最終更新日:2020/7/30
役員報酬の決め方|定期同額、事前確定、業績連動まで詳しく解説!
この記事でわかること
- 役員報酬の支払い方法3つについて違いがわかる
- 役員報酬の決め方について理解できる
- 役員報酬の届出方法や変更の際の注意点がわかる
- 役員報酬による節税方法について理解できる
役員報酬は、給与と似ていますが全くの別物です。
今回は、損をしないための役員報酬の決め方と、届出や変更の際の注意点をお伝えします。
また、役員報酬の支給方法の違いで節税につながることもあります。
特に、一人で会社を経営している方はこの記事を参考にしてください。
役員報酬とは?給与とどこが違うの?
まず、役員報酬は給与とどこが違うのでしょうか。
会社からお金をもらうという点では、給与とよく似ています。
給与と比較して、具体的にどこが違うのかみていきましょう。
従業員と役員では立場が違う
まず、従業員給与は、労働への対価として会社から支払われます。
もちろん、役員が労働をしていないというわけではありませんので、役員報酬にも労働の対価という考え方はあります。
しかし、従業員は会社に雇われている人であり、役員は会社のオーナー側の人です。
従業員と役員とでは立場が違います。
役員報酬は、法人税法上の役員にあたる人に対して、会社から支払われる報酬のことをいいます。
役員は、会社に雇われているのではなく、どちらかといえば会社のオーナー側の人ですので、自分で自分の役員報酬を決めることが事実上可能です。
しかし、自分で自分の役員報酬を決めたり、他の人の役員報酬(多くの中小企業は家族経営が多いので、実質的には家族の役員報酬)を決めたりできるとなると、役員報酬をたくさんもらうことで会社の利益を減らして、税金を節約できてしまいます。
このように、役員報酬を不正な会計の手段として使うことのないように、従業員給与と役員報酬とでは税法上の取り扱いに差が設けられています。
役員報酬は規制が多く勝手に増減できない
従業員と役員報酬の税制上の違いは、従業員報酬については全て損金に算入できるのに対し、役員報酬に関しては要件を満たさなければ損金算入できません。
また、従業員給与は増額・減額が自由にできますが、役員報酬はそのような自由がありません。
もちろん、病欠の時に減額したり、取締役が代表取締役に昇格したりといった正当な理由があれば増減額は認められます。
そして増減をするにも株主総会で株主たちに賛成してもらわなければなりません。
役員報酬を損金に算入するためには3つの給与方法「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のうち、いずれかに当てはまっている必要があります。
なお、当てはまっていたとしても業務の内容に照らして不相当に高い役員報酬については、損金の算入が認められないことがあります。
詳細は、後ほど役員報酬の種類のところで解説します。
給与と役員報酬の違いを総括
給与は自由に増減でき、全額を損金に算入できます。
一方、役員報酬は報酬の増減にかなりの規制がかかっています。
役員報酬は支払い方も決まっており、先ほど述べた「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3通りのうち、どれかに当てはまらないと損金に算入できなくなります。
また、当てはまったとしてもその金額が大きすぎると、損金に算入できません。
役員報酬は、役員自身が決められるので不正な税務処理に使われてしまう可能性があります。
そこで税務署としては、不正な会計を防止すべく、役員報酬の支払い方や金額などに制限をかけているという現状があります。
役員報酬の決め方
役員報酬は、従業員給与と違い、上司と相談して給与の査定をするのではありません。
株主総会で役員報酬をいくら支払うのか決めます。
株主総会で役員報酬を決める
役員が自分の役員報酬を決めてしまうことを防ぐために、会社法の規定を意識しましょう。
会社法では、原則として役員報酬を株主総会で決めることになっています。
株主総会では、
- ①役員一人一人の報酬を決めるという方法
- ②役員全員分の報酬を決めておいて、その中での分け方(個別の役員報酬)は代表取締役や取締役の総意で決定するという方法
があります。
定款に記載する時点で、どちらの方法を取るのか決定しておくことが必要です。
多くの場合は、決算後の定時株主総会で役員報酬を決定します。
一人社長の会社でも議事録を残そう
株主総会といっても、一人社長の会社の場合は、株主と取締役が同一人物になり、議事録を書いても登場人物が一人しかいません。
議事録を残す意味があまりないのではと思われるかもしれませんが、このようなケースでも議事録をきちんと残しておきましょう。
議事録の役割は、会社法の規定に則って役員報酬を決めたという証拠を残すことです。
もし、この議事録がない場合は、例えば役員報酬が脱税のために増額されたのでないかといった疑いを持たれてしまう事になります。
一人社長であっても、会社の財産と社長の財産は別物です。
会社から財産をもらうときは、一定の手続きが必要であることを認識しておいてください。
役員報酬の種類
役員の報酬には、3つの支払い方法があることに触れました。
それでは、具体的にどのような種類があるのか、詳細をご説明します。
役員報酬の支払い方は3通りある
