東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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支払停止や支払不能の状態になった場合の最後の生産手段としては、破産という制度が設けられています。
これは、その時点での債権債務を全て精算するという法律上の制度です。
破産する場合は、裁判所に「予納金」という費用を支払わなければいけません。
予納金は負債の額によって変動しますが、20〜700万程度かかります。
そこで、本稿では、会社などの法人が破産手続きをとる場合にどの程度の費用が必要となるのか、その費用を工面できない場合にどうしたらいいのか、について見てみたいと思います。
Contents
破産という制度は、「破産法」という法律に基づく制度で、債務超過や支払不能の状態になった個人や法人について、その債権債務を精算するための制度です。
債務超過や支払不能の状態になった人や法人をそのまま放置していたのでは、傷口を広げてしまいます。
債権者の被害を大きくしないという目的で設けられました。
破産制度は、個人と法人の双方を対象としています。
その時点での債権債務を一旦全て精算することにより、債務者の再起を促すための制度ということもできます。
このことは個人の場合には破産後の「免責」という制度が設けられることにより、とくにこの再起という点が重視されています。
一方、法人の場合には、破産手続き開始決定により会社は解散します(会社法第471条第5号)。
したがって、法人の破産の場合には、経営者等の再起という側面ももちろんありますが、むしろ、債権者の公平を図るための制度という要素が強く表れることになります。
つまり、その会社に対して債権を有している多数の債権者が、公平且つ最大限の回収を図ることができるようにする制度というわけです。
破産手続開始の申立は、会社の代表者などが会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に申立書という書面を提出することによって行います(破産法第19条、第20条)。
そしてその際には(実際には申立後となりますが)、予納金という金銭を納めることが必要とされています。
なぜ、このような費用が求められるかというと、破産手続きはさまざまな手続きが必要となるからです。
破産手続きは、具体的にいうと、債務者の財産を全て精算して、これを債権者に平等に配分するというものです。
そのためには、破産管財人という人を選任して、その人に、債務者の財産として何があるのか、その価格はいくらかという事を調査させる必要があります。
さらに、債権を有している人が何人いて、それぞれの債権額はいくらかということについても調査してもらう必要があります。
このような作業・業務をしてもらうためには、当然、破産管財人に対して一定の報酬を支払う必要が生じるわけです。
そこで、そのための費用を予納金として納めさせる必要があるのです。
次に、予納金の金額とはどのように決められるのかを説明していきます。
予納金が、破産管財人の報酬に充てられるということから考えると、破産管財人の業務が煩雑になる事件では予納金の額も多額となると推測できます。
一般的には、債務者の負債総額が多ければ多いほど破産管財人の業務は煩雑となり、負債総額が少なければ破産管財人の業務も簡易となると言えるでしょう。
その結果、現状、予納金の額は、負債総額に応じて決定されています。
予納金は、実は、破産申立時に納めるものではありません。
実際に破産申立が受理されてから、裁判所において予想される負債額を算出して、それに基づいて予納額が決定されるからです。
申立人には、破産申立が受理されてから2週間から1カ月程度経過した後に、裁判所から予納金についての連絡が来ることになります。
この際、納付期限などは指定されません。
しかし、納付をしなければ破産手続きは進みませんので、できるだけ早く納付することが必要となります。
予納金の納付があって初めて、破産手続き開始決定がなされ、具体的な破産手続きが開始されることになります。
続いて、予納金の目安をケースごとに解説していきます。
ただし、破産手続きには種類があり、それによって目安も異なりますので、まずはその種類を説明した後、予納金の額について説明していきます。
破産手続きには、大きく分けて「管財事件」と「同時廃止事件」という2つの種類があります。
原則は管財事件です。
これは、破産管財人が選任され破産申立者の財産を調査したうえで、財産を現金化し、それを債権者に平等に配分するという手続きをとる流れになります。
これに対して同時廃止事件とは、申立者に債権者に配当すべき財産がないことが明らかな場合に採用する手続きです。
