東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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「自己破産して差し押さえる財産がまったくない場合、実家や家族に影響があるのでは?」と不安に感じる方もいるでしょう。
自己破産をしても、破産者名義以外の家や車が差し押さえられることはありません。
しかし強制執行の通知がきているにもかかわらず放置していると、連帯保証人に迷惑がかかる可能性があります。
本記事では、自己破産で差押さえの対象となる財産と、対象外となる財産はどのようなものがあるか、また自己破産で差し押さえられるものがないときの強制執行の流れ、強制執行が届いたときの対処法について解説しています。
Contents
自己破産をした場合、差押さえの対象となるのは金銭的価値のある財産です。
金銭的価値とは、破産手続きの際に査定した額が20万円を超えるかどうかが目安になります。
具体的には、次のようなものが差押さえ対象の財産として挙げられます
破産者が持っていた財産は、自己破産をした時点で裁判所が選任した破産管財人によって管理され、売却などでお金に換えた上で、債権者への支払いに充てられます。
では、差押さえ対象となる財産について詳しく見ていきましょう。
破産者が名義人となっている家や土地といった不動産は、原則、手放さなければなりません。
住宅ローンが残っている場合は、住宅ローンの返済が免除になりますが、金融機関や保証会社といった債権者によって競売にかけられ、売却代金に充当されます。
いずれにしても自己破産をすれば、不動産を失うことになります。
破産者名義の車やバイクは、ローンを完済していて、査定したときの時価が20万円を超えていたときに差し押さえの対象となります。
ただし法定耐用年数を超えている車やバイクは、価値がないものとみなされるため、差押さえの対象外となる能性があります。
法定耐用年数とは、法律が定めた固定資産を使える期間のことを指し、新車の場合、それぞれ以下の通りです。
上記より、例えば新車として購入して6年が経過した普通自動車は、価値がないとみなされるため、自己破産をしても手元に残せる可能性があります。
車やバイクもローンが残っているときは、ローンの返済は免除になりますが、ローン会社に引き揚げられてしまいます。
給与が差し押さえられると破産者が生活できないため、差押さえの対象となるのは給与の4分の1までと制限されています。
ただし33万円を超える分については、差し押さえが可能です。
株式や債券、投資信託といった有価証券は、価格に関係なく処分される可能性があります。
また暗号資産(仮想通貨)も処分の対象です。
個人年金や保険も、解約したときに戻ってくる「解約返戻金」が20万円を超えるものは処分の対象となります。
退職金はタイミングによって扱いが異なります。
金や銀、貴金属、美術品や骨とう品、ブランド品などは処分の対象となる可能性があります。
ただし所有している動産の調査が難しい上に、運び出しや換金に手間や費用がかかる場合があるため、高価なものに限られます。
破産者のすべての財産を差し押さえられると、生活ができなくなるでしょう。
そのため、自己破産をしても差し押さえられない財産もあります。
自己破産で差し押さえられない財産は、以下の通りです。
自己破産で差し押さえられない財産についても、詳しく解説します。
自己破産をしても99万円以下の現金は、差し押さえられません。
破産法第34条2号に、民事執行法第131号3号に規定する額(33万円)に2分の3を乗じた金額は、差押さえの対象にならないと定められています。
また民事執行法施行令に第1条にて、民事執行法第131条3号の政令で定める額は66万円となっていることから、「66万円×3/2=99万円」は差押さえ対象外となります。
国民年金や厚生年金、障害年金、企業年金は、差し押さえの対象外です。
自己破産により、これらの年金が受け取れないことや減額されることもありません。
ただし先述した通り、個人年金は解約返戻金が20万円を超えるものは、差押さえの対象です。
またiDeCo(個人型確定拠出年金)は、税金の滞納処分以外は差押さえができないと規定されています。
民事執行法131条に、差押禁止動産の定めがあります。
主な差押禁止動産は以下の通りです。
その他、マンガやDVD、ゲーム機、スマートフォンも日常生活に必要な財産として、差押さえの対象にはなりません。
パソコンは1台までであれば手元に残せますが、2台目以降は20万円を超えると差し押さえの対象となります。
また掃除機や洗濯機、冷蔵庫といった家電製品は1台までであれば、手元に残せることが一般的です。
生活保護費も差押さえ処分の対象になりません。
ただし99万円以上の現金がある場合は、処分の対象となりますが、生活保護を受給している方が該当するケースは少ないでしょう。
また自己破産が原因で、生活保護費を打ち切られることや減額されることはありません。
