東京弁護士会所属。
破産をお考えの方にとって、弁護士は、適切な手続きをするための強い味方になります。
特に、周りに相談できず悩まれていたり、負債がかさんでしまいそうで破産を考えていたりする方は、ぜひ検討してみてください。
債務整理の方法のひとつに、個人再生があります。
個人再生の中でも給与所得者等再生は、安定的な収入があれば利用しやすく、借金を大幅に減額できる可能性のある手続きです。
ただし、利用には条件があり、制度を正しく理解しておかなければ、弁済額が高額になるなど、不利益を被るケースもあります。
今回は、給与所得者等再生について、メリットとデメリットや手続きの流れを解説します。
Contents
給与所得者等再生は、住宅を残しながら、借金を大幅に減額することができるしくみです。
ここでは、給与所得者等再生の概要や費用、小規模個人再生との違いについて解説します。
給与所得者等再生とは、会社員や公務員など毎月の収入が安定している人が利用できる債務整理です。
基本的に債務を大幅に減額し、返済計画に沿って原則3年間で返済します。
また、住宅資金特別条項を利用することで、住宅ローンを債務整理の対象から外すことができます。
家族がいる場合やどうしても自宅を残したい場合に、非常に有効な手段と言えます。
自己破産と異なり、手続きのよる職業制限はありません。
仕事を辞める必要もなく、今の生活を続けながら債務整理ができることが最大のメリットです。
給与所得者等再生を利用するための要件は、以下の通りです。
中でも最も重要なことは、継続的で安定した収入があることです。
サラリーマンなどの給与所得があることが前提のため、自営業者やパート・アルバイトの場合は、小規模個人再生を利用することになります。
給与所得者等再生を利用する場合、主に裁判所に支払う費用と、弁護士費用が必要になります。
【裁判所費用】
【弁護士費用】
総額で30~60万円ほどかかります。
裁判所費用は、再生委員が選任されなければ少額に抑えることができます。
ただし、東京地方裁判所は委員の選任が必須であるなど、裁判所ごとに運用は異なります。
弁護士費用は事務所によって異なるため、事前によく確認し、比較検討することをおすすめします。
申立て費用で困った場合は、法テラスなどの公的支援制度を利用する、あるいは分割支払いが可能か相談してみましょう。
個人再生手続きは、給与所得者等再生と小規模個人再生の2つの方法があります。
2つの大きな違いは、返済額の決め方と債権者の同意の必要性にあります。
返済額の決め方 | 債権者の同意 | |
---|---|---|
給与所得者等再生 | 可処分所得基準による | 不要 |
小規模個人再生 | 最低弁済基準と清算価値による | 要 |
小規模個人再生は、再生計画について過半数以上の債権者から同意を得なければなりません。
不同意となれば、再生手続き自体が続けられなくなる可能性があります。
一方、給与所得者等再生は債権者の同意は必要ないため、再生計画が認可されないことはほとんどありません。
返済額については、小規模個人再生は、最低弁済基準と清算価値を比較し、最低弁済額を決定します。
給与所得者等再生は、最低弁済額・清算価値に可処分所得基準が加わるため、弁済額が高額になる可能性があります。
弁済額については、次項で詳しく解説します。
給与所得者等再生の最低弁済額は、最低弁済基準、清算価値、可処分所得基準の3つを比較し、一番高い金額が最終的な最低弁済額になります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
個人再生手続きでは、最低弁済基準という、債務総額に応じた弁済額の基準が定められています。
最低弁済基準は以下の通りです。
債務総額 | 最低弁済基準 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円以上、500万円未満 | 100万円 |
500万円以上、1500万円未満 | 5分の1 |
1500万円以上、3000万円未満 | 300万円 |
3000万円以上、5000万円未満 | 10分の1 |
この基準を下回る再生計画は認可されないため、最低弁済基準を満たすことが制度利用の前提になります。
清算価値保障基準とは、もし自己破産した場合に債権者へ配当される金額以上を返済しなければならない、という法的な原則です。
債権者の利益を保護するために設けられています。
清算価値の対象には、以下のようなものがあります。
たとえば、99万円以上の現金や20万円以上の価値のある車などがある場合、その合計額を下回る返済額の計画は認められません。
原則として、所有資産の査定額の合計以上の返済が必要です。
もし資産隠しをして発覚した場合は、再生計画が却下される可能性もあるため絶対にしてはいけません。
給与所得者等再生で最も特徴的なのが、可処分所得基準です。
収入から生活に必要な支出を差し引いた自由に使えるお金=可処分所得の2年分を返済に充てるというしくみです。
収入が高い人ほど返済額も高くなる可能性があります。
