東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をすると、原則として抱えている借金はすべて返済が免除されます。
非常に大きなメリットがある一方で、換金できる財産の処分、一定の職業への就業制限など、いくつかデメリットもあります。
デメリットの一つが、官報への掲載です。
破産者にとって自己破産の事実は人に知られたくないものですが、手続き上、官報で公表しなければなりません。
ここでは、官報の内容や掲載される期間、掲載された情報を調べる方法について確認していきましょう。
Contents
官報とは、政府が発行する広報紙のようなものです。
官報に掲載される内容は、政府や裁判所などから一般国民に広く知らせる必要がある情報です。
たとえば、以下のような内容が掲載されます。
内閣府が行政機関の休日を除く毎日発行し、独立行政法人国立印刷局が編集、印刷とインターネットでの配信を行っています。
自己破産は裁判所を通じた手続きであり、裁判所は主に債権者へ通知する目的で官報に破産者の情報を掲載します。
破産手続き中に官報へ掲載される回数は、通常2~3回ほどです。
具体的には、以下のタイミングで官報に掲載されます。
裁判所へ破産の申立てを行い、破産手続開始決定がされた後、約2週間後に初回の掲載があります。
破産者に財産がない場合、破産手続開始決定と同時に廃止決定もされるため、①と②は同じタイミングで官報に掲載されます。
官報は、発行日の午前8時30分に国立印刷局と東京都官報販売所に掲示されます。
インターネット版の官報では、直近90日間の掲載内容がすべて無料で閲覧可能です。
官報情報検索サービスは、同じくインターネットで日付やキーワードを指定して昭和22年5月から直近までの内容を閲覧できます。
ただし、会員制の有料サービスであるため利用者は限定的かもしれません。
紙媒体で発行された官報は、図書館などで所蔵されている限り半永久的に閲覧可能といえるでしょう。
官報で氏名や住所を公表する理由は、次の3つです。
ただし、その事実を知るために官報を見ている人は非常に限られています。
法律に基づいて決定された事実は、国民に広く知らせなければなりません。
裁判所の決定も同様に公共性を有する事項であるため、官報で公告されます。
個人の名誉を守るプライバシー権の問題もありますが、公共性を有する事項については侵害にあたらないとされています。
自己破産の免責決定によってもっとも影響を受けるのが、破産者にお金を貸している方などの債権者です。
自己破産によって債権者はその債権が消滅してしまうため、想定していた利益を永遠に受け取れなくなります。
法人の場合、債権の金額が多ければ業績に影響を与えかねません。
また、地方公共団体の税務担当者にとっても、納税は債権にあたります。
自己破産によって納税は免責されませんが、滞納または返済がさらに遅れるといったリスクを知る必要があります。
貸金業者だけでなく、銀行などの金融機関やクレジットカード会社(信販会社)にとっても、融資は事業の根幹です。
個人向けのショッピングクレジットやローンも短期融資にあたります。
融資の対象が自己破産者である場合、通常は返済能力に乏しいため、利用しても返済できない可能性が高いでしょう。
融資やクレジット、ローンの審査をするとき、審査対象者に自己破産の経験があるかどうかは必ず知っておきたい事実のひとつです。
金融システムが正常に機能するためにも、自己破産の情報は公表する必要があります。
自己破産について、官報に掲載される主な内容は下記の通りです。
官報の掲載内容
ここからは、破産手続開始と免責決定の掲載例について紹介します。
破産手続開始(同時廃止)の場合、次のように掲載されます。
破産財団とは、債権者に分配するための破産者自身の財産を指します。
支弁とは、破産者自身の財産から破産に必要な費用を支払うという意味です。
つまり、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」とは、破産者自身の財産で破産費用を支払えないという内容です。
なお、破産管財人が選任される管財事件の場合、理由の要旨に代えて、破産管財人の氏名と財産状況報告集会・廃止意見聴取・計算報告の期日が掲載されます。
破産管財人とは、破産財団に属する財産を管理処分する役割で裁判所から選任された弁護士などです。
財産状況報告集会とは、破産管財人から破産手続きや財産の処分などを債権者へ報告をするための場です。
もし破産者に換金できる財産がない場合、破産手続きは終了します。
この場合、債権者への配当もないため、破産管財人は債権者集会を開き破産手続きの廃止について意見を聴取しなければなりません。
財産を換金して配当できる場合、配当額を債権者に報告するため債権者集会で計算結果を説明します。
免責決定の場合、次のように掲載されます。
官報の掲載内容は、以下の種類によって調べ方が異なります。
それぞれの調べ方について解説します。
インターネット官報は、独立行政法人国立印刷局が運営するホームページから専用サイトに移動して利用します。
直近 90 日間分の官報情報(本紙、号外、政府調達等)は、すべて無料で閲覧可能です。
以下のURLのページの「本日の官報」と「直近90日間の官報」にPDF版の官報情報が掲載されています。
参考:インターネット版 官報
直近 90 日間以前の官報情報を閲覧するには、有料版の官報情報検索サービスに登録しなければなりません。
全国の官報販売所では、紙媒体の官報を購入できます。
官報販売所の所在地は、全国官報販売協同組合の官報販売所一覧で最寄りの販売所を調べられます。
販売所を訪問する必要はありますが、紙媒体で保存できるのでもっとも確実な方法といえるでしょう。
ただし、特定の自己破産が掲載された官報は、原則としてその発行日しか購入できません。
自己破産の情報は無料でかつ簡単に閲覧できますが、、意外と知られていません。
自己破産が家族や知人にバレにくいのは、次の3つの理由があるためです。
それぞれの理由を1つずつ見ていきましょう。
官報を見ているのは、主に以下のような人達です。
