交通事故に遭ったら、後日相手側とお互いの損害について金銭的な示談をすることになります。
示談とは、お互いが話し合うことによって交通事故の過失割合や損害額を交渉し、損害賠償としてどちらがいくら支払うのか合意することをいいます。
自分がもらえる金額は交渉によって決まるので、いくら請求できるのかを知っておかなければ損をすることがあります。
また、いくら請求できるのかを知っていても適切に交渉ができなかったり、損害の発生を証明する証拠がないなどの場合も、本来もらえるはずの損害賠償金がもらえなくなります。
この記事では、交通事故で適切な損害賠償金を受けられるように、事故後の流れから示談交渉までの段階別にやるべきことや注意点などを解説していきます。
まず、示談は交通事故の後すぐに行われるものではないことを知っておきましょう。
交通事故に遭った後、示談に至るまでにはさまざまな段階があります。
どのような段階を踏むのか大まかに説明すると、以下のようになります。
以上のように6つの段階のうち、⑤示談交渉で初めて示談の話し合いを開始します。
怪我の治療が終了して完治するか後遺障害等級の認定を受けるまでは、損害額が確定しません。
損害額が確定するまでは示談交渉はできませんし、すべきではありません。
なぜなら、いったん示談をしてしまうと、合意した損害賠償額を超える請求はできなくなるからです。
示談をするときは、お互いの損害額を確認し合って支払うべき損害賠償額を確定します。
そして、示談書には「お互いにその他の請求はしない」という誓約文が盛り込まれます。
そのため、治療が続いているうちに見込みの金額で示談をしてしまうと、後からそれ以上に損害額が膨らんでも、もう請求できなくなります。
この原則には、例外が全くないわけではありません。
示談する時点で予見できなかった後遺障害が後で発生した場合は示談をやり直せることもありますが、極めて限られたケースになります。
基本的には、いったん示談したら、それ以上の請求はできないと考えておきましょう。
それでは、交通事故が発生してから示談に至るまでの流れに沿って、手順や注意点を解説していきます。
交通事故の直後は誰もが気が動転してしまうものですが、現場でやっておくべきことがいくつかあります。
適切に行動しておかないと後の示談交渉で不利になってしまうことがあるので、できる限り落ち着いて、やるべきことをやりましょう。
やるべきことは、以下のとおりです。
交通事故に遭ったら、必ず警察に通報しましょう。
警察への通報義務は道路交通法という法律にも定められていますが、通報しないとのちの示談交渉でも不利になってしまいます。
交通事故に遭ったことを後で証明するためには「交通事故証明書」という書類を発行してもらう必要があります。
交通事故証明書は警察が発行する書類です。
そのため、交通事故が発生したことを警察に通報して、事故処理をしてもらわなければならないのです。
相手が加入している保険会社に保険金を請求するときにも、交通事故証明書を提出する必要があります。
この書類がなければ損害賠償金を支払ってもらえない場合もあります。
軽微な事故だと思っても、必ず警察に通報しなければなりません。
損害賠償を請求するためには、損害の発生や程度を証明する証拠が必要になります。
そのためには、交通事故が発生した直後の現場で、可能な限り状況を確認して記録に残しておく必要があります。
現場や周囲の状況、車が破損した箇所などは写真に撮影しておきましょう。
スマホや携帯電話のカメラで構いません。
できれば自分が怪我をした状況や、道路についたブレーキの痕なども撮影しておきましょう。
そして、どのようにして交通事故が発生したのかもメモに書いて残しておくことが重要です。
その場でメモするのが難しい場合は家に帰ってからでも構いませんが、記憶が新鮮なその日のうちにメモをしておきましょう。
人間の記憶は正確ではありませんし、時間が経過するにつれて意外なほどに変わってしまいます。
後日記憶を頼りに相手と話し合いを行っても、お互いの認識がずれていて話し合いがスムーズにいかなくなることがよくあります。
そのため、事故から時間が経っていないうちに事故の状況を記録しておく必要があるのです。
警察が作成する実況見分調書も有力な証拠になりますが、必ずしも正確な内容が記載されているとは限りません。
また、実況見分は後日行われることもあり、そのときにはもう事故の当事者の記憶が変化している可能性が十分にあります。
事故直後の現場において、できる限り自分で証拠を確保するようにしましょう。
事故直後の現場において、必ず相手の身元を確認しておきましょう。
免許証を提示してもらって氏名と住所を確認し、連絡先も聞いて控えておくべきです。
相手の車のナンバーや車種も、メモするか写真を撮影して控えておきましょう。
