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最終更新日:2024/7/3

役員報酬変更の流れ!金額の決め方や変更できるタイミング

税理士 鳥川拓哉
この記事の執筆者 税理士 鳥川拓哉

ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-tori

この記事でわかること

  • 役員報酬の概要
  • 役員報酬変更の流れ・必要書類
  • 役員報酬変更時の金額の決め方
  • 役員報酬を変更できるタイミング

会社を設立した場合、取締役や監査役などに役員報酬を支払います。
役員報酬は定款または株主総会で決定しますが、社員に支払う給与とは性質が異なるため、事業年度内の金額変更には注意が必要です。

期中の役員報酬は原則として固定金額になっており、変更する際は一定期間内に株主総会の承認を得なければなりません。
また、一定期間を経過した後での役員報酬増額分は損金算入できないため、法人税への影響も考えておく必要があるでしょう。

今回は、役員報酬を変更するときの流れや必要書類、金額の決め方や変更可能なタイミングなどをわかりやすく解説します。

役員報酬とは

役員報酬とは、会社が役員に支払う定期的な報酬(定期同額給与)です。
給与と同じく損金算入の対象ですが、利益が多い月だけ増額するなど、自由な変更を認めると利益操作が可能になるため、期中の役員報酬は原則的に変更できません。

また、毎月の役員報酬は固定金額になっており、会社が赤字であっても一定額を支払わなければならないため、報酬額の決定には慎重な判断が必要です
ただし、決算期から一定期間内であれば、株主総会の承認によって役員報酬の変更が認められるケースもあります。

損金算入が認められる役員報酬

役員報酬には以下の種類があり、一定要件を満たせば損金算入が認められます

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

事前確定届出給与は税務署への届出が必要になるため、提出書類などは以下を参考にしてください。

定期同額給与

定期同額給与とは、役員に毎月支払う報酬です

役員報酬には残業代や業績手当てなどが反映されないため、毎月の報酬額は固定されますが、損金算入が認められています
また、毎月の支払いは金銭に限らないため、役員の家賃を会社側が負担するなど、「継続的に供与される経済的利益」も定期同額給与に含まれます。

事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員の賞与にあたる報酬です

役員に事前確定届出給与を支払う場合、株主総会の決議から1カ月以内など、所定の期日までに「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に届出します。

事前確定届出給与は届出どおりの支払いが原則になっており、金額の増減や支払日の変更があった場合、全額が損金算入できなくなる恐れがあります。

業績連動給与

業績連動給与は以下の要件を満たすと損金算入できるため、大企業向けの役員報酬となっています。

  • 報酬の算定方法が所定の指標を基礎とした客観的なものであること
  • 有価証券報告書に記載・開示していること
  • 通常の同族会社以外であること

業績連動給与を導入すると、会社の業績と役員報酬が連動するため、役員のモチベーションは高くなります。
ただし、有価証券報告書への記載・開示が求められるため、同族経営の非上場会社(非公開会社)には導入できません

役員報酬変更の流れ・必要書類

役員報酬の金額を決定するには、事業年度開始(期首)から3カ月以内に株主総会を実施し、株主の承認を受けなくてはなりません。
株主総会の承認は、役員報酬を変更するときはもちろん、変更が無い場合も必要です。
3ヶ月以内に変更しなかった場合、役員報酬の全部又は一部が損金に算入できません。
具体的な流れや必要書類は以下のようになるため、必ず税務署や年金事務所の手続きも済ませておきましょう

役員報酬の変更額を決める

役員報酬を変更する場合、各役員の報酬額を個別に決める、または役員報酬の総額を決定し、役員別の内訳を設定する方法があります。
変更後の役員報酬は株主総会の承認を得る必要があるため、総会開催日の2週間前までには株主へ召集を通知します

なお、役員報酬を変更する際は、利益予測から報酬額を決める場合や、各役員が必要とする生活費を基準に考えるケースもあります。
役員報酬を低くすると個人の所得税は下がりますが、生活費が不足する場合もあるため、数パターンのシミュレーションが必要になるでしょう。

また、役員報酬を低くすると会社の利益が増えるため、会社側で税金や社会保険料を多く支払い、個人の負担額を軽くするといった方法もあります。

株主総会の決議

役員報酬を変更するときは、決算期から3カ月以内に株主総会を開催し、過半数の承認を得なければなりません
多くの会社は決算期から3カ月以内に定時株主総会を開催しているため、普通決議で役員報酬を変更できます。

代表者1人の会社は株主総会が形式的になりますが、必ず議事録を作成して保存しておきましょう。
役員報酬をストックオプション(自社株を購入する権利)にしている場合は、新株予約権の数の上限なども決議する必要があります

なお、議決権を行使できる株主全員が、書面や電磁的記録で役員報酬の変更に同意している場合、株主総会の決議があったものとみなされます。
株主総会の承認があれば、総会の開催月や翌月以降、期首から3ヶ月以内に役員報酬を変更することが可能です。

