東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
交通事故の被害者になってしまったが、自分の過失はほとんどないと考えていたのに、過失割合は9対1になる可能性があると言われ、9対1になるのは具体的にどのようなケースなのか、9対1になると損害賠償金はどうなるのか知りたい、という方もいらっしゃることでしょう。
この記事では、過失割合が9対1になると被害者が受け取ることができる損害賠償金の計算にどのような影響が出るのか、その計算方法と、過失割合が9対1になる具体例についても解説します。
併せて、過失割合が9対1の場合、少しでも被害者の損害賠償金を増やす方法と、そもそも過失割合が納得できない場合の対処法についても説明します。
目次
交通事故で過失割合が9対1の場合、被害者の受け取ることができる損害賠償金は10対0の場合と比べると、大幅に減ってしまいます。
なぜ、そのようなことになるのでしょうか。
損害賠償金が過失割合によって減額される仕組みは、過失相殺と言って、被害者が加害者に請求できる損害賠償金額から、加害者が被害者に請求できる損害賠償金額を過失割合によって減額して計算します。
過失割合の減額は、被害者の損害賠償金からも過失相殺によって差し引かれるため、損害賠償額が大きい重大事故であればあるほど、大きな金額になってきます。
ただし、自賠責基準では、被害者の過失割合が7割未満であれば、減額措置はなく過失相殺は行われません。
7割以上の場合は傷害の場合は一律2割の減額、後遺障害または死亡の場合2割から5割の減額になります。
この記事では、任意保険基準、弁護士基準のケースを解説していきます。
過失割合が10対0というのは、歩行者と車との事故で歩行者が青信号で横断歩道を渡っていた場合や、歩行者が歩道を歩いていた場合、車同士の事故であれば赤信号で停車していた車に後ろから追突された場合など、ごく一部の交通事故に限られます。
東京地方裁判所民事交通訴訟研究会が発行する「別冊判例タイムズ38号」には、交通事故の類型ごとの基本過失割合が詳細に掲載されています。
実際の事故の過失割合は、これに修正要素を加味して判断することになります。
たとえば、過失割合が9対1になる代表的なケースは次のようなケースです。
過失は当事者が注意義務を怠ったというものなので、基本的に、注意義務の大きい、車>バイク>自転車>歩行者、の順に過失割合は小さくなり、10対0が9対1になるケースも少なくなっていきます。
以下、自動車同士の事故、自動車とバイクの事故、自動車と自転車の事故、自動車と歩行者の事故に区分して、基本過失割合が9対1になる具体的な類型を紹介します。
自動車同士の事故で、基本過失割合が9対1になる態様の類型を紹介します。
一方に一時停止規制がある交差点の場合、一時停止規制のない道路を直進していた車Aは減速したが、一時停止規制のある道路を直進していた車Bが減速せずに交差点に直進していれば、B対Aの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
一方が優先道路の交差点で、優先道路を直進していた車Aと優先道路ではない道路を直進していた車Bが衝突した場合、B対Aの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
青信号で進入したものの右折時に赤信号になっていた車Bと、赤信号で交差点に進入した対向車Aとが衝突した場合、B対Aの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
追い越し禁止の交差点で、右折車Aと、Aを追い越そうとした後続車Bとが衝突した場合、また、追い越し禁止ではない道路で、直進車Aを追い越そうとした後続車Bとが衝突した場合、B対Aの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
道路外に出ようとした右折車Aが、対向車Bと衝突した場合、A対Bの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
自動車とバイクの事故で、基本過失割合が9対1になる態様の類型を紹介します。
交差点に黄信号で進入したバイクと、交差道路から赤信号で進入した自動車が衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1になります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
一方の道路の幅員が明らかに広い交差点で、広い道路を直進していたバイクと、狭い道路を直進していた車が衝突した場合で、バイクは減速したが、車は減速しなかったとき、車対バイクの過失割合は9対1になります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
一方に一時停止規制がある交差点の場合、一時停止規制のない道路を直進していたバイクは減速したが、一時停止規制のある道路を直進していた車が減速せずに交差点に直進していれば、車対バイクの過失割合は9対1となります。