役員報酬の支払い方は、・定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3通りです。
これ以外の方法で支払うことも可能ですが、支払っても損金には算入されませんし、受け取った側の役員も所得税を支払わなければいけなくなるなど、良いことはありません。
中小企業の場合、役員報酬は「定期同額給与」または「事前確定届出給与」、もしくはその二つの併用で支払うことが多いです。
「定期同額給与」とは毎回決まった額の報酬を支給すること
まず、よく言われるのは定期的に同額の給与を支給する方法についてです。
国税庁のホームページによると、
「(1) その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(2) 定期給与の額につき、次に掲げる改定(以下「給与改定」といいます。)がされた場合におけるその事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又はその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの」「(3) 継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」
引用元:国税庁ホームページ
「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
とされています。
つまり、あらかじめ決められた金額を、決まった通りに支給するのであれば損金に算入できるということです。
「事前確定届出給与」とは税務署に事前に届け出た額を支給すること
2つ目の事前確定届出給与とは、事前に役員報酬を確定して、届出期限までに税務署に届出をすることが必要な役員報酬です。
いつにいくらの役員報酬を支払うのか、あらかじめ税務署に届け出なければいけないので、毎回この方法で役員報酬を支払うのは面倒という経営者も多いのではないでしょうか。
実際どのようなタイミングで使われるかというと、定期同額給与に上乗せの形で、ボーナスとして使われることが多いです。
また、役員の中には常勤の役員ばかりではなく、非常勤の役員もいるでしょう。
非常勤役員の報酬を計算するときに、年間を通じて会社に来ないのに常勤の役員と同じ報酬にすると現状とのズレが生じがちです。
そこで、事前確定届出給与として、非常勤役員に報酬を支給しようという方法が取られます。
注意すべきなのは、税務署への届け出の期限が早いということです。
役員の報酬を決める株主総会の決議の日から1ヵ月以内か、決算から4か月以内のいずれか早い日が届け出の期限です。
「今期は会社の利益がたくさん出たので、頑張った役員にも報酬アップしたい」というとき、実は届出期限まであまり時間がありません。
会社にたくさん利益が出るのは良いことですが、それと同時に税金もアップします。
税金を逃れるための手段として役員報酬を利用することはできません。
さらに、せっかく届出をしても確定した役員報酬額を、決められた日時に支払わなければ、損金算入は不可能です。
「業績連動給与」は利益に連動する役員報酬のこと
こちらの支払い方法は、多くの中小企業では使えない手段です。
というのも、多くの中小企業は一人社長や家族経営などの同族会社ですし、株式も非公開、上場もしていないということが多いので、業績連動給与の制度を利用することができません。
この制度を利用できるのは、有価証券報告書を提出している企業に限定されています。
元々は、利益連動給与と呼ばれていましたが、平成29年の改正で業績連動給与と呼ばれるようになりました。
参考までにどのような制度か解説すると、法人もしくはグループ企業の利益に関する指標(有価証券報告書に記載されたもの)と役員報酬を連動させて、報酬額を決定する方法です。
恣意的に操作されないように、客観的に判断できる指標として有価証券報告書への記載事項が用いられます。
業績連動給与は、会社の利益が上がったら役員の報酬も連動してアップするという仕組みなので、役員のモチベーションがアップするというメリットがあります。
役員の種類
ここで、そもそも役員とはどのような人たちのことをいうのかざっとおさらいしましょう。
役員になるには、株主総会で選任されなければいけません。
株主が、経営を任せてもいいと思った人が取締役になるというイメージです。
中小企業では、株主も経営者も同じということも良くありますが、本来的には会社の所有と経営は別であるというのが株式会社の特徴です。
取締役は全ての会社に置かなければならない
取締役は、すべての株式会社に必ず置かなければなりません。
取締役は、会社を経営する人のことを言います。
取締役が何人かいる場合は、定款で取締役会を設置すると定めることも可能です。
もし定款で取締役会の設置を定めない場合、複数名の取締役から互選で代表取締役を選ぶことになります。
会社のチェックが仕事の監査役
きちんと取締役が仕事をしているのか、会社のお金を使い込んだり、不正に流用したりしていないかなどをチェックする人のことを監査役と言います。
監査役は会社の構成によって必要ではないこともありますので、監査役がいない株式会社もあります。
会計参与は取締役と一緒に計算書類を作る