わざわざ破産管財人を選任して財産を調査するといった手続きをせずに、破産開始決定をし、それと同時に破産手続きを終了させるというものです。
法人の場合には、破産手続開始決定によって解散となりますので、会社が有していた財産が少しでもある限り、これをきちんと処分・精算する必要があります。
したがって、法人については基本的に同時廃止事件というのは考えられず、常に管財事件になります。
管財事件についても、さらに、「通常管財事件」と「少額管財事件」に分けられます。
通常管財事件(または特定管財事件と呼ばれることもあります。)とは、破産法が定める通常の運用で行われる破産手続きをいいます。
これに対して、少額管財事件とは、破産管財人を選任はするものの、破産管財人の業務を軽減する事によって、破産申立者が負担する予納金の額を軽減しようとして行われている手続きをいいます。
これは、予納金が高額であることが、破産手続きのハードルとなっているという状況があるためです。
破産手続きを行おうとする個人や法人は、実際には経済的に破綻していることから、高額な予納金を納めることが難しい状況にあります。
そこで、予納金というハードルを克服するために、破産手続きの運用としてそのような手続きがなされているということになります。
破産法という法律に少額管財という制度が設けられているというわけではありません。
では、具体的にどのような事件であれば少額管財事件と認められるかがも解説していきます。
これについては、以下の条件が必要とされています。
少額管財事件というのは、既に述べたとおり、破産管財人の業務が非常に軽減されることから認められるものです。
そして、そのためには、申立の段階で、申立人の財産や、負債が明確に整理されていて、申立後に管財人が別途の調査をする手間が著しく軽減されているということが必要となるわけです。
したがって、申立の段階で、弁護士がきちんと申立人の資産状況、債権者、負債額などを整理したうえで、弁護士が申立代理人となっていて、短期間で手続きが終了できると考えられる場合に限って認められるのです。
この点、個人や司法書士が申し立てた場合については、いくら事前準備がなされていたとしても、通常管財事件として運用されてしまいますので、注意が必要です。
もともと、予納金は、破産管財人に対する報酬に当てることが想定されているため、破産管財人の業務量に比例して決定されることになります。
既に述べたとおり、破産管財人の業務は、負債額の多寡によって大きく影響を受けることから負債額を基準として決定されています。
一方で、現在では、少額管財という手続きが採用される場合もあります。
この制度は申立者が負担する予納金を軽減するための措置であることから、実際に、申立に際して納める予納金の額も通常管財事件とは大きく異なっています。
以下に、通常管財事件と少額管財事件の予納金について具体的に示しました。
なお、これらの費用は、最終的には各裁判所によって決定されているため、最終的には各裁判所に確認する必要があります。
以下は、東京地方裁判所の例を元に記載しています。
負債総額に対する予納金の額は以下のとおりとされています。
負債額5,000万円未満の場合 | 70万円 |
---|---|
負債額5,000万円超1億円未満 | 100万円 |
負債額1億円超5億円未満 | 200万円 |
負債額5億円超10億円未満 | 300万円 |
負債額10億円超50億円未満 | 400万円 |
負債額50億円超100億円未満 | 500万円 |
負債額100億円超250億円未満 | 700万円 |
負債額250億円超500億円未満 | 800万円 |
負債額500億円超1,000万円未満 | 1,000万円 |
負債額1,000億円超 | 1,000万円以上 |
少額管財事件の場合の予納金は最低20万円からとされています。
通常管財事件の場合と比べて、大幅に軽減されています。
ただし、従来は一律20万円でしたが、現在では、20万円を最低金額として、具体的な事件の内容によって10万円から30万円の範囲で加算される場合があります。
なお、月額5万円から、最大で4回までの分割納付が認められています。
ただし、分割納付する場合は、予納金とは別に、破産手続きについての官報への公告費として裁判所予納金を納める必要があります。
この裁判所予納金の金額については裁判所により異なりますが、およそ15,000円程度です。(2019年1月時点)
この金額は随時改定されているようですので、直接確認されることをおすすめします。
破産申立に際しては、予納金の他にも以下の費用が必要となります。
では詳しくみていきましょう。
申立費用とは、破産手続きの手数料になります。
手数料は破産の内容によって異なりますが、1,000〜1,500円程度です。
収入印紙で納付する形式になっています。
