産の財産管理が典型例です。
一方、管理会社に任せている部分が大きい場合は、寄与分が認められないケースもあります。
寄与分の請求や立証は難しい
寄与分を主張するためには、明確な証拠に基づいて、貢献の内容や効果を立証する必要があります。
しかし実情として、寄与分の請求・認定は非常にハードルが高いと言えます。
主な理由は以下のとおりです。
- 寄与分の要件自体を満たすことが難しい
- 寄与分の主張を裏付ける客観的な証拠資料が求められる
- 期待していたほどの金銭がもらえない
寄与分が認められるためには、単なる扶養義務の範囲を超えた「多大な貢献」が必要です。
被相続人の生活を支えていても、一般的な家族間の扶助や法定の扶養義務の範囲内であれば、寄与分としては認められない可能性が高いです。
介護を例にしても、寄与分の認定は「要介護状態にある被相続人を、介護施設や訪問サービスに頼ることなく長年にわたり一人で世話をしていた」「無償で介護した結果、介護費用がかからず財産が維持された」など、特別な貢献であることを客観的に証明できる場合に限られます。
また、寄与行為と被相続人の財産の維持や増加との間に、明確な因果関係があることの立証が不十分な場合も、寄与分は認められない可能性が高いでしょう。
例えば、長年にわたり被相続人の食費の負担をしてきたという扶養型の寄与分を求める主張に対し、「証拠が不十分であり、かつ親子関係に基づいた扶養の範囲を超えるとは言えない」と判断されたケースもあります。
さらに、寄与分として認定される金額は、同様の行為を第三者(介護職員など)に依頼した場合の報酬相当額以下となることも多いです。
専門的な知識や技術の高さの違いが、寄与分の評価につながっており、金銭的にも期待ほどの評価が得られないことが、請求をためらわせる要因の1つとなっています。
寄与分の主張を考えている場合は、証拠書類や法的要件をしっかりと整理し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
寄与分の請求方法
寄与分の請求は必ずしも認められるとは限りませんが、介護費用の領収書など明確な裏付けとなる資料がある場合は、寄与分の請求を検討する価値はあるでしょう。
ここからは、寄与分の請求方法について紹介します。
遺産分割協議で主張する
寄与分を請求する相続人は、遺産分割協議の場で自ら主張する必要があります。
その際、寄与分の請求根拠となる資料や具体的な事実、算定金額を提示しましょう。
寄与分が認められるかどうかは、ほかの相続人の判断によります。
遺産分割協議で寄与分が認められた場合は、その寄与分を加味したうえで遺産の分配内容を決め、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割調停を申立てる
相続人同士の話し合いで遺産分割の合意が得られない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てることができます。
遺産分割調停では、調停委員を交えて話し合いが行われ、すべての相続人が合意に達すれば、調停成立となり、その内容を記載した調停調書に基づいて遺産分割が行われます。
なお、調停においても意見がまとまらない場合、手続きは遺産分割審判へと移行します。
遺産分割審判では、裁判所が寄与分の有無や相続分の調整を含めて判断します。
寄与分の計算方法
ここからは、寄与者がいる場合の財産の計算方法について紹介します。
ただし、寄与分は貢献度合いや期間などを総合的に考慮したうえで、裁判所が個別に判断します。
一般的な算定例はありますが、すべてのケースにそのまま当てはまるわけではない点を押さえておきましょう。
(1)相続分の計算について
- 寄与分がある人の相続分
- (相続時の財産価額ー寄与分)※✕相続分の割合+寄与分
- 寄与分がない者の相続分
- (相続時の財産価額ー寄与分)✕相続分の割合
- ※
- 相続時の財産価額ー寄与分=「みなし相続財産」と言います。
まず、相続財産の総額から、寄与分として認められる額を差し引きます。この差し引いた残りの金額が「みなし相続財産」となります。
続いて、上記で算出したみなし相続財産を、各相続人の法定相続分に応じて分配します。
さらに寄与者には、上記で分配された額に、寄与分として認められた額を加算します。
計算例
- 被相続人の財産を、妻、長男、次男の3人で相続する。
- 相続財産は1億円である。
- 長男の寄与分は1,000万円とする。
