東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
目次
過失割合とは、交通事故が発生した原因について加害者と被害者のどちらにどの程度の過失があったのかを示す割合のことです。
つまり、どちらにどの程度の落ち度があって交通事故が発生したのかを示すのが過失割合です。
交通事故の示談交渉において、過失割合は以下のように重要な意味を持っています。
交通事故の「加害者」というと一方的な過失があり、「被害者」というと何の落ち度もないというイメージがあるかもしれません。
しかし、加害者の全面的な過失による交通事故というのは、そう多くはありません。
たしかに、信号待ちなどで停車中の車に後方から進行してきた車が追突した場合や、センターラインを超えた車が対向車に衝突したような場合は、加害者に100%の過失が認められます。
しかし、信号が設置されていない交差点での出会い頭事故や、追い越し中の接触事故などではどちらの運転者にも過失が認められる場合がほとんどです。
全ての運転者には事故を起こさないようにすべき注意義務が課されているので、交通事故の大半のケースでお互いの注意義務違反、すなわち過失が認められます。
被害者にも過失があるといわれても、十分な損害賠償金を受け取れるのであれば問題はないのかもしれません。
しかし、被害者といえども過失がある場合は、その過失の程度によって損害賠償額を減らされることが法律で定められています(民法第722条2項)。
このように、過失の程度を考慮して損害賠償額を計算することを「過失相殺」といい、実際の損害額に被害者の過失割合をかけることによって損害賠償額を計算します。
たとえば、交通事故が原因で被害者が300万円の損害を受けたとして、過失割合が8対2であるとすれば、次の計算式によって受け取れる損害賠償額が20%減ってしまいます。
被害者には300万円の損害が発生しているにもかかわらず、20%の過失があることによって240万円の損害賠償金しか受け取れないことになります。
過失割合は当事者の意見が一致すれば合意で決まることもありますが、意見が対立する場合には過去の裁判例などを参考にして決めることになります。
その際には、次の3つの要素を考慮して過失割合が決められます。
過失割合を決める3つの要素
以下で、ひとつずつご説明していきます。
まず、何と何が衝突したのかによって事故の類型が区別され、それぞれ基本的な過失割合が違ってきます。
車を運転するということは、自転車やバイクを運転する場合よりも事故が起こったときの損害が大きくなるため、危険性の高い車両を運転するときほど、他人に損害を与えないように高度の注意義務が課されます。
そのため、自転車よりはバイク、バイクよりは車の運転手の方が事故が起こったときの過失割合は基本的に重くなります。
歩行者にも飛び出しや信号無視などによって過失が認められる場合はありますが、基本的にはもっぱら車両側に過失があると判断されます。
次に、どのような場所で、お互いがどのように動いて事故が発生したのかという事故の態様を分類します。
たとえば、まずは
などのように、どのような場所で発生した事故なのかを分類します。
その上でさらに、交差点内での事故であれば
といったようにお互いの車両の動きなどを見て分類していきます。
事故の類型と事故の態様によって基本的な過失割合は決定しますが、場合によっては基本過失割合をそのまま適用すると不公平になってしまうケースもあります。
そこで、その事故における個別の事情を考慮して、過失割合を修正します。
過失割合が修正される事情として、主に以下のようなものがあげられます。
過失割合が修正される事情
それでは、具体的にどのような交通事故で、どの程度の過失割合になるのでしょうか。
ここでは、よくある事故の類型と態様の例を挙げて、どのような過失割合になるのかをご紹介します。
過失割合8対2となる事故の類型と態様はたくさんありますが、たとえば以下の2つを挙げることができます。
このケースで、非優先道路を走行していたA車と優先道路を走行していたB車が出会い頭に衝突した場合の過失割合は、A車80対B車20となります。
ただし、どちらかが明らかに先に交差点に進入していたり、速度違反があったりすれば過失割合が修正されることがあります。
このケースで、交差点の近くでもなく、横断歩道もない場所を歩行者が横断中に事故にあった場合の過失割合は、車80対歩行者20となります。
ただし、夜間の事故であったり、事故現場に横断禁止の規制があったり、歩行者が高齢者や児童であったりした場合は過失割合が修正されることがあります。
過失割合9対1となる事故の類型と態様の例としては、以下の2つを挙げることができます。
