東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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現在の収入や財産では支払いきれないほどの借金を抱えているとき、債務の返済を免れる手段の一つに自己破産があります。
自己破産は多くの人にとって最終手段となるはずです。
しかし、自己破産手続きを終えた後に、新たな借金が判明するというケースも少なからず存在します。
せっかく自己破産をして借金から逃れられたのに、「また振り出しに戻ってしまうのでは…?」と不安になる方もいるでしょう。
自己破産後に借金が発覚する原因は様々です。
借金を見落としていたケースや、知っていたのにわざと届け出なかったケースもあるでしょう。
自己破産後に発覚した借金がどのような扱いになるかは、それぞれのケースによって異なります。
本記事では、借金が発覚する原因や自己破産後に発覚した借金が免責になるかどうか、発覚したときの対処法を解説します。
これから自己破産をしたいと思っている方や、自己破産後に借金が発覚して悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。
Contents
自己破産とは、自分の収入や財産を大きく超える負債を背負ってしまうなど、返済が不可能な状態(返済の見込みがない状態)に陥っていることを裁判所に認めてもらい、かつ返済を免除してもらう手続きを指します。
経済的な苦境に立ち、支払能力がない人を救済する法的な手段の一つです。
自己破産の手続きでは、まず、裁判所に申立てを行います。
裁判所は財産や収入、債務の状況を審査し、支払能力があるかないかを判断します。
自己破産をすると多くの場合、債務が免責(税金などの一部債務を除き、債務の返済が免除されること)されます。
自己破産をし、免責許可決定を受けると、借金の返済義務がなくなります。
負債が大きく減ることで、現在の自分の生活を守ることができます。
ただし、租税や養育費など一部の債務は残りますので、注意しましょう。
自己破産手続きでは、誰からどのくらいの債務を負っているのかを示す「債権者一覧表」を裁判所に提出する必要があります。
債権者一覧表から漏れてしまうと、債権者は自己破産による配当を受け取ることができません。
個人での自己破産では、多くの場合、「少額管財」(管財事件のうち、裁判所に納付する予納金の金額を通常の管財事件よりも少額にした運用となります。
当該手続きを利用できるかは、各裁判所の運用によって異なります。)と呼ばれる手続きを踏みます。
少額管財では、裁判所から選任された破産管財人(弁護士)が財産の調査を行います。
このとき、破産管財人の調査から漏れてしまう借金として、家族などから口約束で借りた場合が挙げられます。
このように自己破産手続きでは慎重に財産・債務状況を調査しますが、借金の申告漏れが発覚することも少なからずあります。
新たな借金が発覚する原因としては、以下の場合を考えてみましょう。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
債権者が多数存在し、一部の少額の債権者の存在を忘れていた、借金の支払いが滞ってから長い期間が経ってしまい借金の存在を忘れてしまったなど、借金の存在自体を忘れているケースもあります。
このケースでは、債権者の方も債権の回収を諦めていることもあり、しばらく督促状などが送られてこないことも考えられます。
しかし、消滅時効にかからない間であれば、債権者は返済の請求をすることが可能です。
このため、すっかり忘れて自己破産手続きを終えた後に、改めて請求があり、借金が発覚する可能性があります。
消滅時効とは、一定期間、権利者が権利を行使しなかった場合に、その権利を消滅させる制度です。
消滅時効は令和2年4月1日を境に、取り扱いが変わっています。
令和2年3月31日以前の借金であれば、改正前の民法が適用され、消滅時効は10年となります。
ただし、貸金業者など商行為による債権については5年の時効期間が適用されます(改正前商法522条)。
一方、令和2年4月1日以降に借り入れた場合には、改正後の民法が適用されます。
民法166条によると、消滅時効は以下の通りです。
このうち早い方が適用されます。
たとえば、債権者が借金の返済を請求できることを認知していなかった場合でも、請求可能な時点から10年間が経過すれば消滅時効が成立します。
ただ、権利を行使できることを知らなかった場合であっても、客観的に権利を行使することができる状況であれば、「権利を行使できることを知っていた」ことになるため、原則として期間は5年間であるといえますので、注意しましょう。
消滅時効完成前に請求があれば、時効成立が阻止されます。
ただし、ここでいう「請求」とは単に内容証明郵便による催促などを指すのではなく、訴訟の提起などの裁判上の請求のことを指すことには注意が必要です。
実際に訴訟の提起や支払督促など裁判上の請求をしないと、時効完成は阻止できません。
なお、口頭での催促や内容証明郵便による催促だけの場合、6か月だけ時効の完成を猶予する効果を有しています。
猶予期間である6カ月以内に、改めて訴訟提起や支払督促の申立てが必要となりますので、注意が必要です。
いくら存在を忘れていても、債務自体は消滅しませんので、自己破産時には慎重な調査が必要です。
督促状などは安易に破棄せず、しっかりと保管しておくようにしましょう。
借金の存在を知っているにも関わらず、故意に借金を隠していることもまれにあります。
債権者に個人的な恨みを抱えているなどの理由で、自己破産時の配当を受けさせない目的で隠してしまうことも考えられます。
後述するように、自己破産手続きの際に故意に借金を隠すことは債権者にとってもメリットがありません。
また、悪質であると判断される場合には、詐欺破産罪に問われ、すでになされている自己破産の免責決定自体が取り消されてしまう可能性があります(破産法第265条)。
