最終更新日:2025/9/24
資本金の増資を登記する際の登録免許税は安くできる?計算方法や手続きを解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
会社を運営していると「設立時に定めた資本金の額だと取引先や金融機関に信用してもらえない」「新しく始める予定の事業に最低資本金額が設定されていて、それに届いていない」といったトラブルに直面することがあります。
また、事業を拡大するために新たに出資を募りたいという場合もあるでしょう。
そうしたときは資本金の増資を行いますが、その際に登記簿謄本の内容が変化するため、登記変更が必要になります。
資本金を増資する際には、登録免許税として「増資した資本金の額の0.7%」を法務局に納付します。
ただし、この額が3万円に満たない場合は、申請件数1件につき3万円が登録免許税額になります。
この記事では、資本金の増資を行う際の登録免許税について詳しく解説します。
実際の税率や安く抑える方法、さらに株式会社と合同会社の増資の登記変更の流れと必要書類などについても解説するので、増資を行う予定のある人はぜひ一度目を通してください。
目次
資本金の増資にかかる登録免許税の金額とは
資本金を増資する際には、登録免許税として「増資した資本金の額の0.7%」を法務局に納付します。
ただし、この額が3万円に満たない場合は、申請件数1件につき3万円が登録免許税額になります。
つまり、約428万6,000円までの増資であれば、登録免許税は一律で3万円です。
「増資した資本金の額」の解釈とは
「増資した資本金の額」とは、すでにある資本金に追加した分の額のことを指します。
増資した後の資本金の総額ではない点に注意してください。
具体例をあげると、資本金が100万円の会社が300万円に増資した場合、「増資した資本金の額」は、新たに増やした200万円となります。
株式会社と合同会社で増資にかかる登録免許税率は同じ
登録免許税法別表第一(第24号のニ)では、対象となる登記の事項を「株式会社または合同会社の資本金の増加の登記(ヘ及びチに掲げる登記を除く。)」としています。
会社設立の際にかかる登録免許税は株式会社と合同会社で違いますが、資本金の増資にかかる登録免許税は、どちらも同じ基準となっていることが確認できます。
参考:登録免許税法 別表第一 課税範囲、課税標準及び税率の表 二十四 会社又は外国会社の商業登記|e-Gov 法令検索
増資方法による登録免許税の違い
登録免許税法別表第一(第24号のヘとチ)では、吸収合併や吸収分割による資本金の増資にかかる登録免許税は、通常の登録免許税とは別枠とされています。
具体的な登記の事項と課税標準(課税の対象)、税率は以下の表のとおりです。
登記等の事項 | 課税標準 | 税率 |
---|---|---|
吸収合併による株式会社または合同会社の資本金の増加の登記 (第24号のヘ) |
増加した資本金の額 | 0.15%(登録免許税法施行規則12に規定する金額を超える部分は0.7%、合計金額が3万円に満たない場合は申請件数1件につき3万円) |
吸収分割による株式会社または合同会社の資本金の増加の登記 (第24号のチ) |
増加した資本金の額 | 0.7%(合計金額が3万円に満たない場合は申請件数1件につき3万円) |
第24号のチは、課税標準と税率どちらも第24号のニと同じですが、吸収分割という特殊な方法での増資のため、分類上区別されています。
いずれにせよ、吸収合併と吸収分割どちらも増資の方法としてはレアケースのため、この税率が適用される場面はほぼありません。
「資本準備金」で増資にかかる登録免許税を安くする方法とは
資本準備金を活用することで、増資にかかる登録免許税を削減できるケースもあります。
資本準備金とは、株主などから払い込まれた資金のうち、資本金に組み入れずに確保できる資金のことです。
万が一の赤字の補填などに使用する、会社の純資産の一種です。
資本準備金は、資本金の「二分の一を超えない額」までと会社法で定められています。
増資を行う際に、すべての出資金額を資本金として計上するのではなく、半分を資本準備金とすることで、課税の対象となる「増加した資本金の額」を抑えることができます。
とはいえ、そもそも資本金の増資は「資本金の額が増えることで会社の信用力も上がる」ことが大きなメリットです。
そのため、資本準備金によって「増加した資本金の額」を減らすことはデメリットにもなり得るので、利用するかどうかは慎重に検討しましょう。
資本準備金については、以下の記事でも詳しく解説しています。
資本金の増資をした際の登記変更のやり方とは
資本金の増資を行った場合、登記簿謄本の内容が変わるため、登記変更が必要になります。
しかし、登記変更の際に添付する書類は、会社の形態や増資の方法によって異なります。
それぞれの場合の、詳しい登記変更の流れと必要書類に関して解説します。
株式会社の資本金を増資した際の手続きと必要書類
株式会社は、多くの場合で資本金の増資を募集株式の発行で行います。
募集株式の発行にもいくつか種類がありますが、さらに準備金などの資本金組み入れによっても増資が可能です。
募集株式を発行した場合
募集株式とは、新たに株式を発行、あるいは自社で保有する株式を処分し、その株式を引き受けてくれる人を募集することです。
募集株式の方法は、主に以下の3種類があります。
- 公募
- 株主割当
- 第三者割当
スタートアップ企業などが外部から資金調達を行う際は、ほとんどの場合は第三者割当で行われます。
「第三者割当」とは、取引先や金融機関、創業者や役員の家族など、特定の第三者を対象に新株を発行し、出資をしてもらう方法です。
新株が発行されない既存株主にとっては、持分比率が減少するというデメリットがあります。
しかし会社側からすると、自分で選んだ相手から必要な分だけの株式出資を得られるため、メリットの大きい方法といえます。
取締役会を設置していない株式会社が、第三者割当による募集株式を発行する場合、まず株主総会を行い、以下の内容についての特別決議を得る必要があります。
- 募集する株式の数
- 募集する株式の払込金額または算定方法
- 現物出資を行うときはその旨および内容と価額
- 出資の申込金および現物の払込みの期日または期間
