最終更新日:2022/6/7
青色申告にて10万円の控除を受ける際の提出書類は?書類に関する疑問を徹底解説
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 青色申告には65万円控除と10万円控除の2種類があることがわかる
- 10万円控除を受けるための簡易簿記について知ることができる
- 10万円控除を受ける際の添付書類や保管書類には何があるかがわかる
青色申告を行う目的の1つに、青色申告特別控除の適用を受けることがあります。
実は、青色申告特別控除には2種類があり、65万円控除される場合と10万円だけ控除される場合があるのです。
65万円控除される場合と10万円控除される場合の違いとは、どのようなものなのでしょうか。
また、10万円控除を受けるために必要な要件や書類についても確認していきましょう。
目次
青色申告には、「65万円」と「10万円」の2つの控除がある
青色申告を行うためには、帳簿を作成し、確定申告書に決算書を添付しなければなりません。
ところで、青色申告を行うことで認められる青色申告特別控除には、65万円と10万円の2種類があります。
この両者の違いは、どのような制度の違いによるものなのでしょうか。
65万円控除と10万円控除の違い
青色申告を行った時に65万円の特別控除が認められるか、10万円だけの控除となるかの違いは以下のようになっています。
65万円控除 | 10万円控除 | |
---|---|---|
所得の種類 | 事業、不動産 | 事業、不動産、山林 |
不動産所得の規模 | 事業的規模(5棟10室)が必要 | 事業的規模は不要 |
帳簿の付け方 | 複式簿記 | 簡易簿記 |
収益の計上基準 | 発生主義 | 現金主義でも可 |
なお、これまで青色申告特別控除の上限額は65万円とされてきました。
しかし、令和2年分の確定申告から青色申告特別控除の額は55万円に変更されます。
ただし、電子申告を行うか電子帳簿を利用する場合には、青色申告特別控除の額はこれまでどおり65万円となります。
ここでは、65万円控除と10万円控除として、その違いを確認していきます。
65万円控除の要件
(1)所得の種類
青色申告を行うことのできる所得区分は、事業所得・不動産所得・山林所得の3つです。
このうち、65万円控除が適用できるのは事業所得か不動産所得が発生している場合です。
山林所得のみの場合は、青色申告特別控除の適用を受けても65万円控除は適用できません。
(2)不動産所得の場合の規模
不動産所得を得ている人は、その不動産事業の規模が事業規模に達している場合、65万円控除を使えることとされています。
65万円控除を適用されるためには、独立した家屋を5棟以上貸付することができる状態でなければなりません。
あるいは、アパートなどの部屋を10室以上貸し付けることができる状態をいいます。
この事業規模の判定については「5棟10室基準」と呼ばれ、不動産所得の場合にはよく使われる基準です。
(3)帳簿の記帳方法
青色申告を行うためには、必ず複式簿記を行わなければなりません。
複式簿記とは、収益や経費の発生にともなって、どのような財産や債務が発生したり消えたりしたのかを記載していく方法です。
これに対して、10万円控除の場合は簡易簿記でもよいこととされています。
簡易簿記の場合、家計簿のように収支に着目して経費の金額を集計していきます。
帳簿の作成はシンプルですが、この場合65万円控除は適用できないのです。
(4)発生主義によること
発生主義とは、対象となる年月までに発生した収益・経費の額を認識する計上基準です。
これが本来の簿記の考え方ということができます。
これに対して、現金や預金の動きに基づいて収益・経費を認識する基準を現金主義といいます。
現金主義では、65万円の青色申告特別控除を適用することはできません。
10万円控除の帳簿は「簡易簿記」で作成!