このケースで、非優先道路からA車が交差点に右折進入し、優先道路を直進してきたB車と衝突した場合の過失割合は、A車90対B車10となります。
ただし、B車が進入前に徐行していたかどうかや、A車の速度違反の有無などによって過失割合が修正されることがあります。
このケースでは、基本的に過失割合は車90対歩行者10となります。
ただし、道路の幅や歩行者がどの部分を歩いていたかによって基本過失割合が異なります。
過失割合10対0となる事故の類型と態様の例としては、以下の2つを挙げることができます。
このケースでは、基本的に過失割合は追突車100対被追突車0となります。
ただし、非追突車が正当な理由がないのに急ブレーキをかけた場合や、ブレーキランプが故障していて点灯していなかった場合などには過失割合が修正され、非追突車にも過失が認められることもあります。
このケースでは、基本的に過失割合は車100対歩行者0となります。
ただし、夜間の事故であったり、幹線道路での事故であったりした場合は過失割合が修正されて歩行者にも過失が認められることもあります。
通常は加害者側の過失と被害者側の過失を足して100%(10割)となるように決めますが、場合によっては「95対0」のように加害者側の過失のみを部分的に認めて示談することもあります。
被害者が過失責任を負わされることに納得できずに、示談交渉が揉めることはよくあります。
ただ、被害者から加害者に対する5%の損害賠償義務が免除されるのであれば、加害者から被害者に対する損害賠償額は95%でも示談できるという場合があります。
このような場合に、早期に問題を解決するために加害者側の保険会社が5%の損害賠償請求権を放棄して示談を成立させることがあります。
このとき、過失割合は「95対0」と表示されることになります。
過失割合95対0で解決可能な交通事故のケースとしては、たとえば、信号機が設置されていない交差点の横断歩道を歩行者が横断中に車が衝突した事故が挙げられます。
このケースで、夜間の事故であった場合には車の運転者が歩行者を発見するのが少し難しくなるため、過失割合が修正され、「95対5」が基本過失割合となります。
しかし、歩行者が5%の過失責任を認めず、加害者側の保険会社が譲歩してでも示談したいと考えた場合、過失割合「95対0」で示談が成立します。
それでは、双方に過失がある交通事故において、相手に負担させる損害賠償額はどのように計算すればいいのでしょうか。
ここでは、具体例を挙げて実際に損害賠償額を計算してみましょう。
交通事故の実例として、次のケースをご紹介します。
事例交通事故の実例
この事故では、A車が右側から、B車が左側からそれぞれ進行してきて、出会い頭に衝突しました。
交差点での車の走行は左方の車が優先されるため、この事故における基本的な過失割合はA車60対B車40となります。
以下ではまず、この基本過失割合に従った場合の損害賠償額を計算し、さらに過失割合に修正要素がある場合の計算方法もご紹介します。
加害者が賠償すべき損害賠償額は、被害者の損害額に加害者の過失割合をかけて計算します。
今回の例ではB車が被害者となるので、A車の運転者が賠償すべき損害額は以下のように計算されます。
一方、B車の運転者にも過失があるので、その限度において加害者に発生した損害を賠償すべき義務があります。
その賠償額は、以下のとおり計算されます。
今回の例で、A車に時速15㎞の速度違反があった場合は、A車側の過失が10%加算されます。
この修正によって、過失割合はA車70対B車30となります。
修正後の過失割合によってA車・B車それぞれの運転者が賠償すべき損害額は、以下のとおり計算されます。
過失割合が変わることによって、損害賠償額が変わることがおわかりいただけるでしょう。
被害者にも過失があれば、過失割合の分だけ受け取れる損害賠償金が少なくなってしまいます。
ただ、問題はそれだけでなく、被害者であるにもかかわらず多額の損害賠償を負担しなければならない場合もあります。
それどころか、加害者は損害賠償を支払う必要がないのに被害者のみが損害賠償を支払わなければならないケースも少なくありません。
先ほどご紹介した例では、被害者側の損害額が加害者側の損害額よりも大きかったため、被害者が負担すべき損害賠償額はさほど問題にはなりません。
しかし、被害者側の損害額が小さくて加害者側の損害額が大きい場合は、被害者の過失割合が少ないにもかかわらず、被害者が負担すべき損害賠償額が多くなってしまいます。
先ほどの例で、A車とB車の損害額を逆にして損害賠償額を計算してみましょう。
これを前提として、A車とB車のそれぞれの負担すべき損害賠償額を計算すると、以下のようになります。