株主総会議事録の作成・保管

役員報酬の変更が株主総会で承認された後は、株主総会議事録を作成・保管してください。
株主総会議事録は本店(本社)に10年間、支店がある場合は各支店でコピーを5年間保管します。

また、株主総会議事録を作成するときは、以下の項目を必ず記載しなければなりません

  • 株主総会の開催日時と開催場所
  • 議事の経過の概要や最終的な決議内容
  • 株主総会における意見や発言の内容
  • 出席した取締役などの氏名または名称
  • 株主総会の議長の氏名(議長がいる場合)
  • 議事録を作成した取締役の氏名

必要事項が漏れているときや、議事録を作成していなかった場合は証拠が残らないため、税務署に役員報酬の損金算入を認めてもらえない可能性があります

年金事務所や税務署への届出

役員報酬の変更によって健康保険や厚生年金の等級が変わるときは、本店所在地を管轄する年金事務所に届出が必要です。
具体的には、変更前の役員報酬と比べて2等級以上の差が出た場合、年金事務所に「被保険者報酬月額変更届」を提出しなければなりません。

また、株主総会で役員賞与が承認された場合は、議決日から1カ月以内に「事前確定届出給与に関する届出書」を管轄税務署に提出する必要があります。
事前確定届出給与に関する届出書を提出しない限り、役員賞与の損金算入はできないため、注意しましょう。
報酬月額関係届書(日本年金機構):https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hoshu/index.html
事前確定届出給与に関する届出書の様式(国税庁):https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/068-1.pdf

役員報酬変更時の金額の決め方

役員報酬を変更する場合、金額の決め方には以下の4パターンがあります
経営者の利益を増やすと法人税は低くなりますが、個人の所得税負担が重くなるため、利益配分のバランスが重要といえるでしょう。

一般的な役員報酬相場を参考にする

人事院では役員報酬に関する調査結果を公開しており、令和4年の企業規模別、役名別平均年間報酬は以下のような結果になっています。
調査対象は製造業や小売業などを含めた448社、社員数が500人以上1,000人未満の企業です。

  • 社長:4,225.5万円
  • 副社長:3,510.6万円
  • 専務:2,543.4万円
  • 常務:2,154.4万円
  • 専務取締役:1,836.6万円
  • 部長等兼任:1,707.7万円
  • 監査等委員:1,587.4万円
  • 監査役:1,326.8万円
  • 専任執行役員:1,701.6万円

あくまでも目安に過ぎませんが、専務や常務などの役員報酬を平均的な額に設定すると、優秀な人材を確保しやすいでしょう
民間企業における役員報酬(給与)調査(人事院):https://www.jinji.go.jp/kouho_houdo/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html

会社経営に悪影響を及ぼさない金額

役員報酬を変更するときは、会社経営に影響を及ぼさない金額を設定することが重要です。
高額な役員報酬にすると経営陣のモチベーションは上がりますが、内部留保が増加しないため、会社の財務的体力が弱くなり、金融機関からの評価も下がります

また、キャッシュが不足している会社は投資のチャンスを逃しやすいため、ビジネスの成長が鈍化するリスクもあるでしょう。
ただし、役員報酬を極端に下げると各役員の責任感が希薄になり、本来求められるべき経営責任を果たさない可能性も考えられます

会社経営に悪影響を及ぼさない範囲であれば、役員報酬は「社員に支払う給与+α」に設定するなど、ある程度の余裕を持たせておくとよいでしょう。

節税効果が見込める金額

役員報酬を変更する場合、節税効果も考慮する必要があります。
たとえば、役員報酬を増額すると個人の所得が増えるため、所得金額に対して以下の税率で所得税がかかります

  • 【所得に対する所得税率】
  • 195万円以下:5%
  • 195万円超~330万円以下:10%
  • 330万円超~695万円以下:20%
  • 695万円超~900万円以下:23%
  • 900万円超~1,800万円以下:33%
  • 1,800万円超~4,000万円以下:40%
  • 4,000万円超:45%

一方、会社の利益には法人税がかかりますが、資本金1億円以下の会社は利益800万円までの税率が19%(一部15%)、800万円超でも23.20%の税率です。
法人の事業税や住民税を加算すると、実効税率は約25~34%になるため、役員の所得税率が法人実効税率を超えなければ、節税効果を見込めます

ただし、役員報酬には所得税以外に社会保険がかかりますので、社会保険料率も勘案して、決定する必要があります。
所得税の税率(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
法人税の税率(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm

損金算入できる金額

役員報酬は損金算入できるため、増額すると法人税の節税につながります。
ただし、高額な役員報酬は「過大役員給与」とみなされ、税務署が損金算入を認めない可能性があるため、以下の基準で金額を決めなければなりません。

  • 形式基準:定款や株主総会で決定した役員報酬の基準
  • 実質基準:役員の職務などが類似している会社の報酬額を参考にした基準

形式基準の場合、役員報酬が定款や株主総会の決議内容を超えていると、超えた部分が過大役員給与とみなされます。
また、実質基準は役員の職務や社員数、給与の支給状況などが類似する会社と照らし合わせ、報酬額が妥当かどうかで損金算入の可否を判断されます。