郵券とは切手のことで、4,100円分必要になります。
この切手は、裁判所から債権者や関係者へ通知を送る際に使われます。
官報広告費とは、官報に掲載するための手数料です。
官報とは政府がほぼ毎日発行している情報誌で、破産した会社・個人の情報も記載されます。
自分が破産した場合は、官報に記載されるため、その費用として1~2万円程度かかります。
「官報に記載されると破産がバレしまう」と不安になる人がいますが、官報の発行は膨大で細かくチェックしている人は少ないため、官報からバレることは少ないでしょう。
少額管財事件としての手続きを希望する場合には、上述のとおり、弁護士による申立が必要となりますので、申立業務を弁護士に委任する必要があります。
したがって、弁護士への報酬の支払いが必要となります。
法人破産の弁護士費用は、50~150万円が相場です。
ただし会社の状況・破産手続きの手間によって金額は異なるため、注意しましょう。
「費用を抑えるために弁護士に依頼しない」と思うかもしれませんが、法人破産の手続きを個人で進めるのは難しいため、弁護士依頼が一般的です。
先に述べたように、会社が自己破産の申立をする場合には、相応の費用が必要となります。
また、予納金自体は、申立と同時に納める必要はありませんが、申立後、裁判所からの連絡があり次第、速やかに納める必要があります。
そこで、実際に経営が破綻し予納金の支払いが難しい会社において、どのようにしてこれらの費用を捻出するのかを説明します。
通常、経営破綻した会社については、各債権者から支払を請求されている状況だと思われます。
弁護士に破産手続きを依頼した場合、弁護士から各債権者宛に対して、「以後は全ての連絡は弁護士宛にするように」という弁護士介入通知を送ってもらいます。
結果、以後は、直接債権者から会社への請求は行われなくなります。
このような状態にしたうえで、現在の売掛金などを適切に回収したり、現在保有している資産を売却するなどして、資金を捻出することとなります。
ただし、この場合でも、不当に廉価で売却等した場合には、事後的にその処分行為自体が否認される恐れがあります。
したがって、その処分に際しても弁護士等と相談して慎重に行う必要があるでしょう。
処分できるような財産がない場合には、代表者個人がその費用を調達して、貸与するという方法を考えざるを得ません。
といのは、会社自体が破産予定であることを隠して借入等を行った場合には、後日、詐欺といった事が問題になる可能性があるためです。
あくまでも、会社として他から借入を行うのではなく、代表者個人や代表者の親族等から、事情を説明したうえでの借入を行う必要があります。
ただし、この場合でも、破産手続きの過程で問題とされる可能性はゼロとは言えませんので、弁護士とも相談のうえ、慎重に行う必要があると言えるでしょう。
法人破産の費用では、弁護士への依頼料も多くなっています。
相場が50~150万円なので、弁護士費用が安くなれば、それだけ法人破産の費用が抑えられます。
「弁護士に依頼したいけど、まとまったお金がない」という人もいるでしょう。
下記では弁護士費用を抑える方法・お金がなくても弁護士に依頼する方法を紹介します。
弁護士の報酬は事務所によって異なります。
法律によって一律に決まっているわけでもないため、安い事務所に依頼しましょう。
インターネットで比較してみて、検討する方法がおすすめです。
ただし安さだけで選んでしまうと、弁護士の質や相性が悪いかもしれません。
必ず一度相談してみて、その感触で選ぶようにしましょう。
弁護士費用は「頭金」といって、依頼する際にまとまった報酬を支払う必要があります。
お金がない人にとっては、頭金の支払いも大変だと思います。
そこでおすすめなのが、弁護士費用を分割で支払う方法です。
弁護士に「頭金が払えないため、依頼費用を分割で支払いたい」と伝えて、交渉して見ましょう。
直接的に依頼費用が安くなるわけではありませんが、分割で支払いができると、まとまったお金がなくても弁護士への依頼ができます。
今回は、会社が破産する場合に必要となる費用について、予納金の問題を中心に見てきました。
現在の制度では、経営破綻したことを理由として破産手続きをとるためにも、相応の費用が必要であるという、ある意味では矛盾した状態になっているということは否めません。
ただ、実際に、破産等の精算手続きを行うためには、そのための業務をしてもらう人への報酬が必要になるため、この現実はやむを得ないといえます。
経営者の方は、会社が倒産の危機に陥ると、ギリギリまで何とかしようと考えがちです。
しかしながら、破産手続きするのにも予納金といった費用が必要となります。
したがって、経営破綻の恐れがある場合には、最悪、破産申立に備えて、早めに弁護士などの専門家に相談することが必要です。