官報に情報を掲載した人にとっては、官報を購入し掲載の事実を証拠として保存するケースもあるでしょう。
一般の人にとって通常はなじみのない情報が掲載されているため、たまたま閲覧してバレるようなケースはほとんどありません。
もし第三者が自己破産の事実を確認したいと思い、名前で検索した場合はバレてしまうのでしょうか。
自己破産の事実は個人情報にあたるため、通常、インターネットで名前を検索しただけでは出てきません。
また、インターネット版官報で過去の官報情報を探そうとしても、検索機能がないため探すのは非常に困難でしょう。
官報情報検索サービスではキーワード検索も可能ですが、有料のため一般の方が閲覧されるケースはほとんどないといえます。
そもそも、官報で知った情報をむやみにインターネットなどで情報漏洩すると罰則を受ける可能性があります。
情報を漏洩し、名誉棄損にあたる場合は「懲役または禁錮3年以下、または罰金50万円以下」となります(刑法230条)。
破産者の住所や氏名を調べて意図的に公開した場合、個人情報保護法違反となる可能性もあるでしょう。
違反した場合、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」の罰則が科せられます(個人情報保護法第181条)。
2019年3月まで、自己破産者の個人情報をインターネット上で公開した破産者マップがありました。
破産者マップとは、官報に掲載された自己破産者の個人情報をGoogleマップ上にプロットして可視化したサイトです。
政府の個人情報保護委員会が運営者に対し、個人情報保護法の規定に違反する恐れがあるとして行政指導を行いました。
行政指導によって、破産者マップの公開日の2019年3月15日からわずか4日後の3月19日、運営者は自主的にサイトを閉鎖します。
ただし、その後も「モンスターマップ」「自己破産・特別清算・再生データベース」の2つ類似サイトが発生しましたが、行政指導を受けて自主的に閉鎖されています。
自己破産者名簿とは、破産者の本籍地の市区町村で作成される、自己破産者をした者の一覧表をいいます。
この一覧表は、市区町村が税金の督促や「破産者でないという身分証明書」を発行する際の確認のために利用されています。
市区町村で働く公務員には守秘義務があるため、この一覧表から周囲の人にバレるケースは通常ありません。
行政上の手続きにのみ利用されるものであるため、自己破産者名簿を破産者自身が気にする必要は特にないでしょう。
官報に名前などが載る以外の自己破産のデメリットは、以下の通りです。
それぞれのデメリットを詳しく解説します。
自己破産の記録は、信用情報機関に事故情報として登録されます。
信用情報機関とは、銀行やクレジット(信販)会社、貸金業者などの利用者の事故情報が登録されている外部機関です。
信用情報期間に登録された情報の保存期間は、7~10年間と言われています。
金融機関は融資の申込やカードの作成依頼が入ると、こうした信用情報機関に問い合わせて、事故情報が登録されているかどうか確認します。
事故情報があると、貸し倒れのリスクがあると考え、自己破産から概ね7~10年間は借入の審査が通りにくくなります。
自己破産時にローンが残っている不動産や自動車については、担保の対象となっているため残せません。
ただし、不動産や自動車が換金価値のないほど低額である場合は、手元に残せる可能性があります。
ローンの支払いが完了している場合でも、不動産や自動車を売却して換金可能な場合には、基本的に手放さなければなりません。
自己破産をしたときに弁護士や司法書士といった士業は、破産の開始決定によって、登録が取り消されます。
ただし免責が許可された場合、資格自体はなくならないため再度登録可能です。
また、次の業種については、自己破産によって就業に制限を受けます。
自己破産によって就業に制限を受ける業種
上記の就業制限を受けるのは基本的にその経営者に限られますが、警備員や警備業務といった業務そのものが制限を受けるケースもあります。
自己破産はデメリットもある一方で、多くのメリットもあります。
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
自己破産を申立て、免責許可の決定がおりると、今まで抱えていた借金は原則としてすべて支払いが免除されます。
利息の支払いだけで高額になっているケースなど、自力返済が困難な場合にはまさに劇的な解決方法といえるでしょう。
ただし、免責不許可自由といって不正に財産を隠そうとした場合など一定の事項にあてはまると免責が受けられなくなります。
また、税金の滞納など一定の債務は、免責がおりた後も引き続き支払わなければなりません。
破産手続開始決定後、債権者からの強制執行の申立ては禁止されます。
すでに申立てがされている強制執行についても、破産者から執行裁判所へ申し立てると中止となります。
強制執行とは、借金を返済できない状態が続いたときに債権者からの申し立てにより債務者の財産や給料などを差し押さえる手続きです。
自己破産の申立てにより破産手続開始決定がされると、破産財団に属する財産は債権者に平等に分配しなければなりません。
そのため、強制執行も破産財団に対してはその効力を失います。
破産手続開始決定がされると、原則として換金できる財産は手元に残せません。
車、不動産、高価なブランド品などは換金されて債権者へ分配されます。
ただし、すべての財産を失うと破産者の生活再建ができなくなるため、生活に必要な財産はそのまま使用できます。
たとえば、次のような財産は処分の対象となりません。
自己破産をすると、官報によって公表されるものの、官報が原因で周囲に知られてしまう可能性は非常に低いといえます。
自己破産は一定のデメリットが生じますが、自力返済が困難になった借金を免除できるという非常に大きなメリットがあります。
もし自己破産を検討しているがデメリットについて不安がある場合は、破産手続きに精通した弁護士に相談するとよいでしょう。
自己破産以外の解決方法が見つかる可能性もあるので、まずは弁護士に相談し借金問題を解決する手段を一緒に考えていきましょう。