妻:(1億円-1,000万円)✕1/2=4,500万円
長男:(1億円-1,000万円)✕1/2✕1/2+1,000万円=3,250万円
次男:(1億円-1,000万円)✕1/2✕1/2=2,250万円
(2)寄与分の計算について
寄与分は「相続財産の維持増加分」をもとに加算されますが、具体的な金額の算出方法は、寄与の内容によって異なり、個別に判断されます。
一般的な計算式はありますが、あくまで目安の一例としてご覧ください。
寄与分の型 | 計算式 |
---|---|
家事従事型 | 寄与者が本来受け取るべき給与の年額✕(1-生活費控除割合※)✕寄与年数✕裁量的割合 |
金銭出資型 | 実際に支出した金額✕貨幣価値変動率✕裁量的割合 |
療養看護型 | 介護職員・ヘルパーの日当額✕療養看護日数✕裁量的割合 |
扶養型 | 生活費等を負担した額✕寄与年数✕(1-寄与相続人の法定相続分割合) |
財産管理型 | 売却や管理を第三者に依頼した場合の報酬額✕裁量的割合 |
- ※
- 給与に占める生活費相当額の割合
寄与分の請求に時効はあるか
2023年4月の民法改正により、「寄与分の主張により遺産分割ができる期間」に、制限(時効)が設けられました。
所定の期限を過ぎると、原則として法定相続分または指定相続分を基準とした遺産分割しか行えません。
相続発生日 | 時効 |
---|---|
2023年4月1日以降 | 相続開始時から10年以内 |
2023年4月1日以前 | 相続開始時から10年以内、または法改正施行時から5年以内のいずれか遅いほう |
例外はありますが、寄与分を考慮した遺産分割を行うためには、相続開始から10年以内に寄与分を主張・請求する必要があります。
また、「特別寄与料」の請求期限はもっと短く、「特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月以内」に行う必要があります。「相続開始から1年以内」に権利行使をしない場合、請求権利自体が完全に消滅してしまう点にも注意しましょう。
なお、時効成立前でも、遺産分割協議が成立した後は、寄与分を主張・請求することは原則としてできなくなります。
寄与分を考慮して生前対策をする
寄与分は、必ず認められるわけではありません。
親身に介護や家事を担ってくれる相続人や親族、または内縁の配偶者などに確実に財産を渡したい場合は、生前のうちに対策を講じておきましょう。
主な生前対策としては、以下の方法があります。
- 寄与への対価として金銭を支払う(給与支払い・契約など)
- 寄与分を反映した遺言書を作成する(遺贈)
- 寄与者へ生前贈与をする
- 寄与者を生命保険金(死亡保険金)の受取人として指定する
- 寄与者と養子縁組を結び、法定相続人にする
ただし、これらの方法には贈与税や相続税、特別受益や遺留分などの問題が伴う可能性があります。
例えば、相続人に対する遺贈や生前贈与が特別受益と判断されると、その分がほかの相続人の相続分に影響し、遺産分割の際に持ち戻しの対象となる可能性があります。
また、介護をしていた相続人が、生前の被相続人の預金通帳から多額の出金をしていた場合は、その出金が特別受益とみなされたり、不当利得として争われたりすることもありえます。
遺言書1つをとっても、遺留分を侵害した場合は、相続発生後にトラブルが生じることもあります。
特定の人に財産を渡すということは、ほかの相続人が受け取れる財産が減るということです。
法律面・感情面の問題が複雑に絡むこともありますので、遺された人同士でいさかいが起こらないよう、慎重に対策をしましょう。
生前対策は、法律や税務に精通した専門家とともに進めることをおすすめします。
大切な人に財産や想いを残すためにも、早めの相談が何よりの安心につながります。
寄与分の計算や請求をするときは、専門家に相談しよう
寄与分は、生前の被相続人に対し特別な貢献をした相続人が、その貢献度に応じた相続分を請求できる制度です。
相続人以外の一定の親族も「特別寄与料」として金銭を請求できます。
ただし、寄与分の認定には綿密な立証が必要であり、話し合いがまとまらないと調停や審判に進むことがあります。
また、相続手続きには専門的な知識が求められるため、一人での対応は難しいことがあります。
寄与分を主張したいときは、相続に強い専門家へ早めに相談することをおすすめします。
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