このように、被害者側の損害額が加害者側の損害額よりも大きければ、加害者が負担すべき損害額よりも被害者が負担すべき損害額の方が大きくなるケースがあるのです。
上記の例では、被害者であるB車の運転者は、自分が受けた損害に対する賠償金として70万円を受け取ることができる一方で、A車の運転者に生じた損害の賠償金として90万円を支払わなければなりません。
交通事故の損害賠償の実務においては、当事者の双方が同意する場合に限り、お互いの損害賠償義務を対等額で相殺する内容の示談をすることがあります。
今回の例でA車とB車の運転者がお互いに同意すれば、対等である70万円の限度で相殺されます。
その結果、B車の運転者は過失割合が少ない被害者であるにもかかわらず、残りの20万円の損害賠償を支払わなければならなくなります。
もっとも、損害賠償債務を相殺処理することは原則として禁止されています(民法第509条)。
したがって、B車の運転者は相殺に同意しなければ一方的に損害賠償を支払わされることはありませんが、受け取る賠償金額よりも多くの損害賠償金を支払う義務を負うことには変わりありません。
被害者が損害賠償を支払わなければならないケースがあるとはいっても、任意保険に加入していれば、実際に支払うのは保険会社です。
今回の例でも、B車の運転者は自分が加入している任意保険を使えば、自腹で損害賠償を支払わなければならないわけではありません。
ただし、任意保険に加入していない場合や、加入していても保険を使いたくない場合は自腹で損害賠償を支払わなければならないので、注意が必要です。
これまでご説明してきたように、交通事故では過失割合によって受け取れる損害賠償額も支払うべき損害賠償額も異なります。
特に、重大な人身事故であれば、過失割合が5~10%変わるだけで損害賠償額が数百万円~数千万円変わってしまうこともあります。
それほど過失割合の問題は重要ですが、示談交渉の場面では加害者側の保険会社が独自に過失割合を判断し、一方的に主張してくることがほとんどです。
保険会社に示された過失割合に納得できない場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
保険会社が一方的に過失割合を判断するとはいっても、適当に判断しているわけではなく、過去の裁判例の分析に基づいた、一定の判断基準に則って判断しています。
それだけに、保険会社の判断と異なる意見を主張するためには、専門的な知識が必要になります。
被害者が感情的に意見を主張しても、加害者側の保険会社が意見を翻すことはありませんが、弁護士に相談すれば、過失割合について専門的な見地から筋の通ったアドバイスを受けることができます。
さらに、弁護士に依頼すれば本人に代わって示談交渉を代行してもらえるので、自分に有利な過失割合で示談できる可能性が高まります。
示談交渉で過失割合を変更するためには、自分の主張を裏づける証拠が必要となる場合が多々あります。
過失割合を決めるときには、一時的には交通事故の当事者の言い分に基づいて事故の類型や態様、修正要素などを判断します。
双方の意見が食い違う場合は、加害者側の保険会社としては、契約者である加害者の言い分をある程度は尊重せざるを得ませんが、加害者の言い分が間違っている場合もあります。
しかし、被害者の言い分を裏づける証拠がなければ、加害者側の保険会社としては過失割合の判断を覆すわけにはいかないのが実情です。
とはいえ、どのような証拠を確保すればいいのか、その証拠をどうやって入手すればいいのかということは、なかなか自分ではわからない場合が多いでしょう。
そんなとき、弁護士に依頼すれば有効な証拠を確保し、的確な主張をすることによって、こちらに有利な内容で示談することが期待できます。
示談交渉をしても双方の意見が一致しない場合は、どちらの意見が正しいのかを裁判で争う必要があります。
裁判では、単に自分の言い分を言うだけではなく、法律的に意味のある主張をして、主張する事実を証明できる証拠を提出しなければなりませんが、手続きも複雑なので自分で裁判を行うのは大変です。
裁判で敗訴してしまうと、納得できなくてもその内容が公的に確定してしまい、もう覆すことはできなくなります。
弁護士に依頼することで裁判手続きも代行してもらえるので、勝訴できる可能性が高まります。
交通事故における過失割合は、単にどちらが悪いのかを決めるだけのものではなく、損害賠償額に影響を及ぼす重要な問題です。
保険会社が提示する示談案で安易に示談してしまうと、本来受け取れるはずだった損害賠償金を受け取れないことになってしまいます。
過失割合の問題でお困りのときは、示談をする前に弁護士に相談してみることをおすすめします。