青色申告を行って10万円控除の適用を受ける際には、複式簿記を行う必要はありません。
簡易簿記と呼ばれる帳簿の作成方法でも、10万円の特別控除を適用することが認められるのです。
はたして簡易簿記とはどのような帳簿の作成方法なのか、複式簿記とはどのような違いがあるのか確認していきましょう。
簡易簿記の帳簿作成方法
簡易簿記といわれても、どのような帳簿の作成方法なのか、すぐにイメージできないかと思います。
そこで、簡易簿記を行う際の帳簿の作成の手順を説明していきましょう。
簡易簿記における帳簿で、最も重要なのは現金出納帳です。
現金出納帳を作成する場合、現金で支払いを行った時にその支払いの内容について帳簿に記載していきます。
また、収入が発生した時にその内容や相手方を記載していくのです。
こうして日々の現金の動きを記載していけば、毎日の現金残高を確認することができます。
同じように買掛帳や経費帳を作成し、通信費や水道光熱費など、その費目ごとに発生した経費の額を集計していきます。
また、機械や車両、備品などの固定資産を保有する場合は、固定資産台帳を作成します。
こうして作成した簡易帳簿の内容から、1年間の売上や経費、そして期末時点の残高を集計し決算書類を作成するのです。
エクセルなどの計算ソフトやノートなどを使ってでも作成できるメリットがありますが、10万円までしか控除は認められません。
複式簿記との違い
複式簿記とは、2つの勘定科目でその取引を記録する方法です。
現金でノートを買った取引について、「現金を使った」という面と「ノートを購入した」という面の両方を1つの仕訳で表現します。
2つの勘定科目を左右に配置して仕訳を作成することは、日商簿記などの勉強をしていない人にはややなじみにくいものです。
ただ、よく発生する取引のパターンを覚えていけばよく、簿記の知識がないことが直ちに複式簿記の支障になるわけではありません。
また、会計ソフトを利用すれば簡単に複式簿記を行うことができます。
一方で、簡易簿記の場合は、自分で帳簿を作成することもできます。
また、会計ソフトを利用して簡易簿記を行うための帳簿を作成することも可能です・
簡易簿記の際の確定申告用提出書類
簡易簿記を行って確定申告を行う際、提出しなければならない書類にはどのようなものがあるのでしょうか。
青色申告を行って10万円控除を確実に受けるために必要な書類を確認しておきましょう。
青色申告決算書(一般用)
青色申告を行う際に必ず提出しなければならない書類の1つです。
事業所得が発生した人は、一般用の青色申告決算書を使って所得金額を計算します。
青色申告決算書(一般用)は全部で4ページからなります。
まずは2ページ目の月別売上(収入)金額および仕入金額や給料賃金の内訳などを記載していきます。
また、3ページ目の減価償却費の計算や地代家賃の内訳なども記載していきます。
そのうえで、各項目の金額を1ページ目の損益計算書に転記して、所得金額を計算するのです。
なお、簡易簿記を行って10万円控除を受けるためには、4ページ目の貸借対照表を記載する必要はありません。
もし貸借対照表の作成ができるような簿記を行っているのであれば、10万円控除ではなく65万円控除が適用できる可能性もあります。
確定申告書B
青色申告を行う人は、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかの所得がある人となります。
これらの所得金額について確定申告を行うためには、確定申告書Bを使用して確定申告を行います。
確定申告書Bの第一表には、青色申告決算書で計算した収入金額や所得金額を転記します。
また、青色申告決算書で計算した所得金額以外の所得についても、青色申告決算書の第一表に記載していきます。
さらに、所得金額から差し引かれる金額として、各種の所得控除の金額を記載していきます。
社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除など多くの人に関係のある控除の金額は、すべてここで計算を行うものです。
確定申告書Bの第二表には、第一表に記載した金額の内訳や詳細を記載します。
後ほど紹介する添付書類に書かれた金額を確認したうえで、それぞれの項目ごとに控除額を計算します。
添付書類台紙
確定申告を行う際には、必ず添付しなければならないとされている証明書類などがあります。
これらの証明書を貼り付けるために用いるのが添付書類台紙です。
確定申告書に添付しなければならない主な書類は以下のとおりです。
- ・源泉徴収票
- ・社会保険料控除証明書
- ・小規模企業共済等掛金控除証明書
- ・生命保険料控除証明書
- ・地震保険料控除証明書
- ・寄附金の受領証
これらの書類は、すべて発行元で作成された原本を貼り付けなければなりません。
また、添付書類には申告を行った人の本人確認書類もあります。
「マイナンバーカードの両面の写し」あるいは「マイナンバーカードを確認できる書類+身元確認書類」のいずれかを貼り付けます。
この場合の書類は、マイナンバーカードや運転免許証などのコピーを準備することとなります。
保管書類についても解説!
