交通事故で後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級認定を申請して後遺障害慰謝料を得るには、後遺障害診断書が必要です。
後遺障害診断書を作成できるのは医師免許を持った医師のみですが、診断書の交付を請求しても、様々な理由から書いてもらえない場合があります。
この記事では、医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由と対処法について、交通事故に詳しい弁護士が解説していきます。
目次
後遺障害診断書を書いてくれない理由を、5つのパターンに分けて紹介します。
後遺障害とは「治療を続けてもこれ以上の回復が望めずに残った症状」のことです。
つまり、症状が固定しておらず充分に回復が望める場合には「後遺障害が残った」とは言えないため、後遺障害診断書が出せません。
被害者本人としては後遺症の自覚症状があっても、医師が「ない」と判断すれば、後遺障害診断書が出せません。
後遺障害の症状が比較的軽いときに、医師が「後遺障害の等級認定を申請できるほどではないだろう」という判断で診断書がもらえないケースがあるようです。
後遺症と思える症状がある場合でも、交通事故との関係がない、または事故との関係が不明確である場合には、後遺障害診断書の作成を断られる場合があります。
これは、事故後すぐに病院に行かなかった場合に起こりがちなケースです。
事故の直後は被害者もアドレナリンが分泌して興奮状態になることがあり、ケガをしていても痛みをさほど感じないことがあります。
ケガが軽いものだと自己判断してしまうと、忙しい仕事や、プライベートのイベントを優先したくなることもあるでしょう。
このような理由から、交通事故の被害者が、事故後すぐに病院に行かないことは珍しくはありません。
交通事故では、むち打ちの症状や骨折の痛みが後からじわじわ出てくることもあり、時間が経過してしまうと事故によるケガだと判断できなくなってしまいます。
医師が治療に充分に関わっていない場合にも、後遺障害診断書を書いてもらえないケースがあります。
たとえば、事故後に整体にしか通っていなかった、事故直後に病院に行ってもその後整体だけで治療していたという場合、医師が経過を判断できないという理由で後遺障害診断書が出せなくなってしまいます。
交通事故被害者が保険会社と揉めている場合や、加害者と裁判になっている場合、医師または病院の方針として、診断書をなかなか書いてもらえないことがあります。
裁判ともなると、医師が証人として裁判所への出頭を求められる、追加の証拠資料の作成・提出を求められる場合があり、現実問題として日々の仕事に差し障りが出てくるという理由で拒否されるケースになります。
医師は治療・医療の専門家であって、交通事故や法律については専門ではありません。
そのため、法律や制度の認識違い・勘違いから、後遺障害診断書を書いてくれないことがあります。
たとえば、交通事故の治療においては、健康保険を利用した後でも後遺障害等級認定を申請できます。
しかし『保険の二重取りに当たるのではないか』と考え、等級認定を申請できないものだと勘違いするようなケースが見受けられます。
医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合、以下のリスクが考えられます。
後遺障害診断書を書いてもらえない場合の最大のデメリットは、後遺障害による賠償金をもらえなくなることです。
後遺障害による賠償金は、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益に分けられます。
後遺障害慰謝料とは、後遺症による精神的苦痛への補償金のことです。
後遺障害認定の等級が高いほど、慰謝料の額も大きくなります。
後遺障害逸失利益とは、生涯において後遺症がなければ得られていたはずの賃金や事業収入のことです。
後遺障害診断書がなければ、後遺障害の等級認定を得られないため、これらの賠償金をすべて得られない可能性があります。
後遺障害による賠償金を得られないかもしれないという不安は、被害者にとって大きなストレスとなるでしょう。
被害者は、普段の生活や仕事をしつつ後遺症と向き合いながら、診断書の交渉や保険会社とのやりとりを続けることになり、精神的にも身体的にも大きな負担となってしまうでしょう。
ここからは、医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合の対処法を、順に紹介していきます。
まず、治療中であれば、医師の指示に従い症状が固定するまで治療を続けるようにしましょう。
また、治療後にしっかり後遺障害診断書を書いてもらえるよう、前もって診断書作成のお願いはしておくとよいでしょう。
まれに「症状が重いうちに後遺障害申請すれば、賠償金を多くもらえるのでは」と考える方もいらっしゃいますが、そうはなりません。
