この記事でわかること
- 不動産相続の手続き全体の流れと必要なステップ
- 相続登記や相続税申告で注意すべき期限や書類
- 相続した不動産の調査・確認方法
相続は、大切な方を亡くされた悲しみの中で、突然直面する複雑な手続きです。特に、不動産の相続は、名義変更の手間や、相続税の計算など、専門知識が必要となる場面が多く、何から手をつけて良いか分からず、不安を感じている方も少なくないでしょう。
この記事では、不動産を相続した際に必要となる一連の手続きについて、相続専門の税理士がわかりやすく解説します。
一つひとつのステップを丁寧にご説明しますので、ぜひ最後まで読み進めて、スムーズな不動産相続の第一歩を踏み出してください。
目次
不動産相続手続きの全体像と流れ【5つのステップ】
不動産の相続手続きは、複数のステップから構成されており、それぞれに期限や必要な書類があります。ここではまず、全体の流れを把握できるよう、5つの主要なステップをご紹介します。
各ステップの詳細は、後続のセクションで詳しく解説します。
手続きを進めるには不動産以外の遺産も漏れなく把握する必要がある
不動産相続の手続きを進める上で、不動産以外の預貯金、有価証券、自動車、美術品といったプラスの財産、さらには借入金や未払金といったマイナスの財産もすべて漏れなく把握することが不可欠です。
これらの財産全体を正確に把握することで、遺産分割協議を円滑に進められ、相続税の計算を正確に行うことが可能になります。
万が一、負債が資産を上回る場合は、相続放棄や限定承認といった選択肢を検討する必要も出てくるでしょう。
相続不動産には評価額の計算が必要になる
相続した不動産の評価額を計算することは、主に相続税の計算と遺産分割の公平性を保つ上で非常に重要です。相続税は、相続財産の総額に対して課税されるため、不動産の適正な評価額を算出する必要があります。
また、複数の相続人がいる場合、不動産を特定の相続人が取得する際に、他の相続人との間で公平な財産分配を行うためにも、客観的な評価額が基準となります。
土地
土地の評価額は、主に路線価方式と倍率方式のいずれかで計算されます。
路線価方式は、国税庁が定めている路線価(道路に面した標準的な宅地の1㎡あたりの評価額)を基に計算する方法で、市街地の宅地などで用いられます。
倍率方式は、路線価が定められていない地域で、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算する方法です。
建物
建物の評価額は、基本的に固定資産税評価額がそのまま相続税評価額として用いられます。固定資産税評価額は、各市区町村が3年に一度評価替えを行っており、毎年送付される固定資産税納税通知書に記載されています。
ステップ1:相続人全員と遺産を正確に把握する
相続手続きの最初のステップは、誰が相続人になるのかを確定し、すべての遺産を正確に把握することです。
相続人の確定方法
相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取得し、それを辿っていく必要があります。これにより、法的に相続権を持つ人(法定相続人)を漏れなく特定できます。
また、兄弟姉妹が相続人になる場合など、さらに広範囲の戸籍謄本が必要になることもあります。相続人が確定したら、誰がどの続柄で相続人になるのかを一覧にした「相続関係説明図」を作成すると、その後の手続きがスムーズになります。
遺産の全体像を把握する
相続人の確定と並行して、被相続人が遺したプラスとマイナスの全ての財産をリストアップします。不動産や預貯金、有価証券、自動車、ゴルフ会員権、骨董品、そして借入金や未払金などの負債もすべて含めます。
これらの情報をまとめた「財産目録」を作成することで、遺産の全体像を把握しやすくなり、遺産分割協議や相続税申告の基礎資料となります。
遺言書の有無の確認も重要
被相続人が遺言書を残しているかどうかを確認することは、相続手続きを進める上で非常に重要です。遺言書がある場合、原則としてその内容に従って遺産を分割することになるため、遺言書の有無によって手続きの流れが大きく変わります。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言といった種類があり、それぞれ確認方法が異なります。特に自筆証書遺言(法務局での遺言書保管制度を使用しているものを除く。)及び秘密証書遺言は、、家庭裁判所での「検認」手続きが必要になるため注意が必要です。
ステップ2:相続を承認するか、放棄するかを判断する【3カ月以内】
相続人となった場合、被相続人の財産を「相続する(単純承認)」、「相続しない(相続放棄)」、あるいは「プラスの財産の範囲内で負債も相続する(限定承認)」という3つの選択肢があります。
この判断は、相続を知ったときから3カ月以内に行う必要があります。なお、手続きをしないままこの期間が過ぎると単純承認したものとみなされ、相続放棄や限定承認を選択できなくなるため注意が必要です。
相続放棄とは?
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も、一切引き継がないことを家庭裁判所に申し立てる手続きです。主に、被相続人に多額の借金があった場合など、負債がプラスの財産を上回ることが確実な場合に検討されます。
ただし、一度相続放棄をすると撤回は原則としてできないため、慎重な判断が必要です。また、相続放棄をした場合、その相続人は最初から相続人ではなかったものとみなされます。
限定承認とは?
