東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
自己破産をすると、それまで抱えていた債務の返済から逃れることができます。
しかし一方で、自己破産する時点で保有している財産のほとんどを失うこととなってしまいます。
このように、自己破産の手続きは非常に影響が大きいので、極めて慎重に進められることとなります。
そして、この自己破産の手続きの中で、通帳を提出するように裁判所から求められます。
なぜ通帳を提出するのか、提出する際の注意点にはどのようなものがあるのか、ご紹介していきます。
Contents
自己破産をするには、裁判所に自己破産の申立てを行う必要があります。
この手続きの中で、破産しようとする人の名義となっているすべての通帳を、裁判所に提出しなければなりません。
提出された通帳をもとに、裁判所や破産管財人が銀行口座の調査を実施し、自己破産できるかどうかを検討します。
日常的には使っていない通帳がある場合も、破産者の名義となっている通帳については提出が求められます。
また、残高がゼロで取引履歴がまったくない通帳であっても、提出を求められることが一般的です。
通常は、過去2年分(事案によっては、さらに遡って提出を求められることがあります)の通帳のコピーを提出する必要があります。
自己破産をする際には、必ず通帳のコピーを裁判所に提出する必要があります。
ところで、なぜ通帳を提出する必要があるのでしょうか。
その理由については、主に以下の3つがあげられます。
裁判所に自己破産が認められるためには、借金返済の見込みがないこと(支払不能)であることが条件となります。
そのため、通帳の残高を確認するとともに、収入と支出のバランスを確認します。
そして、借金の返済ができないほど財産や収入がないことが確認できた場合には、支払不能として自己破産が認められます。
もし預金の残高がある程度あり、あるいは収入が安定している場合には、任意整理や個人再生など、別の債務整理も検討されます。
自己破産は誰にでも認められる債務整理ではないため、本当に支払不能となっているかを通帳で確認することが行われることになります。
自己破産をしようとする人は、お金がないために借金の返済に行き詰まった状態となっています。
しかし、単純にお金がなければ自己破産できるというわけではありません。
たとえば、毎月収入があるものの、預金に入ったお金を引き出している場合、預金の残高はあまりないかもしれません。
しかしこのような場合は、財産を隠しているのと同じであり、本当に借金が返済できないわけではないと裁判所は解釈します。
そのため、支払不能として自己破産が認められる可能性は、かなり少なくなってしまいます。
また、預金の中から借金の返済を行う際に、特定の借金だけを返済してしまうことがあります。
このような返済方法を、偏頗弁済といいます。
破産手続きをする際に偏頗弁済を行うことは認められないため、そのような行為が行われていないか、通帳で確認されます。
もし偏頗弁済が確認されれば、自己破産が認められなくなるため、通帳を確認することには大きな意味があります。
自己破産すると、財産の大半は没収の上で換価処分され、債権者に対して分配されます。
預金の残高については、基本的にすべてが換価処分の対象となるため、預金を残すことはできません。
ただし、預金の残高が20万円以下である場合には、換価処分の対象にならないとする裁判所があります。
そのため、預金の残高がいくらなのかを知ることは、自己破産の手続きを進める際に非常に重要になります。
預金の残高がいくらなのかを判定する際は、すべての預金の合計で考えます。
複数の銀行で預金口座を開設している場合は、すべての預金残高の合計を求める必要があります。
そのため、ほとんど使っていない預金についても、通帳を提出しなければなりません。
自己破産をするために裁判所に通帳を提出した後、裁判所から確認や指摘を受けることがあります。
自己破産を進めるためには必要な手続きであり、対処を間違えると自己破産の手続きに影響が出る可能性もあります。
指摘を受けても焦らず、適切に対応するようにしましょう。
指摘を受けるものとして、以下のケースが考えられます。
通帳に入金が多くあるということは、多くの収入があるのではないかと考えられます。
借金の返済が不能となる原因として、収入があまりないというものがあげられます。
しかし、収入があれば自己破産しなければならないほど行き詰まっているとは考えられません。
中には、裁判所に対して収入の金額を少なく申告して、自己破産しようとしている可能性もあります。
また、出金が多くある場合は、様々なことを確認する必要があります。
まず、多くのお金を使っているのは浪費やギャンブルが原因ではないかということです。
浪費やギャンブルが原因となった借金は、原則的に自己破産しても免責されないこととなっています。
また、浪費やギャンブルにお金を使うため借金が返済できないのであれば、自己破産は認められない可能性があります。
さらに、自己破産の手続きを進める一方で、特定の借金だけ返済する偏頗弁済が行われていないかを確認しなければなりません。
友人からの借金であっても、自己破産すれば消滅します。
しかし、友人に悪いからといって、その借金だけ先に返済することは認められません。
もし偏頗弁済が行われていれば、最悪の場合、自己破産が認められないこととなります。
自己破産するには、いくつもの条件を満たさなければなりません。
そのための確認事項が、通帳には数多く記録されているために提出が求められています。
