最終更新日:2024/2/20
事業承継とは?事業継承との違いや引き継ぐ手順・税制をわかりやすく解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 事業承継とはどのようなもので事業継承とは何が違うかがわかる
- 事業承継では具体的にどのようなものを引き継ぐこととなるかがわかる
- 事業承継の種類や手続きの流れを知ることができる
日本に存在する会社のほとんどは中小企業です。
そして、その中小企業は親子など親族内で後継者を育成し、次の世代に引き継がれています。
会社が継続するためには、事業承継は必要不可欠ですが、事業承継では具体的に何が引き継がれるのでしょうか。
また、事業承継の種類やその手続きの流れなどを確認し、成功のポイントを解説していきます。
目次
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営を現在の経営者から後継者に引き継ぐことです。
会社は自然人と違って寿命はないため、経営者の手腕次第では永久に存在することも可能です。
ですが、経営者には寿命があり、会社が続いていくために経営者の交代は起こり得ます。
そこで、後継者が引き継いだ後も会社の経営が円滑に進むよう、先代と後継者が力を合わせる必要があります。
事業承継で引き継ぐ資源・要素
事業承継では、具体的にどのようなものを後継者に引き継ぐこととなるのでしょうか。
どのような会社であっても、事業承継に不可欠な以下の3つの要素があります。
- 人
- 資産
- 知的資産
なぜこれらが不可欠なのか、3つの要素それぞれについてご紹介します。
人
事業承継に不可欠な要素として真っ先にあげられるのが、「人」です。
中小企業の経営は、その経営者個人の資質や能力に左右されることが多いので、後継者はその能力などを引き継ぐことを目指します。
先代経営者の持つ経営上のノウハウや、人間関係から生まれる取引関係について、できる限り後継者が受け継ぐ努力をします。
すぐに引き継ぐことは難しいかもしれませんが、一緒に仕事をする中で時間をかけて引き継いでいけるように努めましょう。
子供が後継者となる場合、人間関係などはある程度備わっている場合もあります。
しかし、経営者としての資質は従業員の方が優れている場合もあるので、子供と従業員の人間関係の構築や、役割分担は非常に重要になります。
資産
会社の事業を承継するためには、経営者個人が所有している会社の株式を、後継者が引き継がなければなりません。
会社の株式を後継者に譲り渡すことで、後継者が経営権を掌握することができます。
ただ、株式を先代経営者から後継者に無償で贈与した場合、多額の贈与税が発生します。
そのため、無計画に株式を後継者に引き継いでもらうことはできません。
そこで、国は中小企業の事業承継をスムーズに行うための「事業承継税制」と言われる税金の特例が用意しています。
令和6年現在、2027年12月までの期間限定で、非上場株式の贈与税の金銭的な負担がゼロになる特例があります。
特例承認計画を認定支援機関の確認を受けた後、都道府県に提出し、期日までに株式の贈与などの一定の要件を満たす事業承継を行えば、贈与税や相続税の納税が猶予されます。
納税猶予を受けるためには、複雑な要件を満たす必要がありますので、ぜひ税理士にご相談ください。
弊社でも相続専門税理士が、対応をしております。
知的資産
「知的資産」とは、経営者や会社が保有する目に見えない資産のことです。
たとえば、経営者の人脈や個人で持つノウハウなどは、経営者に帰属する知的資産といえます。
また、特許や商標権などの知的財産、組織力などは、会社に帰属する知的資産です。
これらの知的資産が、先代経営者の退任とともに消滅しないよう、後継者はしっかり引き継ぐようにしましょう。
このような知的資産は、目に見えないために、そもそもその資産価値に気づいていない場合もあります。
この場合、まずは個人や会社でどのような知的資産を持つのか、現状を分析する必要があるでしょう。
事業承継の種類
会社の事業承継を行うには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
後継者が誰になるのかによって、主に3つの方法に分けることができるので、その違いを確認していきましょう。
親族内承継
親族内承継とは、現在の経営者の親族が後継の経営者になる事業承継の方法です。