可処分所得は、実収入から基準生活費や税金、社会保険料を差し引いて求めます。
求めた可処分所得の2年分が可処分所得基準となります。
生活基準費とは、政令で定められたもので、世帯人数や構成によって変わるため、配偶者や子どもの有無で可処分所得は大きく変わります。
給与所得者等再生を利用するにあたって、特徴をよく理解しておきましょう。
ここでは、給与所得者等再生のメリットやデメリットについて、詳しく解説します。
給与所得者等再生のメリットは、以下の通りです。
給与所得者等再生の最大のメリットは、債権者の同意が必要ないことです。
返済の意思と能力があれば、基本的に手続きが廃止されることはありません。
また、自己破産と違い、職業制限がないこともメリットです。
自己破産の場合、士業や警備員、保険募集人など一定期間、職業制限にかかり仕事ができなくなります。
そのような心配はなく、仕事を続けながら債務整理ができます。
給与所得者等再生は便利な制度ですが、すべての人にとって最適とは限りません。
デメリットには、以下のようなものがあります。
可処分所得基準があるため、高収入な場合や家族構成によって、返済額が高額になる可能性があります。
何らかの事情で収入が途絶えると、制度そのものが使えなくなることもあります。
また、ただでさえ借金返済に追われて苦しいところに、手続きの様々な費用がかかることもデメリットと言えるでしょう。
給与所得者等再生は、どのように手続きをするのでしょうか。
ここでは、給与所得者等再生の手続きをする場合の流れについて解説します。
給与所得者等再生を検討するとき、まずは専門家への相談を行います。
専門家は、弁護士や司法書士に相談するとよいでしょう。
ただし司法書士は、地方裁判所での代理権がないため、書類作成代行がメインになります。
裁判所に出向いて対応してもらえるわけではないことに注意が必要です。
手続きは非常に複雑なため、専門家に依頼することで、書類の不備や手続きの遅延を防げます。
また、専門家が受任すると、債権者からの取立てや催促を止めることができるというメリットもあります。
家計の収支や借金の詳細など、債務に関する書類をそろえ、申立ての準備をします。
専門家に依頼した場合も、書類準備に協力しましょう。
申立て先は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
書類不備があると却下や差し戻しになることもあるため、よく確認しましょう。
印紙代や切手代、官報費用など、裁判所費用の支払いが必要です。
書類提出後、通常1~2カ月で手続き開始の決定が出ます。
手続きが開始されると、裁判所から債権者へ手続きの開始のお知らせと、債権の届出を行うよう通知を送付されます。
債権者は1カ月以内に債権届出を行います。
債権届出は、実際にどれくらいの借金があるか、裁判所が正式に把握するための重要な手続きです。
申立人は届出内容を確認し、異議があれば申立てが可能です。
最終的に裁判所が債権総額を確定させます。
債権者の届出が終わると、債務をどのように返済していくか、再生計画案を作成します。
再生計画案は、現実的かつ法律に適合した計画を立てることが大切です。
返済額、返済期間、返済方法を具体的に記載します。
計画では原則3年間の分割返済としますが、特別な事情がある場合は、最長5年間でも認められることがあります。
返済額は、可処分所得基準・清算価値保障基準・最低弁済額基準のうち、最も高い額になります。
裁判所へ提出する前に、内容をよく確認しましょう。
再生案が裁判所に認められなければ、手続きは先に進められません。
再生計画案を提出したら、債権者へ書面で意見聴取が行われます。
債権者へ意見書の提出を求め、債権者は賛成・反対を裁判所へ回答します。
自己破産のような債権者集会は原則不要です。
給与所得者等再生では、債権者の多数決で再生案が否決されることはありませんが、意見そのものは裁判所の判断に影響を与えることがあります。
もし反対意見が多ければ、裁判所が再生案は妥当ではない、と判断する可能性もあります。
債権者の意見を踏まえて、裁判所が最終判断をします。
無事に再生計画案が認可されれば、裁判所は認可決定を下します。
認可決定が下りることで、初めて再生計画に基づいた返済が始まります。
認可決定は、再生案提出からおよそ1~2カ月で下されます。
認可後は、計画に沿ったスケジュールで返済していきましょう。
もし途中で滞納すると、計画が取り消される可能性もあります。
計画が取り消されると個人再生は失敗となり、元の借金全額を支払う必要が出てくるほか、債権者からの取り立てが再開されるなど、振り出しに戻ります。
返済が困難になった場合は、滞納することのないように、早めに専門家に相談しましょう。
給与所得者等再生は、安定した収入があり、住宅を残しながら債務整理をしたい場合に非常に有力な選択肢です。
しかし返済額が高額になる可能性があるほか、そもそも制度を利用できるのか判断が難しいものでもあります。
給与所得者等再生を利用するか迷っている場合や、自分に合っているのか不安な場合は、早めに債務整理の専門家に相談しましょう。