東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
自己破産をすると、相続できなくなるのか気になる方は多いでしょう。
自己破産をしても基本的に相続権を失うことはありません。
ただ、破産手続きのタイミング次第では、相続した財産が債権者への返済に充てられることがあります。
本記事では、自己破産と相続の関係、破産手続き開始の前後での相続財産の扱い、注意点を詳しく解説します。
自己破産と相続の手続きを円滑に進めるために、ぜひ参考にしてください。
自己破産をしても、相続権は基本的に失われません。
そのため、自己破産後でも親の遺産を受け取る権利はあります。
ただし、手続き中に相続が発生すると、相続した財産が債務返済に回され、手元に残らない可能性があります。
また、自己破産した人が相続人の場合、遺産分割には注意が必要です。
破産した人を避ける形で遺産を分けると、後でトラブルになる可能性があります。
ここでは、相続と自己破産をするタイミングについて解説します。
自己破産で債権者に配分される財産は、破産手続開始の決定が出た時点で持っている財産に限られます。
つまり、破産手続き開始決定前に相続し、破産者が相続財産を持っている場合には、その財産が債権者に分配されます。
具体的には、以下の表のとおりです。
タイミング | 相続財産の扱い |
---|---|
自己破産の申立て前に相続が発生した場合 | 相続財産が残っていれば、債権者への配分対象となる |
破産手続開始の決定前に相続が発生した場合 | 相続した財産は債権者に渡る |
破産手続開始の決定後に相続が発生した場合 | 相続財産は手続きの対象外となり、失わずに保有できる |
破産手続きを申し立てる前に相続が発生した場合、相続財産を受け取ることはできます。
しかし、その後に破産手続きを開始すると、手元にある相続財産は債権者への返済に充てられるため、結果としてその財産を失うことになります。
もし、相続した財産で借金を全額、もしくは大部分を返済できれば自己破産を避けることができますが、それでも自己破産が避けられない状況なら、相続放棄を選択するのがよいでしょう。
相続放棄を行えば、相続財産が破産手続きに取り込まれることなく、他の相続人がその財産を受け取ることができます。
破産手続開始決定時点で所有する財産のうち、自由財産として認められる生活必需品や99万円以下の現金を除いたすべての財産は「破産財団」に組み入れられます。
この破産財団に組み入れられた財産は、破産管財人が管理・換価し、債権者への配当原資となります。
破産財団とは、破産手続において破産管財人が処分権限を有する財産の集合体を指します。
破産手続開始決定前に相続が開始していた場合、その相続財産も破産財団に組み入れられ、債権者への配当対象となります。
つまり、破産者は相続権を失うわけではありませんが、取得した相続財産は、破産手続において債権者への配当に充当されることになります。
また、相続財産が発生することで、簡便な「同時廃止事件」として処理できるはずだった手続きが、管財人による財産調査と管理が必要となる「管財事件」へと移行するリスクが生じます。
そのため、相続発生のタイミングや破産手続との関係を慎重に考慮する必要があります。
破産手続開始決定後に取得した財産や遺産は、破産手続には含まれず、新たな資産として扱われます。
そのため、破産手続開始後に発生した相続については、破産手続の影響を受けずに通常の相続手続きを進めることが可能です。
破産手続き内で、債権者に分配されることはありません。
両親が高齢の場合には、一日も早く自己破産の申立てをすることをお勧めします。
自分が法定相続人だとしても、相続欠格や相続人排除の対象となっている場合には、遺産を受け取る権利がなくなります。
相続が始まった際、相続欠格があると認められている人には、そもそも遺産を受け取る権利がありません。
相続欠格とは、相続の権利を剥奪される制裁措置で、相続人が法律に反する行為や不正行為を行った場合に適用されます。
具体的には、次のような場合です。
一度相続欠格と認定されると、その人は遺産を受け取る権利を永続的に失います。
ただし、相続欠格となった者の子どもがいる場合には「代襲相続」が発生し、その子どもが代わりに相続人となります。
相続人の排除とは、被相続人が生前に家庭裁判所を通じて特定の相続人の相続権を剥奪する手続きです。
この手続きが成立すると、排除された者は相続権を完全に失い、遺産を受け取る権利は法的に消滅します。
しかし、排除の認定には家庭裁判所の審査が必要であり、単に請求しただけでは認められません。
以下の行為のいずれかに対象者が該当していることが認定の要件とされます。
相続人排除が正式に認められると、その事実は戸籍に明記され、相続手続き時に必要な戸籍謄本に記載されるため、相続人排除の事実は隠し通すことができません。
このため、相続手続きの際には、排除された者がいることが確実に判明する仕組みになっています。
自己破産と相続が絡むと、手続きの進行が複雑になります。
特に、破産手続開始決定前に相続が発生している場合、破産者本人ではなく裁判所が選任した破産管財人が相続手続に関与することになります。
ここでは、破産者の相続手続きが具体的にどのように進むのか、詳細を見ていきましょう。
