この記事でわかること
- 相続人の廃除とは何か
- 相続廃除と相続放棄の違い
- 遺留分の保護や遺言に関する手続き
特定の事由によって相続人の相続権を剥奪することを「相続人の廃除」といいます。
相続による家族間トラブルや法的な問題を避けるためには、このしくみの理解が大切です。
この記事では、「相続人の廃除」の具体的なしくみや範囲、手続きの方法をわかりやすく解説します。
目次
相続人の廃除とは
まずは、相続人の廃除の基本的な意味、遺留分(法定相続人の最低限の取り分)との関係について見ていきましょう。
相続人の廃除の基本的な意味
相続人の廃除とは、特定の事由がある場合に、被相続人の意思によって相続人の資格を剥奪できる制度のことです。
特定の事由には、被相続人への虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があげられます。
相続人の廃除は、被相続人の意思を尊重し、モラルに反する相続を防ぐために設けられた制度なのです。
遺留分との関係性
遺留分とは、相続財産のうち、法定相続人(兄弟姉妹以外)が受け取れる最低限度の取り分のことです。
遺言書によって財産の分配が指定された場合でも、遺留分は一定の範囲内で保障されています。
たとえば、Aさんが遺言で全財産をBさんに遺贈した場合でも、Cさん(Aさんの直系血族)の遺留分は保障されます。
しかし、相続人の廃除が行われると、その相続人は法的に相続権を失うため、同時に遺留分を得る権利も失われます。
相続トラブルを避けるためにも、相続人の廃除と遺留分との関係は正確に理解しておきましょう。
相続人の廃除の要件
相続人の廃除の要件は、民法第892条、893条に定められています。
892条では生前にできる「推定相続人の廃除」、893条では死後にできる「遺言による推定相続人の廃除」の要件が定められています。以下、これらについて詳しく解説します。
民法
第八百九十二条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。第八百九十三条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。引用:e-Gov 法令検索
推定相続人の廃除
推定相続人とは、いま相続が発生した場合に遺産を相続する権利がある人のことです。
推定相続人が被相続人に虐待や重大な侮辱、著しい非行をしていた場合には、その相続人の廃除を家庭裁判所に請求できます。
なお、重大な侮辱とは、家族の共同生活を不可能にするほどの侮辱を指します。
著しい非行は、虐待や侮辱に匹敵するほどの犯罪やギャンブル、不貞行為など、被相続人に対するもの以外も含まれます。
遺言による相続人の廃除
遺言による相続人の廃除は、特定の相続人を相続から除外する旨を遺言書に記載することで実現されます。
遺言書で相続人を廃除するには、以下の条件を満たすことが必要です。
- 自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの形式で遺言書が作成されていること
- 廃除される相続人が、遺言書の作成時に生存していること
- 遺言者が遺言書を作成する際、正常な精神状態であること
これらの条件を満たす場合、遺言による相続人の廃除は法的に有効となります。
ただし、廃除の理由や背景を遺言書に詳細に記載することが必要です。
相続放棄との違い
相続放棄は、相続人が自らの意思で相続権を放棄する行為です。
たとえば、相続財産に負債が多い場合や、相続手続きの手間を避けたい場合などに行われます。
一方、相続人の廃除は、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行を事由に、被相続人の意思で相続人の相続権を剥奪する制度です。
モラルに反する相続を防ぐため、相続人の意思とは無関係に適用されます。
適切な相続手続きを進めるためには、これらの違いを正確に理解し、適切な対応を取ることが重要です。
相続人廃除の手続きの方法
相続人廃除の手続きは、特定の条件下で相続権を失うことを法的に認めるものです。
この手続きは、相続人が相続放棄を行わなかった場合や、相続人が不明な場合に適用されることが多いです。
- 家庭裁判所への申立て
- 証拠を提出する
- 裁判所の判断を得る
- 家庭裁判所に申立てをする
被相続人が生前に家庭裁判所へ申立て
被相続人が生前に相続人の廃除を行う場合、家庭裁判所への申立てが必要です。
申立てには、相続人の廃除の理由や関連する証拠などが求められます。
廃除の理由としては、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行などがあげられます。
これらの情報を明確に示し、裁判所が判断を下すための十分な根拠を提供することが必要です。
被相続人が亡くなった後、遺言書をもとに手続き
遺言によって相続人を廃除するには、遺言書が法的要件を満たしているかの確認が不可欠です。
