東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をすると、破産者のすべての債務は原則として返済が不要になります。
自己破産は借金問題の劇的な解決方法である一方、デメリットとして様々な制約を受けなければなりません。
破産手続き中の制約の一つに、郵便物の受け取りを制限される場合があります。
自己破産を検討している方の中には、郵便物の受け取りが制限されると日常生活で様々な不便が生じるのではないかと不安に感じている方もいるでしょう。
実際のところ、郵便物の受け取りを制限されるケースは限定されており、もし仮に受け取りを制限されても返還を求めることができます。
この記事では、自己破産手続きで郵便物の受け取りが制限されるケースやその対処方法などを解説します。
Contents
破産法により、破産者宛ての郵便物を転送することを「回送嘱託(かいそうしょくたく)」といいます。
ただし、自己破産をしてもすべてのケースで郵便物の受け取りが制限されるわけではありません。
郵便物が転送される場合や、その目的について見ていきましょう。
破産者が郵便物の受け取りを制限されるのは、裁判所が破産者を免責すべきかどうか判断し、破産者の財産や債権債務などの権利関係、破産に至った経緯などを調査しなければならないからです。
破産手続きは、破産者が換金価値のある財産を所有している場合は「管財事件」、所有していない場合は「同時廃止」に分けられます。
管財事件は、破産者の所有する財産の規模によってさらに「通常管財事件」と「少額管財事件」に分かれます。
財産の有無以外にも、財産の所有が判然としない場合や、自己破産に至った理由がギャンブルによる浪費など問題がある場合は、管財事件の扱いです。
管財事件の場合、裁判所に自己破産の申立てをすると、裁判所により破産管財人が選任されます。
破産管財人は、破産者と債権者の利害を調整する役割を持ち、通常は弁護士が選任されて次のような職務を行います。
破産者の財産や債権債務は、預貯金口座やクレジットカードの利用履歴のほか、破産者宛に届く郵便物から判明することも多くあります。
そのため、破産管財人は破産者宛ての郵便物を受け取ったとき、開封して内容を確認する権限があります(破産法82条1項)。
郵送物として届く請求書や通知書にある債権者や保険会社などは、破産者の申告した債権者一覧や財産目録に記載されていなければなりません。
もし債権者一覧から漏れている債権者がいた場合、知らない間に破産者が免責されてしまい、重大な不利益を受ける恐れがあります。
通知書などの内容と破産者の申告した内容に矛盾があれば、破産者の申告に虚偽がある可能性もあるでしょう。
そのため、管財事件の場合は破産者宛ての郵便物がすべて破産管財人に転送され、破産管財人による財産などの調査に使用されます。
郵便物が転送されるのは管財事件のみであり、同時廃止の場合は破産者へ通常通り郵便物が届きます。
同時廃止とは、破産手続き開始の決定と同時に破産手続き廃止の決定をすることであり、破産に至った経緯に免責不許可事由などの問題がなく、換金処分される財産もない場合のみ認められます。
免責不許可事由とは、自己破産で免責をするのが相当でないと判断される要件で、代表的な例は次の通りです。
換金する財産がなく、免責を受ける上で問題がない場合、破産管財人による調査も不要となるため、郵便物の転送も行われません。
もし管財事件となり、郵便物の受け取りが制限された場合、破産者はいつからいつまで郵便物を受け取れないのでしょうか。
郵便物が破産管財人に転送される期間は、「破産手続開始決定から破産手続終結時」です。
具体的な期間の目安として、通常管財事件であれば6カ月程度となることが多いようです。
ただし、財産の規模が大きく複雑な場合や隠し財産が疑われるようなケースでは、より長期化する可能性があるでしょう。
裁判所の運用によって、転送を継続する期間も異なる場合があります。
たとえばある裁判所の場合、法人破産は破産手続き終結まで、個人破産は原則として第1回債権者集会までと分かれています。
