この記事でわかること
- 遺留分侵害額請求は、相続で自分の取り分が少なかったときに、財産を多く取得している人に対して金銭の支払いを求められる手続き
- 請求するにあたって、まずは「遺留分の侵害額」を計算しなければならない
- その後、相手方と話し合ったり、裁判所での調停や訴訟をしたりしながら、侵害額の回収を図る
「遺言書を見たら、自分の取り分がほとんどなかった……」
このような場合、「遺留分侵害額請求」をすることで、ある程度の金額を取り戻せる可能性があります。
そこで本記事では、「遺留分侵害額請求の制度の概要」や「請求できる金額の計算方法」「手続きの具体的な流れ」などをお伝えします。
遺留分侵害額請求は、法律や税金に関する専門的な知識が必要となる複雑な手続きです。
このため、遺留分侵害額請求を検討される方は一度、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
▼「遺留分」と「遺留分侵害額請求」については、下記の動画でもお伝えしています。
遺留分侵害額請求とは?
「遺留分侵害額請求」とは、遺贈(遺言による贈与)や生前贈与などで「遺留分」を侵害された人が、侵害している人に対し、金銭の支払いを請求できる制度のことです。
この制度の概要を理解するため、まずは「遺留分」という用語について見ていきましょう。
【確認】遺留分とは?
遺留分とは、下記の範囲の法定相続人に法律で保障されている、「最低限の遺産の取り分」のことです。
相続人のうち「兄弟姉妹」は、通常は被相続人との関係性が薄いことから、遺留分が認められていません。
具体的な遺留分の割合は、相続人のパターンごとに、次のとおり定められています。
相続人のパターン | 遺留分の割合 |
---|---|
相続人が直系尊属(父母など)のみのケース | それぞれの法定相続分の1/3 |
上記以外のケース | それぞれの法定相続分の1/2 |
遺留分の詳細については、下記の記事をご参照ください。
遺留分侵害額請求の概要
遺留分侵害額請求は、遺贈や生前贈与などによって「遺留分に満たない財産しか受け取れなかった人」が、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを「侵害している人」に求められる権利のことです。
具体的に遺留分侵害額請求ができるケースとしては、下記のようなものが挙げられます。
ただし、遺留分侵害額請求は、その権利があるからといって自動的に金銭が支払われるものではありません。
権利者による「請求」によってはじめて手続きが開始され、何もしなければ遺留分が侵害された状態のままとなります。
ちなみに、遺留分侵害額請求は、かつて「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが、2019年7月1日に施行された改正民法によって、現在の名称と内容に変更されています。
この2つの制度の主な違いは、以下のとおりです。
制度 | 概要 |
---|---|
旧: 遺留分減殺請求 |
・請求の対象は、遺贈や贈与された「財産そのもの」で、現物の返還が原則 ・不動産などは「持分」が返還されることで「共有状態」となり、利用や処分がしづらくなることが問題だった |
現: 遺留分侵害額請求 |
・請求の対象になるのは、侵害された遺留分に相当する「金銭の支払い」 ・金銭での解決が原則となったことから、不動産などの共有状態を避けやすくなった |
【5ステップ】遺留分侵害額請求の進め方
実際に遺留分侵害額請求をする際は、次の5ステップで手続きを進めます。
- 遺留分侵害額を計算する
- 相手方と話し合う
- 請求の意思を正式に伝える
- 家庭裁判所に調停を申し立てる
- 訴訟の申立てを検討する
ここでは、下記のケースを想定して、具体的な進め方を見ていきます。
- 被相続人:父親
- 相 続 人:長男・二男(母親はすでに他界)
- 相続対象:預貯金5,000万円、自宅不動産3,000万円、借入金1,000万円
- 生前贈与:被相続人は亡くなる2年前に、長男に事業を始めるための資金として現金1,000万円を贈与した
- 遺 言:父親は「全財産を長男に相続させる」という遺言を残した
ステップ1. 遺留分侵害額を計算する
このケースで財産を一切相続できない「二男」としては、まずは「自身の遺留分が侵害されている額(遺留分侵害額)」を正確に把握するところから始めます。
遺留分侵害額は、下記の流れで計算できます。