詐欺破産罪にて有罪となると、刑事罰を科されることもあるので、故意に一部の債権者を一覧に載せないということは絶対にないようにしましょう。
自己破産後に発覚した借金が免責になるかは、端的に言うと、「借金の存在を知っていたかどうか」で決まります。
免責とは借金がなくなることを指します。
借金の存在を知っていれば免責されず、借金の存在をやむを得ずに知らなければ免責されます。
具体的には以下の項目によって判断します。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
債務者が借金の存在を知らないことについて、債務者の過失がないもしくは小さい場合、債権者が自己破産の事実を知っていた場合には、免責が受けられます。
免責となると、その借金の申告から漏れてしまった債権者は、金銭を回収することができません。
債務者に過失があるかどうかを判断するのは難しいですが、「本当に知らなかった」場合には過失なしと判断される可能性が高いでしょう。
ただし、知らないかどうかは客観的な証拠で判断されます。
たとえば、家に借用書や契約書などが残っている場合や督促状が定期的に届いている場合は「知らなかった」とはみなされないことがあります。
債権者が自己破産の事実を知っていた場合については、破産法に定めがあります。
破産法では「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」については免責されないと規定していますが、括弧書として「当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く」と示しています(破産法253条1項6号)。
つまり、債権者が破産手続き開始の決定を知っていれば、例外的に免責されることになります。
一方で、免責にならないケースは「借金の存在を知っている」場合です。
借金の存在を知っているとは、つまり、債務者に小さくない過失があるということです。
ただし、先述したように、当該債務者が破産手続き開始の決定を知らないことが前提となります。
借金の存在を知っていて申告しなければ非免責債権(免責の効力が及ばない債権)となり、返済が免除されません。
理由としては、債権者側の不利益が挙げられます。
裁判所は債権者一覧表に基づいて、債権者に通知を行い、免責についての意見を聞きます。
しかし、申告がなかった債権者は、免責に関する意見を申述する機会を奪われてしまうことになります。
こうした不利益から債権者を保護する目的で、非免責債権として扱われます。
非免責債権となるものには、具体的には以下のケースが挙げられます。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
自己破産手続きを弁護士などに依頼する場合、その弁護士が本人に代わって財産や借金の状況などを調べることになります。
信用情報機関などで信用情報の公開を請求することで、ある程度の借金については把握できます。
しかし、個人間の契約については、基本的に本人の申告が情報源です。
書類作成を代行する弁護士にわざと債権者の情報を伝えないことで、弁護士が借金の存在を知らずに申告してしまうことがあります。
債務者が借金の存在を知った上で故意に隠している状態となるため、非免責債権として扱われることになります。
自分自身で債権者一覧表を作成する場合など、事務的なミスで申告漏れが発生することがあります。
残念ながら、この場合も「知っていたのに申告しなかった」ということになります。
債務者が借金の存在を忘れていたとしても、自宅に契約書や借用書など、借金の存在を証明する書類が残っている場合には「知っていたのに申告しなかった」と認識される可能性があります。
この場合、客観的に見て、債務者が借金の存在を把握することが可能であるからです。
では自己破産後に借金が発覚した場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。
以下、借金が発覚したタイミングごとに解説します。
自己破産手続き中に借金の申告漏れが発覚した場合は、直ちに上申書と訂正した債権者一覧表を作成し、裁判所に届け出る必要があります。
手続き中の訂正は比較的柔軟に対応してもらえます。
発覚したらすぐに専門家に相談するなどして、正確かつ迅速に手続きを進めることが重要です。
免責決定後に借金の申告漏れが発覚した場合は、先に説明したように、個々の事情によって免責の可否が異なります。
借金の存在を知っていた場合には免責が認められず、借金はそのまま残り、返済の義務があります。
一方、借金の存在を知らなかった場合には免責されます。
免責されるケースでは借金を返済する義務がなくなります。
債権者から借金の返済を請求された場合には「免責許可確定証明書」「免責決定通知書」などの証明書を提示しましょう。
ほとんどの金融業者であれば、もはや請求ができないことを理解してくれるはずです。
しかし、一部には法的な知識がない債権者もおり、継続して取り立てをすることもあり得ます。
あるいは、債権者一覧表に「故意に」記載しなかったのではないかと主張する可能性も考えられます。
このようなトラブルに発展した場合には、弁護士に相談しましょう。
自己破産手続き後に借金が発覚した場合には「申告時に借金の存在を知っていたか」が焦点となります。
借金の存在を知っていて隠してしまうと、免責が受けられず、借金の返済をする義務が残ります。
せっかくの自己破産手続きが無駄になってしまうことも考えられます。
自己破産後に借金が発覚すると、債権者にとっても債務者にとってもメリットがありません。
事前に信用情報の公開請求をし、個人間の借金についてもしっかりと証明書を残すようにしましょう。
自己破産の手続きのトラブルを防ぐためには、弁護士に相談するのがよい方法です。
申告漏れのリスクを抑えることができる他、申告漏れが発生した場合でも裁判所への上申書作成や債権者との交渉を任せることが可能です。