たとえば「自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかの形式で遺言書が作成されているか」や「遺言者の意思が明確に記載されているか」などを検証します。
遺言書によって自分が相続人から廃除されることを知り、遺言書の内容に不明点がある場合は、家庭裁判所に対してその解釈や効力についての判断を求めることが可能です。
その際、弁護士などの専門家の意見を取り入れると、より正確な判断を得ることができます。
相続放棄と相続人廃除の手続きの違い
相続放棄と相続人廃除では、手続きの流れが異なります。
相続放棄では、相続開始があったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所へ相続放棄の申述書や被相続人の住民票除票、申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本などの必要書類を提出します。
一方、相続人の廃除は、家庭裁判所へ推定相続人廃除の審判申立書や被相続人の戸籍謄本、廃除を求める推定相続人の戸籍謄本など必要な書類を提出し、家庭裁判所の審判を受ける必要があります。
これらの違いを理解した上で適切な手続きを選択すれば、相続の流れをスムーズにできます。
相続人の廃除の影響
相続人が廃除されると、その影響は相続人全体におよびます。
具体的にどのような影響が出るのか、詳しく見ていきましょう。
相続財産への影響
原則として、相続人が廃除されると、廃除された人の持ち分は他の相続人に再分配されます。
たとえば、同居していた長男が親を虐待して相続人から廃除された場合、長男を除いた相続人同士で親の相続財産を分配します。
相続財産の分配に変動があると、相続税の計算にも影響がおよびます。
相続税の基礎控除の計算において、廃除された人は法定相続人の数に含まれないため、代襲相続が発生しない場合は相続税額の増加など、さまざまな影響が考えられるでしょう。
相続税への影響
相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で、この額を超える部分に相続税が課税されます。
廃除された人は法定相続人の数に含まれないため、相続税の基礎控除額は減ります。
また、再分配によって相続人それぞれが相続する財産の額も増えるため、相続税額は増えます。
このように、相続人の廃除によって相続税の負担が重くなるケースも考えられます。
早めの対策や専門家のアドバイスが不可欠です。
相続人の廃除の注意点
相続人の廃除の手続きには、多くの注意点があります。
適切な理由や証拠がなければ、廃除の申立ては認められません。
また、廃除が認められた場合でも、一定の条件下で取り消しの申立てが可能です。
廃除の取り消し
相続人の廃除が認められた場合でも、特定の条件を満たせば廃除の取り消しを申し立てることができます。
たとえば、廃除の原因となった事由が修正・解決された場合や、新たな証拠が発見された場合などです。
取り消しを申立てるには家庭裁判所での手続きが必要となり、専門家のアドバイスやサポートを受けることが推奨されます。
遺留分の保護
遺留分は、法定相続人が受け取れる最低限度の取り分です。遺言によって特定の相続人の相続財産が過度に削減されるのを防ぐ役割があります。
民法では、配偶者や子どもなどの法定相続人に一定の遺留分が保障されています。
具体的には、法定相続人が配偶者のみであれば遺留分は2分の1、配偶者と子どもであれば遺留分は4分の1ずつとなります。
ただし、廃除された人には遺留分は認められません。
廃除されると被相続人の財産を一切相続できなくなるからです。
相続人の廃除の手続きは専門家に相談しよう
相続人の廃除は、特定の事由がある場合に、被相続人の意思によって相続権を剥奪できる制度です。
この制度の背景には、公序良俗に反する相続を防ぐ目的があります。
相続人の廃除と相続放棄は異なる概念であり、相続人の廃除は被相続人の意思による相続権の剥奪、相続放棄は相続人の意思による相続権の放棄です。
相続人の廃除は、家庭裁判所での審判などが必要となり、相続税にも関わるため、専門家のアドバイスを受けることが大切です。
ベンチャーサポート相続税理士法人では、親身でわかりやすい説明を心がけ、無料相談を実施しています。また、税理士だけでなく弁護士、司法書士も在籍しているのでワンストップで相談することが可能です。初めて相続税の申告を行う方もお気軽にご相談ください。
相続専門税理士の無料相談をご利用ください
ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
我々ベンチャーサポート相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。
具体的なご相談は無料面談にて対応します。弊社にてお手伝いできることがある場合は、その場でお見積り書をお渡ししますので、持ち帰ってじっくりとご検討ください。
対応エリアは全国で、オフィスは東京、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸の主要駅前に構えております。ぜひお気軽にお問い合わせください。