回復の見込みがあって、治療中であるにも関わらず後遺障害診断書を作成すれば、医師は虚偽の書類を作成したことになり、刑事罰を受ける可能性もあります。
後遺障害の等級認定は、治療後に残った症状について行うものです。
医師の判断を待ち、症状固定まで焦らず治療を続けるようにしましょう。
まずは、診断書を出せない理由を医師に確認しましょう。
その結果、医師の認識違いや勘違いの場合には、問題を1つずつクリアにしていくことで診断書を発行してくれる可能性は充分にあります。
なお、医師法第19条2項により、原則として医師は診断書の作成を理由なく拒否してはいけないとされています。
引用:医師法第19条2項
診察もしくは検案をし、又は出産に立ちあつた医師は、診断書若しくは検案書または出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。
「裁判や揉め事に巻き込まれたくないから」や「忙しいから」と言った理由は、本条文における『正当の事由』にはあたらないため、診断書を断る理由にはなりません。
このような理由で断られている場合には、粘り強く交渉することは一つの有効な手段です。
交渉を重ねても、どうしても医師が診断書を書いてくれない場合には、病院を変えることも一つの方法です。
交渉が上手くいかずに医師との争いになれば、ただ負担が増えるだけになってしまうことも。
協力的でない医師には身を預けず、転院を検討するようにしましょう。
転院するということは、転院先の医師が新たに診断・治療を開始することになるため、すぐに後遺障害診断書をもらうのは難しくなると考えられます。
転院を検討する際には、転院先の病院で後遺障害診断書を書いてくれるか、またはその条件等を必ず確認し、慎重に対応する必要があるでしょう。
交渉に行き詰まった、または転院を検討したいという際には、先に弁護士との相談が有効です。
弁護士であれば、被害者それぞれの個別状況に対応し、的確なアドバイスをすることができます。
また、交渉や手続きについて、全面的に代理を依頼することもできるでしょう。
たとえば、弁護士から医師に直接コンタクトをとるで、診断書作成の交渉や案内が可能になるため、医師の認識違いや誤解が解けるケースも少なくありません。
さらには、加害者や保険会社との交渉もすべて委任できるため、窓口をひとつにできるだけでなく賠償額の増額も期待できるのも、弁護士に依頼するメリットです。
交通事故の対応を弁護士に依頼すると、賠償額が増額できる可能性があります。
通常、加害者の保険会社は、被害者への賠償金の払いすぎを避けるために、かなり少なめの金額から提示します。
加害者に保険会社がついていない場合には、加害者は賠償額の基準を知らないことがほとんどでしょう。
そのため、過去の交通事故の裁判例などを基準にして弁護士が適正金額を計算すると、加害者側の提示額よりは大きくなるのがほとんどです。
後遺障害診断書は、後遺障害を正しく等級認定してもらうために必要なものです。
そのため、実際の症状との相違や、起債漏れがあっては意味がありません。
医師から後遺障害診断書を書いてもらえるようになった場合、以下の点に注意して進めるようにしましょう。
後遺障害診断書は『自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書』という専用の書式をA3サイズで印刷して作成します。
医師としては、診断書の作成を求められた場合は、専用の書式があるかないかを確認することが通常ですが、気づかずに病院独自の書式で診断書を作成されりケースが稀にあるようです。
交通事故の後遺障害認定の申請に利用するというのを必ず伝え、専用の書式で作成してもらうようにしましょう。
診断書には、自覚症状の記載が必要ですので、詳しく医師に伝えるようにしましょう。
また、障害内容の増悪や今後の見通しなども記載するため、これまでの経過がわかるよう配慮も必要です。
治療中の期間に症状に変化があった場合などは、こまめに通院して、変化があった症状や経過を詳しく医師に伝えておくとよいでしょう。
医師も人間のため、診断書作成には軽微なミスが発生することがあります。
交通事故で受傷した日時や通院期間など、自分で確認できるところは確認するようにしましょう。
また、障害の状態や自覚症状の記載が、医師に伝えたものと明らかに異なるような場合には、その内容を医師に確認するとよいでしょう。
本記事では、医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由と、その解決方法を解説しました。
ただし、今回紹介したものはあくまで一例であり、治療の経過や診断書を書いてもらえない理由は、人それぞれ違います。
初期治療の遅れがあった場合や、診断書作成の有無について医師と争いになりそうな場合にも、すぐに診断書を諦めてしまうことはありません。
困りごとがあれば、自己判断せずに専門である弁護士に一度相談するとよいでしょう。