東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産を決めたとしても、その後の生活のことを考えると「持っているものすべてを没収されたらどうしよう」と不安になる人は少なくありません。
何をどれだけ持っていかれるのか、気になるところでしょう。
今回は自己破産によって没収されるものと手元に残るものを、裁判所の判断を交えながら、それぞれ具体的に解説していきます。
あわせて自己破産以外の債務整理の方法も紹介しているので、参考にしてください。
Contents
自己破産とは、借金など債務の返済が困難になった場合に、裁判所へ申し立てることで、債務の返済を免除してもらう手続きのことです。
自己破産を申し立てると、持っている財産は換価され、債権者へ分配されることになります。
このとき、持っている財産すべてを没収されてしまうのでしょうか。
実は自己破産後の生活を考慮し、没収できる財産と残す財産の範囲が決められています。
ここでは自己破産で没収される財産について解説していきます。
破産財団とは、債権者に分配される資金の元手となる財産のことです。
破産財団は裁判所が選任した破産管財人によって管理され、換価された後、債権者へ公平に分配されることになります。
自己破産を裁判所に申し立てると、自己破産手続開始の決定が下されますが、この決定が出た時点で所有している財産が破産財団となります。
破産財団とみなされる財産は、次のようなものです。
原則として、換価できるだけの財産として価値のあるものが破産財団に含まれます。
自己破産をしても、無一文になるわけではありません。
破産財団以外の財産は、基本的に没収できない財産として手元に残ります。
すべての財産を没収し、自己破産後の生活が成り立たなくなることを防ぐため、手元に残せる財産・没収を禁止する財産というものが定義されています。
ここでは、自己破産をしても手元に残せる財産について詳しく解説していきます。
自由財産とは、破産財団に含まれず、破産者が自由に使うことのできる財産のことです。
具体的には、以下のようなものを指します。
中には破産財団に含まれるものでも、申立てにより自由財産と認められるものや、条件付きで手元に残せるものがあります。
詳しくみていきましょう。
現金は手元に残る自由財産の一つですが、預貯金は破産財団であるため、注意が必要です。
仮に現金で20万円、預貯金で70万円ある場合に、そのまま自己破産手続きを進めると、破産財団として70万円は没収されることになります。
この場合、事前に預貯金を引き出し、99万円以下の現金として持っていれば問題ありません。
もしここで申立てを行えば、預貯金を自由財産として残せる可能性もあります。
ただし、その場合にいくらまでなら自由財産と認められるか、詳細な金額は地方裁判所の判断によるところとなります。
もし預貯金が多くある場合は、あらかじめ99万円の範囲内で引き出しておくとよいでしょう。
新得財産(しんとくざいさん)とは、破産手続き開始決定後に取得した財産のことをいいます。
破産法では、以下のように定められています。
引用:
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
これによれば、破産手続きが開始された後に取得した財産は、破産財団ではないということになります。
たとえば破産開始後に受け取った給与や、相続や贈与などで得た金銭がこれにあたります。
ただし事業主の売掛金など、自己破産手続き前から受け取ることが決まっていたものは、たとえ手続き開始後に受け取ったとしても、破産財団に含まれる可能性はあります。
借金の返済遅延や税金の滞納などが続くと、財産の差押さえを受けることがあります。
差押さえは債権者の申立てに基づき、裁判所が債務者に対し、財産を自由に処分できないようにする措置のことです。
しかし債務者の最低限の生活を保障するため、民事執行法により差押さえを禁止する財産があらかじめ決められています。
差押さえが禁止されている財産は、以下のようなものです。
また、上記以外に、以下の債権も差押さえが禁止されています。
この差押禁止財産は、自己破産の手続きでも同様に、没収できない自由財産として定義されているため、没収されることはありません。
自己破産後も、一定の生活を続けていけるようになっています。
差押禁止財産に含まれる家具など生活必需品の中でも、アンティークの調度品や骨董品を所持している場合は注意が必要です。
財産的価値があると判断されれば破産財団とみなされ、没収される可能性があります。