別の裁判所では両方とも破産手続き終結まで転送を継続するなど、運用が異なるケースがあるようです。
ここからは、自己破産で転送される郵便物と転送されない郵便物の違いについて確認していきましょう。
破産管財人に転送される郵便物は、郵便局によって配達される封筒やハガキ、レターパックなど、原則として「信書」に限られます。
信書とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」であり、具体例としては書状、請求書、通知書、証明書、一部のダイレクトメールなどが該当します。
転送される郵便物は、たとえば次のようなものです。
中には破産手続きとは直接関係のないプライベートな郵便物もあり、人によっては自分宛に届く郵便物を他人に見られるのに抵抗を感じる方もいるでしょう。
破産管財人には守秘義務があり、財産調査をする上で必要な情報の確認しか行わないため、郵便物の内容が関係のない人にまで知られてしまうことはありませんのでご安心ください。
たとえばヤマト運輸や佐川急便などの宅配業者によって配達される宅配便や、量販店から配送される商品などは転送の対象に含まれません。
ただし、事案によっては「郵便物および荷物」が転送の対象となり、その場合は宅配便なども転送されてしまうことに注意しましょう。
人によっては、自己破産を家族に内緒にしている、自己破産の手続きで家族に迷惑をかけたくないといった事情もあるでしょう。
郵便局から配達される郵便物であっても、転送されるのは破産者本人の郵便物に限られるため、宛名が配偶者や同居する家族宛のものなどは転送されません。
ごくまれに、宛名が不明確な場合や郵便局の間違いで家族宛の郵便物が転送されてしまうケースもあります。
とはいえ、先述の通り破産管財人には守秘義務があるため、通常は開封せずに返却されます。
生活のために必要なインフラ関連の支払いなど、生活上の理由からできるだけ早く返還してほしいという方もいるでしょう。
破産者は、破産管財人へ転送されたすべての郵便物について閲覧を求めることができます。
また、転送された郵便物のうち、換金処分される財産に関わりのないものや確認が済んだ郵便物については返還してもらえます(破産法82条2項)。
ここからは、転送された郵便物を返還してもらうための方法について確認していきましょう。
郵便物を返還するタイミングは、破産管財人の裁量によって異なります。
破産管財人によっては、確認が終わった郵便物を都度返還するケースや、すべての確認が完了してからまとめて返還するケースもあります。
破産管財人が選任されるときは事前に面談が行われますので、郵便物の返還方法について希望がある場合は伝えてみるとよいでしょう。
特に公共料金の支払請求書など、できるだけ早く返してほしい郵便物については破産管財人も理解しているため、通常は迅速に返還してくれるケースが多いようです。
破産管財人から郵便物を返還してもらうには、主に次の方法があります。
破産者本人に郵送で返還してもらう方法です。
破産者にとっても手間や時間がかからない方法ですが、デメリットとして、破産管財人から返還される郵送物には「破産管財人からの郵送物のため、転送は不要」といった記載がされます。
もし破産手続きを同居する親族などに伝えていなかった場合、郵便物から破産の事実が知られてしまう恐れがあるでしょう。
なお、郵送にかかる費用は原則として破産者本人の負担となります。
破産管財人の運用にもよりますが、あらかじめ破産者の宛名を記載した封筒と切手を管財人に渡しておくことが多いようです。
郵送で同居の親族などに知られたくない場合は、破産管財人の事務所に直接取りに行くこともできます。
自己破産をすると、管財事件として扱われた場合は郵便物が破産管財人に転送される可能性があります。
ただし、転送される郵便物はあくまで破産事件の調査のみに使用され、確認が完了したものなどは返還してもらえます。
換金処分される財産がない、もしくは、免責不許可事由に該当しない場合などは、管財事件として扱われないためそもそも郵便物は転送されません。
もし自己破産の手続きで不安がある場合は、破産手続きに精通した弁護士に相談し、早めに不安を払拭しておくとよいでしょう。