東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
交通事故に遭ってしまい、保険会社から過失割合の提示を受けたものの、被害者なのに過失があると言われて驚いている、または、保険会社の決めた過失割合に納得がいかないので、決定の仕組みや対処法が知りたい、という方がいらっしゃると思います。
この記事では、交通事故の過失割合の意味、過失割合は誰が決めるのか、どのようにして決まるのかについて解説します。
併せて、過失割合に対する保険会社と警察の関わり方、過失割合に納得がいかない場合の対処法についても説明します。
目次
交通事故では、被害者であってもある程度の過失があると認められることがほとんどです。
たとえば、信号のある交差点を右折時に直進車と衝突したような場合、直進車優先なので、右折車に非があると思われます。
しかし、実際には、直進車側にも不注意やスピードの出しすぎなどの過失が認められる場合もあります。
「過失割合」とは、交通事故の加害者と被害者の過失の割合を簡単な数字で表してわかりやすくしたものです。
具体的には、10対0や9対1、7対3などのように示されます。
10対0であれば被害者の過失は0になるということです。
過失割合に基づいて、その分交通事故の責任が生じるということになります。
過失割合は損害賠償金の計算において用いられ、過失相殺によって相手方に請求できる損害賠償金が過失割合分減額されることになります。
次からは、過失割合がどう決まっていくのかについて解説していきます。
交通事故の過失割合は誰が決めているのでしょうか。
交通事故に遭った場合、警察に届け出て警察が実況見分を行います。
そのため、警察が過失割合を決めていると思いがちです。
しかし、警察は過失割合の決定には民事不介入により関わることができません。
交通事故の過失割合を決めているのは保険会社です。
過失割合は、加害者側と被害者側の任意保険の保険会社が、警察の作成した実況見分調書や独自の調査などをもとに話し合って決めることになります。
その際に参考とされるものに、過去の判例や法律の解釈によってパターン化された事故と過失割合の類型があります。
信号機の色はどうだったのか、道路の幅員はどうだったのか、追い越しだったのか、などの事故の態様や、自動車、バイク、歩行者など事故を起こした当事者の種類によって細かく分類、体系化されています。
ただし、最終的な決定権は被害者と加害者本人にあるため、通常、加害者側の保険会社が提示してきた過失割合に被害者が同意する形で過失割合が決まります。
被害者や加害者本人が納得できず、話し合いによって両者の妥協する過失割合が決まらないときは、裁判によって決めることになります。
過失割合は、被害者が加害者に請求できる損害賠償金の支払い額に大きく影響します。
被害者側の損害賠償金の総額を算定したうえで、そこから過失減殺によって被害者の過失分を減額した金額が、最終的に加害者に請求できる金額になります。
たとえば、被害者の損害額が1,000万円、加害者の損害額が100万円、過失割合が8対2であったとします。
このときの被害者の請求額は、過失減殺によって、1,000万×0.8=800万、加害者の請求額は、100万×0.2=20万となります。
この場合、実際に支払われるのは、両者の請求額を相殺して800万-100万=780万となるのが一般的です。
ただ、過失割合が10対0の場合(自動車どうしの事故ではもらい事故がこれに該当します)、被害者側の保険会社は加害者側に保険金を支払う必要がありません。
このため、保険会社自身には利害関係がないことになり、被害者本人が加害者と過失割合の交渉に臨むことになります。
10対0である可能性が高いからといって、加害者側の保険会社が素直にそれを認めるとは限らないので注意が必要です。
保険会社が過失割合を決める手順について、もう少し詳しく解説します。
保険会社は、まず事故の状況を把握する作業を行います。
加害者本人と被害者側の保険会社から事故に至るまで経緯や現場の状況について聞き取りを行います。
この際、警察の作成した実況見分調書も参考にします。
加害者と被害者の主張が大きく食い違ったりする場合、保険会社が独自に調査することもあります。
調査では、ドライブレコーダーや事故を目撃した第三者の証言も重要な判断材料になります。
事故の状況が把握できたら、赤い本、青本、あるいは「別冊判例タイムズ38」などに類型化された過去の事故の態様、法令上の優先関係などを調べます。
そして、事故の状況が最も近いケースに当てはめて基本過失割合を決めます。
類型は、まずは、当事者の形態によって分類されています。
「歩行者と車」、「4輪車どうし」、「単車と4輪車」、「自転車と4輪車」の区分ごとに分けられて、さらに詳細な態様や優先関係の状況によってパターン化されています。
たとえば、法令上の優先関係では、左方車優先、広路車優先、非停止規制車優先、優先道路走行車優先、信号の色などが問題になります。
事故の態様では、追突事故、追い越し、進路変更、転回、対向車のセンターオーバー、ドア開放事故などが問題となります。
これらの状況の関係性を整理して体系化した基本過失割合が定められていますので、それに当てはめることになります。
次に、基本過失割合を、それぞれの事故の個別具体的な状況によって修正していきます。
修正要素には、著しい過失、重過失があります。
車両の著しい過失には以下のようなものが挙げられます。
など
また、重過失には、酒酔い運転、居眠り運転、時速30キロ以上の速度違反などがあります。
重過失では20%、著しい過失では10%の過失割合を加算します。
車両の修正要素として、ほかには、大型車、道路交通法50条違反の直進、直近右折、早回り右折、大回り右折、既右折などがあります。
