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交通事故に遭った被害者は、治療費や入通院交通費、慰謝料といった損害を賠償してもらうために、加害者や加害者側の保険会社と示談交渉をしなければなりません。
被害者からすれば、交渉を長引かせるようなことはしたくないと考えるでしょうし、事故のことを少しでも早く忘れたいと考えるのが通常でしょう。
だからといって、示談の条件を十分に確認することなく、示談書にサインをしてしまうと、後になって示談の内容を覆したり、示談金の金額を上乗せするようなことはできなくなってしまいます。
そこで今回は、交通事故の示談交渉に関し、知っておくべき示談の流れと注意点について、わかりやすく解説していきたいと思います。
「示談交渉」とは、交通事故により被害者に発生した損害について、その賠償方法などを話し合うことをいいます。
交通事故によって被害者に発生する損害は、大きく「人損」と「物損」に分かれます。
治療費や慰謝料などは前者にあたり、車の修理代などは後者にあたります。
このように、交通事故では、被害者に発生したさまざまな損害を賠償してもらうために、示談交渉が必要になってくるのです。
示談交渉は以下のような流れで進められることが一般的です。
この図からもわかるように、交通事故が発生してすぐに示談交渉が開始されるわけではありません。
示談交渉を開始するためには、少なくとも被害者に発生した損害が確定していることが必要です。
そのため、交通事故で負った怪我が完治するか、もしくは症状が固定し、後遺障害の等級認定を受けて初めて示談交渉を開始することができるのです。
また、被害者が死亡してしまった場合には、葬儀費用も損害として発生するため、葬儀が終わってから示談交渉が開始されることが一般的です。
示談交渉の結果、示談がまとまれば、示談金が支払われることになりますが、示談がまとまらなければ、裁判により解決を図ることになります。
このように、示談交渉を開始するには、少なくとも被害者に発生した損害が確定していることが必要になります。
もっとも、示談交渉を開始するタイミングは、交通事故のケースによっても異なります。
人身事故によって、怪我を負った場合には、入通院による治療が完全に終わるまでは示談交渉を開始してはいけません。
治療が終わらない間は、その後も継続して治療費が必要になることに加え、症状も固定していないため、損害を確定することができないからです。
治療期間は、長くなると年単位で必要になってきますが、このような場合にも治療が完全に終わるまでは、示談交渉を開始するべきではないでしょう。
この点、治療期間があまりに長くなると、加害者側の保険会社より、示談交渉を早く開始したいと申し入れてくることがあります。
しかし、先に見たように、治療が終わるまでは損害が確定できないため、このような保険会社の申し入れを受け入れてはいけません。
保険会社としては、治療期間が長引けば長引くほど、被害者の損害額が大きくなるため、損害額をできるだけ抑えたいとの考えから、このような申し入れをしてきます。
仮に、保険会社の申し入れを受け入れて示談書にサインをしてしまうと、被害者は損害の一部しか支払いを受けられないことになり、多大な不利益を受けることとなります。
このように、人身事故により怪我を負ったような場合は、怪我が完治するか、症状が固定するまで入通院による治療を続け、それから後遺障害の等級認定を受けるなどして損害が確定することを待って、示談交渉を開始することが大切です。
示談交渉で決まる損害賠償の額には、下記のものなども含まれます。
・治療費
・通院交通費
・被害者に対して支払われた休業損害
加害者の任意保険からこれらの金額がすでに支払われている場合には、損害賠償額全体から差し引かれることになります。
さらに、後遺障害が残った場合には、「示談金」とは次の3つを加えたものとなります。
・事故に遭わなければ得られたはずの「逸失利益」
・交通事故の精神的負担にする「傷害慰謝料」
・「後遺障害慰謝料」
などを請求することになります。
交通事故により被害者が死亡した場合は、葬儀が終わり、損害の金額が確定した段階で、示談交渉を開始することができます。
もっとも、被害者を失った遺族が、深い悲しみにより示談交渉に気が向かわないことも想定され、実際においても、示談交渉が開始されるのは、49日の法要を終えた後であることが多いといえます。
死亡事故の場合は、
・死亡による逸失利益に対する損害賠償金
・休業損害
・死亡慰謝料
などを請求することになります。
物損事故のケースでは、交通事故によって破損した車の修理などが終わり、修理代などといった損害の金額が確定した段階で示談交渉を開始することができます。