社員に支払う給与は特に規制を受けませんが、役員報酬には税法上の制限があるため、必ず平均的な水準も参考にしてください。

税理士と相談して役員報酬を決める

役員報酬を変更したいときは、税理士のアドバイスも参考になります。
一度決めた役員報酬は来期まで変更できないため、売り上げや固定費などを予測し、適切な報酬額に設定しなければなりません

役員が経費化できる費用にも様々なルールがあるため、損金算入が認められなかったときは法人税の負担が重くなります。
また、利益予測の判断を誤った場合、期首に役員報酬を増額していると、資金繰りが悪化する恐れもあるでしょう。

役員報酬の変更には社会保険料も考慮する必要があるため、適切な金額がわからないときは税理士に相談してください

役員報酬を変更できるタイミング

役員報酬の変更タイミングは決算期から3カ月以内ですが、あくまでも損金算入が認められる期限になっており、4カ月目以降でも減額や増額自体は可能です
また、役員の地位・職務などに変更がある場合、期中でも役員報酬や損金算入が認められるケースもあるため、具体的な変更タイミングは以下を参考にしてください

3カ月を過ぎて役員報酬を増額する場合

決算期から3カ月を過ぎていても、株主総会を開催して過半数の承認を得ると、役員報酬を増額できます。
ただし、以下のように役員報酬を増額した場合、増額分は定期同額給与とみなされません

  • 4月(期首)~7月までの役員報酬:100万円
  • 8月~3月(期末)までの役員報酬:130万円

3カ月経過後に役員報酬を増額すると、増額分30万円を損金算入できないため、法人税の課税対象額が240万円(30万円×8カ月)ほど上がります。
会社の利益が上がっており、130万円が妥当な役員報酬であっても、増額前の報酬が定期同額給与の基準になるため注意してください。

3カ月を過ぎて役員報酬を減額する場合

決算期から3カ月を経過している場合も、株主総会の承認があれば、役員報酬の減額が可能です。
なお、減額の場合は増額と反対の考え方になるため、以下のようなケースでは差額分の損金算入が認められません

  • 4月(期首)~7月までの役員報酬:100万円
  • 8月~3月(期末)までの役員報酬:70万円

期首から4カ月目に30万円を減額した例ですが、税法上は減額後の70万円が定期同額給与の基準となります
つまり、4~7月までに支払った差額分120万円(30万円×4カ月)については、法人税が課税されます。

役員が増える場合

期中に役員が増える場合、新たな役員に定期同額給与を支払うと、損金への算入も認められます。
なお、定期同額給与は日割り計算できないため、就任のタイミングが月初や月末であっても、同額の役員報酬を支払う必要があります
日割り計算で役員報酬を支払うと、税務署が定期同額給与を否認する可能性があるため注意してください。

役員の地位に変更があった場合

専務取締役が副社長に昇格するなど、役員の地位変更があったときは期中でも役員報酬を増額できます。
職制上の地位変更は臨時改定事由になるため、昇格によって増加した業務量や、責任の重さなどに対応した増額が認められます

ただし、昇格前後の業務内容がほとんど変わっておらず、肩書きだけの昇格だった場合、役員報酬の増額分は損金算入できない可能性があるため注意してください。

役員の職務に変更があった場合

役員の職務変更も臨時改定事由が認められるため、期中であっても役員報酬を変更できます
具体的には、会社合併などを理由とした組織再編があり、役員の業務が増加する場合や、役員の長期入院により、他の役員が職務を兼ねるケースです。

なお、臨時改定事由は「職務内容の重大な変更」となっているため、変更前後の業務内容に大きな差がない場合、増額分の損金算入が認められない可能性もあります。

業績が著しく悪化した場合

会社の業績が著しく悪化し、株主配当や社員に支払う給与、借入金の返済などに影響が出るときは、期中でも役員報酬を減額できます。
減額による損金算入も基本的には可能ですが、業績悪化の原因が材料費の高騰や自然災害、新型コロナウイルスの影響などに限定されます。

「やむを得ない」と認められるだけの理由がなく、一時的な業績悪化であれば、損金算入を認めてもらえない可能性があるでしょう。

役員が不祥事を起こした場合

会社の役員が不祥事を起こしたときも、役員報酬の変更が認められます。
役員が行政処分を受けた場合は「やむを得ない事情」が認められるため、役員報酬の返上も慣習化しています。

まとめ

役員報酬を変更する場合、決算期から3カ月以内に株主総会の承認を得なければなりません。
3カ月を過ぎて役員報酬を変更するときは、増額分などの損金算入が認められないため注意が必要です。

また、役員報酬は法人税や個人の所得税・住民税、社会保険料にも影響するため、金額を変更するときは最適ラインのシミュレーションも必要でしょう。
役員報酬を決めると期中の変更は原則的に認められないため、報酬額の変更に迷ったときは、ベンチャーサポートの無料相談を有効活用してください。

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