できれば、相手の車の車検証を見せてもらって所有者を確認することと、相手が加入している任意保険の保険会社名も聞いて控えておいた方がいいです。
自分が被害者である場合は、のちの示談交渉で相手が加入している保険会社と主に話し合うことになります。
しかし、自分が加入している保険会社にも連絡しておくべきです。
交通事故の多くは被害者側にも何割かの過失があるものです。
少しでも自分に過失がある場合は、示談をすれば相手から損害賠償金を支払ってもらうと同時に、相手に対してもいくらかの損害賠償金を支払う必要があります。
そのときに自分が加入している保険を使う必要がある場合もあります。
保険会社には事故直後から事故処理に関わってもらった方がいいので、事故直後の段階で自分が加入している保険会社にも連絡しておきましょう。
交通事故で怪我をした場合、しばらくの間は病院に入通院して治療することになります。
示談交渉を始めるのは怪我が完治するか、症状固定して後遺障害等級の認定を受けた後になります。
症状固定とは、ある程度の期間治療を続けても完治せずに症状が残り、それ以上治療を続けても症状が良くなる見込みがないと判断されることです。
主治医から症状固定の診断を受けるまで、治療に専念しましょう。
治療費については、通常は相手が加入している任意保険会社が病院に直接支払ってくれます。
保険会社の担当者からその旨の説明があるはずですが、相手が保険会社に連絡していなければ対応してくれないので、自分で相手の保険会社に連絡しなければならない場合もあります。
治療期間中に注意すべきポイントは、以下の2点です。
怪我をしたら、すぐに病院を受診することが重要です。
交通事故に遭ってから初めて診察を受けるまでに間が空いてしまうと、怪我をしていても交通事故によるものではない可能性があるのではと、因果関係を疑われることがあります。
少しでも痛いところや違和感があれば、現場で必要なやりとりを終えたらすぐに病院を受診しましょう。
遅くとも当日中に受診しておくべきです。
交通事故による負傷では事故直後はたいして痛みを感じなくても、当日の夜や翌日、数日後に痛みが増してくることがよくあります。
当日に受診しなかった場合でも、おかしいと思ったらできる限り早く受診しましょう。
事故発生から受診までの期間が長くなればなるほど、事故と怪我の因果関係を疑われやすくなります。
交通事故には「人身事故」と「物件事故(物損事故)」の2種類があります。
人身事故とは交通事故によって人の生命や身体が傷ついた場合をいい、物件事故とは人に被害はなく、車やガードレール、電柱、家屋などの物だけが損傷した場合をいいます。
事故で怪我をした場合には人身事故として届けておくことが重要です。
物件事故として届け出ると、警察は簡単な書類だけを作成して事故処理を終わらせてしまいます。
ですが、詳しい書類が作られていないと、示談交渉で不利になることがあります。
交通事故の示談交渉では、どちらにどれくらいの過失があったのかという過失割合についてお互いの言い分が食い違ってもめることがよくあります。
そのときに有力な証拠になるのが、警察が作成した書類です。
人身事故として届け出れば、警察は事故現場で正確に計測を行った上で実況見分調書を作成します。
事故の当事者や目撃者に事情聴取をして供述調書も作成します。
しかし、物件事故として届け出ている場合はこれらの書類は作成されません。
現場の計測も行われず、ごく簡単な「物件事故報告書」という報告書が1枚作成されるだけです。
この書類だけでは過失割合を立証するのは非常に困難です。
怪我をして治療を受けた以上は、人身事故として届け出ましょう。
事故直後に物件事故として処理された場合は、後からでも警察署で手続きをすれば人身事故に変更することができます。
人身事故に変更すると、警察は改めて捜査を行い、上記の捜査書類を作成します。
怪我の治療を続けて完治した場合は、示談交渉を開始することになります。
しかし、いつまでも完治せず症状が残ることがあります。
その場合は、示談交渉を開始する前にまだやるべきことがあります。
症状固定の診断を受けて、後遺障害等級の認定を受けることです。
症状固定の診断を受けると、治療費や入通院慰謝料、通院交通費、休業損害など傷害に関する損害額はその時点で確定します。
残った症状については、後遺障害に認定されれば後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようになります。
症状固定の診断を受ける時期については、主治医と相談して慎重に判断する必要があります。
しかし、保険会社が症状固定の診断を急かせるかのような打診をしてくることがよくあります。
怪我の治療をしばらく続けていると、保険会社の担当者から「そろそろ治療費を打ち切りたい」と打診してくることがあります。