- 株式を新しく発行する場合は、増加する資本金および準備金に関する事項
参考:会社法 第百九十九条|e-Gov 法令検索
参考:会社法 第三百九条 第2項 第五号|e-Gov 法令検索
出資希望者には、募集する会社の商号と募集事項、払込先の口座を通知します。
希望者からは「募集株式申込証」を提出してもらい、それをもとに、誰にどれだけの株を割り当てるかを決めます。
この割り当ての決定にも、株主総会の特別決議が必要です。
割り当て決定の決議が得られたら、申込者に通知を送ります。
申込者からの出資金の払込みを受けたら、株主総会で定めた「出資の申込金などの払込みの期日または期間」の末日から2週間以内に、登記変更を行います。


ただし、期日前に払い込まれた出資金は「申込証拠金」という扱いになり、期日末にまとめて「払込金」として資本金に計上されます。
なので、登記変更の期限は払込みがあった日ではなく、払込期日末から2週間以内です。
登記変更の際に必要になる書類は、以下のとおりです。
- 株式会社変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役決定書
- 募集株式の引受けの申込みを証する書面(募集株式申込証)
- 払込みがあったことを証する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
準備金などの資本金組み入れを行った場合
準備金などの額を減少させ、その分を資本金に振り分けて増資を行うことも可能です。
準備金の額を減少するには、株主総会で以下の事項の決議を得る必要があります。
この際の決議は、特別決議でなく普通決議で問題ありません。
- 減少する準備金の額の全部または一部を資本金とするときは、その旨および資本金とする額
- 準備金の額の減少がその効力を生ずる日
また、準備金の減少には原則として、債権者保護手続きも必要になります。
債権者保護手続きを行い、準備金の額の減少がその効力を生ずる日を迎えたら、その日から2週間以内に資本金の増資の変更登記を行わなくてはいけません。
登記変更の際に必要になる書類は、以下のとおりです。
- 株式会社変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 準備金の額の計上証明書
合同会社の資本金を増資した際の手続きと必要書類
合同会社の場合、単に資本金を増額するという目的以外に、新しく社員を加入させるために増資を行うこともあります。
具体的な増資のパターンと、その際に必要な手続きと書類について解説します。
新たに加入する社員からの出資を受けた場合
合同会社の社員になるためには、出資を行わなければならないと会社法で定められています。
新たに社員が加入する場合、定款は「社員の氏名や住所」について変更が必要になります。
また、ケースによっては「社員を有限責任とすること」や「社員の出資の目的およびその価値、または評価の基準」などについても変更することがあります。
これらの変更についての総社員の同意を得て、同意書を作成します。
その後、新たに加入する社員からの出資を受けます。この際に、出資額のうち資本金とする額と資本剰余金となる額を、業務執行社員の過半数の同意によって決定します。


ただし、出資によって社員構成に変更が生じる場合は、その事項の定款変更が必要なので注意しましょう。
要は「定款の内容が変わるかどうか」にだけ注意すればOKです。
出資が履行され、登記事項に変更が生じてから2週間以内に変更登記を行います。必要となる書類は、主に以下のとおりです。
- 合同会社変更登記申請書
- 総社員の同意書
- 出資に係る払込み又は給付があったことを証する書面
- 増加すべき資本金の額につき、業務執行社員の過半数の一致があったことを証する書面
これらに加え、現物出資があった場合は「資本金の額の計上に関する証明書」が、法人が出資を行った場合は「法人の登記事項証明書」が必要です。
また、これらはあくまで増資に関する登記変更に必要な書類です。
新たに社員が加入することによって生じる登記変更には、別の書類が必要になります。
すでにいる社員が出資価額を増加した場合
既存の社員が出資価額を増加した場合、その社員が代表社員などにならない限り、社員に関する事項での登記変更は不要です。
出資された額の、資本金と資本剰余金の内訳を業務執行社員が決定し、登記変更を行います。
必要になる書類は、主に以下のとおりです。
- 合同会社変更登記申請書
- 出資の価額を増加した定款の変更に係る総社員の同意書
- 出資に係る払込み又は給付があったことを証する書面
- 増加すべき資本金の額につき業務執行社員の過半数の一致があったことを証する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
この記事のまとめ
資本金の増資にかかる登録免許税は、原則として「増加した資本金の額の0.7%」です。
この額が3万円に満たない場合は、申請件数1件につき3万円を法務局に支払います。
株式会社と合同会社で、増資をした場合に支払う登録免許税の税率は同じです。
ただし、登記変更の際の手続きの流れと添付書類は大きく異なるので、注意しましょう。
特に合同会社の場合、既存の社員以外が出資を行うと、原則としてその人物は社員になります。
社員構成が変わると、それに関する登記変更も必要になるので、増資に関する登記変更と合わせて行いましょう。
資本金の増資について疑問があるときは税理士や司法書士に相談しよう
資本金を増資した際の登録免許税の計算そのものは、非常にシンプルです。
しかし、資本金をいくら増資するべきかや、どのようにして増資を行うべきかについては、会社それぞれの事情を踏まえたうえで慎重に検討しなければいけません。
登記変更にもさまざまな添付書類が必要になるため、初めて資本金の増資を行う際には、手続きに戸惑ってしまうこともあるでしょう。
資本金の増資について悩んだり、疑問があるときは、税理士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。
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