最終更新日:2025/3/3
社長は社会保険に入れない?法人の健康保険・厚生年金保険の加入要件について解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 社長は社会保険に入れるのか
- 社長が社会保険に入れないケース
- 社会保険の加入手続きの方法
会社を設立した場合、社会保険の加入が義務付けられており、社長、役員、従業員は社会保険に加入する必要があります。
「会社を設立したら、社長は社会保険に入れない」と聞いたことがあるかもしれません。それは、社長になると社会保険の加入義務が発生し、国民健康保険、国民年金には入れなくなることから言われているかもしれません。
この記事では、社長が入れる社会保険、入れない社会保険、社会保険自体に加入できないケースなど、具体的に解説していきます。
目次
社会保険とは
社会保険とは、社会保障制度の一環で、働く人やその家族が病気やけが、失業、老後などのリスクから生活を守るための保険制度です。主な社会保険には下記の5つがあります。
健康保険 | 病気やけが、それに伴う休業や出産、死亡という事態に備える公的な医療保険制度 |
---|---|
厚生年金保険 | 70歳未満の会社員および公務員が加入する公的年金 ・障害年金…けがや病気で障害が残った場合 ・遺族年金…受給者が亡くなった時に遺族に支払われる ・老齢年金…老齢になった時に受給資格がある人に支払われる |
介護保険 | 40歳になると被保険者として介護保険に加入 ・65歳以上の方…要介護認定において介護が必要と認定された場合、いつでもサービスを受けることができる ・40歳から64歳までの方…介護保険の対象となる特定疾病により介護が必要と認定された場合は、介護サービスを受けることができる |
雇用保険 | 労働者が失業した場合や育児・介護休業を取得した場合、または教育訓練を受ける際に、一定の給付金を支給するための保険制度 |
労災保険 | 労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度 |
社会保険は、主に健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つとなります。この5つを「広義の社会保険」と呼んでいます。
また、健康保険、厚生年金保険、介護保険を「狭義の社会保険」、雇用保険、労災保険を「労働保険」と呼びます。
参考:健康保険制度について|全国健康保険協会
参考:厚生年金保険|日本年金機構
参考:介護保険制度について(PDF)|厚生労働省
参考:雇用保険制度 |厚生労働省
参考:労災補償 |厚生労働省
社長は社会保険に入れます
「会社を設立したら、社長は社会保険に入れない」「社長はそもそも健康保険や厚生年金には入れない」など聞いたことがあるのではないでしょうか。
結論、会社を設立すると社会保険に加入する義務があり、社長は社会保険に入れます。
社長が入れる社会保険、社長が入れない社会保険があるので、具体的に説明していきます。
社長が入れる社会保険の種類
社長が入れる社会保険は下記の3種類となります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
株式会社や合同会社といった法人の社長であれば、健康保険、厚生年金保険、介護保険に加入することが可能です。また、法人であれば強制的に加入しなければいけない保険でもあります。
個人事業主の場合は、基本的には社会保険には加入できないので、社会保険(健康保険・厚生年金保険)ではなく国民健康保険、国民年金に加入することになります。
社長が入れない社会保険の種類
原則として、社長が入れない社会保険の種類は下記となります。
- 雇用保険
- 労災保険
雇用保険や労災保険といった労働保険は、雇用されている労働者のための保険なので、法人の社長は原則加入することができません。
ただし、一定の要件を満たした場合、労災保険に加入することが可能になります。
特例で労災保険に加入できるケース
原則として、労災保険は雇用している「労働者」のための保険であり、会社の社長や役員は加入対象外となります。ただし、一定の条件を満たす場合には「特別加入制度」というものを利用して労災保険に加入することができます。
- 特別加入制度とは
- 社長や役員の方で、業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる人に、一定の要件の下で労災保険に特別に加入することを認めている制度
特別加入制度を利用できるのは、中小事業主等や一人親方等、特定の作業をする従事者、海外で働く人などです。
以下では、これらのうち中小事業主等と一人親方等の場合について説明します。
中小事業主等の特別加入
中小事業主等とは、1年間に100日以上にわたり労働者を雇用している事業主や会社幹部などを指します。事業主とともに事業に従事する家族なども対象範囲です。
中小事業主等と認められる企業規模(常時雇用する労働者の数)は、業種によって異なります。具体的には下表のとおりです。
業種 | 労働者数 |
---|---|
金融業、保険業、不動産業、小売業 | 50人以下 |
卸売業、サービス業 | 100人以下 |
その他の業種 | 300人以下 |
また、次の2つの要件を満たしていることも必要です。
- 雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立していること
- 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること
この2つの要件を満たした上で、「特別加入申請書(中小事業主等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受けることになります。
「特別加入申請書(中小事業主等)」には特別加入を希望する人の業務の具体的な内容、業務歴および希望する給付基礎日額などを記入する必要があります。なお、この手続きは労働保険事務組合を通じて提出します。
一人親方等の特別加入
一人親方等とは、労働者を雇用しないで特定事業を実施する事業主を指します。たとえば個人事業主として運送業や建設業を営んでいる方や、一人社長なども一人親方に含まれます。
特別加入するためには、一人親方等の団体(特別加入団体)の構成員であることが必要です。一人親方等の団体を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険の適用を行います。
手続きの申請では、「特別加入申請書(一人親方等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受けることになります。また、この手続きは一人親方等の団体(特別加入団体)を通じて行います。
参考:特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)|厚生労働省