自己破産の手続きには「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。
破産手続申立て後、破産手続開始の決定前に相続が発生した場合、財産が増えるため、通常は管財事件となります。
これにより、破産管財人が選任され、相続財産も含めた管理を行うことになります。
相続が発生しても、破産手続開始決定前の状態であれば、破産者本人が遺産分割協議に参加することはできません。
この場合、裁判所が選任した破産管財人が代わりに遺産分割協議を進めます。
協議の内容は基本的に通常の相続と変わりません。
たとえば法定通りに分割することや、家庭内での合意に基づいて財産を配分することが可能です。
ただし、「破産者には遺産を渡さないようにしよう」といった意図的な調整は、破産管財人によって拒否される可能性が高くなります。
破産手続と相続が重なる場合、相続放棄を検討することも重要です。
相続放棄をすると、破産者の相続権が消滅し、破産手続きには影響を与えずに他の相続人が遺産を取得できます。
相続放棄には「相続の開始を知った日から3カ月以内」という厳格な期限があります。
これを過ぎると、相続放棄は認められなくなるため、手続きを行う場合は早めに判断し、迅速に対応することが重要です。
破産手続開始前に相続放棄:相続の権利を放棄することで、遺産が「破産財団」に含まれず、他の相続人が遺産を受け取ることができます。
破産手続開始後に相続放棄:破産手続開始後には相続放棄をしても、限定承認とみなされるため、相続した財産は「破産財団」に組み込まれます。
結果として、相続した財産は債権者に配分されるため、相続放棄の効果は限定的です。
相続放棄を考える際には、申立ての時期と相続放棄のタイミングを慎重に判断することが求められます。
親が自己破産を検討している場合、相続と自己破産のタイミングを見極めることが大切です。
特に相続財産の処分や保全を考える際には、手続きを早めに進めることが有益になることが多いでしょう。
ここでは、親が自己破産を考えている時に相続が発生しそうな場合の対処法を解説します。
破産手続きが開始される前に相続が発生し、その財産が親の手元にある場合、その財産は「破産財団」に組み込まれる対象となります。
つまり、相続した財産は債権者に分配され、手元に残すことができません。
これにより、親がせっかく相続した財産も借金返済に充てられてしまうため、家族全体にとっての損失となることがあり得ます。
裁判所から破産手続き開始の決定が下りた後に相続が発生すれば、相続財産は破産手続きに含まれず、処分されることはありません。
このタイミングを見極めることが、相続財産を守るために重要です。
相続の発生が予想される場合、自己破産をするなら早めに手続きを進めることをおすすめします。
タイミングが合わない場合、相続財産が破産財団に組み込まれるリスクが生じ、結果的に親の相続人である子どもも損失を被る可能性が高まります。
迅速な対応が財産保護につながるという点を考慮し、弁護士など専門家と相談しながら適切な時期に破産申立てを行うことが重要です。
自己破産をした場合、自宅がどうなるかはその名義人によって異なります。
名義人が破産者本人か家族か、または共有名義かによって、住宅が破産財団に組み込まれるかどうかが決まります。
それぞれの場合について見ていきましょう。
住宅の名義が自己破産申立てした本人である場合、その住宅は「破産財団」に含まれ、処分の対象となります。
住宅は基本的に「自由財産」に含まれないため、例外なく処分され、最終的には手放さなければなりません。
また、破産手続きを前に家の名義を他人や家族に変更するような行為は、財産隠しとみなされ、「詐欺破産罪」に問われるリスクが高まります。
適切な手続きを経ずに財産を移転する行為は法的に厳しく追及されるため、注意が必要です。
住宅の名義が自己破産する本人以外であれば、その住宅は破産財団に含まれません。
たとえば、配偶者や家族の名義であれば、その住宅は本人の自己破産手続きによって処分されることはなく、住宅を維持することが可能です。
つまり、他人名義の住宅については、債権者への返済の対象とはならないため、安心して住み続けることができます。
もし住宅が亡くなった家族から相続されたもので、相続人間で共有名義となっている場合は、注意が必要です。
このようなケースでは、破産手続きが開始されると、相続財産として住宅が破産財団に組み込まれることがあります。
その結果、相続した住宅を手放さざるを得ない可能性が生じます。
住宅を破産財団から守るためには、相続放棄を行う必要があります。
ただし、破産手続開始決定後に相続放棄を行っても、相続財産は限定承認の対象となります。
住宅は最終的に処分され、債権者への返済に充てられる可能性が高くなるでしょう。
相続放棄を行う場合は、破産手続が開始される前に手続きを完了させることが非常に重要です。
自己破産と相続のタイミングが重なる場合、相続財産の処理に注意が必要です。
破産手続開始前に相続が発生すれば財産は債権者への返済に充てられますが、開始後であれば相続財産を保有できます。
専門家に早めに相談し、相続放棄や破産申立ての適切なタイミングを見極めることが重要です。
早めの対応で、相続財産を守る一手を打ちましょう。