流れ | 概要 |
---|---|
1. 遺留分の割合の確認 | ・遺留分の割合は、相続人が直系尊属(父母など)のみの場合は「1/3」で、それ以外のケースでは「1/2」 ・今回は、相続人が「子どものみ」のため「1/2」となる |
2. 遺留分の基礎となる財産の計算 | ・遺留分の基礎となる財産は「相続開始時のプラスの財産 + 加算される贈与※1 – 債務」で計算できる ・今回のケースでは、「預貯金5,000万円 + 不動産3,000万円 + 生前贈与1,000万円 – 借入金1,000万円 = 8,000万円」 |
3. 各相続人の遺留分の計算 | ・各相続人の遺留分の金額は「遺留分の基礎となる財産 × 遺留分の割合 × 法定相続分」で計算できる ・今回の二男の遺留分は、「8,000万円 × 1/2 × 1/2 = 2,000万円」 |
4. 遺留分侵害額の計算 | ・「各相続人の遺留分額」から「実際に取得した財産額」を差し引いて、「遺留分侵害額」を求める ・今回の二男の遺留分侵害額は、「2,000万円 – 0円 = 2,000万円」 |
- ※1
- 原則として、「相続開始前1年以内の相続人以外への生前贈与」「相続開始前10年以内の相続人への特別受益にあたる生前贈与」「贈与時期は関係なく、遺留分を侵害することを受贈者・贈与者双方が知っていた場合の贈与」が該当する。なお、ここでの特別受益に、遺言による「持ち戻しの免除」は適用されない。
以上の計算により、二男の遺留分「2,000万円」の全額が長男によって侵害されていることがわかりました。
なお、遺留分侵害額を正確に計算する自信のない方は、相続専門の弁護士に相談することをおすすめします。
ステップ2. 相手方と話し合う
遺留分侵害額を計算できたら、正式な手続きに入る前に、相手方(この事例では長男)との話し合いの場を設けます。
「遺留分侵害額請求にかかる時間・費用」や「今後の親族関係」を考えると、この話し合いで問題を解決できることが望ましいです。
話し合いをスムーズに進めるためには、次のポイントを意識してみてください。
- 遺留分侵害額と、その金額を支払ってほしい旨を伝える
- 遺留分侵害額の計算根拠や証拠書類(遺言書・預金通帳の写しなど)を用意しておく
- 感情的にならず、冷静な話し合いを心がける
ここで相手方と合意ができたら、遺留分侵害額の「支払い方法(一括か分割かなど)」や「支払い時期」などを書面にまとめて、双方が署名・押印をします。
なお、将来のトラブルを避けるためには、合意書の記載内容を弁護士などの専門家に相談するとより安心です。
ステップ3. 請求の意思を正式に伝える
話し合いで解決が難しい場合や、そもそも話し合いに応じてくれない場合には、次の手段として「配達証明付き内容証明郵便」を利用して、正式に遺留分侵害額請求の意思を明確に伝えます。
内容証明郵便とは?
「配達証明」のオプションを付けることで、「相手方に到達した」事実も証明してもらえます。
内容証明郵便を利用するのは、遺留分侵害額請求は、以下の2つの期間内に行わなければならないためです。
- 遺留分権利者が「相続の開始があったこと」と「自分の遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」の両方を知ったときから1年間
- 相続開始のときから10年間
配達証明付きの内容証明郵便を使うことで、「有効期間内に遺留分侵害額請求の意思表示をしたこと」「文書が相手に届いていること」を確実に証明できます。
ここで送付する文書には、下記の事項を記載してください。
- 遺留分侵害額請求をする旨の意思表示
- 差出人(請求する人)の氏名・住所・連絡先
- 受取人(請求される人)の氏名・住所
- 遺留分が侵害されている具体的な事実(遺言の内容・生前贈与の事実など)
なお、内容証明郵便を送る際は、下記のものを用意して、郵便局の窓口へ持っていきます。
- 送付する文書
- 文書の写し2通(差出人と郵便局がそれぞれ保管するため)
- 差出人と受取人の住所・氏名を記載した封筒
- 郵便料金(通常の料金 + 加算料金がかかる)
送付方法の詳細は、郵便局のWebサイトをご確認ください。
ステップ4. 家庭裁判所に調停を申し立てる
内容証明郵便を送っても支払いに応じてもらえない場合は、家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」を申し立てます。
遺留分侵害額請求調停とは?