一時停止規制のない道路を直進していたバイクが一時停止規制のある道路から右折しようした車と衝突した場合も、車対バイクの過失割合は9対1です。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
一方が優先道路の交差点で、優先道路を直進していたバイクと優先道路ではない道路を直進していた車が衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
一方の道路に一方通行規制がある交差点で、一方通行違反をして直進した車と、一方通行規制のない道路を直進していたバイクが衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
青信号で進入したものの右折時に赤信号になっていたバイクと、赤信号で交差点に進入した対向車とが衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
信号機のない交差点で、直進していたバイクを追い越そうとして左折した車とが衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1となります。
また、バイクが急ブレーキをかけたことによって後続の車から追突された場合も、車対バイクの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
道路外から道路内へ進入しようとした車と道路を走行していたバイクが衝突した場合、また、対向車線へ転回しようとした車と後続もしくは対向車線のバイクが衝突した場合、車対バイクの過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
自動車と自転車の事故で、基本過失割合が9対1になる態様の類型を紹介します。
なお、自動車とバイクの類型でバイクが自転車の場合、自転車どうしの類型で一方が自転車の場合は省略します。
信号機のある交差点で、赤信号で交差点に進入した車と、右折の矢印で交差点に進入しようとした対抗方向の自転車が衝突した場合、自転車は右折の矢印では右折できないことになっており、車対自転車の過失割合は9対1となります。
信号機のない交差点で車が対向方向から右折しようとした場合も同様です。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
信号機のない交差点で、左折しようとした車と後続から直進しようとした自転車が衝突した場合、また、対向方向から右折しようとした車と、渋滞中の車を追い越して直進しようとした自転車が衝突した場合、車対自転車の過失割合は9対1となります。
渋滞中の場合、自転車は車を追い越せるため、自転車特有の事情を考慮した過失割合と言えます。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
左側走行すべき自転車が右側走行していたため、対向車線を直進していた自動車と衝突した場合、車対自転車の過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
進路変更した自動車と後続の自転車が衝突した場合、また、進路変更した自転車と後続の自動車が衝突した場合、車対自転車の過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
自動車と歩行者の事故で、基本過失割合が9対1になる態様の類型を紹介します。
一方の道路の幅員が明らかに広い交差点付近で、幅員の狭い方の道路から右左折しようとした車と幅員の広い道路を横断しようとした歩行者が衝突した場合、あるいは、幅員の狭い道路を直進しようとした車と幅員の狭い方の道路を横断しようとした歩行者が衝突した場合、車対歩行者の過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
歩道が通行できないため、車道側端を通行していた歩行者と車道を通行していた車が衝突した場合、歩道と車道の区別のない幅員8メートル以上の道路の中央以外の部分を通行していた歩行者と車が衝突した場合、車対歩行者の過失割合は9対1となります。
参考:「交通事故で過失割合9対1になるケースとは?」(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所)
以下、具体例を使って、過失割合9対1の場合の実際の過失相殺の計算方法を説明します。
まず、損害賠償金の総額を計算します。
慰謝料、治療費、入通院費、通院交通費、休業損害、逸失利益などをすべて合計します。
ここでは、損害賠償金額の総額が、加害者100万円、被害者1,000万円と計算されたとします。
この場合、加害者の損害賠償金請求額は、100万円×0.1=10万円です。
被害者にも1割の過失があるため、その分を請求します。
これに対し、被害者の損害賠償金請求額は、1,000万円×0.9=900万円となります。
被害者の過失1割分を差し引いて計算することになります。
実際の損害賠償金の支払いは、それぞれの保険を利用するクロス払いという方法によって、加害者の請求額10万円を被害者の保険から支払い、被害者の請求額900万円を加害者の保険から支払うこともできます。