保険会社は、被害者の怪我の種類や程度に応じて治療期間の目安を設けていて、その目安期間を過ぎても治療を続けていると治療費打ち切りの打診をしてくるのです。
おおよその目安としては、打撲の場合で1ヶ月、むち打ち症の場合で3ヶ月、骨折の場合で6ヶ月です。
被害者にとっては、目安の期間が過ぎても治らないのなら、早く症状固定の診断を受けるようにと保険会社から言われているように感じてしまいます。
しかし、目安の期間が過ぎたからといって怪我が治ったり、症状固定を迎えたりするとは限りません。
完治や症状固定を診断するのは保険会社ではなく主治医です。
保険会社から治療費打ち切りの打診を受けた場合は、主治医によく相談して、納得できるまで治療を受けるようにしましょう。
保険会社も実際に治療費を打ち切るかどうかを決める際には、主治医の見解を尊重します。
それでも保険会社が強行的に治療費を打ち切った場合は、いったん治療費を自己負担してでも治療を続けた方がいいです。
保険会社の意見をうのみにして治療をやめてしまうと、治療費はもちろん、入通院慰謝料もそこまでの分しかもらえなくなります。
治療費を自己負担してでも治療を続ければ、カルテなどによって治療の相当性を立証できれば、後の示談交渉で治療を続けた分の治療費と入通院慰謝料も支払ってもらえることがあります。
ただ、治療を続けるべきかどうかの判断は難しいケースもあります。
迷った場合は弁護士に相談してみたほうがいいでしょう。
症状固定の診断を受けたら、後遺障害等級の認定を申請します。
後遺障害等級の認定は保険会社が行うものではなく、「自賠責損害調査事務所」という機関が公平中立な立場で調査した上で認定します。
ただし、申請方法は2種類あります。
相手の保険会社が申請してくれる方法と、自分で申請する方法です。
実務上、相手の保険会社が申請する場合を「事前認定」、自分で申請する場合を「被害者請求」といいます。
後遺障害等級の認定を申請する手続きは慣れていないと少し複雑ですが、できれば被害者請求で行った方が有利になります。
事前認定では、主治医から受け取った「後遺障害診断書」を提出すれば、あとは相手の保険会社が全ての手続きを行ってくれます。
自賠責損害調査事務所での調査は、通常は資料のみでの調査になります。
したがって、後遺障害等級の認定を適切に受けるためには、どのような資料を提出するかがポイントになります。
保険会社は、被害者が受診した医療機関から取り寄せたカルテや診療報酬明細書、レントゲンやCT、MRIの画像など通り一遍の資料を提出するだけです。
自分で被害者請求を行う場合は、これらの資料に加えてどのような資料でも自由に提出することができます。
例えば、症状が残ったことによって仕事や生活にどのような支障が生じているかを詳細に綴った日記などを提出すれば、有効な資料となることもあります。
ただ、基本的な資料の収集や申請手続きが適切にできなければ、結局は後遺障害等級の認定を受けることはできません。
被害者請求を自分で行うのが難しいと感じる場合は、弁護士に相談したほうがいいでしょう。
自賠責損害調査事務所での調査の結果、後遺障害等級が認定されますが、必ずしも自分が納得できる結果が出るとは限りません。
「非該当」として後遺障害が認定されない場合もあります。
認定結果に納得できない場合は、異議申し立てをして再調査・再認定をしてもらうことができます。
ただ、最初に申請したときと同じ資料を提出しても、認定結果が覆ることはありません。有力な資料を新たに提出する必要があります。
通常は、再度病院を受診して診断し治療したり、別の医療機関でセカンドオピニオンを受けたりする必要があります。
どのような資料を入手すれば認定結果を覆せるかについては、弁護士などの専門家でないとなかなか分かりません。
異議申し立てをしても認定結果を覆すことは難しい場合が多いので、異議申し立てをするなら弁護士に相談したほうがいいです。
後遺障害等級の認定結果が出たら、損害額が確定します。ようやく示談交渉を開始することになります。
示談交渉をする相手は、交通事故の相手が任意保険に加入している場合は、その保険会社の担当者になります。
通常は保険会社側で損害項目ごとに損害額を計算し、過失割合に応じて減額した損害賠償額を示談案として提示してきます。
その提示内容に基づいて話し合いを進めていくことになります。
それぞれの損害項目ごとに金額が適切に計算されているか、もっと請求することはできないのかを検討することになりますが、一般の方にはなかなかわかりにくいところです。
弁護士に相談してチェックを受けるのが望ましいでしょう。
なお、示談交渉をする際には、損害賠償金を算定する基準には3種類あり、どの基準で計算するかによって金額が大きく異なるということを頭に入れておきたいところです。