訴訟とは異なり、法律で厳格に判断するというよりは、実情に即した柔軟な解決が期待できます。
調停の申立てをする際は、「相手方の住所地の家庭裁判所」か「当事者が合意で定めた家庭裁判所」に下記の書類を提出します。
- 遺留分侵害額請求調停申立書
- 被相続人と相続人全員の戸籍謄本
- 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)
- 遺言書の写し(遺言がある場合) など
また、費用として「収入印紙1,200円分」と「連絡用の郵便切手代」がかかります。
申立て手続きの詳細は、裁判所のWebサイトでご確認ください。
その後は、1〜2カ月に1回のペースで申立人と相手方が家庭裁判所に出向き、調停委員からのヒアリングを受けます。
こうして、相手方との合意が成立すると「調停調書」という書面が作成され、それに基づいて遺留分侵害額の支払いをしてもらいます。
ステップ5. 訴訟の申立てを検討する
遺留分侵害額の請求調停が不成立に終わった場合には、最終的な解決手段として、地方裁判所(請求金額が140万円以下の場合は、簡易裁判所)に「遺留分侵害額請求訴訟」を提起することを検討します。
遺留分侵害額請求訴訟とは?
実際に訴訟を提起する際には、下記の点に注意が必要です。
- 遺留分に関する訴訟を提起するには、原則として調停を経る必要がある
- 訴訟には、証拠の収集や法的な主張などをするために、高度な専門知識が求められる
- 判決までには1年程度、場合によっては数年かかることもある
裁判官による判決が下されたら、相手方が控訴しない限り、それに基づいて遺留分侵害額が支払われることになります。
なお、それでも相手が応じない場合には、所有財産を差し押さえて強制的に支払わせることも可能です。
以上、遺留分侵害額請求の流れを5ステップでお伝えしました。
ご覧いただいたとおり、遺留分侵害額請求の手続きには大きな手間や費用だけではなく精神的な負担もあるものです。
このため、遺留分侵害額請求は相続を専門とする弁護士によるサポートのもとで行うことをおすすめします。
遺留分侵害額請求に関するよくある質問
ここでは、遺留分侵害額請求に関してよくある質問にお答えします。
Q1. 遺留分を侵害する内容の遺言書は、無効にならないの?
遺言書が遺留分を侵害する内容でも、法律上無効になるわけではありません。
遺言は、法律で定められた方式に従って作成されていれば、原則として有効です。
このため、遺留分が侵害された場合は、遺留分侵害額請求をしない限り、遺言の内容どおりに相続が進むことになります。
Q2. 遺留分侵害額請求は、いつまでにすべき?
遺留分侵害額請求は、状況によって下記の期間内に行わなければなりません。
状況 | 期間 |
---|---|
遺留分の侵害を知っていた | 「相続が始まったこと」と「自分の遺留分が侵害されていると知ったこと」の両方を知った日から1年 |
遺留分の侵害を知らなかった | 相続の開始から10年 |
これらの期間を過ぎると、基本的に遺留分侵害額請求はできなくなるため、それまでに手続きをしてください。
Q3. 遺留分侵害額請求には、どれほどの費用がかかる?
遺留分侵害額請求にかかる主な費用としては、次のものが挙げられます。
費用 | 具体的な金額 |
---|---|
内容証明郵便の送付費用 | 1,000~2,000円程度(郵便料金・書留料・内容証明料・配達証明料など) |
家庭裁判所への調停の申立費用 | 収入印紙代1,200円 + 連絡用の郵便切手代(1,000円程度) |
調停に必要な書類(戸籍謄本・不動産登記事項証明書など)の取得費用 | 書類1通あたり数百円程度だが、10通以上必要になるケースもある |
地方裁判所への訴訟費用 | 請求額に応じた手数料 + 連絡用の郵便切手代(6,000円程度) |
弁護士への依頼費 | 相談料・着手金・報酬金の支払いが必要で、請求額によって金額は大きく異なる |
上記のうち「弁護士への依頼費」については、状況によって「数十万円」から「100万円以上」になるケースまでさまざまです。
このため、ご自身の場合は金額がどれほどになるのか知りたい場合は、弁護士事務所に見積もりをもらうことをおすすめします。
見積もりだけであれば、無料で出してくれる事務所もあるので、まずは気軽に問い合わせてみてください。
Q4. 遺留分侵害額請求をしたとき、相続税の手続きはどうなる?