限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ、という条件付きの相続方法です。
例えば、被相続人に借金があるものの、どのくらいの負債があるか不明確な場合や、思い出の品などの特定の財産だけは残したいが負債のリスクは避けたい場合に有効な選択肢となります。
ただし、限定承認は相続人全員が共同で家庭裁判所に申し立てを行う必要があり、手続きが非常に複雑であるため、専門家への相談が不可欠です。
ステップ3:遺産分割協議で不動産の所有者を決定する
遺言書がない場合や、遺言書の内容と異なる分割を行う場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、どの財産を誰がどのように取得するかを話し合って決定します。不動産は分割が難しい財産であるため、特に慎重な協議が必要です。
遺産分割協議の進め方
遺産分割協議は、相続人全員の同意が必要となるため、一人でも反対する相続人がいると成立しません。電話や書面でのやり取りでも可能ですが、できれば顔を合わせて話し合う場を設けることが望ましいでしょう。
協議がまとまったら、その内容を明記した遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印(実印)します。この遺産分割協議書は、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の払い戻しなど、その後の様々な手続きで必要となります。
相続不動産の具体的な分割方法
不動産は物理的に分割しにくいため、以下のいずれかの方法で分割されることが一般的です。
現物分割
財産そのものを特定の相続人が取得する方法です。例えば、「この土地は長男が、この家屋は次女が取得する」といった形です。複数の不動産がある場合や、相続人の間で公平な配分が可能であれば、シンプルな方法です。
代償分割
特定の相続人が財産を取得する代わりに、他の相続人に対して、その相続分に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。不動産を売却せずに一人の相続人が引き継ぎたい場合によく用いられます。代償金の額を巡ってトラブルになることもあるため、不動産の適正な評価額の算出が重要になります。
換価分割
財産を売却し、その売却代金を相続人の間で分け合う方法です。財産を引き継ぎたい相続人がいない場合や、公平に金銭で分割したい場合に選択されます。売却には時間と費用がかかること、不動産を売却して売却益が出た場合は譲渡所得税が発生することに注意が必要です。
共有分割
財産を複数の相続人の共有名義にする方法です。一見公平な分割方法に思えますが、将来的に不動産を売却したり、リフォームしたりする際に、共有者全員の同意が必要になるため、意見の相違からトラブルに発展しやすいリスクがあります。
さらに、共有者が亡くなるとその持分は子どもなどに相続されるため、より処分が難しくなります。そのため共有分割は、なるべく避けた方がいい分割方法といえます。
ステップ4:相続登記で不動産の所有権を移転する【義務化に注意】
遺産分割協議がまとまり、不動産の取得者が決まったら、その不動産の名義を被相続人から新しい所有者へと変更する手続きを行います。この手続きを相続登記といいます。
相続登記とは何か、なぜ必要なのか
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際に、その不動産の名義を取得した人に変更する手続きのことです。不動産は、登記簿に記載されている人が法的な所有者とみなされます。相続登記を行わないと、法律上の所有者が亡くなったままの状態となり、第三者に対して自分が新しい所有者であることを主張できません。
これにより、将来的に売却や担保設定ができなくなる、新たな相続が発生した場合にさらに名義変更が複雑になるなどの不利益が生じます。
なお、これまで任意だった相続登記の手続きが2024年4月1日から義務化されました。そのため、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記に必要な書類一覧
相続登記には、多くの書類が必要となります。主な書類は以下の通りです。
相続登記に必要な書類
- 登記申請書:法務局のウェブサイトからダウンロードできます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本:相続人を確定させるために必要です。
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票:被相続人の最後の住所を確認します。
- 相続人全員の戸籍謄本:相続人の確認と、相続関係説明図作成の根拠となります。
- 不動産を取得する相続人の住民票:新しい名義人の住所を確認します。
- 相続人全員の印鑑証明書:遺産分割協議書に押印された実印の証明です。
- 遺産分割協議書:不動産を誰が取得するかを明記した書類です。
- 相続する不動産の固定資産税評価証明書:登録免許税の計算に必要です。
- (遺言書がある場合)遺言書と検認証明書:遺言書に従って相続する場合は、遺産分割協議書は不要です。
相続登記にかかる費用
相続登記にかかる主な費用は、以下の2つです。
登録免許税
登記を行う際に不動産の評価額に応じて国に納める税金です。税額は、不動産の固定資産税評価額×0.4%で計算されます。例えば、固定資産税評価額が2,000万円の土地であれば、2,000万円×0.4%=8万円が登録免許税となります。
司法書士への報酬
相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合にかかる費用です。報酬額は依頼する司法書士事務所によって異なりますが、一般的には数万円から10万円程度が目安となります。
ステップ5:相続税の申告・納付を行う【10カ月以内】