会計参与は、税理士、税理士法人、公認会計士や監査法人がなることができます。
取締役と一緒に会社の計算書類を作ります。
会計参与も、会社の構成によっては不要です。
会計参与のいない株式会社もあります。
役員と役職名は別
「それでは、専務や相談役は役員ではないのか」と思った方もいらっしゃるでしょう。
実は、役員と役職名は別物です。
登記簿に掲載されるのは、役員が誰なのかということです。
役員の種類は、会社法で決まっています。
一方で、役職名に関しては特に決まりがないので自由にして良いことになっています。
例えば、登記簿では代表取締役でも役職名は代表取締役社長ということもあります。
役員報酬を決める要素
税制上の色々な規制をクリアした上で、考えなければいけないのはどうやって役員報酬を決めるのかということでしょう。
会社にどれだけ貢献したのか、あるいはこれから貢献してもらえるのかという見込みを立てるのは確かに難しいです。
原則として株主が承認すれば良い
原則として、株主が承認すれば役員報酬は適切であるといえます。
会社の所有者である株主が、その金額の役員報酬でいいですよといっているのだから、それでいいでしょうという考え方です。
ところが、株主も役員も同じ人や、家族がなっている場合は、客観性がありませんので本当にその金額でいいのか不安になることでしょう。
実際、業務内容に照らし合わせて役員報酬が多すぎると、損金に参入できなくなります。
会社の経営にとっても役員報酬が多すぎると負担になってしまいます。
同業種・同規模の会社の役員報酬と比較する
まずは同業種・同規模の会社の役員報酬と比較してみてください。
とはいえ小規模な会社ではわからないことも多いです。
その場合は、もし同じ業務について、従業員を雇って行わせた場合はいくら支払うだろうかという点を考えてみてください。
役員報酬は、従業員給与ではないので雇われた人がもらうものではありませんが、労働への対価であるという意味では似ている部分もあります。
役員が会社のために働いた時間、働いた内容などを考慮すると、同じ業務について従業員を雇ってする場合より安いということはないでしょう。
スタートアップ企業の場合、目安として、月額20〜30万円くらいのことが多いです。
正社員を雇った場合の給与くらいを目安にして、なおかつ今後の利益を圧迫しない程度の金額というと、20〜30万円くらいが妥当な場合は多いです。
もちろん、創業当初からある程度の事業の見込みが立っている場合は、もっと報酬を増やしても構いません。
会社の財務事情と照らし合わせて検討してみてください。
起業時は役員報酬ゼロが多い?
起業するときは、役員報酬をゼロにするという考え方もあります。
なぜ役員報酬をゼロにするのでしょうか。
安定した利益が上がるかわからないのでゼロ円
起業してすぐに安定した利益が上がるかわかりません。
そこで、とりあえずは役員報酬をゼロにしておこうという考え方です。
会社の売り上げに関わらず、役員報酬は支払わなければいけないものです。
売り上げが下がったり、上がらなかったりすると役員報酬の支払いすら厳しくなります。
税負担を抑えたいので報酬ゼロ円
役員報酬にかかる所得税、住民税などの負担は役員報酬がゼロ円だと発生しません。
健康保険や厚生年金といった社会保険料もかかりません。
考え方にもよるのですが、確かに個人の負担の面だけ見れば、役員報酬にかかる税負担は発生しませんが、社会保険に加入することもできなくなります。
社会保険に加入できないということは、国民健康保険に加入するなど個人でしなければならないということです。
さらに考えてみると、役員報酬を払わなくていい分、会社には資金が残っていきます。
本当に売り上げの上がらない会社ならばそれでもいいのでしょうが、どんどん内部に資金が溜まっていくということは、そこに法人税がかかってしまうということです。
役員報酬ゼロ円はお得とは限らない
個人の考え方にもよるところではありますが、スタートアップ企業の場合でも役員報酬が0円だとお得であるとは言い切れません。
スタート時はどの企業でも売り上げの予測がつきづらく大変です。
しかし、だからと言って役員報酬をゼロ円にすればお得になるかというとそうでもありません。
本当にゼロ円でいいのか、試しに報酬の設定額をいくつか用意しておき、計算してみるといいでしょう。
計算が複雑でわかりにくいと思ったら、税理士に相談することをおすすめします。
役員報酬を変更するときの注意点
役員報酬は、いつでも変更できるというわけではありません。
原則として、役員報酬は事業年度開始日から3ヶ月以内に変更をします。
定額の役員報酬については、税務署への届け出は不要です。
やむを得ない事情があれば、事業年度開始日から3ヶ月以内ではなくても変更が認められることもあります。
しかし、その事情が本当にやむを得ないものなのかどうかは税務署や税理士に相談した方が良いでしょう。
役員報酬を株主総会で決めた後は、健康保険や厚生年金などの手続きが必要になります。
まとめ
今回は、役員報酬について決め方と注意点などをご紹介しました。
役員報酬は、従業員報酬と違って、会社法や税法などで規制されている部分が大きいです。
役員報酬を支払う際には、損金に算入できるようにしっかりと規定を確認しましょう。
万が一税務調査に入られたときに、損金算入を否認されないためにも、議事録などの書類は大切に保管してください。