具体的な手続きがわからない場合は、労働基準監督署や労働局、または社会保険労務士に相談することをおすすめします。また、手続きの詳細や加入条件については、地域の労働基準監督署に問い合わせるとよいでしょう。
参考:労災保険への特別加入 |厚生労働省
参考:全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省
社会保険の加入手続き方法
社会保険の手続きは、たくさんの書類を作成したり準備する必要があるため、あらかじめ必要な書類を把握しておく必要があります。
ここでは、社長が加入する健康保険と厚生年金保険の加入手続きについて解説します。
健康保険・厚生年金保険の手続きでは、下記の3つの書類を管轄の年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
3つの書類の添付書類や提出期限、提出先、提出方法はこのようになります。
書類 | 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 健康保険被扶養者(異動)届 |
---|---|---|---|
記入例 | 記入例 | 記入例 | 記入例 |
添付書類 | 法人登記簿謄本 | マイナンバーカードまたは基礎年金番号通知書 | ・被扶養者の戸籍謄(抄)本または住民票の写し ・被扶養者の収入金額が確認できる書類など |
提出期限 | 会社設立から5日以内 | ||
提出先 | 管轄の年金事務所 | ||
提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
健康保険・厚生年金保険 新規適用届
「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」とは、事業所が健康保険・厚生年金保険に適用されることになった場合に提出する届出書類です。
手続きには、添付書類として法人登記簿謄本を一緒に提出しなければいけませんが、会社を設立してから法人登記簿謄本ができあがるまで5日以上かかる場合もあります。
その場合は、多少の期限が過ぎても年金事務所は受理してくれるので、法人登記簿謄本が出来上がり次第、なるべく早く提出するようにしましょう。
参考:新規適用の手続き|日本年金機構
参考:健康保険・厚生年金保険 新規適用届
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」とは、従業員を採用した場合など、新たに健康保険および厚生年金保険に加入すべき者について提出する届書です。
社長・役員・従業員を含めた被保険者となる人全員分を提出します。
参考:2-1:従業員を採用したとき|日本年金機構
参考:健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届
健康保険被扶養者(異動)届
社長やその他の役員、従業員に扶養家族(配偶者や子どもなど)がいる場合に提出する書類が「健康保険被扶養者(異動)届」です。
参考:2-3:家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき
参考:健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
手続きは、管轄の年金事務所に所定の書類を提出する方法のほか、電子申請で行うこともできます。電子申請は、デジタル庁が運営する行政ポータルサイト「e-Gov(イーガブ)電子申請」などを利用して申請手続きを行う方法です。
参考:日本年金機構「全国の相談・手続き窓口」
参考:行政ポータルサイト「e-Gov(イーガブ)電子申請」
社長が社会保険自体に入れないケース
ここまで、会社自体が社会保険に入れる場合を解説してきましたが、法人であっても会社が社会保険に入れない場合があります。
- 社長の役員報酬が0円の場合
- 社長が後期高齢者の場合
具体的にみてみましょう。
社長の役員報酬が0円の場合
社長の役員報酬が0円の場合は、社会保険に入れません。
社会保険料は役員報酬を基準に計算されており、役員報酬が0円の場合は、対象となる支払いがないため社会保険に加入できないことになります。
社長が後期高齢者の場合
厚生年金保険は70歳、健康保険は75歳で被保険者の資格が喪失するため、それ以上の年齢の場合は社会保険に加入することができません。
厚生年金保険は、70歳以降は保険料を納める必要がありません。ただ、70歳以降も働く場合は「在職老齢年金制度」といって老齢厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。
健康保険は、在職中でも75歳以降になると被保険者の資格を失い、後期高齢者医療制度に加入することになります。後期高齢者医療制度の令和7年度の保険料については、全国平均で月額7,192 円となる見込みです。
参考:令和6年度からの後期高齢者医療の保険料について | 厚生労働省|厚生労働省
社長は社会保険に入れない場合もある
原則として、社長は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する必要があります。しかし、役員報酬が0円の場合や後期高齢者の場合は社会保険に入れません。
また、労災保険には基本的には加入できませんが、一定の条件を満たす場合は加入できるケースもあります。
労災保険にも加入したい場合は、ご自身が加入条件に該当するかしっかりと確認して申請してください。該当するかどうかわからない場合や申請方法がわからないという場合は、労働基準監督署や労働局、または社会保険労務士に相談することをおすすめします。
よくある質問
社長が社会保険に入れてくれません。どうすればいいですか?
従業員として働いている方からは、よくこのようなご相談を耳にします。
社会保険の加入義務がある会社は「強制適用事業所」と呼ばれ、すべての法人(株式会社や合同会社など)や、個人事務所でも常時5人以上従業員を雇用する場合は加入する必要があります。
会社に申し出ても加入してくれないときは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署や労働条件相談ほっとラインに申し出て相談してください。また、社会保険労務士に今後どうしていけばいいか相談するのもよいでしょう。
労働基準監督署などに相談する場合は、誰が相談したのか会社に探られたり、嫌がらせを受けたりする可能性もあります。転職も視野に入れて準備してから行動するのがおすすめです。
参考:労働基準行政の相談窓口
参考:労働条件相談ほっとライン
社長であっても扶養に入れますか?
代表取締役(社長)は役員報酬の多寡にかかわらず、基本的には扶養に入ることはできません。
ただし、役員報酬を0円に設定した場合、かつ名目的な代表取締役であり実質的な経営に関与していないことを証明できる場合などにかぎり、扶養に入ることが可能な場合もあります。