相続した財産(不動産を含む)の総額が一定額を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。これは相続手続きの最終段階であり、非常に重要なステップです。
相続税の申告期限と注意点
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10カ月以内です。この期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があるため、必ず申告期限を守るようにしましょう。
なお、遺産分割が間に合わない場合でも、法定相続分で仮に分割したとして期限内に申告・納税を行い、遺産分割完了後に修正申告を行うといった対応方法もあるため、申告期限が迫っているという方は早めに税理士に相談することをおすすめします。
相続税がかかるケース、かからないケース
相続税は、相続した財産(遺産)の総額が基礎控除額を超える場合に発生します。基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算できます。
例:法定相続人が3人の場合の基礎控除額
この場合、相続財産の総額が4,800万円を超えなければ、相続税はかかりません。反対に、4,800万円を超える場合は、超えた部分に対して相続税が課税されます。
不動産相続における相続税の軽減措置(特例)
相続した不動産に関する相続税には、いくつかの軽減措置(特例)が設けられています。これらを適用することで、相続税額を大きく減額できる可能性があります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人や同居親族が居住していた宅地や、事業を行っていた宅地について、一定の要件を満たせば、評価額を最大80%減額できる特例です。例えば、自宅の土地(特定居住用宅地等)であれば、330㎡まで評価額が80%減額されます。
この特例には複数の要件があり、判断が非常に難しいため、適用を検討する際は専門の税理士に相談することをおすすめします。
配偶者の税額軽減
亡くなった方の配偶者が遺産を相続する場合、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額の、いずれか多い金額までは相続税がかからないという特例です。
これらの規定を適用して相続税額が0円になる場合でも、相続税申告は必要になるため注意しましょう。
相続税の計算と申告・納付の流れ
相続税の計算は、すべての財産を評価し、基礎控除額などを差し引いた上で税率を適用するなど、非常に複雑なプロセスです。相続財産の評価、特に不動産の評価は専門知識を要します。
相続税の申告書は、被相続人の住所地を所轄する税務署に提出します。納付は、金融機関や税務署の窓口で行うほか、e-Taxやクレジットカードでの納付も可能です。
相続税の計算は非常に複雑なため、専門家と相談のうえ申告を進めることをおすすめします。VSG相続税理士法人でも相続税申告に関するご相談を受け付けております。初回相談は無料のため、ぜひお気軽にご相談ください。
被相続人が所有していた不動産の調べ方
相続手続きを進めるには、まず被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産を正確に把握することが不可欠です。遺産分割や相続登記、相続税の計算を進める上で、この作業は非常に重要になります。
固定資産税納税通知書・課税明細書で確認する
毎年、固定資産税の納税義務者には、市区町村から固定資産税納税通知書が送付されます。この通知書には、被相続人名義の土地や家屋に関する情報が記載されています。
特に、同封されている課税明細書には、物件ごとの所在地、地番、家屋番号、種類、構造、床面積、そして固定資産税評価額が一覧で記載されているため、所有不動産を確認する上で最も手軽な方法の一つですが、非課税の不動産など記載されない物件もあります。
名寄帳で確認する
「名寄帳(なよせちょう)」とは、特定の市区町村内で、個人が所有している不動産を一覧で記載した帳簿のことです。固定資産税納税通知書に記載されていない、例えば評価額が低すぎて課税されていない土地や、非課税の道路なども含め、その市区町村内にある被相続人名義の不動産情報を確認できます。
名寄帳は、不動産所在地の都税事務所や市区町村役場で取得可能です。漏れなく不動産を把握するために非常に有効な手段です。
登記簿謄本(登記事項証明書)で確認する
不動産の詳細な情報を確認するには、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得します。これは、不動産の所在地を管轄する法務局で誰でも取得できる公的な書類です。
登記簿謄本には、その不動産の所有者、地積や床面積、構造、種類といった基本情報のほか、抵当権などの担保権設定の有無、差押えの有無といった権利関係の情報も記載されています。相続する不動産が負債の担保となっていないかなどを確認するためにも、必ず取得しましょう。
不動産の相続に不安がある場合は専門家への相談も有効
不動産の相続手続きは、その性質上、法的知識、税務知識、そして多岐にわたる書類準備が必要となり、非常に複雑です。特に、以下のようなケースでは、ご自身だけで進めるのが難しいと感じる方が多いでしょう。
- 被相続人の財産状況が複雑で、どこから手をつけて良いかわからない
- 多額の相続税がかかりそうで、節税対策について相談したい
- 不動産の売却も視野に入れており、税金面も含めてアドバイスがほしい
- 相続登記の義務化は知っているが誰が相続するのか決まらない
- 遠方に住んでいるため、手続きのために頻繁に現地に行くのが難しい
このような場合、税理士や司法書士といった専門家に相談することは、手続きをスムーズに進め、予期せぬトラブルや税務上のリスクを回避するための最も有効な手段です。
専門家は、相続人の確定から、遺産分割、不動産の評価、相続登記、そして最も重要な相続税の計算・申告まで、一連のプロセスを適切にサポートします。
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