しかし、事務負担が増えるので、被害者と加害者の請求額を相殺し、900万円―10万円=890万円を、加害者の保険から支払う相殺払いが一般的でしょう。
どちらの方法にするかは、被害者が判断することになります。
また、任意保険会社が窓口になっている場合、自賠責保険と任意保険の治療費を一括して医療機関に立て替え払いをしているケースがあります。
この場合は、過失相殺した損害賠償金額から既に保険会社が立て替え払いをしている金額を差し引いた金額が支払われることになります。
上記の過失割合9対1の場合の損害賠償金の計算方法でみたように、被害者側にも1割の過失が認められると、被害者の損害賠償金から過失相殺によって1割が減額されることになります。
さらに、加害者の損害賠償金があれば、その1割を加害者に支払わなければならないことになります。
もし、加害者の損害賠償金が多額の場合、被害者の過失が1割であっても、被害者が加害者からもらえる損害賠償金より、加害者に支払う損害賠償金の方が多い、ということもありえるのです。
いずれにしても、重大事故になって損害賠償金総額が大きくなればなるほど、最終的に被害者が受け取ることができる損害賠償金額は大きく減額されてしまうことになるでしょう。
また、加害者側に支払う金額がある場合、被害者側の任意保険から支払うことになると、保険の等級が下がり、翌年以降の保険料も値上がりする可能性があります。
加害者に支払った損害賠償金よりも、値上がりした保険料負担の方が大きいという事態が生じてしまうかもしれないのです。
過失割合は、通常は10対0や9対1のように加害者と被害者の過失割合数値の合計が10になります。
しかし、まれに、示談交渉によって過失割合9対0で決着することがあります。
加害者側が9対1を主張し、被害者側も10対0を主張して譲らなかった場合、着地点として、加害者側のみ賠償する9対0の片側賠償という形で示談するというケースです。
この場合、被害者側の損害賠償金は過失相殺によって1割減額されるものの、加害者側に損害賠償金を支払う必要がありません。
そのため、多少とはいえ、その分の支払いを免れ、被害者側の保険も使う必要がなくなることから、保険の等級が下がることもありません。
また、片側賠償では、被害者側の過失を本当に0にするというわけではないので、保険会社の代行交渉を維持することも可能です。
過失割合は、通常、加害者側と被害者側の任意保険会社どうしが話し合いによって決定することが多いです。
この保険会社が決めた過失割合に納得がいかない場合、どうしたらいいのでしょうか。
個人が保険会社相手に過失割合の交渉をするにしても、基本過失割合は、上述のように態様によって細かく分けて決められており、修正要素を調べて反論するには、法的な専門知識が必要になります。
また、証拠資料収集にしても、警察の作成した実況見分調書や、ドライブレコーダー、目撃証人の調査など、非常に手間がかかります。
そこで交通事故案件に精通した弁護士に任せることも検討すべきです。
弁護士であれば、法的な専門知識と交通事故案件の経験に基づき、訴訟という強制力を用いて相手側に過失割合の変更交渉をもちかけることができます。
実際に過失割合の変更交渉に成功した事例では、車線変更中の自動車どうしの衝突事故で、被害者側が車線変更後に追突されたため過失はないと、過失割合10対0を主張していたのを、車両の損傷状態などから、車線変更中の事故であり、被害者の車線変更には著しい過失があったとして、過失割合9対1へと変更させたというものがあります。
このように、かならずしも任意保険会社が提示してきた過失割合を鵜呑みにするのではなく、納得がいかなければ、個別の交通事故の態様に応じた適切な修正をする余地はあるのです。
任意保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用を保険で賄える場合もあります。
弁護士に相談することも選択肢の一つと言えます。
交通事故の過失割合が9対1の場合、過失相殺され、被害者の受け取れる損害賠償金は、10対0の場合と比べると1割減額されてしまいます。
また、加害者の損害賠償金がある場合は、その1割を負担する必要も生じます。
基本過失割合は、自動車同士の事故、自動車とバイクの事故、自動車と自転車の事故、自動車と歩行者の事故といった当事者の種類と、交差点での信号機の状況、優先道路か否か、一時停止規制がある道路か否か、幅員の広い道路か否か、などの事故が起きた態様によって細かく類型化されて決められています。
過失割合9対1の場合で被害者の損害賠償金を少しでも増やしたいとき、片側賠償という示談方法もあります。
過失割合を9対0にし、被害者から加害者に支払う損害賠償金を0にするという方法です。
過失割合にそもそも納得できない場合、個人で証拠資料などを集め、任意保険会社と交渉するのは、負担がかなり大きいと言えるでしょう。
交通事故に精通した弁護士に交渉を依頼するというのも選択肢の一つです。
弁護士であれば、専門知識と経験から個別の態様に応じた適切な過失割合の修正交渉を行うことが可能です。
裁判という強制力を背景に交渉できるのも強力な武器になります。