物損事故では、比較的損害の金額を確定しやすいため、実際においても、事故が起きて1ヵ月くらいで示談交渉が開始されることも多いです。
交通事故に関し、示談交渉を行うにあたっては、交渉の相手が誰になるかによって注意しなければならないポイントが異なります。
一般的には、相手方が加入する保険会社が交渉相手となることが多いですが、相手が任意保険に加入していない場合には、相手方本人が交渉相手となります。
交通事故の被害者・加害者がそれぞれに任意保険に加入している場合は、それぞれの保険会社が本人に代わって示談交渉を行います。
ここで注意しなければならないのは、自分側の保険会社が必ずしも自分に有利になるように示談交渉を進めてくれるわけではないということです。
自分側の保険会社に、自分の考えや要望を明確に伝えずに、曖昧な姿勢をとっていると、場合によっては、保険会社同士が適当に示談を成立させようとすることもあります。
そのため、保険会社同士が示談交渉を行う場合には、自分側の保険会社に対し、自分の考えや要望などをきちんと明確に伝えておくことが大切です。
もらい事故の場合、被害者の過失割合は0(ゼロ)になるため、被害者が加入する保険会社が被害者に代わって示談交渉を行うことはしてくれません。
そのため、被害者は、直接、加害者側の保険会社と示談交渉を行わなければなりません。
この場合、一個人である被害者とその分野のプロでもある保険会社の担当者の間で示談交渉が行われることになるため、知識や経験の量などにおいて、一個人である被害者はどうしても不利な状況に置かれます。
被害者は、加害者側の保険会社から不当に低い金額での示談をもちかけられても、自分で判断がつかない以上は、絶対に示談を成立させないことが大切です。
このような場合、一個人である被害者が保険会社の担当者を相手にして適切な対応をとることには限界があるため、自分に不利な条件で示談を成立させないためにも、一度弁護士などの専門家に相談・依頼することをおすすめします。
示談の金額や支払方法など、示談の条件について、被害者と加害者との間に合意が成立すると、そのことを示談書という形で書面化することが一般的です。
保険会社が被害者や加害者に代わって示談交渉を行っている場合には、保険会社が示談書を作成・郵送してくれることがほとんどです。
ここで注意しなければならないのは、いったん示談書に署名・押印をしてしまうと、示談書に書かれている示談の条件(示談金の金額や支払期日など)が確定してしまうということです。
いったん確定してしまった示談については、その後「やっぱり金額が低い」などとして、追加で慰謝料の支払いを請求したり、示談そのものを撤回することはできなくなりますので注意が必要です。
このように、示談書にサインをするということは、すなわち、示談書に記載されているさまざまな条件で示談を確定させることを意味します。
そのため、示談書が送られてきたら、まずは、サインをする前に、示談金の金額などについて、本当に妥当な金額といえるのか、また、その他の記載事項に誤りはないか、などを十分に確認する必要があります。
特に、示談金の金額については、どの程度をもって妥当な金額といえるのかがわからない方も少なくないと考えられます。
示談書にサインをする前であれば、遅すぎるということはありませんので、一度弁護士などに、示談の内容について相談した方が良いでしょう。
なお、損害賠償請求としての示談金の支払請求には、時効期間がありますので、示談金の金額が妥当かどうかわからないといった理由で長い間放置するようことはせずに、少しでも早い時期に弁護士に相談することをお勧めします。
これまで見てきたように、交通事故によって被害を受けた被害者は、加害者との間で示談交渉を行い解決を図ることが一般的ですが、示談交渉はあくまで話し合いによることを前提としています。
そのため、双方の言い分に食い違いが多く、話し合いで解決することが困難である場合には、裁判によって解決を図るほかありません。
「示談」とは、交通事故により被害者が被った損害について、その賠償方法などを、相手方と話し合って決めることをいいます。
示談による場合、通常は相手側の保険会社と交渉を行うことになるため、示談を成立させるためには、お互いに言い分だけをぶつけるのではなく、一定の歩み寄りが必要になる場合もあります。
その結果、示談が成立すれば、示談書を作成・締結して、示談書に記載されたとおりの支払方法で示談金が支払われます。
「裁判」とは、当事者双方から出された主張立証を踏まえて、裁判所が最終的に損害賠償の金額などを決めることをいいます。
そのため、示談のように、話し合いによる解決を前提とはしていません。
具体的には、裁判の中で、相手方と主張・立証を繰り返し、最終的に、裁判所はそれまでに当事者双方から提出された主張・立証を基にして、判決という形で結論を出します。