自己破産をした方に差し押さえる財産がない場合、強制執行になっても何も差し押さえられません。
これを強制執行の空振りと言います。
ただし差押さえが空振りになったとしても、請求が連帯保証人に行われます。
また債務者が財産を形成するまで、何度も強制執行を受ける可能性があるため注意が必要です。
では、自己破産で差し押さえられるものがない場合の強制執行の流れを解説します。
債務者に収入がない、差押さえが禁止されている財産以外の財産がない場合、強制執行は空振りとなります。
債務者本人に差し押さえる財産がないからといって、その家族名義の財産が差し押さえられることもありません。
債務に連帯保証人をつけている場合、「保証債務の履行請求」により債務者に代わって連帯保証人に返済義務が発生します。
そのため、債権者は連帯保証人に対して請求をすることになります。
強制執行の申立ては1度きりしかできないわけではなく、繰り返し何度も行われます。
そのため、債務者が財産を形成したタイミングで、再度差し押さえられる可能性があります。
たとえば1回目の強制執行が行われた時点では無職で収入がなく空振りで終わったとしても、その後、債務者が仕事を始めていれば、口座に収入を得ている可能性が高いでしょう。
強制執行をする財産がないからといって、安心してはいけません。
先述したように、強制執行は繰り返し行われる上、連帯保証人に迷惑をかけてしまう可能性があるためです。
自己破産による強制執行の通知が届いたときの対処法について解説します。
強制執行の通知が届いても、債権者が裁判所に申立てをする前であれば、支払方法や支払スケジュールを交渉することで強制執行を待ってもらえる場合があります。
強制執行の申立てをした後では応じてもらえる可能性が低いため、訴訟提起前のできるだけ早いタイミングで交渉を始めることが重要です。
差押さえによって自身の生活に著しい支障が生じる場合、債務者の申立てにより、差押さえ命令の全部あるいは一部取り消し、申立て却下ができる場合があります。
ただし申立てが認められたとしても、債務がなくなることやるわけではありません。
裁判所から強制執行の通知が届いたら、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
債権者と交渉をしたほうが良いとわかっていても、交渉の進め方がわからず、時間だけが過ぎて事態を悪化させてしまうかもしれません。
専門家に相談すれば、債務問題を解決するための具体的なアドバイスも受けられます。
自己破産で差し押さえるものがない場合の、よくある質問と回答をまとめました。
自身で気付かない問題点なども見つかる可能性もあるため、ご一読ください。
強制執行で差押さえの対象となるのは、自身の財産に限られます。
そのため自身に差し押さえられるものがないからといって、代わりに家族の財産が差し押さえられることはありません。
ただし先述したように差押さえを回避するために、不動産や自動車を家族名義にする行為は犯罪行為です。
刑罰が科されるため、絶対にやってはいけません。
無職で収入がない場合や、差押禁止財産以外の財産がないと、強制執行が決まっても何も回収される財産がないことになります。
ただし回収される財産がないからといって、強制執行がなくなるわけではありません。
強制執行が空振りとなった場合、債務に連帯保証人がいる場合は連帯保証人に請求が行われます。
先述したように、本来の債務者に収入や差押さえができる財産がない場合、代わりに連帯保証人が財産を失う可能性があるため、注意が必要です。
家族と同居しているような場合でも、住居が自身の名義ではない限り強制執行の対象とはなりません。
ただし持家や車などの名義が家族の名義であったとしても、債務者が費用を負担している場合、裁判所が家族に費用の返却を求める場合があります。
また子どもの預金口座に債務者が預金をしているなど、実質的に債務者の財産であるときは、債務者の財産とみなされる場合があるため注意が必要です。
自己破産しても、財産を処分する目的で破産管財人などが家にくることは原則、ありません。
ただし財産隠しが疑われる場合や、不動産や高額な財産を査定する必要があるような場合は、破産管財人が家にくる可能性があります。
自己破産をしていると、お金を借りている銀行の預金口座が凍結され、引き出し・引き落とし・振り込みなどができなくなります。
口座凍結の目的は、債権者となっている銀行が、口座に預けられている預金と借金を相殺するためです。
そのため、保有しているすべての口座が凍結されるわけではありません。
自己破産をしても、すべての財産が差し押さえられてしまうわけではありません。生活に不可欠な財産は手元に残せます。
しかし破産者本人に差し押さえの対象となる財産がなく、強制執行が空振りになった場合、債務者が財産を取得すると財産が差し押さえられてしまいます。
また連帯保証人に返済義務が発生するため注意が必要です。
強制執行の通知が届いて不安な方は、債権者が裁判所に申し立てる前に、早めに専門家に相談しましょう。