財産的価値の具体的な基準は、売却したときに20万円以上の価値があるかどうかです。
特に建具などは、アンティークや歴史的なものであれば価値が高い可能性もあるため、破産財団となる場合もあります。
また、家具家電は無制限に所持が許されるわけではありません。
テレビ・掃除機・エアコンなどは1台のみ差押さえが禁止されているため、2台目以降は没収対象となり、より高額な方が差し押さえられることになります。
破産管財人の役目は、破産財団を管理・処分し、財産を債権者へ公平に分配できるように調整することです。
しかし破産財団の中には、売れる見込みのない不動産や、処分できたとしても回収コストが見合わないものが含まれている場合があります。
そのようなときに破産管財人は、裁判所から許可を得た上で、財産の処分を放棄することがあります。
放棄された財産は、破産管財人の管理下から離れて破産者の手元に戻ってくるため、自由に使うことができます。
ただし抵当権などがついている不動産が手元に戻ってくると、自分で処分しない限り、自己破産したのに債務として残ることにもなり得ます。
自己破産には、2つのパターンがあります。
裁判所の判断で破産管財人が選定され、破産者の財産を管理し処分するケースを管財事件といいます。
一方、裁判所が自己破産手続きの開始決定と同時に廃止決定を下し、破産開始と同時に手続きを終了する場合があります。
これを同時廃止事件といいます。
同時廃止事件は、破産財団をもってしても破産手続きの費用が支払えないと判断される場合で、債権者に財産を分配することなく終了する手続きです。
同時廃止事件とする基準は、裁判所ごとに異なります。
これは一例であり、実際は裁判所ごとの裁量により決められています。
同時廃止事件となれば、債権者に財産を分配することもないため、手元に財産が残ることになるでしょう。
自己破産をすると、没収され換金される破産財団ですが、裁判所の判断でこの破産財団の一部を、自由財産に含むことが許されるケースがあります。
これを自由財産の拡張といいます。
自由財産の拡張が認められるのは、自由財産の拡張がなければ破産者の生活が成り立たないと判断される場合です。
たとえば破産者が病気で働けず、今後の収入の見込みが立たない場合に、99万円を超える自由財産の拡張を認めるようなケースです。
しかし裁判所の個別の判断によるため、認められるかはケースバイケースといえます。
また破産法により、自由財産の拡張を検討するには、破産管財人の意見を聴かなければいけないと決められているため、申し立てたとしても必ずしも認められるわけではないと理解しておきましょう。
自由財産の拡張の運用は個別判断によるところが大きく、また裁判所ごとにまったく異なる運用がなされているため、認められるかどうかの基準が曖昧です。
ここでは一例として、東京地方裁判所で認められている自由財産について解説していきます。
預貯金や車は基本的に破産財団の対象ですが、たとえば車がなければ生活できないような環境であれば、車の所持が認められることもあります。
ただし、新車に近い場合など、財産的価値のある状態では認められないこともあるでしょう。
自由財産の拡張の判断は、破産者の生活状況や今後の収入見込みなどを総合的に勘案して下されるものです。
今後、収入を得る見込みがない場合には退職金債権や敷金債権など、金銭面において寛大な判断がなされる場合も少なくありません。
家財道具については、元から自由財産とされていますが、拡張を認めることで、必要最低限とみなされるもの以外に、一般的に家庭で利用されている家具家電を残すことができるようになります。
東京以外の全国の地方裁判所では、様々な判断が下されています。
たとえば千葉地方裁判所では、個別の評価額が20万円を超えている財産でも、財産すべてを合わせて99万円以下であれば、自由財産と認めるという運用がなされています。
一方、名古屋地方裁判所では、各財産の評価額が20万円以下であり、総額で99万円以内に収まっていることが条件です。
また、大阪地方裁判所では、現金も含めて総額99万円以内の範囲において認められるとされています。
このように、裁判所ごとの基準や判断で、個別の状況と照らし合わせ判断されます。
もし自己破産で自由財産の拡張を申し立てる場合は、なぜ自由財産の拡張が必要であるのか個別具体的に説明する必要があるため、自己破産に精通した弁護士などに相談することも検討しましょう。
自己破産で没収されるものについて、身近なものであればあるほど没収対象になるのか気になるところです。