意外に思われるかもしれませんが、交通事故の損害賠償金を算定する基準には3種類の異なる基準があります。
金額低い基準から順に挙げると「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3種類です。
任意保険会社の示談案は、当然「任意保険基準」で計算されています。
しかし、その金額は弁護士基準で計算した金額よりも相当低い場合が多くなっています。
一例として怪我で3ヶ月通院した場合の入通院慰謝料は、任意保険基準では37万8千円ですが、弁護士基準なら73万円と2倍近い金額になります。
怪我の程度が重く、治療期間が長引けば長引くほど、この2つの基準による金額の開きは大きくなります。
どうせなら一番高い弁護士基準で計算してほしいと思うのは当然ですが、保険会社に希望しても弁護士基準で計算してくれるものではありません。
弁護士基準は、従来は弁護士が裁判で主張するときに使う基準でした。
裁判で勝訴して初めて適用される基準が弁護士基準なのです。
最近では、裁判をしなくても弁護士が示談交渉に介入すれば、弁護士基準で示談できるケースも増えてきました。
任意保険基準による示談案には、弁護士に依頼しなくても早期に示談して損害賠償金を支払ってくれるというメリットもあります。
弁護士基準にこだわった方がいいのかどうかは、自分の状況に応じてよく考えて判断しましょう。
損害賠償には時効があります。
交通事故が発生してから3年が経過すると損害賠償請求権が消滅時効にかかり、請求しても支払ってもらえなくなります。
治療期間が長引いたり、示談交渉がもつれたりして消滅時効期間が迫ってしまった場合は時効中断の手続きをとる必要があります。
相手の任意保険会社とやりとりを続けている場合は、保険会社の方から時効中断の手続きを案内してくれるのが一般的なので、あまり心配はいりません。
しかし、相手が保険に加入しておらず、相手本人に請求しなければならない場合は時効の問題が出てくることがあります。
消滅時効期間が迫った場合は、内容証明郵便を相手に送るなどして請求した証拠を作れば、6ヶ月間は時効を延長することができます。
ただし、その6ヶ月の間に示談が成立しない場合は裁判をしなければ消滅時効が成立してしまうので注意が必要です。
示談交渉はスムーズに進むケースばかりではありません。
過失割合でもめるケースは非常に多くありますし、その他にもさまざまな損害項目についてお互いの主張がかみ合わないことがあります。
そんなときは、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に示談交渉を代行してもらえば、こちらの主張を証拠で適切に立証することで示談できる場合もあります。
それでも示談できない場合は裁判をする必要がありますが、裁判になると相手は保険会社の顧問弁護士を立ててくることが通常なので、こちらも弁護士に依頼しなければ不利になってしまいます。
弁護士に依頼するとなると費用が気になると思いますが、自分が加入している保険に弁護士費用特約がついている場合は自己負担なしで弁護士に依頼することができます。
一度、自分の保険を確認して弁護士への相談を検討してみましょう。
相手と損害賠償の金額について合意に至れば、示談が成立します。示談が成立したら口約束ですませるのではなく、証拠を残すためにも示談書を作成して取り交わすことが重要です。
相手の保険会社と示談する場合は、保険会社が準備する「免責証書」という書類にサインする形になります。
免責証書には保険会社が加害者に代わって被害者に支払う損害賠償金の金額と、被害者は名目を問わずその他の請求をすることはできない旨が記載されています。
免責証書には加害者本人のサインはありませんが、示談書と同じ法的効力を持つ書類なので、控えを保管しておきましょう。
相手が保険に加入しておらず、相手本人と直接示談する場合は、示談書を作成してお互いにサインすることになります。
示談書の書式に特に決まりはありません。ただし、以下の項目は漏らさずに記載する必要があります。
免責証書でも示談書でも、一度サインをすると後で合意内容を覆すことはできません。
本当にその内容で示談して後悔しないかどうかを再確認してからサインしましょう。
示談交渉は、相手の保険会社の言うことに従っていれば楽に進めることはできます。
しかし、何の知識もなく保険会社の言うことをうのみにすると、本来もらえるはずの損害賠償金より低い金額で示談してしまう可能性が非常に高いです。
損をしないためにはこの記事で解説した知識を持っておくことも大切ですが、保険会社の担当者は示談のプロなので、上手に言いくるめられる危険性もあります。
弁護士に依頼すれば、あなたに代わって示談交渉を代行してくれます。
困ったときは弁護士に相談してみることをおすすめします。