親族内承継のメリット
親族内承継のメリットは、以下のとおりです。
- 関係者から後継者として受け入れられやすい
会社の事業承継を行う場合、取引先や金融機関、あるいは従業員からの理解が必要不可決です。
親族が後継者になることは、多くの人にとって想定どおりのことであり、後継者として受け入れられやすくなります。 - 後継者を育成する時間が十分に取れる
親族内承継を行うこととして具体的な候補者を決定すれば、社内で後継者としての教育を行うことができます。
また、社外での教育の機会も設けることができます。 - 経営と所有が分離しない
会社を経営する上では、経営と所有が分離している方が、適正な会社運営を期待できると言われますが、中小企業の場合は、経営と所有が分離していると、経営者・所有者それぞれの考えが対立すると経営者の意思決定に遅れが生じたり、株主から過大な利益を求められることがあります。
中小企業のスムーズな運営には、経営と所有が一致している方がよい場合もあり、親族内承継であればそれが可能となります。
親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットには、以下のようなものがあげられます。
- 後継者が経営者としての資質を持っていない場合もある
親族ありきで後継者を決定すると、経営者としての能力や資質がなく、またその意思もない人が後継者になってしまうことも考えられます。 - 後継者の決定が難しい
子供を後継者にしようと考えた場合、子供が何人かいると、その中から特定の人を後継者とすることとなります。
しかし、どの人を後継者にするかで揉める可能性があり、どのように後継者を決定するのかは大きな問題となります。
親族外承継
親族外の人が後継者となり、会社の事業承継を行う方法です。
具体的には、社内の役員や従業員などが後継者になる場合を指します。
親族外承継のメリット
親族外承継のメリットには、以下のようなものがあります。
- 会社や事業の内容に精通している
会社に役員や従業員として長年従事してきた人を後継者にする場合、後継者はすでに会社のことをよく知っています。
また、会社のことだけでなく、その業界のことや同業他社の状況などもよく知っているでしょう。
すでに色々な知識があることは、プラスに働くはずです。 - 複数の候補者から適任者を選ぶことができる
会社の内部から後継者を探す場合、多くの候補者がいることが想定されます。
そこで、実際に後継者として育成する前に、誰を後継者にするかを検討することができます。
役員や従業員は、それぞれの強みや特徴を持っているので、まずは会社としてどのような人を後継者にしたいかを考えます。
その上で、誰が後継者にふさわしいかを判断し、候補者として育てていくことができます。
親族外承継のデメリット
親族外承継の場合、以下のようなデメリットがあります。
- ライバル候補だった者の退職など、候補者と関係があまりよくない者からの反発が考えられます。
しかし実際には、会社内に候補者とするのにふさわしい人がいないこともあります。
従業員としては優秀でも、経営者として会社の運営を任せるのには不安があるということが多くあります。
会社内で候補者を選定できない場合、事業承継は非常に難しくなってしまいます。
- 後継者に株式を取得できる資力がないことがある
経営者となるには、株主総会で取締役に選任された後、取締役会などで代表取締役に選任されるという流れとなります。
ほとんどのケースで先代経営者が大株主となっているので、先代経営者の同意があれば、経営権は承継することができます。
ただ、後継者になった人は自身の意思を経営に反映させるため、株式を保有することが望ましいといえます。
しかし、後継者が先代経営者から株式を購入する資力がなければ、株式を取得することは難しくなります。
株は先代経営者の親族が相続するとなると、後継者は経営に際して株主である親族の意見を聞かなくてはならなくなります。
- すべてをスムーズに承継するにはハードルが高い
先代経営者から後継者に引き継ぐものは、経営権や株式だけではありません。
中小企業の経営者は、会社が金融機関から融資を受ける際に、個人的に債務保証を行っていることがあります。
事業承継を行うと、金融機関に対する保証も後継者が引き継がなければなりません。
しかし、後継者が個人的な債務保証を敬遠する可能性もあり必ずスムーズに承継できるとは限りません。
M&A