ここではよくある質問とともに、具体的に説明していきます。
基本的にパソコン・スマホ・ゲーム機は自由財産とみなされ、没収の対象にはなりません。
特にパソコン・スマホは、仕事道具として所有が認められる余地があるでしょう。
ただし、パソコンは2台以上所有していれば、1台を残して没収される可能性があります。
また、ハイスペックのパソコンやスマホ、高性能の最新ゲーム機などは自己破産時の相場により、売却して20万円以上の価値があると判断されれば、破産財団として没収される可能性が考えられます。
クレジットカードで商品を購入した場合、支払いが終わるまで商品の所有権は信販会社にあるとする契約が一般的です。
この場合、支払いの途中で自己破産すると、商品を引き上げられる(返品を求められる)可能性があります。
特に高額商品や、契約書にサインをして分割購入した場合にはこの対象となる可能性が高いでしょう。
とはいえ、すべての商品が回収されるわけではありません。
もし返品できない場合、事情を説明すれば和解に応じてもらえることもあります。
自己破産をしても没収できるだけの財産がない場合は、そもそも回収できるものがないため、何も没収されません。
同時廃止事件となり、破産開始と同時に終了することもあるでしょう。
ただし、自分には回収できるものがなかったとしても、周りに影響が出る可能性も考えておく必要があります。
たとえば自己破産では、連帯保証人の支払義務はなくならないため、家族が保証人になっていた場合、債務の一括返済請求がいくことがあります。
もし債務を支払えずに家族も自己破産すると、家族の財産が破産財団となり没収されることになるでしょう。
債務整理の方法は、自己破産だけに限りません。
自己破産は財産のほとんどを管理・換金するものですが、自己破産以外の方法であれば、財産を残したまま債務整理・返済を行うこともできます。
借金が膨れ上がりどうしようもないという状況でも、払いすぎた利息(いわゆる過払い金)がある場合、利息を再計算した結果、借金が減額できる可能性があります。
借金が減額できれば、任意整理や民事再生など、自己破産以外の方法を選択することができるようになります。
ここでは、自己破産以外の債務整理の方法を詳しく解説していきます。
自己破産は財産を差し出して債務すべてを精算する手続きであるのに対し、民事再生は事業を維持したまま再建を目指すことができる手続きです。
個人再生は、民事再生を個人でも使いやすく簡略化したものをいいます。
民事再生では債権者の合意が得られれば、返済猶予は最大10年となり、一部の債務は返済免除とされることもあります。
法律的には倒産の手続きではあるものの、経営権も会社も残したまま再建できることが特徴です。
個人再生は、個人の債務の総額が5000万円を超えていない場合に利用できる制度です。
裁判所が選任した再生委員が間に入り、債務者と債権者の意見を聞きながら再生計画を立てていきます。
債務の総額を最大で10分の1にまで減額し、原則3年間で完済する計画が一般的です。
減額後の債務が完済できれば、残りの債務は返済義務が免除されます。
民事再生・個人再生では、所有している財産を没収されることはありません。
返済計画に基づき収入の中から返済をしていく制度であるため、財産を残したい場合の債務整理に有効な手段といえます。
自己破産、民事・個人再生は裁判所を通じて手続きを行うものであるのに対し、任意整理は当事者間の話し合いにより解決を図る方法です。
利息制限法に基づく利率で債務の再計算を行い、返済計画を組み直して返済を続けていきます。
民事・個人再生より債務額が少ない場合に有効です。
無理のない返済計画を組み直すため、財産を手放して返済をする必要はありません。
ただし、債権者との話し合いによるため、返済計画がうまくまとまらないこともあります。
また、自己破産を検討するほど多額の債務を抱えている場合には、任意整理では間に合わないこともあるため、利用する際はよく検討する必要があるでしょう。
自己破産は所有している財産をもって債務の弁済を行い、すべてを精算することが目的です。
しかしすべての財産が没収されるわけではなく、自己破産後の生活を考慮し、没収されない財産として自由財産の枠組みがしっかりと決められています。
自由財産の拡張を申し立てれば、さらに使える財産が増える可能性もあります。
また、自己破産以外の方法であれば、財産を手元に残したまま債務整理をすることも可能です。
どの方法であっても、債務整理手続きは非常に難しいものであるため、手続きに精通した弁護士などに相談するとよいでしょう。