このように、裁判による解決を図る場合には、どちらの言い分が認められるかどうかが、それまでに提出された主張・立証などにかかっており、その点が不十分だと負けてしまう可能性があります。
裁判所により判決が出た場合には、判決書に記載されたとおりの支払方法で損害賠償金が支払われます。
また、裁判で期日を重ねていく過程で、損害賠償の金額や支払方法などについて、双方の間に合意が成立する場合があります(=「和解」といいます)。
この場合には、和解調書を作成し、和解調書に記載されたとおりの支払方法で損害賠償金が支払われることになります。
示談交渉は、本人で対応することも可能であるため、その場合には、弁護士に依頼する際に必要になる弁護士費用などはかかりません。
また、交通事故によって負った怪我が比較的軽症で治療も短期間で終わるような場合には、示談交渉をすることによって、早期解決を図ることもできるというメリットがあります。
他方で、弁護士には依頼せずに、本人が直接保険会社と示談交渉をすると、保険会社は損害賠償金の算定基準のうち、低額となる任意保険基準によって損害賠償の金額を算定することになりますので、その結果、受け取ることのできる示談金の金額が低くなるというデメリットがあります。
交通事故により被害を受けた以上、できるだけ高額となる示談金を支払ってもらいたいと考えるのが通常でしょう。
そのためには、どのような要素が示談金の金額に影響を与えるのかという点を知っておくことは非常に大切です。
「後遺障害」とは、交通事故によって負傷した場合に、その後の治療によっても完治せずに、障害として残ったものをいいます。
後遺障害には、障害の程度に応じて、1級から14級という等級が設けられており、高額となる示談金を支払ってもらうには、後遺障害等級について認定を受けることが必要になってきます。
後遺障害等級の認定を受けることにより、認定された等級に該当する後遺障害慰謝料と逸失利益を相手方に請求することができます。
後遺障害慰謝料の金額は、等級によって110万円~2,800万円となっており、逸失利益の金額についても、被害者が高給取りであったような場合には1億円を超えるなど、非常に高額となっています。
後遺障害等級の認定を受けるためには、まずは、症状が固定したと医師が判断するまで、治療を継続することが必要です。
医師により症状が固定したと診断されたら、後遺障害等級の認定手続きをとるようにしましょう。
なお、後遺障害等級の認定手続きについてよくわからず、適切な認定を受けられるか不安がある場合には、弁護士などの専門家に依頼することも一つの選択肢として検討すべきでしょう。
示談金の金額に大きく影響する要素として挙げられるのは、「過失割合」です。
「過失割合」とは、交通事故の結果について、加害者と被害者にそれぞれ認められる責任を割合で表したものをいいます。
過失割合が大きければ大きいほど、被害者が受けた損害の総額から過失分として減額される金額も大きくなるため、高額となる示談金を支払ってもらうためには、自分の過失割合をいかに小さく認めてもらえるかということがポイントになってきます。
このように、過失割合は示談金の金額に大きく影響を及ぼすため、相手と争いになることも多く、被害者が本人で対応しているようなケースでは、知識や経験に勝る保険会社の担当者が何かと理由をつけて被害者の過失割合が大きいことを主張してくることが少なくありません。
そのため、過失割合について相手と争いになっているような場合には、弁護士などの専門家に相談・依頼することが得策だといえるでしょう。
被害者に発生した損害を算定するための基準には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの種類があり、このうちもっとも高額となる基準は「弁護士基準」です。
「弁護士基準」とは、過去の裁判例などを参考に、弁護士が交渉で用いる基準のことをいいます。
高額となる示談金を支払ってもらうためには、弁護士基準により示談金の金額を算定してもらう必要がありますが、仮に、被害者が本人で保険会社と交渉を行うと、保険会社は弁護士基準より低額となる任意保険基準により示談金の金額を算定しますので、その分受け取ることのできる示談金の金額が下がることになります。
交通事故による示談交渉を適切に進めていくためには、その流れと場面ごとの注意点をきちんと理解しておくことが必要です。
もっとも、注意点の中には、細かい知識などが必要となることもあり、示談交渉に不慣れな人では適切な対応をとることが困難だと考えられます。
自分にとって不利な内容の示談を締結させられないためにも、弁護士などに相談・依頼することも視野に入れつつ、冷静に対処することが大切です。