通帳に「積立」などと書かれた出金が、毎月決まった日に定期的に行われていることがあります。
このような出金は、普通預金から定期預金や定期積金など、別口座に振り替えられているものと推測されます。
そのため、定期預金などの残高が申告されているか確認されることがあります。
もし申告がなければ、定期預金などの残高がわかる書類を提出するように求められることとなります。
通帳の残高は、通常はゼロになることはあっても、マイナスになることはありません。
しかし、同一の金融機関で定期預金を保有している場合には、その定期預金を担保にして、貸越契約を結ぶことができます。
貸越となった場合には、通帳の残高はマイナスになることがありますが、それは定期預金など他の財産があることを意味します。
しかし、そういった定期預金について申告されていないなど、確認を要するケースが考えられます。
通帳からは、すべての支払相手を確認することができます。
その中に、毎月生命保険料を支払っているケース、あるいは毎年固定資産税を支払っているケースがあります。
生命保険料を支払っている場合、生命保険の契約内容によっては、解約返戻金が発生することがあります。
しかし、解約返戻金については、財産として申告していないことが多くあります。
裁判所では、保険会社への支払いがあれば解約返戻金がある可能性があるものとして、内容の確認が行われます。
また、固定資産税を支払っている場合、その人は土地や家屋を所有していることとなります。
土地や家屋は、自宅であっても換価処分の対象となります。
そのため、正しく申告されているかがチェックされることとなります。
もし正しく申告されていなければ、改めて土地や家屋についての情報提出が求められます。
自己破産の手続きの中で通帳を提出する場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
特に判断に迷うケースや、間違えやすいケースについてご紹介していきます。
自己破産の手続きを行う中で、通帳を裁判所に提出する場合、通帳の原本をそのまま提出してしまわないようにしましょう。
通帳の原本を提出してはいけないというわけではありませんが、原本を提出してしまうと、手元に通帳がなくなってしまい、非常に不便です。
そのため、裁判所に通帳を提出する際は、必ずコピーを準備するようにしましょう。
通帳のコピーを裁判所に提出するため、通帳をコピーする必要があります。
このコピーは、申立時点から遡って2年分を準備しなければなりません。また、申立までのすべての履歴が記載されている必要があるため、申立直前に記帳することが重要です。
通帳の記帳を長期間にわたって行っていなかった場合、取引ごとに記帳されなくなってしまいます。
このような場合、通帳には一定期間の取引金額がまとめて記帳され、この記帳方法を合計記帳や一括記帳といいます。
合計記帳や一括記帳が行われた場合、取引の内容を正確に知ることはできません。
そのため、合計記帳となっている期間の明細を知るためには、取引明細書を発行してもらう必要があります。
そして、裁判所にも合計記帳された通帳のコピーと一緒に、取引明細書を提出する必要があります。
仮に合計記帳となった期間の取引が数件しかない場合でも、あるいは合計でわずかな金額しかなくても、明細は必要です。
内容が不明な取引が1件もない状態になるよう、裁判所に書類を提出しなければなりません。
通帳のコピーを提出する際に、残高がゼロになっている口座があると、提出する必要がないと考えるかもしれません。
しかし、残高がゼロの口座であっても、通帳のコピーは提出しなければならないこととされています。
通帳のコピーを提出する理由は、現在の預金残高を知ることだけではありません。
自己破産に至るまでにどのような収入と支出があり、なぜ借金が返済できなくなったのかを知ることもその理由となっています。
これまでにどのような入出金の履歴があったのかを明らかにするには、通帳のコピーが必要です。
そのため、残高がゼロの口座についても、何らかの書類が必要になります。
もし過去に取引があれば、通帳のコピーを提出することとなります。
また、前述したように、過去1年以上まったく記帳していない場合は、取引明細書が必要になる場合もあります。
インターネットバンクは、実店舗や通帳がない代わりに、手数料などが割安になっています。
インターネットバンクに残高があっても通帳はないため、裁判所に書類を提出しなくてもいいのではないかと考えるかもしれません。
しかし、インターネットバンクに口座を保有している場合、通帳に代わる書類を提出する必要があります。
提出する書類としてまず考えられるのが、ダウンロードした取引明細です。
しかし、取引明細を取得できる期間には制限があり、どれだけでも遡ることができるわけではありません。
そのため、いつでもすぐに取引明細を準備できると考え、準備を後回しにするのは危険です。
最低でも2年間の取引明細が必要であり、ダウンロードできない場合には、銀行に取引明細書を発行してもらう必要があります。
借金の返済に行き詰まった人にとって、自己破産は再起を図る最終手段といえます。
自己破産をすれば、借金はゼロになりますがほぼすべての財産を失うこととなり、ゼロからの出発となります。
ただ、自己破産は誰でも簡単にできるものではありません。
借金が返済できなくなった理由や、借金をしたそもそもの原因について確認の上、問題がない場合のみ認められるものです。
通帳を提出する必要があるのも、適切に自己破産の手続きを進めるためです。
専門家に依頼するなどして、問題なく自己破産できるようにしましょう。