青色申告を行う際には、税務署に提出する書類のほか納税者自身で保管しておく書類もあります。
どのような書類が必要になるのか、その種類と簡単な作成方法を確認しておきましょう。
現金出納帳・預金出納帳
現金出納帳は、日々の現金の出入りをその内容に応じて記載したものです。
売上代金や掛売りの回収がある場合には、入金処理を行います。
逆に仕入れや経費の支払い、買掛や未払金の支出がある場合には、出金処理を行います。
毎日現金出納帳を記載して、帳簿上の残高と実際の現金残高を照合していきます。
なお、預金口座を事業用に用いる場合には、口座ごとに預金出納帳も作成します。
現金出納帳と同じく、帳簿上の日々の残高を実際の預金残高と照合するようにします。
売掛帳
掛売りが発生する事業を行う場合に、発生する売上高と未回収の売掛金を管理する帳簿です。
得意先ごとに売り上げた金額を記載し、帳簿上の残高を毎月特定の日に請求します。
また、回収した金額についても入金のたびに記載することで、正しい売掛残高を把握することができます。
業種によっては、売り上げた後に返品や値引きが発生することもあります。
そのような場合にも、売掛帳に該当する数量や金額を記載していきます。
買掛帳
掛けでの仕入れを行う際に、その仕入高と未払いとなっている買掛金を管理する帳簿です。
売掛帳と同じく、仕入先ごとに仕入れた金額や支払った金額を記載していきます。
毎月決められたタイミングに仕入先から送られてくる請求書と、その残高が一致することを確認できます。
固定資産台帳
事業に用いる固定資産については、支出の時に全額を必要経費とすることができません。
毎年、期末に減価償却費の計算を行い、取得した固定資産の簿価が1年になるまで毎年必要経費に計上していきます。
固定資産の取得価額、法定耐用年数、償却率、減価償却費、期末簿価などを明らかにするため、資産ごとに帳簿を作成します。
経費帳
経費帳とは、仕入以外の必要経費について、その支払いの都度記載していく帳簿です。
経費の費目ごとに、支出した金額とその内容を記載していきましょう。
青色申告者の帳簿と書類の保存期間
青色申告を行うからといって、すべての書類を税務署に提出するわけではありません。
その代わり、作成した帳簿については納税者自身が保存しなければなりません。
保存期間が定められていることから、その間は書類を処分してしまうことのないようにしなければなりません。
青色申告を行う人が保存しておく帳簿や書類の保存期間は以下のとおりです。
- (1)帳簿類(仕訳帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、固定資産台帳、経費帳など)…7年
(2)書類
- ①決算関係書類(損益計算書、棚卸表など)…7年
- ②現預金取引関係書類(領収証、小切手控、預金通帳など)…7年(前々年の所得金額が300万円以下の場合は5年)
- ③その他の書類(請求書、見積書、契約書、納品書など)…5年
書類の種類によって5年または7年の保存期間が定められています。
なお、保存期間は5年または7年となっていますが、事業を続けるうえではその先も保管しておくべき書類があります。
5年あるいは7年経過したからといって、まとめて捨ててしまうことのないようにしましょう。
なお、保存期間の年数は、申告期限となる翌年3月15日の翌日から5年または7年となることを覚えておきましょう。
参考:65万円の青色申告特別控除を受けるためには?
青色申告を行う際には、青色申告特別控除の適用を受けることができます。
この青色申告特別控除の金額は、65万円または10万円であることはすでに説明しました。
10万円控除の適用を受けている方は、どのようにしたら65万円控除の適用を受けられるのでしょうか。
不動産所得で事業的規模に満たないため10万円控除の適用を受けている方は、その規模を拡大しない限り65万円控除にはなりません。
一方、事業所得の人は、複式簿記を行い発生主義で収益を認識し貸借対照表を作成するのであれば、65万円控除が適用できます。
簿記の専門知識がない方が、複式簿記を行うことは難しいかもしれません。
しかし、事業上発生する取引にはパターンがあり、複雑な仕訳をしなければならないケースはそれほど多くありません。
また、発生主義による収益の認識も、日々の処理をこまめに行い、請求書などを整理すればそれほど難しいものではありません。
実際に10万円控除の適用を受けているのであれば、そこから65万円控除の適用を受けるにはそれほど大きな壁はないのです。
これから青色申告を始めるという方も、65万円控除ができるような仕訳処理と帳簿の作成を目指してみましょう。
まとめ
独立して個人事業主になる場合、1年間の収益・経費や税額を自分で計算しなければなりません。
初めて確定申告を行う人にとって、確定申告書で税金を計算し帳簿を作成することは、ものすごく大変だと感じることでしょう。
しかし、青色申告を行うことは、節税や金融機関からの信用の確保には欠かせません。
これから青色申告を始めようという方は、まずは10万円控除の適用を受けるのも選択肢の1つです。
ただ、10万円控除を受けるのであれば、あと少しの努力で65万円控除が適用できます。
そのため、いきなり65万円控除を受けられるような準備をしておくことも考えておきましょう。