M&Aは、親族でも従業員でもない第三者に会社を売却するというイメージです。
M&Aのメリット
M&Aのメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 後継者を幅広く求められる
M&Aにより事業承継を行うと、会社の外部から後継者を探すこととなります。
親族や会社内より幅広く後継者を探すことができ、選択肢は格段に広がることとなります。 - 個人的な負担が一切残らない
前述したように、中小企業の経営者は、会社が融資を受けた際に個人保証している場合があります。
また、個人的な資産を会社に貸し付けていることや、個人の資産を担保にしていることもあります。
M&Aにより会社を売却すれば、このような個人的な負担からはすべて解放されます。
単に会社を手放すだけでなく、会社の債務に対する責任からも完全に解放されることとなります。 - 経営者として利益を確保できる
中小企業を経営してきた人は、ほとんどのケースで、その会社の株式を保有しています。
この会社の株式は、売却して現金化することが実質的に不可能であり、保有していることで利益を得ることはほとんどありません。
しかし、M&Aにより売却すれば、保有する株式を現金化し、利益を得ることができます。
M&Aのデメリット
M&Aのデメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
- 会社の引継ぎに時間がかかる
M&Aを行うと、それまで会社の経営に一切関わっていなかった人が、新たに経営者となります。
そのため、会社の日常業務の引継ぎには多くの時間がかかります。 - 経営方針が大きく変わる可能性がある
M&Aで新しい経営者がやってくると、それまでの経営方針とは異なる方針を打ち出す可能性があります。
このことは必ずしもマイナスになるわけではありませんが、中にはうまくいかなくなってしまう場合もあります。 - 関係者の理解を得るのが難しい
会社の従業員や取引先など会社の関係者の中には、M&Aで会社の後継者が決められることに反発する人もいます。
理解を得るために時間をかけて説明しても、理解を得られず、会社を辞めてしまう従業員が現れる可能性もあります。
事業承継の流れ・手順
事業承継を行う流れは、以下のようになります。
- 事業承継の種類(親族内・親族外・M&A)を決める
- 事業承継の種類に応じた専門家に相談する
- 自社のセールスポイントとウィークポイントを整理し、事業承継でどのように引き継ぐか、あるいは克服するかを検討する
- 人、資産、知的資産の3つの承継を進める
- 必要な手続き(補助金・助成金や税金など)を行う
事業承継には3つの種類があるため、まずはそのいずれの方法によるかを決めます。
仮に、途中で事業承継の方法を変更する場合は、改めて最初からその事業承継をやり直すこととなります。
事業承継は、会社の強みを後継者に引き継ぐ一方で、課題を克服するチャンスでもあります。
うまく引継ぎを行いながら、会社のウィークポイントを解消できるよう、専門家の助言を得ながら進めるようにしましょう。
事業承継を成功させるためのポイント
最後に、事業承継を成功させるためにどのようなポイントがあるのか、解説していきます。
事業承継計画書などの準備を早めに行う
事業承継は簡単にできるものではなく、準備段階から何年もかけて慎重に行うべきものです。
事業承継計画書などを作成し、取引先や従業員、金融機関などの理解を得られるようにしましょう。
専門家のサポートを受ける
事業承継は、当事者だけで話し合いを行ってもうまく進めることはなかなかできません。
弁護士や税理士、あるいはM&Aの専門業者などのサポートを受けて進めていく必要があります。
税制や補助金を活用する
既存の中小企業の持つ技術や経営力が途絶えないよう、国としても事業承継を推進しています。
税負担が少なくなるような税制が設けられている他、補助金を受けられる場合もあります。
この点も、専門家にサポートしてもらいながら、うまく活用していくようにしましょう。
まとめ
事業承継は、現在の経営者にとっては会社の存続にかかわる大きな問題です。
後継者をどのように探すのか、どのように会社の資産や知的資産を引き継ぐのかといった課題をクリアしなければなりません。
事業承継に不安のある方は、まずは専門家に相談してみましょう。
事業承継の種類の選び方や、後継者の選定など、様々なアドバイスをもらうことができるはずです。