歩行者には、著しい過失、重過失はありません。
歩行者が児童・高齢者・身体障碍者等の場合、5%~10%が減算されます。
集団横断・通行の歩行者の過失割合も、5%~10%減算されることになっています。
逆に、歩行者の過失割合の加算要素としては、夜間、横断禁止場所、幹線道路、直前直後横断、ふらふら歩きなどがあります。
このように、基本過失割合に、個別具体的な修正要素を加減算して最終的な過失割合を決定します。
過失割合の決定は保険会社が行うとしても、警察も間接的に一定の影響を与えるのは事実です。
では、過失割合の決定に警察はどのように関わるのでしょうか。
交通事故で当事者に対して行われる処分ごとに、警察の関わり方を整理します。
交通事故では、運転免許行政を警察が取り仕切っている関係上、違反があれば免許の点数の減点や取り消し、反則金の賦課などの「行政処分」を警察が行います。
行政処分の重さは、加害者の過失と被害者の被害状況によって決まります。
被害者にも一定の過失が認められるときは、行政処分の対象とします。
警察は、この行政処分の決定を下すために、現場検証を行って道路交通法に照らし加害者と被害者の過失の程度を判断します。
加害者の過失や被害者の被害状況によっては、当事者には懲役や罰金などの「刑事処分」が下されます。
起訴するかどうかなど、処分を決定するのは検察ですが、処分の基礎となる捜査を行うのが警察になります。
警察が、現場検証やヒアリングを行って、交通事故の実況見分調書を作成するのは、検察の起訴判断の材料となる初動捜査を行うという目的があるのです。
検察が不起訴という判断をすれば、刑事処分は科されませんが、起訴されれば裁判を経て処分が決定されることになります。
交通事故の損害賠償金の支払いが「民事処分」になります。
民事処分は、加害者と被害者という民間の個人の間の紛争であるため、警察は介入できません。
しかし、交通事故は不法行為であり、加害者は被害者に対して不法行為の賠償責任を負うことが民法によって定められています。
賠償金の支払いは、加害者の法的義務になります。
過失割合の決定は、この民事処分として、加害者側と被害者側の保険会社の話し合いによって決まります。
ただし、その際、警察の作成した実況見分調書が、事故状況を示す重要な証拠として参考にされることになります。
警察の現場検証やヒアリングには、事実をできる限り正確に記録してもらえるように協力するようにしましょう。
交通事故の過失割合は、本来であれば保険会社が勝手に決めるものではありません。
加害者側の保険会社は、少しでも保険金の支払いを減らしたいので、被害者側の過失割合を過大に主張してくることも少なくありません。
よくある誤解としては、たとえば、動いている車どうしであれば、過失割合が10対0はありえないという主張です。
後方からの追突であったり、修正要素が適用されるケースであれば、10対0になる可能性もあります。
また、駐車場での接触事故だからという理由で、過失割合5対5を主張してくるケースも多いといえます。
しかし、駐車場の事故でも過失割合が5対5にならない事例もあるので、より細かい検討余地はあります。
このように、保険会社の主張に疑いがあれば、必ずしも鵜呑みにする必要はないといえます。
また、過失割合が10対0のケースでは、弁護士業法により被害者側の保険会社が示談交渉をすることができません。
これにつけ込んで、加害者側の保険会社が加害者有利に交渉を進めようとすることもあります。
このように、加害者側の保険会社が決定、通知してきた過失割合に納得がいかなかった場合、どうすればよいのでしょうか。
警察に相談しても、警察は民事不介入の原則があり、個人間の過失割合の交渉には介入できないということは、上述した通りです。
とはいえ、個人で保険会社相手に交渉するのは、法的知識面、精神面で負担が大きいといえます。
このような場合には、交通事故案件に精通した弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士であれば、損害賠償金を弁護士基準で請求できるため、弁護士費用分ぐらいは回収して、さらに過失割合についても適切な割合の交渉が可能です。
個人でできる対処法としては、保険会社の提示してきた過失割合に納得がいかない場合、
を、自ら根拠を用意して主張する方法もあります。
保険会社の主張よりも、事故状況に類似している判例があれば。
それを根拠に適切な過失割合を主張しましょう。
また、あきらかに修正要素が見落とされているようであれば、その修正要素を主張しましょう。
また、加害者が事実と異なる主張をしてきて納得できない場合、こちら側の主張が正しいといえる根拠を提示して事実を主張する必要があります。
警察の実況見分調書を取りよせて、ドライブレコーダーや目撃者の証言などの証拠物を改めて精査する以外に、科学的な鑑定から事故状況を明らかにする方法もあります。
科学的な鑑定には、様々な情報から事故状況を計算・推測する工学鑑定があります。
鑑定や事故再現をしてくれる民間企業もありますので、費用面で折り合いがつけば、そのような鑑定依頼を検討すべきです。
以上が、交通事故の過失割合の決まり方や、保険会社と警察の関わり方のご説明でした。
交通事故の過失の割合は、最終的な損害賠償金の支払い額に大きな影響を及ぼすにもかかわらず、加害者側と被害者側の任意保険の保険会社が話し合いによって決まってしまいます。
しかし、最終的な決定権は当事者本人にあるので、納得がいかない場合は、当事者本人が交渉をおこない、裁判などによって決めることができます。
保険会社の過失割合を鵜呑みにするのではなく、提示された過失割合が本当に正しいのか検討し、疑問があるなら、弁護士に相談するなどの対処法を試してみてはいかがでしょうか。