遺留分侵害額請求の手続きの最中だとしても、相続税は期限(相続開始の翌日から10カ月以内)までに申告しなければなりません。
そこで、申告期限までに話し合いがまとまらなければ、遺留分が侵害されている状況のまま、いったん各相続人の税額を計算し、申告・納税をします。
その後、遺留分侵害額請求額の決定によって個人の納税額が変動しても、その被相続人の相続による相続税の総額が同じであれば、修正申告や更正の請求は任意とされています。当事者間で差額を精算しても問題ありません。
相続人間で清算しない場合、遺留分侵害額請求によって相続税の総額が増えるのであれば「修正申告」をして、追加で税金を納めてください。
反対に、税額が減る場合には「更正の請求」をすることで納めすぎた税金が還付されます。申告期限は遺留分額の確定から4カ月以内であり、それを過ぎると更正の請求はできません。
税金の精算をどのようにするかは、相手方と話し合いをして、申告をする場合には申告期限に間に合うようにしましょう。
なお、遺留分侵害額請求額の決定により「相続税の総額」が変わる場合には、更正の請求・修正申告をそれぞれ行うことになります。
Q5. 遺留分侵害額請求は、弁護士に依頼すべき?
法律上、遺留分侵害額請求の手続きを必ず弁護士に依頼しなければならないという決まりはありません。
しかし、実際に手続きを進めるには、高度な専門知識が求められるため、弁護士に依頼するのが一般的です。
Q6. 自分が遺留分侵害額請求をされたら、どうすればいい?
「遺留分侵害額請求の内容証明郵便」や「裁判所からの調停・訴訟の呼出状」が届いたりしたとき、絶対にやってはいけないのは「無視」をすることです。
何も対応をしないと、相手方の主張がそのまま認められてしまったり、裁判手続きが不利に進んでしまったりする可能性があります。
そこで、まずは一度、相続専門の弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。初回の相談は、無料で受け付けている弁護士事務所もあります。
Q7. 相続で遺留分をめぐるトラブルを起こさないためには?
遺留分をめぐるトラブルを起こさないためには、下記のポイントを押さえて遺言書を作成することで、残された家族は納得感を持って遺産分割しやすくなります。
ポイント | 概要 |
---|---|
遺留分を侵害しない遺産分割にする | 「特定の相続人に多くの財産を遺したい」という気持ちがあっても、事前に各相続人の遺留分額を試算し、それを下回らないように遺産の分け方を指定する |
生前贈与を考慮する | 特定の相続人に対して生前贈与をしていた場合は、その額も考慮に入れたうえで、遺言による相続分を調整する |
付言事項を活用する | 遺言書の「付言事項」欄に、「なぜそのような財産分与にしたのか」を書き記すことで、相続人同士の感情的な対立を和らげる効果を期待できる |
遺言書の書き方は、下記の記事をご参照ください。
Q8. 遺留分は放棄できる?
遺留分は、自身の意思によって放棄できます。
ただし、放棄の時期によって、下記のように手続きが異なります。
時期 | 必要な手続き |
---|---|
相続開始前(被相続人の生前) | 家庭裁判所の許可を得なければならない |
相続開始後(被相続人の死後) | 遺留分を侵害している相手方に、遺留分を放棄する旨の意思表示をすれば足りる |
なお、遺留分を放棄すると、原則として後から「放棄を撤回したい」と主張することはできません。
このため、遺留分を放棄するかどうかは、その影響を十分に理解したうえで慎重に判断してください。
Q9. 遺留分を侵害している人が複数いるときは?
遺留分を侵害している人が複数いる場合、法律(民法)で定められた順序に従って請求します。
基本的な順序は、まず「遺贈を受けた人(受遺者)」に請求し、それでも遺留分が満たされない場合には「生前贈与を受けた人(受贈者)」がその不足分を負担することになります。
流れ | 概要 |
---|---|
1. 受遺者に請求する | ・受遺者が複数いる場合は、原則として、その遺贈の価額の割合に応じて、それぞれに請求する ・ただし、遺言で「この遺贈から先に遺留分を支払うこと」といった指定がされている場合は、それに従う |
2. 受贈者に請求する | ・原則として、被相続人が亡くなった時点から見て「直近の贈与」から順に請求の対象となる ・複数人が同じ時期に贈与を受けている場合は、その贈与の価額の割合に応じて請求する |
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この記事では、遺留分侵害額請求の基本や具体的な手続きの流れなどをお伝えしました。
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